193話
2日目の昼、コウ達は同じような景色が広がる大規模な渓谷を進み続けている。
フェニは索敵としてたまに空を飛んで進む先を見てくれていたので魔物との回避も容易であり、無駄に体力を消費せずに済んでいた。
歩き続けていると次第に渓谷は峡谷へと姿を変え、谷の間はどんどん狭まっていくので川沿いが見える程度の離れた道なき険しい崖上を進んでいくこととなる。
「あれって村ですかね〜?」
「本当だ。よくこんな場所に作ったな」
そんな崖上から川沿いを見ているライラが何かを発見した様で指をさした方向を見ると険しい崖を大きく、くり抜かれた場所に数々の正方形の石で積まれ作られた家が立ち並ぶ村を見つけた。
「どうしますか〜?」
「一応寄ってみるか」
コウ達はあとどれくらいでロスガニアに到着するのか情報を得るために寄ることにする。
ただしその村に行くには崖に作られた細い道を歩かないといけないようで通り道の崖下からは強い風が吹き上がっていた。
勿論、落下防止用の柵などはなく、もしも足を滑らせた暁には...と思うと背筋がぞわりとしてしまう。
「着いたな」
「わぁ〜獣人の方ばっかりですね〜」
村の入り口に到着するとそれなりに人が住んでいるようだ。
全ての住人には頭の上に耳が生えていたり、お尻に尻尾があったりするので住んでいる人は獣人しかいないだろう。
しかし村を出歩いている獣人達の表情はなんだか暗い。
「人族とは珍しいな。ようこそフーローへ」
村の入り口で立ち止まっていると唐突に背後から声をかけられ、振り向く。
背後にいた人物の特徴は襟足を伸ばした灰色の髪色の男性であり、体型は長身筋肉質。
狼の様な耳と尻尾を生やし、背中には人丈ほどのある無骨な黒大剣を背負って片手には見たことのないダチョウ並みの大きさをした鳥の魔物を引きずっている。
その男は横を通り過ぎるとコウ達が村へ入らないのを疑問に思ったのか村の入り口付近で足を止めてこちらを見るように振り返る。
「入らないのか?大した歓迎はできないが案内するぞ」
「あー...聞きたいこともあるし頼む」
「お邪魔します〜」
「キューイ」
コウ達は男の後をついていきながら村の中を案内されつつ、歩くと人族が珍しいのかジロジロと物珍しそうに見られる視線を感じた。
それはそうだろう。こんな辺境の村に来る人族など限られているのだから。
「見られ慣れてるな 有名な人族なのか?」
「いや有名ではないけど見られることが多いんだ」
まぁ奇異な目で見られるのは今に限ってのことではないのでそこまで気にしてはいない。
獣人から見られながら村の中を歩いていると畑に植えられている作物達は水が足りていないのか枯れたりしているのが目に入った。
そして水路にはあまり水がなくちょろちょろと流れている程度だ。
「着いたぞここが俺の家だ」
坂道を登って辿り着いたのは村の中でも1番大きな家であり、家の上にある崖上には龍が周りを見下ろすよう彫り作られている。
そして龍の額には薄い水色の宝玉が埋め込まれていて、その龍はまるで生きているかのような迫力を感じた。
口からは水がちょろちょろと少量しか出ておらず手入れもそこまで行き届いていないのかひどく汚れている。
そのためか家の周りを囲い、村まで続く水路にもあまり水が溜まっておらず流れもあまりない。
「自己紹介してなかったな。俺の名前はロエンこの村で村長をしている」
扉を開けられながら自己紹介をされたのでコウ達も各々の名前を伝えると村長であるロエンの家へお邪魔することとなった。
■
客室まで案内されたコウ達はもてなしとして出された一口サイズの謎の果物を口にしていた。
意外に味は美味しくてついつい手が伸びてしまう食べ物であり、おやつとしては丁度良い。
「さて...コウ達は何の用でフーローに立ち入ったんだ?」
「なんででしたっけ〜?」
「ロスガニアはどれくらいの距離か聞くためだろ...」
すっかり忘れているライラに突っ込みつつ、今回の目的であった獣人の国であるロスガニアがどれくらいで着くのかという話を切り出す。
「なるほど ロスガニアに行く途中だったのか」
「ここからどれくらいなんだ」
「そうさな...ここからふた山ぐらいだったかな?」
ここからふた山となるとあと2日はかかるかもしれない。
ジールに聞いた時は川沿いを歩くだけで着くと聞いていたが、実際はかなり遠くて受けた依頼はあまり割に合わないと少し後悔。
これはジールに報酬の上乗せを掛け合った方がいいだろうと心に誓う。
まぁ予備知識が足りなかった自身が悪いのだが...。
「結構遠いんだな。ありがとう」
「簡単な質問に答えただけだ。そういえば魔石を持ってないか?勿論タダとは言わん」
ロエンは部屋の隅にある両開きの収納庫を開くとそこには色々な魔道具が並べられていた。
「この中から1つと交換だが...どうだ?」
「触ったりしてもいいのか?」
「ある程度は好きにしていい」
ロエンの許可を得ると魔道具を壊さないよう丁寧に1つ1つ手に取って品定めしていく。
大体は魔力を込めないと動かないようで魔石を嵌めたりする物ではなかった。
魔力を込めるとコンロの様に火が付く物やコップの底から水が湧き出てくる物など様々である。
とはいえコウにとっては殆どがガラクタであるため、そこまで惹かれる魔道具は今のところない。
別に交換しなくてもいいかなと思いつつ、漁っていると奥にひっそりと隠れていた1つの魔道具が目に留まる。
「これって...」
見た目は懐中時計であり、固く閉じた蓋を開くと2つの指針が動かず止まっていた。
魔力を流すと時間を示すであろう2つの指針はぐるぐると調整するかのように動き出し、昼の時間帯を針が指す。
王都で見た物と多少違うが時計には変わりなく、前々から欲しいと思っていたのでこんな所で手に入るとは思わぬ幸せが舞い込んだ。
「これにしようかな...魔石はどれくらい欲しいんだ?」
「俺には魔道具の価値がわからんからコウの裁量に任せる」
王都の店で見た時は確か白金貨10枚とかなり高額であったため、多くの魔石を渡す必要があるだろう。
しかし現状の手持ちの魔石はあまりなく解体していない魔物だらけなのを思い出した。
価値の無い物と偽って魔石を渡す量を減らすこともできるがそんなことをするメリットは何処にもない。
「あーすまん...魔物の死骸でもいいか?魔石はあるんだけど解体が済んで無いんだ」
「勿論いいぞ。食料も少ないしありがたい」
「じゃあ外で出せばいいのか?」
「あぁ村の者達も集めて解体させてもらおうか」
交渉として未解体の魔物でも大丈夫かと提案すると快く承諾してくれた。
どうやら解体の為に人も集めてくれるらしいので解体も任せるだけとは楽である。
とりあえず収納の指輪の中にあるまだ解体が済んでいない魔物を出すためにコウ達はロエンの家から出て広い場所へ案内してもらうのであった...。
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