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73話 付加価値

タオルを受け取って、目元に残っている水分を拭き取る。


「ありがとうございます」


「アイビーはどうして、ミーラの事に気が付けたんだ?」


リックベルトさんの疑問は当然だろう。

冒険者として未熟な私が、どうやって気が付いたのか。

どう答えるべきだろう。

嘘はつきたくない。

信じてくれた人たちだ。

必要な事だけ、言えばいいかな……。


「私は、テイマーなんです。それで……少し変わったスライムをテイムしている状態ですが。その子が教えてくれました」


緊張のせいで、少し変な言い方をしてしまった。

大丈夫かな?


「えっテイマーだったの? それにスライムが教えてくれたって……」


ラットルアさんの驚いた表情。

やっぱり無理があるかな。

でもスライムにはいろいろ種類がいて、まだ不明な点も多いと聞いたのだけど。


「かなり珍しいスライムであることは間違いないな。誰にも知られていない種類なのだろう。スライムは、まだまだ未知数なところが多いからな」


セイゼルクさんの言葉に少しホッとする。

未知数な存在と言われているなら、少し見られたとしても誤魔化すことが出来る。

これからの旅、少し余裕が持てるかもしれない。


「テイムしているスライムが、ミーラが裏切り者だって教えてくれたのか?」


ボロルダさんが、少し不思議そうに聞いてくる。

それには首を横に振る。


「違います。ソラ、スライムはソラって言うのですが、私の話にいつも色々な反応をしてくれます。でも、ミーラさんの話には反応が無くて。気になったので他の人の名前を出して反応を確かめました。そうしたらやっぱりミーラさんにだけ反応が無くて、そこから判断しました」


「そうか、反応で……しかし、そうなるとアイビーのスライムは人を区別出来ているな。かなりレアだ」


「区別ですか?」


「あぁ、一般的なスライムはテイムした者は認識するが、周りにいる者たちまで区別できないらしい」


知らなかった。

オグト隊長の話とヴェリヴェラ副隊長の話では反応が違ったから、区別がついていると思ったけど。

気のせい? いや、人によって動きが違った。

同じ人の話には、いつも同じ反応を返してくれた。

やっぱり区別はついている。

これもソラだからできるって事?


ボロルダさんが、眉間にしわを寄せて何かを考え込んでいる。

セイゼルクさんも、少し複雑そうだ。

何か、問題でもあるのだろうか?

やっぱり、ソラの事を話すのは駄目だったのかな?


「アイビー、そのスライムだが、ミーラに見られた可能性はあるか?」


セイゼルクさんの硬い声に少し震える。


「無いと思います」


「そうか。他に知っている者は?」


「……いないと思います」


「だったら、問題が解決するまでは誰にも見せては駄目だ。絶対に」


セイゼルクさんの真剣な目が怖い。

声が出なくて頷くが、どうしてだろう。

無防備に見せるつもりはないが……。


「知られてしまうと、アイビーの価値が上がる。奴らにとって付加価値が付いた者は、何が何でも手に入れようとするだろうからな」


価値が上がる?

レアなスライムをテイムしていることで、付加価値が付いた?

そんな事で?

ボロルダさんの言葉に、全身が硬直する。

ギュッと握り込んだ手に、暖かな何かを感じた。

見ると、ラットルアさんが私の握り込んだ手をそっと包み込んでくれていた。


「大丈夫。俺達がいるから」


「……はい」


私の状態を見てリックベルトさんが、少し落ち着こうと新しいお茶を入れてくれた。

ゆっくりと飲むと、心がスーッと落ち着く。

強張っていた体からも力が抜ける。

大丈夫。

守ってくれる人もいるし、ソラもいる。

だから大丈夫。


「昨日さ。一度俺達ここまで戻って来たんだよ。夕方より少し前かな」


ラットルアさんの明るい声が、場の雰囲気を少し明るくした。


「えっ、そうだったのですか?」


「そう、なのにアイビーがいなかったから慌てた。もしかして攫われたのかもって」


「あっ、すみません。私、どうしても確認したくて。旅の間、不快を感じる事が無かったので、もしかして気のせいだったのかもしれないって。だから1人になれば、何か分かるかもしれないと思って…‥」


「えっ、そうだったのか。俺達は……」


ボロルダさんの少し慌てた声に首を傾げる。


「はい?」


「ほら、アイビーは年齢の割にしっかりしているから違うって言っただろ!」


「悪い。あ~、そのつまり、ラットルア以外は無防備に遊びに行きやがってってまぁ……なぁ?」


ボロルダさんの言葉に驚く。

まさかそんな風に見られていたとは……でもそうか、狙われているのに1人で行動したから。


「すみません。軽はずみな行動してしまって……」


私の謝罪に、ボロルダさんが真顔で


「本当にアイビーって8歳?」


なんて聞いてきた。

8歳だけど何だろう。

あれ?

でも今日って確か8月の初めだったな、なら。


「9歳になりました」


「……そう言う事ではないのだが。って、9歳? えっ、数日前は8歳だったよね」


「昨日です。7月の終わりが誕生日だと聞いているので。おそらく9歳になりました」


「そんな淡々と……って、おめでとう」


ラットルアさんが、なぜか苦笑いしながら誕生日を祝ってくれた。

何だか久々にその言葉を聞いたような気がする。

5歳の誕生日に聞いたのが最後だ。

ここ数年は、気が付いたら誕生日は終わっていたし。


「うれしいです。ありがとうございます」


ラットルアさんの言葉に、気持ちが和む。

これにはちょっと、自分でも驚いた。

言葉1つで、本当に心がぽかぽかとなったのだから。

何故か少し驚いた表情をしたラットルアさんは、私の頭を優しく撫でてくれた。

彼は本当に優しい。


「問題が解決したら、盛大に誕生日をお祝いしような」


「えっ、別にそれは」


「いいの、いいの。そうだ、疑ったボロルダとセイゼルクに奢らせよう」


「いや、悪いですから。それに無断で行動した私も悪いですし」


ラットルアさんの言葉に慌ててしまう。

うれしいという気持ちが大きいが、さすがにそれは悪い。


「いいぞ。アイビーの行動のおかげでいろいろ解決できそうだしな」


私の行動?


「私、何かしましたか?」


セイゼルクさんがボロルダさんを無言で叩く。

頭を押さえるボロルダさん。

何が起こったのだろう。


「まったく。言葉を選べ」


「選んだんだが」


「へたくそ」


セイゼルクさんは、ボロルダさんに容赦がないな。

討伐中はボロルダさんを立てていた様に感じたけど。

これを見ていると違うんだな、と思う。

あの時は討伐隊のリーダーだったからかな。


「あの……私」


「違う、アイビーの行動と言うか。何と言えばいいか……昨日、通りで察知しただろ?」


昨日、あの不快感の事だろうな。

私は静かにうなずく。

ボロルダさんは、少し悲しそうな表情を見せる。


「あの時、通りの反対側にミーラがいたんだ」


「そうですか、ミーラさんが」


「その時、ミーラと一緒にいた人物が問題でな。まぁ、そのお蔭で俺達は、裏切り者が誰なのか判断出来たんだが」


一緒にいた人物?

その人かな、あの粘着質な視線を向けてきたのは。

ミーラさんだけなら、不快感だけのような気がする。


「どうした?」


「えっ……あっ、昨日は不快感だけではなく、粘着質な視線のようなモノも気になったので……」


私の言葉に、4人が息を飲む。

そしてお互いに顔を見合わせている。

何だろう、何かおかしなことを言ったのかな?


「どうしたんですか?」


「アイビーってテイマー以外に、看破スキルを持っているのか?」


「かんぱ? いえ、持っていませんが」


かんぱって何だろう。

聞いたことが無いな。


「そうか、なら感覚的に察知したのかもしれないな」


分からない。

でも私のスキルはテイマーと不明だ。

これに間違いは無いので、かんぱは違うだろう。


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― 新着の感想 ―
自分の置かれた環境で、後発的に生えたスキル?が気配察知とか、不憫過ぎるだろ…。
気配察知のレベルが高すぎると思うんだよね。 過酷な生活してたからなのかね。
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