75話 試されたソラ
「あの……」
「どうした?」
「ミーラさんのことを、どうして裏切り者だと判断したのですか?」
「「「「えっ?」」」」
全員が不思議そうに私を見つめる。
あれ?
もしかして話してくれたっけ?
……いや、まだ話してもらっていないような気がする。
「話していなかったか……どうやら、まだ心の何処かで認めたくないと思っているらしい」
セイゼルクさんが、苦笑を浮かべた。
ラットルアさん以外の2人も同じような表情だ。
「とりあえず、俺が裏切り者だと判断した理由だな。ラットルアの話が気にはなっていた、だから気が付けたんだろう。商人とミーラとマルマが見せた、ほんの一瞬のアイビーを見る目に……以前、奴隷商が見せた値踏みする視線と同じものを察知した。それが疑うきっかけだ。そのあとのリックベルトとマルマの話で決定的になった」
「俺はその視線には気が付かなかった。と言うかラットルアの話は全く信じていなかったよ。仲間を疑うなんてってな。だから証明してやろうって、商人と別れた2人に『見かけない奴だな知り合いか』って声を掛けた、そうだって言ってほしかったんだ。なのに『迷子らしい、ちょっと道を訊かれた』だってさ」
「リックのその行動には焦ったな。だが、そのお蔭で商人とは隠しておきたい関係だという事が判断出来た。まぁ、俺はこの辺りからかな2人に対して違和感を抱いたのは」
「そのあと一緒に夕飯を買いに行ったんだが、疑っていなければ気付けないほど巧妙に隠していたが、こちらを警戒していた。……今までの裏切り者と同じモノを感じたよ」
「そうでしたか」
リックベルトさんから時々感じた不思議な視線は、私を疑っていたからか。
まぁ、いきなり現れた私より仲間を信じるのは当たり前だろうな。
それを思えば、ラットルアさんはどうしてすぐに動いてくれたのだろう。
「はぁ、覚悟を決めないとな。これからいろいろ大変になる」
セイゼルクさんは大きくため息をつく。
ボロルダさんも、ラットルアさんも頷いている。
リックベルトさんは、少し寂しそうだ。
「アイビー、そこで相談がある」
「囮の事なら大丈夫ですよ」
「いや、それもそうなんだが。まずは誰にこの事を話すか一緒に考えてほしい」
えっと、ボロルダさんの言っていることが、いまいち分からない。
誰にこの事を話すか?
……もしかして、まだ誰にも話をしていない?
そうか、裏切り者が緑の風だけとは限らないから。
「他にも裏切り者がいる事を考えてですか?」
「……まぁ、考えたくはないがな。ラットルアがとりあえず5人で話をしてからだって譲らなくて」
「アイビーを巻き込むって言ったからだろ。だったらアイビーの意見も聞くべきだ」
ラットルアさんは、私が参加する事には反対みたいだ。
でも、巻き込むっていうより、既に中心にいるような気がする。
狙われているわけだし。
「ラットルアさん、ありがとうございます」
「はぁ、アイビーがやる気なら仕方ないけどね。でも、本当に気を付けろよ」
「はい」
「話を続けよう。アイビーの事も含めてギルマスに全て話してくる。ギルマスにある程度は判断してもらうよ。ただ……貴族達には伏せてもらう」
「ボロルダ、良いのか?」
「今の状態で、俺の意見はあてにならん」
「そう言えばリックベルトさんはマルマさんが命の恩人だって。ボロルダさんもその貴族さんに助けられたんですよね。確か感謝しているって」
「あぁ、俺にとっては命の恩人……だなって…………なんだか、どんどん怪しく感じてくるんだが」
私の言葉に答えたボロルダさんの顔色が変わる。
そう言えば、恩に着せて疑いの目を逸らすって方法もあるな~って。
これって前の私の知識だよね。
前の私って、どうしてこんな事に詳しいのだろう。
そうとう、裏切りがはびこっている世界で生きてきたって事なのかな?
