256話
若手のメイドに案内された一室は一番奥の部屋であり、中に入るとそこらにある宿よりも大きく、ふかふかなベッドや高級そうな家具などが置いてあり、備え付けのバスルームのようなものまである。
そして奥には海を一望できる大きな窓が取り付けられており、今回別荘に誘われて良かったと心の底から思い、イザベルへ感謝の念を送る。
既に昼は過ぎているので今から海に遊びに行くとすぐに夕方になってしまいそうなので、ここは夕食まで部屋でのんびりとしていた方がいいだろうか?
とりあえず部屋に入ってすることといえば、ベッドに向かって飛び込むことだと思い、コウはフェニと共にふかふかで柔らかそうなベッドへ倒れるように飛び込んでいく。
「あ〜眠たくなってくるな〜...」
「キュ〜...」
ふかふかなベッドに包まれたコウとフェニは仰向けになって天井を見つめていると徐々に瞼が重くなっていく。
そんな微睡むような心地よさを暫くの間、感じていると何処からかコンコン...コンコンと何度も何度もどこかを叩く音が聞こえ、強制的に眠気を覚まされた。
「はぁ...一体何の音なんだよ...ライラか?」
せっかく気持ちよく眠れそうだったのに半ば強制的に起こされたコウは不満気に起き上がると部屋の扉方向に視線を向ける。
最初はライラが部屋に押しかけてきたのではないかと思って部屋の入り口である扉を見たのだが、どうやらコンコンと鳴る音は海を一望できる大きな窓から聞こえていた。
しかしここは2階である。流石のライラもわざわざ回り込み、壁を登ってくることもないだろうし、そんなはしたないことをしない筈である。
幽霊などという存在は信じていないが、鳥か何かが突いているのだろうとコウは思い、窓の外を覗き込むと、そこには地平線の果てまで広がり、少しだけ橙色に染まった海があるだけで、他に音が鳴るような原因は見当たらない。
「何もないな」
コウは念のため、窓を開けて身を乗り出すと「見つけた...見つけた...」「凄い...凄い...」と何処からか囁くような声が聞こえてくるので、すぐに窓とカーテンをサッと閉めて窓際から少し離れる。
目に見えて原因が分かるものならばそこまで怖くないのだが、目に見えず原因が掴めないともなれば流石にコウといえども多少は恐怖心が湧いてくる。
「いやいやいや...なんなんだよ...流石に怖すぎるだろ」
「キュイ?」
フェニは寝ていたためにコンコンという音には気づいてはいなかったようで呑気に首を傾げているので自身も気づかなければよかったなぁとしみじみ思ってしまう。
そしてコンコンと再び鳴ったのでビクッと反応してしまうも「夕食のお時間になります~」と部屋の入り口方面から可愛らしいメイドの声が聞こえてくるのでふぅ〜っと謎の緊張感が解けていく。
それにしてもまだ時間帯は夕方に差し掛かったぐらいというのに少し夕食には早いのではないかと思ったが、とりあえず扉を開けるとそこにはメイドの姿はなく、何故かライラが仁王立ちをしているではないか。
「暇なので来ました~お邪魔します〜!」
騙された...こいつは声を作っていやがった!と思い、扉を閉めようとするもライラは即座に扉へと足を挟み込み、するりと抜けて上手いことコウの部屋へ入り込んでいくと、先程まで横になっていたベッドへ勢い良く飛び込んでいく。
「メイド長にまた連れてかれるぞ。自重をしろ自重を」
「嫌で~す!」
これが聖女候補だったというの何かの間違いではなかったのだろうか...。
「あれ?もうカーテンを締めたんですか~?景色が勿体ないですよ~」
ライラは夕方前だというのに締め切っているカーテンが気になったのか、両手で開くとそこには先程までと変わらない海の景色が広がる。
「わぁ〜!コウさんの部屋の景色も良いですね〜!」
そういえばいつの間にか窓の方からコンコンと叩く謎の音と囁き声は聞こえなくなっているので、これはもしかしたらライラが来たお陰なのかもしれない。
「なぁ変なこと聞くんだがライラの部屋でノック音が窓からずっとすることってあったか?」
「なんですかそれは~?そんなことなかったですよ~?」
「あぁそう...なんでもない」
「変なコウさんですね~何かあったんですか~?」
「それがだな...」
いつもと様子が違うコウが気になったのか首を傾げ、ライラは何があったのか聞いてきたため、先程起きた出来事ついて話そうとすると再びコンコンというノック音が扉の方から聴こえてきたので、つい口を閉じてしまい謎の緊張感が走る。
「コウ様。お連れ様のライラ様はいらっしゃいますでしょうか?」
部屋の扉をノックしたのはメイド長であるリネットであり、どうやらライラを探しに来たらしい。
別に拒む必要は無いので扉を開けるとリネットが姿勢良く立っており、ライラを見つけるや否や頭を悩ませているような表情をしていた。
「ライラ様。自重して下さいとお伝えしたはずですが?」
「まだ何もしてないですよ~少しお話をしていただけです~!」
「お話はまた後ほどお聞きします。それではお部屋までお連れします」
「まだ来たばかりなのに~コウさん~!」
再びライラは首根っこをリネットに掴まれてしまうとそのまま引き摺られていく、姿をやっぱりこうなるのかと思いつつ、コウは見送った。
だから迷惑を掛けず、自重しろといったのに...。
そして騒がしかった部屋は静寂を取り戻すと、また先程の怪奇現象が起こるのでは無いか身構えながら過ごしていたが、あれ以降は何も起こらなかった。
また食事を終えた後は部屋に備え付けられたバスルームで風呂を済ませ、翌日に備えるため、コウはフェニとともにベッドへ入り込む。
「...ライラと相部屋でも良かったかもな」
ついぽろりと呟くが、流石にこの歳になって怖いからという理由で誰かと一緒に寝たいなどということは恥ずかしくて言えるわけもない。
まぁ今の今まで怪奇現象があの時から起きていないので、そのまま寝れば大丈夫だろうとコウは瞼を閉じると、いつの間にか寝ており、翌日の朝までしっかりと熟睡するのであった...。
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