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番外 ドルイドさんとアイビーの1歩

アイビーに書類を見せる。


「フォロンダ領主が用意してくれていたんだ。あの人すごいな」


「うん。えっ? こんなに沢山の証人が必要なの?」


アイビーが証人欄を見て驚いた表情をする。

それを見て苦笑を浮かべる。

小さい空欄に小さい文字で詰め込まれた8名の名前。


「いや、2人いれば十分だ」


「8人もいる」


「それでも絞ってその人数になったそうだぞ。皆俺たちが親子になればいいと考えてくれていたらしい」


「えっ?」


「心配させてたみたいだ。優しい人たちだな」


アイビーの指が証人欄をそっと撫でると頷く。


「うん」


「アイビーは良い人たちに巡り合ったな」


「うん。そっか……家族が出来るんだ。ぐずっ、うぅ」


ぽろぽろ涙を流すアイビーを見て、手が宙を彷徨う。

どうしよう、アイビーがここまで泣くのは初めてだ。

どうやって慰めたらいいんだ?

そっと頭を撫でてみる。

駄目だ、泣き方がひどくなった。

兄たちに子供がいなかったから、分からないじゃないか!


「えっと、大丈夫か?」


父親として認めてくれたのに、ちょっとこれは情けないよな。

本屋で役に立つ本でも探そう。


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


それまで静かだったソラとフレムが、ピョンとアイビーの膝の上に乗ると心配そうに下から覗き込む。


「ふふっ。ソラ、フレムありがとう。大丈夫だよ」


アイビーの目元が少し腫れてしまったが、大丈夫そうだ。

良かった。

2匹に助けられたな。


「名前を書いてくれるか?」


「うん。どこに書けばいいの?」


指をさす場所にアイビーが名前を記入する。

何だろう、不思議な気持ちだな。

俺の名前は、緊張で寝られなかった時に既に記入してあるから後は出すだけだ。


「なんだろう、不思議な気持ち。嬉しいしどきどきしてる、それになんだかふわふわって感じ」


アイビーを見ると、両手で口を押さえて書類を見て笑っている。

その表情を見ていると、アイビーの喜びが伝わってくる。

それに、俺も嬉しくなり笑みが浮かぶのが自分で分かった。


「親子としてこれからよろしくな」


「こちらこそ、よろしく。そうだ! 私ドルイドさんがドルイド・ファンマラリアだって初めて知った」


そう言えば、話してなかったか。

まぁ、生活するうえでそんなに重要じゃないしな。


「貴族ぐらいしか普通は名乗らないからな。必要な時は、出産と結婚、それにこういう時と死んだ時ぐらいか」


他に家族名が必要な時はあったか?

あっ、移住する時と冒険者が拠点を移す時にも必要な場合があるな。


「ファンマラリアはどういう意味があるの?」


「オール町を作った人の名前だよ」


「えっ? そうなの?」


あれ?

知らないのかな?

そうか、アイビーは5歳から森で1人だったか。


「オール町で産まれた者は皆、ファンマラリアなんだ」


「じゃあ、町の人みんな同じ家族名?」


「そう。他の村や町から移住した場合や拠点を変えた冒険者だけが家族名が違うんだ」


どの村や町で産まれたのかを調べるための名前だからな。


「知らなかった。すごい一杯ファンマラリアさんがいるんだね」


「まぁ、そうだな」


書類をバッグに入れる。

お昼から提出しに行けばいいかな。

そうだ、フォロンダ領主に報告をしないとな。

後は……あれ?

何か言い忘れている事があるような。

何だっけ?

アイビーの家族の事は話したし、家族になる書類に名前も書いた。


「そろそろ朝食を食べに行こう」


アイビーが椅子から立ち上がるのにつられて、俺も立ち上がる。


「あぁ」


何か、大切な事を忘れている気がする。


「あっ! 待った」


俺、アイビーの家族になれる事が相当嬉しいんだな。

重要な事を忘れてた。


「ごめん。まだ時間大丈夫だよな?」


時計を見ると朝食が終わるまで、まだ1時間ほど時間がある。

その事にほっとして、アイビーにもう一度椅子に座ってもらう。


「ごめん、重要な事を話し忘れてた」


「何?」


「聞きたくないと思ったら止めてくれ」


俺の言葉に何かを感じたのか、姿勢を正しじっと見つめてくるアイビー。


「ラトミ村の村長たちが捕まった経緯を話しておきたい。彼らの犯罪の証拠をラトメ村のオグト隊長に渡した人物がいるんだ。……アイビーの姉のフェシーラだ」


「えっ……」


アイビーの様子を見る。

特に嫌悪感などの感情は見られない。

ただ、唖然とした表情だ。

このまま話を続けて大丈夫か?


「フェシーラは罪を明らかにしたとして、他の村人より軽い刑になっている。8年の奴隷落ちだ」


アイビーは、視線を机の上の手に向けじっとしている。

大丈夫か?


