284話 まだまだ小さい
よく寝た。
もうぐっすりです。
ベッドに座って腕を伸ばすと、カーテンの隙間から明るい光が入っていることに気付いた。
雨が降り出してからはどんよりとした空が続いていたので、不思議に思いながらカーテンを開ける。
「うわ~、雪景色だ」
昨日、森から村に戻る時には雪は止んでいた。
だから、少し不安を感じていた。
また雨が降りだしたらどうしようかと。
でも、どうやらそれは杞憂だったようだ。
目の前に広がる一面の雪景色。
通常の冬に戻ったのだろうか?
それだったら嬉しいけどな。
「おはよう」
「おはよう。ドルイドさん、雪だよ」
「みたいだな」
起き上がって、窓に近づくドルイドさんに外が見えるように移動する。
この村の窓は冬の雪対策のため、窓が少し小さい。
しかも2重になっている。
寒さ対策の1つらしい。
確か、外の寒さが部屋に入って来ないようにするためだったかな?
「アイビー、狩りが出来るな」
「うん、雪が降ったら出てくる魔物だよね。楽しみ。あっそうだ、罠を作るなら捨て場で必要なモノを拾って来ないと駄目だね」
「捨て場へ拾いに行くのか?」
「えっ? そうですよ?」
「……まぁ、いいか。なら、お昼を食べてから捨て場に行こうか」
「うん」
今日の予定は、捨て場で罠になる材料を見つけること。
あっ、そう言えばあの子はどうしただろう?
自分が寝ていたベッドの足元を見る。
昨日は遊び疲れたのか、まだ皆寝ている。
ソラと、フレムとシエル……あれ、いない?
小さな黒いスライムの姿がない。
ソラたちの間にいるのかな?
「どうした?」
「黒のスライムがいなくて」
ドルイドさんもベッドの周辺などを探してくれるが、見つからない。
時計を確かめると、既に朝食の時間になっている。
「後でゆっくりと探そうか。昨日ドラに心配をかけてしまったから、大丈夫な姿を見せておいた方がいいだろう」
「そうだね。あっ、皆おはよう。ポーションは準備してあるから、好きな時に食べてね」
「朝食に行って来るな~」
ドルイドさんが扉の前で待っててくれているので、ソラたちの頭を1回ずつ撫でてから彼のもとへ行く。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
「ぺふっ」
「「ん?」」
最後におかしな音が聞こえた。
音は他より小さかったが、確かに聞こえた。
2人で部屋を見渡すが、やはり目につくところにはいない。
「先に食べて来よう」
「うん」
部屋を出て扉に鍵をかける。
最後の鳴き声が気になるが、まずは心配かけているドラさんたちに挨拶してしまおう。
サリファさんにもちゃんとお礼が言えたらいいな。
「おはようございます」
宿に泊まっている客に挨拶をしながら食堂に入る。
もう何日も顔を合わせているので、かなり親しくなれた。
席に着くと、すぐに朝食が運ばれてくる。
「体は大丈夫か?」
ドラさんが、私たちの様子を見てホッとした表情を見せた。
「あぁ、心配かけたが大丈夫だ」
「よかったよ。そうだ、自警団から2人の記憶についての書類が届いて、サリファが心配してたんだ。後で顔を出すと思うから、安心させてやってくれ」
「分かった。悪かったな色々と」
ドラさんが仕事に戻るのを見送ってから朝食を食べる。
今日もサリファさんの手作りパンは美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまう。
食後のお茶を飲んで食べ過ぎたお腹を落ち着かせていると、サリファさんが食堂に姿を見せた。
そして私たちの前までくると、じーっとドルイドさんと私を見て『よかった~』と安堵の表情になった。
かなり心配をかけてしまったようで、申し訳ない気持ちになる。
「心配かけてすみません、日常生活には支障がないので大丈夫です」
「でも、まだ分からないのでしょう? ちょっと心配だわ。そうだ、今日も夕飯を下で食べない? しっかり食べてくれていれば安心できるから」
サリファさんの提案にドルイドさんが私を見る。
私も首を傾げてドルイドさんを見ていた。
同じ行動をとった私たちに、サリファさんが楽しそうに笑う。
「お世話になろうか?」
「うん。そうしようか」
「よかった。今日はいつもより頑張って美味しい物を作るからね!」
「サリファさんのご飯はいつも最高ですよ」
私の言葉にサリファさんの表情が嬉しそうに綻ぶ。
「やだ、アイビーさん。嬉しい事を言ってくれるのだから」
いや、今日のパンも最高だったし。
スープも入っている野菜で味付けを変えているようで、いつも美味しい。
この宿に来て本当によかったといつも思っている。
「そうだ、また何か料理を教えてもらえないかしら?」
「私もサリファさんに料理を教わりたいです。いいですか?」
「ふふふ、嬉しい。なら教え合いっこね」
サリファさんの笑顔を見ていると、ほっこりするな。
料理を教え合う日にちを決めると、仕事があるサリファさんは調理場へ戻った。
「そろそろ部屋に戻るか?」
「うん。もう動けます」
「アイビーは、この宿に泊まるようになってから少し食べる量が増えたな。お昼も少しなら食べられるし」
ドルイドさんが嬉しそうに言うが、ちょっと心配になる。
このまま増え続けたら、やばいよね。
「あともうちょっと食べてくれたら安心だけどな」
「えっ?」
あともうちょっと?
「アイビーの食事量は少し増えたけど、まだ同じ9歳の子より少ないだろう?」
「皆もっと食べてるの?」
「食べてるな? 少し離れた席の女の子いるだろう?」
「うん。赤毛の子だよね?」
「そう、あの子は7歳だけどアイビーより食べてるぞ?」
7歳?
あれ?あの子と私って背丈がほとんど一緒だったよね?
なのに私より2歳も下?
「どうした?」
「いえ、7歳なのに大きいなって思って」
「ん~、確かに少し大きいが、それほど他の7歳の子と違わないだろう」
そうなんだ。
もしかして私、子供の年齢を皆少し上に見ているかもしれないな。
「私ってまだ小さいんですね」
「これからだろう? 気にするな」
ドルイドさんが頭をそっと撫でてくれる。
それに落ち込んでいた気持ちがふっと軽くなる。
「「ただいま」」
部屋に戻ると、用意していたポーションは綺麗に無くなっていた。
「シエル、まだ狩りに行かなくても大丈夫? お腹は問題ない?」
「にゃうん」
大丈夫か。
「お腹が空いたら、すぐに報告してね。約束ね」
「にゃうん」
さて、黒のスライムを探そうかな。
既にドルイドさんはベッドの周辺を調べている。
少し探すが見あたらない。
「黒のスライム、どこにいるの?」
「ぺふっ」
あっ、荷物が置いてある場所? から聞こえた。
「出てきてください」
「ぺ~」
何だろう、いやって言われた気がする。
「なんだか、面白い仲間が増えたな」
「そうだね」
「そう言えば、フレムにあった黒のシミが無くなっていたな」
視線が合うと嬉しそうに揺れるフレムを見ると、昨日まであった黒いシミはない。
本当に消えている。
……もしかして、黒いシミって今探している黒のスライム?




