77話 見た目の対策
ラトミ村の事は、正直気になるような、どうでもいいような……。
それよりも、男の子に見られる方法を探らないと。
今は、年齢より幼く見えていることで誤魔化せている? ……のだろうけど、これからの事を考えると対策は必要だろう。
とりあえず成長した時の対策って……私、成長するよね?
大丈夫だよね?
そう言えば、森で生活を始めたばかりの頃は、食べる物と言えば木の実だったな。
罠を学んで仕掛けても、野ネズミすら捕まえる事が出来なかったし。
そう言えば、間違って毒草を食べた事も、毒を含んだ果実に手を出したこともあったな。
……なんだか落ち着いて考えると、かなり過酷な生活をしていたな。
あの時は、考える暇なんてなかったから思わなかったけど……。
ふぅ、もう過去の事だ。
今は、男の子に見られる方法を見つけることが先決だよね。
ラットルアさんに聞けば、何か教えてもらえるかな?
「ラットルアさん、性別がばれない様にするためには、どうしたらいいのでしょうか?」
「えっ、難しいな。一番いい方法は顔を隠す事になるけど、顔を隠すのは町や村では禁止されているからな」
そうなんだよね。
顔を隠せればいいのだが犯罪者を町や村に潜り込ませないため、顔を隠すことは国で禁止されている。
「ん~口元を覆うと少しは誤魔化せるかな……でも、それでも注意を受ける事があるからな。そう言えば、かなり丁寧なしゃべり方だけどそれには意味があるのか?」
「いえ、ラトミ村でよく見た冒険者のしゃべり方を真似しただけです」
「そうか、たぶんそいつは商家の3男以降の冒険者だな。商家の家は、幼い頃から徹底的に話し方を教え込まれるから。でも3男ともなれば跡は継げないからな、冒険者になる者が多いそうだ」
「そうなのですか?」
「聞いた話によればだけどな。喋り方をもう少し男の子っぽく」
「男の子っぽく……」
「ん~難しいかな、喋り方を変えるのは。不意な時に素が出てしまう」
「そうですよね」
「ん~……。あ~……」
ラットルアさんが私をずっと見ながら考え込んでいる。
それほど難しい質問だったのだろうか?
髪もかなり短く切っているし、服装も男の子の物を選んでいる。
これ以上に何をしたらいいのだろう。
「無理だと思う」
「えっ」
「今でもぎりぎりなんだよ。幼く見えているから服装や髪形で誤魔化せているけど。成長すると間違いなく無理。アイビーは完全に女顔だからね。諦めた方が良いかも知れない」
それは困る。
旅はまだ続くし……成長しないほうがいいのかな?
「他の方法で身を守ることを考えた方が良いかな」
他の方法で?
……強くなるのは無理だろう。
腕を見てみる……自分で言うのもなんだが、細い。
逃げ足には少し自信があるけど、それでは駄目だ。
何か方法があるかな?
「一番は冒険者グループに入ることだけど、誰でもいいと言う訳にはいかないし。そう言えばアイビーは冒険者として登録しているのか?」
「いいえ」
「そうか、だったらグループを作るのは無理か。あとは……奴隷かな」
「……奴隷?」
「奴隷を買うんだよ。で、奴隷に守ってもらう方法」
「あの、お金は無いので」
「あ~、他には……セイゼルクが戻って来たら相談してみようか。俺よりいろいろ詳しいからさ」
「すみません。ありがとうございます」
「ん~でも、奴隷はいい方法かもしれないよ」
「奴隷……」
「秘密も守らせることが出来るし、あとは元冒険者の場合は力もあるからね。とはいえお金がな~。元冒険者の奴隷は高いからな。安い奴隷は弱いし……」
奴隷か……お金の問題があるから無理だな。
もう一度、体を鍛えてみようかな。
でもラトミ村の森で1年ぐらい頑張ったけど、変化が無かったんだよね。
占い師にも、諦めた方がいいと言われてしまったし。
そう言えば、他の事に力を入れた方が良いって強く勧められたっけ。
……それほど見込みがなかったのかな、私。
「冒険者グループを作るために、弱い奴隷でも目を瞑るべきか?」
「どういう意味ですか? 冒険者グループ?」
「あぁ、あまり知られていないのか。奴隷がいれば奴隷をギルドに登録する事が出来るんだ。その主人は名前だけで問題なし」
「……主人のスキルは必要ないのですか?」
「スキル? あぁ、戦うのは奴隷の方だから、主人の方は必要が無い」
そうなんだ。
奴隷でも登録が出来るのか。
「戻って来た」
広場の出入り口に視線を向けると、ボロルダさんとリックベルトさん。
それにその後ろにはセイゼルクさんとシファルさんの姿が見えた。
「お帰りなさい」
「「ただいま」」
リックベルトさんはそのまま私のテントに向かおうとして、ボロルダさんに服を掴まれて止められている。
そっとテントに戻り、バッグにソラを入れて肩から提げて、テントを出る。
どうやらボロルダさんと言い合いをしていて、気付かれなかったようだ。
セイゼルクさんとラットルアさんは私の行動を見て、苦笑をしている。
「アイビー、夕飯一緒に作ろうか?」
ラットルアさんが、大きな紙袋を見せて手招きする。
紙袋の中を見ると、沢山の食材が詰め込まれているようだ。
これだったら、色々と作れそうだな。
「調味料系を上手く使うみたいだから、いろいろ買って来てしまった」
そう言うと、セイゼルクさんが別の紙袋を取り出す。
袋を開けると、10種類以上の小袋が入っている。
全て違う調味料の様だ。
うれしい。
「ありがとうございます。頑張って作りますね」
セイゼルクさんが、シファルさんに声を掛けてテントに入って行く。
真実を知った彼らが、どういう反応するのか怖いけれど、私が気にしても仕方ない。
私は私が出来る事を頑張ろう。
「よし!」
それにしても買ってきた物に、まとまりがない。
手当たり次第詰め込んだって感じかな?
お肉も数種類、スープには不向きな野菜まであるな。
知らない野菜もあるし、とりあえず少し味を確かめようかな。
料理をしている間にヌーガさん、ロークリークさん、マールリークさんが集まってくる。
そして順に話をするためにテントの中に呼ばれているようだ。
心配でテントから出て来る様子を確かめる。
シファルさんとロークリークさんは複雑そうな表情を見せている。
ヌーガさんは……あまりの恐ろしい表情に、見た瞬間視線を逸らしてしまった。
マールリークさんは、ものすごい笑顔でテントから出て来る。
……あれ? 笑顔?
「アイビー、疑ってごめんね。しっかりと落とし前をつけさせるから」
疑ってと言う意味は、おそらくラットルアさんが言っていた事を信じていなかったという事だろう。
それは仕方がない事だ。
大丈夫と言おうと視線を合わせたら、笑顔だけど目が全く笑っていない事に気が付く。
腰が引けそうになりながら、何とか頷いて相槌を返す。
マールリークさんは、ヌーガさんとは違う恐ろしさがあった。
「……疲れた……」
セイゼルクさんがテントから出て来て、背伸びをしている。
「お疲れ様です。すぐ夕飯になりますよ」
「おぉ~、さすがアイビー。すっごい良い匂い」
お皿に焼いたお肉と野菜。
スープとパン。
それに、よくわからない白い物。
「ラットルアさん、この白いのは何ですか?」
「食後に食べる物。食べたらびっくりするよ」
何だろう。
気になるな。
「とりあえず、仕事お疲れ様~……ヌーガ、マールリーク、ちょっと落ち着け。お前らの顔を見ていると食事がまずくなる」
大きなため息をついてヌーガさんが、お酒が入っているコップを持ち上げる。
『お疲れ様』
何とか、2人とも落ち着いたようだ。
これからどうなるのか分からないけど、今は皆と食事を楽しもう。
これから頑張るためにも。