「……わかりました。姉は今、何処にいるの? 元気なの?」


アイビーの視線が俺に向く。

本当に心配している様子が窺える。


「今はオグト隊長のいる自警団預かりになって仕事をしているそうだ。毎日元気に働いていると聞いた」


「オグト隊長の所に、そっか」


アイビーの表情に安堵が浮かぶ。

その表情にほっと緊張を解く。

嫌悪感を見せたら、これ以上の話をするつもりはなかった。

でも、この様子なら大丈夫だろう。


「オグト隊長は、アイビーが生きている事を話していない」


「えっ? あっそうか。私、死んだことになってたね」


「あぁ。生きている事や何処にいるかの情報は、アイビーが許可しない限り話さないと言っている」


「うん。……会った方がいいのかな?」


ん? 一瞬だがアイビーの表情に恐怖が浮かんだ。

何かを怖がっている?

もしかして姉が怖いのか?


「今すぐ会う必要はないだろう。会いたいと思う時に会えばいい」


俺の言葉に、驚いた表情のアイビー。

もしかして会うように勧めると思ったのだろうか?

確かに、怖がっていなければ勧めたかもしれないが怖がっているなら会わなくていい。

俺にとって大切なのはアイビーだ。


「そうだよね。別に今でなくても」


「あぁ、今は予定している王都へ行こう。王都に行ってから考えたらいい」


1年以上の猶予が出来るだろう。

その間に、アイビーの中で心から会いたいと思うかもしれない。

思わなかったら、また時間を掛ければいい。


「うん。そうする。今はちょっと……」


「そうと決まったら、朝食を食べて書類を提出しに行こう。帰りにフォロンダ領主に報告しような」


「うん」


少し暗くなっていた表情が明るくなる。

良かった。


「さて、朝食を食べに行こうか」


「お腹空いた……あ~え~」


ん? 

どうしたんだ?


「早く行こう、お父さん」


うわっ、時々お父さんと呼ばれたことはあるけど、これは嬉しい。


「ふふっ」


「行くか」


「うん」


…………

―フォロンダ領主―


「おはようございます、旦那様。今日は随分と機嫌がいいようで、何かありましたか?」


メイドのアマリがいれた温かい紅茶を一口飲む。

今日は一段と美味しいですね。


「えぇ、目的のものが渡せましたから。午後には2人が来るかもしれませんね」


私の言葉に首を傾げるアマリ。

しばらく考えてぱっと笑みを見せる。


「アイビー様に書類を渡せたのですか?」


「いえ、ドルイドに渡しました」


「えっ? ですがあの書類は確かアイビー様の『ふぁっくす』を読んでご用意されていましたよね?」


そう、あの書類はアイビーに持ってきたものです。

アイビーの『ふぁっくす』を読むとドルイドを父のように慕い健康に気を遣っている事が窺えました。

そして、ドルイドの『ふぁっくす』からは娘を大切にしている父の姿が。

2人を知っている者たちは、本当の親子になってくれたらと願っていました。

ですが何かがアイビーの気持ちの邪魔をしていた。

もしかしたら元家族の事かと思いましたが、それはドルイドが解決する事です。

私に出来る事はアイビーの背中を押すことだけだと、書類を揃え証人欄に名前を書きました。


「それにしても、あの屑たちも少しは役に立つものですね」


ドルイドの背中を押してくれました。

あの2人に必要なのは、ちょっとした切っ掛けでしたからね。

屑どもの行き先に、ついつい口出しして最悪な所にしてしまいましたが……まぁ、それは自業自得です。


「あんな可愛いアイビーを殺そうとするのだから」


ただ、あの屑どもの話を確認してよかったです。

アイビーのスキルについて、手を加える事が出来ましたからね。

ちょっと脅し……説得に時間は掛かりましたが、問題はありません。

それにシファルやラットルアと、この事でいい関係が築けました。


「後は、アイビーに息子たちを紹介すれば完璧です」


「お止めください。アイビー様が可哀そうです」


「息子たちは良く出来た子たちだよ? 何が問題なんだい?」


私が言うのもなんだが、本当に良い息子たちです。


「問題は、懐に入れた者以外には極悪非道になれる旦那様です。腹黒さがアイビー様に伝染(うつ)ったら大変です」


「あぁ、私か……アマリ、君時々ひどいよね」


産まれた時から一緒にいるからなのか、本当にひどい。

それに隠しても、色々ばれているんですよね。

恐ろしい。


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― 新着の感想 ―
貴族の本気は半端ねぇ
[良い点] アイビーちゃんの周囲の人達が良い人ばかりで恵まれているのが優しい世界ですね。 [一言] 村という閉鎖空間で、頂点とした村長に逆らうと殺される世界という異常な空間で、親の保護下でしか生きられ…
[良い点] アマリーさん、良くわかってるな。 乳兄妹かな
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