271話
大きな木の根元にある穴から外に出ると、目の前にいたのは真っ赤な鎧を身に纏い、身の丈に合わないほどの巨大な鋏を持った体長約7~8mほどのザリガニであった。
そのザリガニは既にこの沼地を自身の縄張りとしているのか、悠々自適に過ごしており、元々この沼地に生息しているであろう魔物が近くを通り過ぎると巨大な鋏を無慈悲にも上から振り下ろしてすり潰す。
そして、そのすり潰した魔物をそのまま胸元にある小さな鋏で潰した魔物を貪り食っていた。
「なんですかあの魔物~?」
「どう見たってザリガニだろ。見たこと無いのか?」
「ザリガニですか~?見たことも聞いたこともないですね~」
今思えばこの世界で川で遊んだり、川魚を取ったりしていた際に小さなザリガニを見たことが無いので、もしかしたらこの世界にはコウの世界に存在したような小さなザリガニ等の甲殻類は存在せず、馴染みのない生き物なのかもしれない。
「そういえばザリガニは美味いとか聞いたことあるな...」
「あの虫みたいなのが本当に美味しいんですか~?」
「どうだろう?俺は食べたことないから分からないけど美味しいかもな」
半信半疑でライラは聞いてくるも、あのザリガニの魔物の味が気になるようで、戦闘準備として銀の十字架の装飾が施された黒い革手袋をしっかり手に嵌めて、フェニも上空に飛んでいくので、コウもサンクチュアリを手元に出す。
「まずは小手調べといくか...氷槍!」
優雅に食事をしているザリガニの魔物に向かって先制攻撃とばかりに鋭く尖った氷の槍を撃ち込み、真っ赤な鎧に直撃させると、想像よりも圧倒的に強固な甲殻だったのか、コウの撃ち出した氷槍は押し負けて砕け散ってしまった。
「まじか...」
全ての魔物とは言えないが、それなりの相手を屠ってきた氷槍が、ただのザリガニの魔物の甲殻に防がれてしまったことに対して少しだけショックを覚えてしまう。
もしかしたら多少なりとも硬い相手に対して氷槍の改良が必要になってきたのかもしれない。
「ん〜駄目みたいですね〜今度は私が行きますか〜」
今度はライラが攻撃を仕掛けるようで泥濘んだ地面を避けながら、ザリガニの魔物の元へ到着すると、一気に背中に飛び乗っていく。
しかし沼地に生息しているためか、甲殻部分は泥だらけのようで、かなりのヌメリがあるらしく、登っている途中で足を滑らせてしまい、そのまま泥沼の中心部へ真っ逆さまに落ちていってしまった。
「ひぃ〜コウさ〜ん!助けてください〜!」
「何をやってるんだ...」
助けを求めながら落ちていくライラに対してコウは咄嗟に片足へ魔力を込めて地面を強く踏みしめると、落下地点まで氷の道を作り出していく。
そして作り出した氷の道を滑らないように走り出し、何とかお姫様抱っこの形でライラを受け止めることに成功した。
「助かりました~...ってこれは中々に悪くないですね~」
「そんなこと言ってる場合か」
「キュイキュイ!」
お姫様抱っこしていたライラを下ろすと最後に自分の番!と言うかのようにフェニがバチバチと音の鳴る雷球を作り出してザリガニの魔物に対して撃ち込んでいく。
確かに水生生物なので雷系の魔法なら効果があるのではないかと期待したが、甲殻の表面は泥でコーティングされているせいなのか、当たってもそこまで効果はは無さそうであった。
「キュイ...」
「まぁ落ち込むなって俺も駄目だったし」
残念そうにするフェニを慰めていると、優雅に食事をしていたザリガニの魔物は氷槍や雷球をぶつけられたり、ライラに飛び乗られたりとされたことが、不愉快極まりなかったのか、尻尾を折り曲げると一気に泥濘んだ地面を何度も押し出して加速しながらコウ達を排除するためにこちらへと近づいてくる。
「止めましょうか~?」
「いや問題ない。氷壁!」
加速しながら勢いよく、こちらに向かって来るザリガニの魔物を止めるため、コウは目の前へガラスのように透明で巨大な氷壁を作り出していく。
ザリガニの魔物は突然、目の前に現れた巨大な氷壁が進行の邪魔だということで、破壊するために自身の加速と合わせて両手についた自慢の鋏をハンマーのように勢いよく、作り出されたばかりの氷壁に向けて振るう。
すると硬い物質同士が衝突する衝撃音と共に立っている地面が地震のように大きく揺れるも一撃で壊れることはなかった。
まぁこの氷壁を力技で壊してきたのは、Bランクの魔物達だけであり、今回のザリガニの魔物はこの氷壁を壊せないということはBランク以下の魔物なのかもしれない。
そして何度も何度も自慢の鋏を氷壁へと殴り付けてくるも、コウの作り出した氷壁は小さなヒビが入っていく程度で、壊れる様子はないようだ。
といっても現状はザリガニの魔物の攻撃を防いでいるだけであるため、どちらかといえば不利な状況だろうか。
すると先程までコウが作り出した氷壁を殴り付けていたザリガニの魔物は動きを止めて、今度は後ろに少しだけ下がり、両手に付いている2つの巨大な鋏を大きく開きながら氷壁に向け始めた。
「ん〜何をするんでしょうか〜?」
「さっぱりわからんな...」
何をしてくるのか分からないため、様子を見ていると大きく開いた2つの巨大な鋏はふるふると細かく震えだし、その間にはブクブクと水のような物が湧き出しているのが見えた。
その泉から湧き出した水のような物は、極限まで小さな玉に圧縮されると細い光線のようなものが、コウの作り出した氷壁に向けて一直線に放たれる。
「うおっ!」
「ひぃ~危ないです~!」
先程までいくら殴りつけてもヒビが入るぐらいで、ビクともしなかった氷壁を一瞬で貫通、そして巨大な鋏を左右に振るうと氷壁はいともたやすく、豆腐のようにスパッと切断されるのであった...。
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