164話
「もう行ってしまわれるのですかな?」
村長の家の前を通り過ぎ、歩いていると畑で土弄りをしていた村長の視界にコウ達が目に入ったのか重そうな腰をあげて近寄り話しかけてくる。
「用事も済んだしな。そういえばあいつらは盗賊じゃなくて傭兵らしいぞ」
「何か事情がお有りのようですな」
とりあえず村長にも事情を知ってもらうためにロウェル達から聞いた帝国から雇われていたという事や雇い主についての情報を共有していく。
「なるほど...そういう事でしたか。ただ犯してしまった過ちは償ってもらいますぞ」
「まぁそれはそうだな。ただ色々教えてくれたし多少は優しくしてやれよ?」
「コウ殿がそうおっしゃられるなら考えておきましょうぞ」
一応、ロウェルからは手間を掛けず、すんなりと口を割って話してくれたことなのでコウなりの感謝として村長に優しく接するように言っておくこととする。
その一言のおかげで夜の食事が改善され、喜んだのだが、ローランへ引き渡される日につれて食事の質が少しずつ戻っていくのはまだロウェル達には知らないことである。
「また来るからじゃあな」
「いつでもお待ちしておりますぞ。ライラも迷惑をかけない様にするんじゃぞ?」
「わかってますよ〜頑張ります〜」
はて...一体何を頑張るというのだろうか?
その頑張りはきっと冒険者の仕事についてなのだろうと思い、やぶ蛇を突かないようにスルーしてコウ達はローランへと帰るのであった...。
■
「様子を見に行くだけだったのに色々あったな」
「もう夕方ですもんね〜」
時は経ち、コウ達はクルツ村からローランへ無事に帰ることが出来たが既に時間帯は夕方となっていた。
一応、ロウェル達から聞き出した情報はギルドマスターであるジールにあらかじめ伝えておけばコウの話を信じるか信じないにしろ、ローランを治めている貴族にいずれ話が伝わる筈なので報告のために冒険者ギルドに向かっていた。
冒険者ギルドに向かう途中でフェニがお腹すいたと鳴き、ライラも駄々をこねたため屋台で小腹を満たせるようなものを買い食いしているといつの間にか到着していた。
木製の扉を開けて中に入るとまだギルド内は混んでいなかった様で受付へとスムーズに辿り着く。
「コウさんじゃないですか。依頼ですか?」
「依頼じゃなくてジールさんに報告したいことがあるんだけどいるか?」
「いいですよー。部屋まで案内しますね」
どうやらギルドマスターであるジールは部屋に閉じ込められ、普段から放置していた書類を片付けをやらされているらしい。
「ギルドマスター。Cランク冒険者コウさんからの報告があるそうです」
「おう!入っていいぞ!」
コンコンと軽くノックしてドアを開けるとそこにはギルドマスターであるジールがいつも面倒な問題を持ってくるコウからの報告と聞き、山の様に溜まった書類の横から嫌そうな顔をしてちらりと覗かせていた。
「で...今度はどんな厄介ごとを持ってきやがったんだ?」
いつの間にかジールの中ではコウはトラブルメーカーという認識になってしまったようである。
なんだかんだ色々と冒険者ギルドには貢献しているつもりだったのだが、まさか厄介者のような扱いを受けていたとは思わなかったので少しだけムッとしてしまう。
「はっはっは冗談だ!そんなムッとするな」
ニカっと笑い不貞腐れているコウに向かって冗談だというがあまり冗談に聞こえないのは何故だろうか。
「まぁいいや。クルツ村で捕まった盗賊だけど帝国の傭兵らしい」
「帝国の傭兵?なんだ盗賊じゃなかったのか?」
「あぁロウェルっていう奴を捕まえて本人から聞いた」
「ふむぅ...なるほどな。ロウェルって聞いたことのある名だが思い出せん」
ジールはロウェルの名を聞いたことのあるようで自身の顎に生えている無精髭を片手でジョリジョリと擦りながらなんとか思い出そうとしているようだ。
「まぁ思い出すのは後だ。で...お前さんの報告はそれだけじゃないんだろう?」
とはいえコウの報告が盗賊が実は傭兵でしただけじゃないはずだと思い、すぐにロウェルの事を思い出そうとするのをやめ、まだあるであろう報告内容を聞こうとする。
「その傭兵達を仕向けたのが帝国の貴族らしくて名前は確か...あぁ思い出したモーガスらしい」
「モーガスっていったら黒い噂が絶えねぇ公爵じゃねぇか」
モーガスの名を聞くとジールは嫌そうな顔をして手で頭をガシガシと掻き、悩みが増えてしまったようである。
「はぁ...しょうがねぇ。とりあえずその話が本当かどうかは捕まえた奴から聞くまで保留だ」
