272話
コウ達の頭上、すれすれをザリガニの魔物が放った細い光線のようなものが通り過ぎると目の前にあった強固な氷壁が少しずつ斜めにズレていき、崩れ去ると切断面には水に似た液体が滴っていた。
どうやら目の前にいるザリガニの魔物が先程放った細い光線は水を圧縮し、噴射させた超高圧水流のようであり、そんなものが頭上すれすれを通り過ぎていたことを思い出すと額にひんやりとしたものが流れ、背筋が凍る。
「あんなの食らったら真っ二つじゃないですか~!」
当たらなければどうと言うことはない...と冗談を言う訳では無いが、そもそもあんな攻撃は連発出来れば最初からしている筈だし、目の前のザリガニの魔物は反動によってなのか動きが鈍化しているので、暫くはしてこないと思いたい。
まぁ攻撃をしてくる前にそれなりに溜めの動作もあるので分かりやすく、懐に急いで潜り込んでしまえば、簡単に回避できるだろう。
「そういえばライラってあの甲殻は壊せそうか?」
「ん~...まぁやってみないと分からないですけど触れた感じ多分いけると思います~ただ泥がですね~」
「そこは俺に任せてくれ」
コウの魔法では甲殻に傷一つ付けられそうにないので、ここはライラの力を借りたいところではある。
とはいえ甲殻に泥が付着しているため、背中に乗ろうにも先程のようにつるりと足を滑らせてしまう筈なので、とりあえず甲殻の表面についている泥を何とかしないといけない。
「よし...じゃあフェニはあの魔物に張り付いて囮役をやってくれ」
「キュイッ!」
フェニへ指示を出すと元気な鳴き声とともにザリガニの魔物の周囲をグルグルと周りながら雷球を作り出して牽制しだす。
勿論、雷球は先程の結果と同様であまり効果は無さそうに見えるが、ザリガニの魔物はフェニの牽制が鬱陶しいのか、巨大な鋏をブンブンと振り回し、まるで小さな虫を追い払うかのような動きをしていた。
ただ先程放った攻撃の反動で全体的に動きが鈍化しているためか、振り回す巨大な鋏にフェニに当たる気配はなく、ひらりひらりと簡単に避けられてしまっている。
「あの泥はどうするんですか~?」
「まぁ見てろって」
コウは人差し指の先に水球を複数作り出してプカプカと浮かばせると、ザリガニの魔物を中心とした上に狙いを定めて次々と撃ち出していく。
撃ち出された水球はザリガニの魔物の上まで到達すると、そのままふわりと浮かんだまま、太陽の光を塞ぐかのように薄い水の膜として広がり始め、上空を包み込んだ。
「夕立」
コウが一言呟くと、今度は先程上空を包み込んでいた薄い水の膜からポツポツと小さな雫として地面へ落ちていき、ザリガニの魔物のいる一部の場所だけ雨のように降り注ぐ。
そして、その人工的に作り出された雨はザリガニの甲殻に付着していた泥を綺麗い洗い流し、沼の泥によって隠されていた一部の真っ赤な甲殻の姿が露わになっていく。
「これで滑らないはずだけど行けそうか?」
「ん~...どうでしょ~?とりあえずいってきますね~!」
ライラはぶんぶんと巨大な鋏を振り回しているザリガニの魔物に向かって走り出していくので、コウは人工的に作り出した雨で広がった水を乾いた氷として凍らせていき、泥濘んだ地面に足を取られないよう沼地を走りやすくお膳立てすることにした。
「あとはあの魔物の動きを少しだけ止めてみるか」
ザリガニの魔物はフェニを追い払おうと巨大な鋏を振り回しているので、少しでもライラの立ち回りを楽にするため、コウは指を擦って ぱちんっ!と軽く音を鳴らす。
すると全身が濡れていたザリガニの魔物は白く凍りついていくので、身動きが取れなくなり、簡易的な冷凍保存となったのか、その場で動きが止まることとなる。
それをチャンスとばかりにライラは身動きの取れていないザリガニの魔物の尻尾から背中...そして頭上まで一気に駆け上がり、無事に辿り着くと黒い手袋の十字架に魔力を込めているのか白く光り輝いていく。
「せいっ!」
掛け声と共に大きく振り上げた片方の拳を振り下ろすと、動きを封じるために全身を包んでいたコウの氷がライラの攻撃に耐えられず全て壊れ、ぷっくりと膨らんだザリガニの魔物の頭の硬い甲殻にも大きな亀裂がピキピキと入っていく。
ザリガニの魔物は頭を殴られたため、足元がふらついており、巨大な鋏は沼地へと下ろしているので、ほぼ戦闘不能状態と言ってもいいだろうか。
「もう一撃いきますよ~!」
トドメの一撃として、ライラがもう一度だけ拳を振り下ろすと頭を守っている硬い甲殻の一部が耐えきれなかったのか割れてしまい、頭と胴体のつなぎ目の部分も衝撃に耐えきれなかったのか、ぽろりと別れを告げてしまう。
ライラの馬鹿力によって頭と胴体が分断されたザリガニの魔物は どすんっ!とその場へ倒れ込むと沼地の汚い泥や水が大きく跳ね、動かなくなるのであった...。
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