それは随分と怖い世界だな。
「大丈夫かアイビー。俺は気にしていないからな」
「ぅわ、……あっ、すみません。大丈夫です」
考え込んでしまった。
前の私の事は後で考えよう。
それに、知識としてはありがたい。
「そう言えば、ギルマスさんと言う人は信用できるのですか?」
「ん?……あっ、ギルマスって言うのは冒険者ギルドのギルドマスター、トップの事だ。彼は大丈夫だから」
あぁ、ギルマスってギルドマスターの事かそっか。
何処かで聞いたことがあると思った……えっ、いつだっけ?
……まぁいいか。
「誰に話すかは、お任せします」
「わかった。俺達の雷王とセイゼルクの炎の剣のメンバーには話をする。ギルマスはおそらく自警団の隊長と副隊長には話すだろう。あとは伏せておいた方がいいかもしれないな」
「……かもしれない。ボロルダの所の後の2人は問題ないよな?」
「そこは信じている。と言うか信じたい」
「……ソラに聞いてみますか?」
「あっ、そうだその手があったか……ってボロルダのメンバーの2人の事を覚えているかな?」
「……どうだろう、ちょっと聞いてみます」
「アイビー、俺も一緒にいい?」
「……ソラに聞いてみます」
テントに戻って、寝ているソラを起こす。
と言うか、まだ寝ていたのか。
ソラのマイペースには時々驚かされる。
「ソラ、ラットルアさんが会いたいって言っているけど大丈夫?」
プルプル揺れるソラはテントの入り口を見ている。
これは大丈夫かな。
「ラットルアさん、どうぞ」
そっとテントに入ってくるラットルアさん。
ソラを見て……固まった?
何だろう、何か問題があるのかな?
「えっ、なにその色。半透明のスライム? えっ本当に?」
見かけないと思っていたけど、やっぱり半透明のスライムって珍しいのか。
やっぱりこの問題が解決しても、ソラは誰にも見られない様にした方がいいかな。
「ラットルアさん?」
「ぅお、あっ、ごめん。えっと、その子がソラちゃん?」
「はい、半透明って珍しいのですか?」
「……伝説や物語でしか、聞いたことないな」
「伝説……」
あっ、今はそんなことはどうでもいいな。
「ソラ、えっとボロルダさんの仲間の事を覚えているかな?」
ピョンと縦に1回跳ねる。
「雷王の4人は私にとって問題ない?」
プルプル震えてピョンと跳ねている。
「大丈夫みたいです」
「ん~、本当にわかっているのかな?」
「たぶんですけど」
「ちょっとごめんねアイビー。ソラちゃん、俺は雷王の1人です」
ソラはじっとラットルアさんを見ているだけ。
揺れる事も、飛び跳ねる事もない。
やっぱり、理解しているよね。
「違うって思っているみたいですけど」
「ん~ちょっと待ってて」
何だろう。
やっぱりスライムが、周りを認識しているのは不思議な事なのだろうか。
でも……分かっていると思うけどな。
「悪い」
リックベルトさんがテントの中に顔を出す。
そしてスライムを見て、驚いた顔をした。
やっぱり驚くのか。
「ソラでいいんだよな?」
「はい」
「ソラ、俺はセイゼルクだ」
ソラは無反応。
あっ!
「ソラ、寝ないで。すぐに終わるから」
「ククク、悪いあと1つだけ。俺はリックベルトだ」
チラッとリックベルトさんを見てプルプルって揺れた。
でも、ちょっと不機嫌そうだ。
「試された事を怒っているみたいだな。ごめんなアイビー。ソラみたいなスライム初めて見るからさ」
リックベルトさんは、テントから出ると外で何やら騒いでいる。
どうも、ソラの反応が面白かったようだ。
「ありがとう、ソラ」
私の手に体をすり寄せてプルプル震える。
ゆっくり撫でると、機嫌が直ったのかピョンピョンと私の周りを跳ねている。
……不機嫌なソラって可愛かった。