コウのことはCランク冒険者であり、これまでの功績や依頼達成度などを考えれば信頼しているが、領主などの人物に報告するにはまだ早い。
しかも内容がシビアな内容のため、もう少し正確な情報が欲しいところではあるのだ。
「聞いたことを伝えれたし寄るとこもあるから帰らせてもらおうかな」
「おう。今度は良い報告を頼むぜ」
自身が得た情報を無事に報告できたということなのでコウはライラを連れてこれから混み合うであろう冒険者ギルドから抜け出す。
「そういえば〜寄るところって何処ですか〜?」
暫く目的の場所へ向かって雑談でもしながら歩いているとライラが先程コウが言っていた寄る場所が気になったらしく質問を投げかけてきた。
「ん?あぁ手紙をイザベルに書きたいからルーカスのところに行けばあるかなって」
直接イザベルに会いに行って戦争について行ってもいいかを確認してもいいのだが、わざわざ王都に行くのも面倒なのだ。
しかし電話などがこの魔法の世界にあるわけもなくお互いの連絡手段としては手紙が主流であるため、手紙で聞いてみようと思った次第である。
紙ぐらいなら魔道具店ではあるがルーカスの店に行けばあるだろうし、帰り道なので丁度良いだろう。
「おっ...見えてきた」
ルーの魔道具店が見え、よく見てみるといつもの様に客で賑わっているようであり、ただ単に紙と筆を買いに来ただけなのでわざわざルーカスを呼ぶのはやめておいたほうが良いだろう。
「いらっしゃいませー何かお探しですか?」
混み合っている店内をライラと一緒にぐるぐると何周か回り、店に置いてある物を見てみるが紙と筆が一向に見当たらずもう1周回ろうとすると1人の店員が気になっていた様で話しかけてきた。
「一応貴族の人に手紙を書きたいんだけど一式みたいなのってあるか?」
「手紙を書くための一式ですね。そちらでしたら裏に置いてありますのでカウンターへどうぞー」
どうやら店内自体には紙と筆は置いておらず裏に置いてあるとのことなのでカウンターへと案内される。
待っていると裏から先程の店員が出てきて手には多くの物を持ち、それらを一気にカウンターの上へどかっと置く。
「お待たせしましたー。こちらが手紙を書くための一式になります」
「意外と多いな」
目の前に出されたのは茶色の用紙や文字を書くための羽ペンとインク。他にはあまり前の世界では見たことのない赤い固形物と深いスプーン、そして判子のような物だった。
「貴族の方に手紙を書くということなので用紙は質がそれなりに良い物を選ばさせていただきました」
「なるほど助かる。これはなんのために使うものなんだ?」
羽ペンとインクはまだわかるが赤い固形物と判子については全く知らないものなので定員に問いかけると詳しく物の使い方を説明してくれた。
どうやら赤い固形物は蝋らしく手紙に封をするための物であり、削った蝋を深いスプーンの中に入れ溶かし、判子のようなもので押して固めるとのことだ。
確かにイザベルから手紙をもらった時、手紙の閉じる部分には似たようなものがついていた気がする。
まぁ前の世界では手紙を書くと言っても正月に年賀状を送るくらいで知識がないのはしょうがない。
「大体どれがいくらぐらいになるんだ?」
「用紙が3枚なので銀貨6枚。羽ペンが銀貨1枚でそれ以外は銅貨5枚になります」
やはり紙はそれなりに貴重なため1枚銀貨が2枚と高く、他のものはそこまで単品の値段としては高くないがまとめて買うとすると意外とお金が掛かるものである。
「銀貨8枚と銅貨5枚か」
コウは収納の指輪の中から銀貨8枚と銅貨5枚を取り出し、そのまま店員へと手渡ししていく。
「ありがとうございます。また是非立ち寄ってくださいねー」
後ろにどんどんと人が並び始めたのでコウは手早く購入した紙や羽根ペンなどの物を収納の指輪の中へと仕舞い込み、混み合っている店内を抜けて外に出る。
「じゃあ宿に帰るか」
「いい匂いがします〜。今日の夕飯は〜なんですかね〜?」
宿へ帰ると言ってもすぐ隣がコウ達の泊まっている宿であり、そろそろ夕食の時間のためか何やら食欲を誘う匂いが宿から漂ってきた。
先程までに屋台で軽く小腹を満たしたはずなのだが、腹からは早く食事を取れと催促の合図が鳴った。
コウ達は今日の夕食は何が出てくるのかと期待を膨らませつつ、食欲を誘う匂いのする宿の扉を開けて中に入っていくのであった。
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