190話
ちゅんちゅんではなく、キュイキュイと鳴き声が耳元から聞こえ、目を覚ますとフェニが嘴で甘える様に頬を突いてくる。
これは俗に言う朝チュン...いや朝キュイである。
「あれ...昨日ってどうやって帰ったんだ?」
昨晩はBランクに上がったということで冒険者ギルドの片隅にある酒場で祝賀会をやっていたことは覚えているが途中から記憶がない。
どうやって帰ったのだろうと思いつつ、目脂を取りながらベッドから降りようと身体を起こすと右手にむにゅんと柔らかく、そして温かい感触が伝わる。
「やぁ〜ん」
「は?」
艶かしい声が聞こえたため、つい身体がびくりと反応し、隣を見るとそこにはライラが目をトロンとさせながらこちらを見つめていた。
「お...おはよう」
「はぁ〜い おはようございます〜」
柔らかな感触がした手の先を見ると豊かな双丘の間へ手が吸い込まれるように沈み込み、ライラの体温や鼓動が手に伝わる。
「すまん!気がつかなかった!」
「気にしてないですよ〜」
謝りながらすぐに手を引き抜くも先程の感触と体温が手に残り、コウの心臓はいつもより鼓動が速くなっていく。
「その...昨日は変なことしてないよな?」
「変なことってなんですか〜?」
昨晩の記憶が途中から曖昧なので念のため、ライラに質問すると質問で返され、目は細くにやりと笑っている。
絶対にわかって言ってるだろ!と言いたくなるが多感な年頃であるコウは顔が熱くなり、口籠ってしまう。
もしかしたらこの胸の鼓動がライラに聞こえているのではないか?と思うが中々に静まらない。
そんなコウへ助け舟を出すかの様に突然、視界外からフェニが目の前に飛び出てきた。
「うおっ!びっくりした...!」
「キュキュイ!」
「あぁ...朝ご飯が食べたいのか」
フェニが早く朝食を食べさせろと言ってきたので、その場の気まずかった空気は一気に流れて消えてしまう。
コウにとっては現状を打破したかったため、ある意味救われた感じだ。
「そういえば〜昨日は何もなかったですよ〜」
ライラはベッドから降りてコウの部屋から出ながら去り際に一言だけ言い残し、自室へ戻ってしまった。
昨晩の記憶は無いがライラの一言によって、手を出していないことを知ったのでホッと安心するような気持ちで朝食へ向かうことができそうではある。
ただ手のひらを見ると、つい先程まで感じた温もりと感触を少し思い出しそうになり、頭を左右に振って忘れようとする。
「ふぅ...とりあえず飯にしよう」
「キュイ!」
靴などを履いて身支度を終わらし、部屋の扉を開くとライラが扉の前に立ちノックをしようとしていたようだ。
「ちょうど良かったです〜ご飯いきますよ〜」
「あぁ そうだな」
先程よりも気まずい雰囲気はないものの、コウだけ会話にぎこちなさを残しつつ、朝食へと向かうのであった...。
■
朝食を終えた後はBランクに上がったということでどんな依頼があるのか知るために冒険者ギルドへと訪れていた。
朝のことはまだ脳内に残っているが、いつの間にかコウも普段と変わらない調子へ戻り、会話でのぎこちなさは無くなっている。
「やっぱりこっちの掲示板は空いてるな」
「隣は凄い人集りですけどね〜」
EランクからCランクまでの依頼書が張られている掲示板の前を横目でチラリと見る。
ライラの言う通り、人集りが多くまるでスーパーのバーゲンセールのように冒険者達が依頼書を漁っていた。
それにひきかえBランクやAランクの依頼書が張られている掲示板前はそこまで人はおらず平和なものだ。
張られている依頼書を確認すると今まで出会ったことのあるオーガやロックドラゴン以外にもまだ見たことのない魔物の討伐依頼が多数、張り出されている。
「どれにするなぁ」
「これとかどうですか〜?」
「うーん...討伐系は今はいいかなぁ」
そんなBランクの依頼書が張られている掲示板の前で悩みながら立っているコウとライラは周りにいる一部の底ランク冒険者からは奇異な目で見られていた。
Bランクに上がって間もないため、底ランクからしたら知らない者も多いし、見た目も強そうに見えないからだろう。
とはいえコウ達のことを知っている者も増えてはいるので前よりか絡まれることも少なくなっていた。
特に高ランク冒険者達からしたら期待の若手ということで注目されている。
「おう コウじゃねえか。依頼探してんのか?」
そこに丁度通りかかったジールが掲示板の前で悩んでいるコウ達に絡むように話しかけてきた?
「探してるけど...」
「これといって良いのがないんですね〜」
掲示板を見るとどれもこれも討伐系の依頼ばかりなので、コウとしてはそろそろ依頼の趣向を変えたいと考えていた。
「だったら俺から依頼を出してもいいか?」
「何の依頼なんだ?」
「ちょっとしたお使いなんだが...」
依頼内容を詳しく聞いてみるとジールの友人がつい先日までローランに滞在していたのだが忘れ物をしたようなので獣人国のロスガニアへ届けて欲しいらしい。
忘れ物を届けるだけならば底ランク冒険者で事足りるのではないかと思うが問題があった。
その問題とは東の渓谷を通らなければロスガニアに辿り着けないということだ。
東の渓谷にはBランクの魔物が多数生息しているため、それらを相手できる人物でなければならない。
「まぁいいけど報酬は?」
「そうさなぁ...逆にお前さんは何が欲しいんだ?」
「あー...」
言われてみると確かに欲しいものはない。
金貨や銀貨のお金に関しては前回の報酬でたんまりと貰っている。
さらに言えば魔物も解体しているので追加で手に入ってしまうのだ。
「うーん...とりあえず保留で」
「保留ってのが1番困るんだがなぁ...」
ジールはそう言い残しつつ、勝手に受付へ立つと慣れた手つきで依頼書を作り出す。
「ほら。依頼書とその他諸々だ」
依頼書とついでに渡された物はジールお手製の紹介状と高級感溢れる綺麗な木箱であり、大切な物だろうと思い収納の指輪へとすぐに仕舞い込む。
「その人はどう会えばいいんだ?」
「そいつは王宮で勤めているから俺の書いた紹介状を出せば会える筈だ」
王宮に勤めているということはそれなりに地位の高い人物かもしれないので多少なりとも礼儀は良くしていきたいところではある。
とりあえずその人物に会える方法も分かったので依頼を受けるために受付へと向かい手続きをしてもらった。
手続きも終わったのでジールと別れを告げ、冒険者ギルドから出ると新しい場所へ行くことに胸が高鳴る。
「さて...ロスガニアに行くか」
「楽しみですね〜!」
「キュイキュイ!」
コウ達一行は観光...ではなくジールからの指名依頼をこなすために獣人国であるロスガニアへ向かうのであった...。
いつも見てくださってありがとうございます!
評価やブクマなどをしてくださると嬉しいですm(_ _)m
次回の更新は6月9日になりますのでよろしくお願いします。




