180話
現状、視界は真っ暗な為にコウはまだ視認出来ていないがルッチが作り出した分身は狼型であり、瞳や牙そして爪や体毛の何から何まで深みのある真っ赤な紅色で精巧に作られていた。
「...行け」
「ガウッ!」
主人の指示を受けた真っ赤な狼はコウを取り囲むように位置取りをすると一匹...また一匹と真っ赤な狼がワンテンポづつずらしながらコウの隙を突いて強靭な顎と真紅の牙で噛み砕こうと襲い掛かる。
「あぶなっ!狼!?」
作り出した霧のお陰でこちらへ何かが迫ってくるのはわかっていたがそれがルッチなのか?それとも分裂した何かなのか?真っ暗なこの世界では情報が無く、近づいてきた時にようやく真っ赤な狼の姿を視認したコウは驚きつつも必死に噛みつきを回避した。
暫く回避に専念していると周囲の足元は真っ赤な狼が走り回ったせいで赤い雨が降ったかの様に濡れており、血の池地獄である。
「..."血流"」
そして暗闇からルッチの声がすると突然、5体の反応が4体になったので疑問に思いつつ、慣れてきた真っ赤な狼の攻勢をひらりひらり躱し続けていると背後の地面から"とぷん"と音がした。
突如として背後に反応が1体増えたので緊急回避するため、サンクチュアリに魔力を込めて3つの穴から水を吹き出し、反応する方向から強制的に回避を行う。
一瞬だけ視認できたが赤い地面からルッチが身体を半分ほど現しており、コウの心臓に目掛けて縫い針が突き出されるのが見えた。
「ぐぅぅぅ!」
しかし突き出された縫い針は回避行動をしていたために急所には当たらず、コウの左腕を縫い針がずぶりと突き刺す形となった。
「...ちっ外れだ」
縫い針は一瞬で引き抜かれると再びルッチは血の地面へと潜って別の場所まで移動し、貫かれたコウは痛みによって苦悶の表情を浮かべるも更に追撃として真っ赤な狼が襲いかかる。
「ひょ...氷槍!」
チャンスだとばかりに向かってくる真っ赤な狼に向かって痛みに耐えつつ、氷槍を撃ち出すが強靭な顎と牙によって氷の槍は一瞬で噛み砕かれた。
そのまま真っ赤な狼達を水球や氷槍で牽制しつつ、コウはハイド特製のポーションを貫かれた腕に振りかけ治療を行う。
ルッチもすぐには奇襲してこないので何かしらのクールタイムがあるのだろう。
しかし暫くすると背後からルッチに奇襲され、狙われた急所の部分をコウも上手く回避しているが、どうしても回避が間に合わず肩や足などの部分を縫い針によって貫かれるのでその時の痛みがフラッシュバックとして記憶に残り、精神力を削られていく。
それもそうだ。コウは今まで戦ってきたがそこまで苦戦したことも無いし、また大きな怪我をしたことも無いので痛みに慣れていない。
そして暗闇の中を素早く動き回る真っ赤な狼4体と背後に一瞬で移動してくるルッチに連携されながら代わる代わる奇襲をされ、流石に多勢に無勢ということでコウは苦戦を強いられることとなる。
「これじゃジリ貧だ...敵の数が多すぎる」
位置把握できていても数が多くては対処する手が足りず怪我を負う度にポーションも減るので、なんとかしてこの状況を打破しないといけない。
それにこれ以上、身体から血を流すのも良くはない。
「だったらこれとかどうだ?夕立!」
するとぽつりぽつり、先程まで雲一つすら無い筈の夜空から雨が降り始める。
「...雨?」
雲すら無かった夜の空から雨が急にぽつぽつと降り始めた瞬間に第六感というやつだろうか?ルッチは近くにある建物の軒下へすぐに移動すると徐々に強まっていく雨を眺めながら様子を窺っていた。
「こんなもんかな?じゃあ全部凍れ!」
ある程度噴水がある広場を中心に周囲の全ての人工物やルッチが作り出したであろう分身達を濡らすとコウは動きを止めるため全てを凍らせる。
雨で濡れていた場所は全て冬が訪れたかの様に凍り付く。
しかし足元の氷は既に地面を濡らしていた赤い液体が雨と混じっていたため血の様に赤くなっている。
そしてルッチが作り出した真っ赤な狼も凍り付いており、永久凍土に閉じ込められた動物のように凍り付く。
「よし。これで数は減った筈だけど...」
ルッチ以外が凍り動きを止めたことは霧によって把握しているが、ルッチが次に何をしてくるかわからないので様子見をしていると急に周囲を包んでいた黒い煙と霧は突如として強風が吹き荒れたため散らされるように流され消えていく。
何処からの風かわからないが、常に吹き荒れ始めたのでこれでお互いに探知系の魔法は使えないだろう。
とはいえコウとしてあの真っ暗な世界は視界を無駄に奪われるだけなのでこの展開は自身にとって追風だろう。
「ラッキーだな。見えてたほうが戦いやすい」
目の前に立っているルッチを見るとサンクチュアリを掠めたはずの胸の傷は既にカサブタのようなもので塞がっているのが見える。
「...見えていれば勝てるとでも?」
正直、今までルッチの戦い方として暗殺者寄りの戦闘方法なのでもしかしたら近接戦闘は苦手なのではないかとコウは睨んでいた。
もしそうだとしたら視界を奪われない今がチャンスである。
「さぁ?やってみないと分からないだろっ!」
言葉を交わしつつ、赤く凍っている地面をひび割れる程の脚力で蹴って一気にルッチへ近寄ると横薙ぎの一閃を振り抜いた。
「いない!?...ぐあっ!」
しかしその場にルッチはおらずいつの間にか振り抜いたサンクチュアリの先に乗っており、反撃として後頭部を蹴られた為、地面から浮き上がり前へ吹き飛ばされる。
「...舐められたものだ。血よ集まれ」
ルッチは縫い針を空に向けると足元の赤く凍っている地面から赤だけを抽出するようにルッチの元へ集まっていき、赤い血はルッチを包むように球状へと変化しだす。
「何だか不味そうだ!氷槍!」
何かをされる前にコウは自身の使える魔法の中で一番貫通力のある氷槍を作り出して間髪入れずに撃ち込んだ。
「くそ...間に合わなかったか」
間髪入れずに撃ち込まれた氷槍は確かにルッチがいるであろう球状の部分へ向かうが途中で何かに阻まれて半分も刺さらなかった。
本来なら奥まで貫通するはずなのだが途中で止まっているのを見る限り、一歩間に合わず受け止められた可能性が高い。
「...凝血装甲」
中からルッチの声が聞こえ、球状の血が周囲へ弾けると真紅の鎧を纏ったルッチが撃ち出した筈の氷槍を片手で受け止めつつ姿を現すのであった...。
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