220話
アーロウェルの作り出した巨大な紫色の魔法陣がぐるぐると地面の上を回転すると無数の腐った黒い手のようなものが次々と飛び出るように伸び、イザベル達だけではなく、手錠で拘束していた裏ギルドの者達にも同時に襲いかかった。
まだイザベル達は自由に動けるため避けたり反撃することが出来るのだが、身動きの取れない裏ギルドの者達は次々とその腐った黒い手に掴まれるとアーロウェルの作り出した紫色の魔法陣の上へまるで供物のように運ばれどんどんと積み重なっていく。
「アーロウェル様!一体これは何でしょうか!?」
どうやら一部の裏ギルドの者達はこの作り出された紫色の魔法陣が何なのか分からず、アーロウェルに聞いているが頭に血が上っているせいか一切聞く耳を持っていおらず答える気がないようだ。
「なんだかまずそうですね~!」
「くっ...何とか止めたいのですが...!」
「キュキューイ!」
ただ先程の腐った黒い手は雰囲気から察するにあれは何かしら良くないものなのだろうということだけは理解出来ていたイザベル達は何とか阻止をしたいのだが、腐った黒い手が次々と伸びてくるので迂闊に近づけず、回避に専念するしか無い。
「こんなものかの!ふんっ!」
ある程度、裏ギルドの者達が紫色の魔法陣の中心部へ供物のように集まるとアーロウェルは手に持っている杖を地面に刺し込む。
すると紫色の魔法陣が幻だったのかのようにふっと消えると同時に夜の静寂が訪れ、一瞬だけ分厚い雲が夜月を隠したため暗闇に包まれる。
「不発...?」
「キュイ?」
「いえ...やばそうなのがもうきていますよ~...」
不発したのではないかと思ったがそれは違ったようでライラはごくりと生唾をゴクリと飲み込むと首を横に振って否定してきた。
そして夜月を隠していた分厚い雲が風に流されて月明かりが再び周囲を照らしだすと紫色の魔法陣があった場所には大きな落とし穴なような物が代わりとして作られていた。
また先程までいた筈の裏ギルド者達はその大きな落とし穴の中へ落ちていってしまったのか穴から呻き声が聞こえてくる。
状況が読めないため様子を見ていると裏ギルドの者達の呻き声が今度は悲鳴や悲痛な声が大きな落とし穴の中から反響するように聞こえ始め、更にゴリゴリと骨を砕くような音も聞こえてくる。
暫く時間が経ち、裏ギルド達の悲鳴や悲痛な声が聞こえなくなると今度は大きな落とし穴の淵部分を先程の伸びていた多くの黒い腐った手が掴み穴の底から”それ”は這い出できた。
這い出できたのはオーガよりも少し小さいぐらいの大きさであり、顔や身体全体の皮膚が腐り落ちて骨が見えている姿はあまりにも醜悪。
所々、皮膚に開いている小さな穴から謎の黄色い体液が噴き出し、その噴き出した体液が地面に触れると酸性なのかジュッ!と音を立て溶かしている。
似たような姿の魔物としたらグールに近しい存在ではあるのだが、普通のグールはあそこまで大きい存在でもない。
多足類のように身体から大量に生えている足を動かしながら歩くたびにひどい腐臭を周囲へと撒き散らし、その魔物の通り道にある草木はみるみる元気がなくなって枯れてゆく。
「うっ...酷い臭いですね...何でしょうかあれは?ライラさんは知っていますか?」
「キュイ~...」
「いえ~...私もあのようなアンデットは見たこともないですね~」
ライラも見たことないアンデットということは新種もしくは既存の魔物だが、誰も知らない魔物ということになり、情報がないというのはあまりにも不利なことではある。
多少なりとも情報があれば敵の手の内を知ることが出来ているため、こちら側が有利に立ち回ることが出来るのだが、何も知らないとなると一手一手慎重に戦わなければならない。
「ほっほ!こいつは儂の切り札。イムピュアグールキングだの」
アーロウェルは自慢気に召喚した魔物を話しだし、名をイムピュアグールキングというらしく、名称にキングが付いているということはグール種の最上位の魔物にあたるものだろう。
そんなAランク級の魔物を王都内に解き放たれてしまえば大混乱を招くことになり、女性冒険者達を救い出すところではなくなってしまうためこの場で仕留めなければいけない。
「絶対に止めなければいけませんね」
「うぅ〜...あれをあんまり触りたくないです〜...」
聖職者のライラがいる有利なマッチアップだとしても何をしてくるのかわからない魔物のため、厳しい戦いとなるのは覚悟しておいたほうが良さそうではある。
そんなライラといえば、ほぼ肉弾戦しか出来ないということもあって、あのような腐りきった身体に触れたくなさげな顔をしていた。
まぁそれはそうだろう。あまりにも汚く、拳で殴りつけたとしてもあの体液が噴き出して身体に触れた場合、先程の地面のように溶けてしまう可能性があるのだから。
そしてアーロウェルの準備が整ったのか「行け!」と命令するとイムピュアグールキングは少しづつ、何本も身体から生えている腐った足をずりずりと動かし、イザベル達へと向かって進み始めるのであった...。
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