209話
ローランへ無事に帰ることが出来たコウ達はジールから受けた依頼の報告を先にしておこうと冒険者ギルドへと向かっていた。
既に時間帯は夜になっているため、早く済ませて宿を探さないといけない。
まぁ宿を探すといってもいつもローランで泊まっている小鳥の止まり木という宿に部屋が空いているか確認するだけである。
ただそこでもし部屋が空いていないと新しい宿を探さないといけなくなってしまい多少、骨が折れそうだ。
冒険者ギルドに到着して中に入ると受付場にはいつもいるサーラではなく同僚のミラが座っていたのでギルドマスターであるジールに依頼が終わったと伝えてもらうようにお願いする。
しかしジールは何かしらの用事で現在はローランにはいないらしいので、コウはそのまま依頼達成の証明書をミラへと手渡すことにした。
「これで依頼は完了よ。報酬に関してはギルドマスターから貰ってね」
「あ~確かそんなんだったな。忘れてた」
確かジールからの報酬は常識的な範囲で何でも欲しいものを1つ貰えるというものであったのを思い出す。
ただロスガニアの観光などでそのことはすっかりと抜け落ちていたため、欲しいものについて何も考えていなかった。
まぁ今はジールが何かしらの用事でいないため、まだ欲しい物を考えたりする時間はあるだろう。
「あぁ これも渡しておくわね」
目の前にはおそよ金貨や銀貨が詰められているであろう小袋を3袋置かれるも何をして貰えたのか記憶にない。
「なんかしたっけ?」
「解体倉庫にいっぱい魔物の死骸を出したでしょ?ロックドラゴンの解体はまだらしいけどね」
ロスガニアに行く前にコウは解体倉庫で溜めに溜めていた魔物の死骸を山の様に収納の指輪から吐き出していたのだが、それは思わぬ臨時収入へと変わっていた。
「おぉ~!散財し放題ですね~!」
「キュイ~!」
1つずつ袋の中を覗くと金貨がたんまりと入った袋が1つ、そして残りの2つの袋の中身に関しては殆どが銀貨として詰まっていたので当分は依頼を受けなくても生活できそうではある。
「散財なぁ...なにか散財するようなことってあるっけ?」
コウにしてみれば質の良い食事や小鳥の止まり木などのお高い宿、また何かしらの魔道具を購入するぐらいにしかお金を使うことしか思いつかない。
「冒険者だったら~...いえ~やっぱりなんでも無いです~」
ライラが口に出そうと思ったが途中でやめてしまった内容は欲望が渦巻く色街のことである。
一般的な男の冒険者達が散財するとなると大体は自身の身につけている装備を一新したり、もしくは色街にいる娼婦へ熱心に貢ぐことが殆どである。
コウは見た目からしてまだ色街について知るには早いと思われたのか、それともまだそんな汚い大人達のように汚れてほしくなかったのかライラは言葉を濁す。
「何だよ途中まで言いかけたなら教えてくれ」
「いえ~コウさんにはまだ必要ないと思いまして~」
「そうよ。もっと大人になったら教えてあげるわね」
言葉を濁した部分が気になり、コウは聞いてみるとライラとミラは頑なに教えてくれなかったので今度、ジールに会った時にでも聞けばいいと思い諦める。
「あぁそういえば食べ物のお土産があるんだけどいるか?」
コウはロスガニアを旅立つ前に名物であるロックバードの丸焼串を屋台からしっかりと買い占めており、イザベル以外にはこの名物をお土産として渡すと決めていた。
ただ問題としては袋やサランラップなどの包んで保存できるような物がないため、手渡したらその場で食べなければいけないということにコウは今頃、気づいてしまった。
「せっかく持ってきてくれてるなら食べようかしら?」
「悪いな。なんか無理やり渡した感じで」
御土産選びに失敗したなぁと思いつつも一応、今食べるかどうかをミラに確認してみると今、食べてくれるらしいのでコウは収納の指輪から出来立てほやほやのロックバードの丸焼串を数本取り出してミラに手渡す。
冒険者ギルドへ依頼の報告やミラへお土産を渡したりがとりあえず終わったので次に向かうのは小鳥の止まり木というお高めの宿である。
小鳥の止まり木へと到着して中に入るといつものようにミランダが受付で立っており、入って来たコウ達に気づいたのか軽く頭をペコリと下げた。
この小鳥の止まり木もかなりの頻度でコウ達は利用しているため、常連として顔と名前をしっかりと覚えられている。
「コウさんお久しぶりですね。お泊りでしょうか?」
「久しぶりだなミランダ。今日は2部屋空いてるか?」
「ふふっ今日はちゃんと2部屋案内することができますよ」
前回は1部屋しか空いておらず、ライラと共に夜を明かしたのだが、今回はしっかりと2部屋空いているということであった。
これはもう心の平穏のために2部屋を利用させてもらうことにするしかない。
「えぇ~一緒のが安いじゃないですか~」
「男女別が普通だぞ。じゃあそれで頼む」
しかしライラはそれを不満に思ったのか口にしながらコウの肩に両手を置いて揺らされるが心の平穏のために譲る気はない。
とりあえずコウは何処かに行く予定は今のところないが2部屋を数日利用することにして今日貰った解体の報酬で支払っていく。
「ほらいくぞ」
「い〜や〜で〜す〜!」
そしてミランダから鍵をもらうと駄々をこねるライラを引き摺りながら連れてゆき、部屋の前に到着すると鍵と一緒にまとめて部屋へライラを放り込む。
そしてコウは自室へ急いで入っていき、ライラが入ってこれぬように鍵を閉めるとその日を終えるのであった...。
■
場所は変わり同日の王都では...月が雲に隠れ、暗闇が街を包み込み、少し霧がかかっているためか視界が悪い。
「はぁっ...はぁっ...」
そしてそんな夜で視界が悪い中、王都にある人通りの少ない路地裏で駆け出しであろう冒険者の格好をした1人の少女が息を切らしながら何かから逃げ回るかのように走り回っていた。
「はぁい!ざんねーん!」
しかし大通りに抜けれる道を通ろうとすると黒ずくめの外套を羽織って口元を黒い布で隠した細身の男が建物の空から降ってきて、通せんぼするかのように少女の前へ立ち塞がる。
「近づかないで!斬るわよ!」
少女は腰元にあるまだ新品で刃こぼれもしていない買ったばかりであろう剣を反撃するために両手で持って構えているが剣先が目に見てわかるようにふるふると震えていた。
「人を殺す覚悟もねぇんじゃ意味ねぇよ」
細身の男は一気に少女へと近づくと片手で少女の両手首をまとめて力強く掴んで捻り上げ、逃げられないように拘束した。
「いたっ!」
そして両手首を力強くまとめて掴まれたため、痛みが走り少女の手から剣が離れて地面へと落ちてガシャン!音が路地裏に反響する。
「いやっ!誰か助けて!」
「うるせぇよ」
「んっー!」
少女は声を上げて何とか助けを呼ぼうとするが細身の男が少女の口元に布を無理やり詰め込み猿轡をされてしまい声を上げることはできなくなった。
そしてこれ以上抵抗されないために手足へと鉄の手錠を手際よく取り付けて身動きすら取れないようにする。
「よぉしこれでノルマ達成だな」
細身の男は少女を肩で軽々と担ぐと更に暗闇が支配する路地裏の奥へと消えていくのであった...。
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