265話
停止した馬車の中から出てきたのは男女2人とメイドが2人であり、身なりからして明らかに貴族のような格好をしている。
男性の格好は落ち着いた深緑色のジュストコールを羽織り、足が悪いのか片手には木製の杖を持っている。
そして女性の方は赤を基調としたドレスを身に纏い、銀色に染まった髪が海風によってなびき、陽光によって煌めいている。
女性の方はイザベルと顔つきが若干似ており、年齢も上というもあって姉と呼ばれても納得するだろう。
その貴族の後ろには馬車から共に出て来た顔が瓜二つのメイド2名と御者と護衛を兼ねているのか騎士の格好をした大剣を背中に背負う大男が控えていた。
それにしてもここの別荘に入れるということは、あの貴族はイザベルの知り合いか身内の者なのだろうか?
「イザベラお母様とライエルお父様!?」
「来ちゃった!元気そうで何よりね!」
「息災のようだな。少し気になったことを耳にしてな」
どうやらコウが知り合いなのではないかと思っていた人物はイザベルの両親だったようで、何かしらの用事でこの別荘に訪ねてきたらしい。
まさかこの別荘に両親が来ると思っていなかったのかイザベルは口を大きく開きながら驚いていた。
というか女性の方は明らかに若く見え、イザベルの母親だと思えずコウも別の意味で驚いてしまう。
「えぇ元気ですが...どうしてこの別荘へ?」
「うむ...メイドから良からぬ噂を聞いてな。愛娘の周りに虫がいるという...」
「あなたと親しい男の子がいるのを聞いて会いに来ただけなの!」
どうやらこの屋敷にいるメイドからタレコミがあったようで、イザベルの周り親しい男がいるらしく、その人物を見にきたとかなんとか。
はて...?この別荘内に自分以外でイザベルと親しい他の男はいただろうか...?と思い返すも、そもそもこの別荘内に自身以外の男を見たことがない。
そのため、自分のことだろうとすぐに理解したコウはなんだか面倒ごとの気配を察したので、そろりそろりとこっそりこの場から離れようとしだす。
「親しい男の子?あぁコウさんのことでしょうか?でしたらあちらに...」
この場から離れようとした矢先、イザベルはコウに向かって指をさすと両親含め全員の視線が一斉に突き刺さり、早めに逃げ出しておけばよかったとほんの少し後悔してしまう。
とはいえ既に指をさされ顔もバレてしまったということなので、流石にこれはもうイザベルの両親に挨拶の1つぐらいしておかないと失礼にあたるのではなのだろうか。
「やだもー!かなり顔が可愛い子じゃないの!」
「うわっ...ぷ!」
とりあえず挨拶するために背筋を伸ばして姿勢を正して外套についているフードを取り払うと、コウの顔を見たイザベルの母親であるイザベラがパタパタと駆け寄ってきた。
そしてライラとあまり大きさが変わらないぐらいの豊満な胸の中にコウは吸い込まれ、抱きかかえられながらその場をぐるぐると回る。
「イザベラ!?」
「はしたないのでやめて下さい!イザベラお母様!」
イザベラのまさかの行動にイザベルと父親であるライエルは止めるように言いながら男子であれば誰でも喜ぶ抱擁からコウは無事に引き剥がされていき、イザベルに抱えられる。
「も〜!イザベルの将来の伴侶候補なら少しだけスキンシップもしていいじゃないの!」
「は、伴侶!?イザベラお母様!コウさんとはまだその様な関係ではありません!」
「そうだぞ!愛娘の伴侶にはもっと良い相手を私が選ばせてもらう!」
一体何の話なのだろうか...。イザベルとはまだその様な関係ではないのにいつの間にか話が自身の関わっていない所で、さながら特急電車のように進んでいく。
「あら?あの出来の悪そうなとシスとかいう馬の骨と婚約させようとしたのは誰かしら?」
「うぐっ...それはだなぁ...」
「そもそも私は反対だったのですよ?あのシスとかいう馬の骨はイザベルのことをちゃんと見てませんでしたから!」
確かにシスはイザベルのことを"物"と言っていたので、あの男の裏の顔はあまり良くないだろうし束縛がかなり強そうな男であったため、もし結婚していれば碌な目にあっていなかっただろうか。
というかライエルはイザベラに尻に敷かれているのかチクチクと小言を言われ続け、どんどんと背中が小さくなっていく。
「ともかく!アールベール!」
イザベルの父親であるライエルはイザベラの小言から逃げるように指で、ぱちんっと軽快な音を鳴らすと後ろに控えて立っていた騎士の格好をした大男を呼び出す。
「コウだったか...?愛娘が欲しくば力を示すが良い!」
「いや...別に欲しいわけじゃ...」
「なんだと!?うちの可愛いイザベルが欲しくないやつなんていない筈だ!」
「どうしろってんだよ!わかったって!とりあえず模擬戦をやればいいんだろ!」
とりあえず騎士の格好をしたアールベールという大男と模擬戦をしないと何も話を聞いてくれ無さそうなので、コウは諦めるように模擬戦を受けることにしたのであった...。
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