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194話 えっ、もう?

「お疲れさん」


声の方に視線を向けると、休憩場所に入ってくるドルイドさん。

師匠さんが森へ行って6日目。

珍しいな。

この時間はまだ門番さんたちのお手伝いの時間のはずだけど。


「何かありましたか?」


「少し前に連絡がきて、作戦成功だそうだ」


「えっ? まだ6日目ですけど」


「ちょっとこっち」


「はい」


何か聞かれたくない事でもあるのかな?

ドルイドさんの後についていき、店の奥の奥。

米などを大量に入れている倉庫の前に行く。


「まだ、はっきりとした事は聞けなかったんだが、どうもシエルが協力したみたいだ」


……えっと、シエル?

ここ数日は、やはり森へ行くことは出来ず、会えていない。

心配していたが、まさか師匠さんと一緒に森の奥へ行っていたとは。


「あの、シエルに怪我は」


「連絡はマジックアイテムで行われて、それほど詳しくは分からない。だが師匠が『怪我人は少数、手を貸した魔物は無事』。そう報告がきたので問題ないと思う」


「そうですか、よかった」


本当によかった。


「帰りは3日後ぐらいになるそうだ」


3日後?

随分と早いな。


「あっ、凶暴化した魔物はどうなりましたか? 作戦が成功したって事は元に戻りましたか?」


「今、門番達が森の周辺を調査しに行っている。おそらく今日か明日には分かるはずだ」


「元に戻ってくれていれば、いいのですが」


これで駄目だったら打つ手がない。


「あぁ、でも師匠の声の調子だと大丈夫だと思うぞ。こちらよりあちらの方がすぐに結果は判るだろうから」


あぁ、そっか。

すぐ傍に凶暴化した魔物たちがいるのだから、変化があればすぐに判るか。


「疲れていないか?」


「……ドルイドさん、4時間の仕事に1時間の休憩では疲れませんよ」


店主さんとドルイドさんがどういう話し合いをしたのか不明だが、4時間ごとに1時間の休憩を頂いている。

そんなに休憩時間は要らないと言ったが、約束したからと言われてしまった。


「ハハハ、アイビーはまだ子供なんだから甘えて良いんだよ」


甘える……難しいな。


「で、本当の用事はここからなんだが、今日はこの家に泊まった方がいい」


ん?


「おそらく今日中に作戦成功の情報が流れるはずだ。そうなるとお祭り騒ぎになるだろう」


「お祭り騒ぎ……」


ラトム村で経験したあれかな?

オーガキング討伐成功という噂と共に大騒ぎ。

広場もすごい状態で、ちょっと怖かったことを思い出す。


「今回は本当に危ないところだったからな、飲み方も派手になる。そうなると、暴れる奴も増えるんだ」


なんとなく言いたいことはわかる。

おそらく広場にいたら被害に遭う可能性が高くなるのだろう。


「父さんと母さんには言っておくよ。今日はここに泊めてもらえるように」


「でも、良いんですか? あの……」


ドルガスさんのことがあるんだけど、大丈夫かな?


「俺の家でもいいが、あそこは少し寂しい場所だから。此処の方が安全だ。兄のことは気にしなくていい。義姉さんにも言っておくから」


それは頼もしい味方ですけど、本当に良いのかな?

ドルガスさんを刺激することにはならない?

と言っても、テントに戻って休憩できるかと言われると無理だろうな。

前の時よりひどい可能性が高いとなると……テントの中に入って来たりするのかな?

ソラやフレムの事がばれてしまうかも。


「あの、お願いします」


「了解。みんなに言っておくよ。そろそろ仕事に戻るな」


「はい、ありがとうございます。気を付けてくださいね」


おそらく今日は、グルバルの対応ではなく酔っぱらいの対応なんだろうな。

大変だ。


「ありがとう。行ってきます」


「いってらっしゃい」


お店にいる店主さんと奥さんの方へ歩いていくドルイドさんを見送る。

私は休憩中だったので休憩場所だ。


「シエルが協力したのか。頼もしいけど、本当に怪我はしていないかな?」


明日、森へ行こう。

あっ、師匠さんたちについて行ったのなら、この周辺にはいないのか。

だったら行っても無駄かな?

まぁ、とりあえず様子を見に行こう。


…………


森へ行くために町を歩いているが、どの人の顔も笑顔だ。

ここ1週間以上、見ることのなかった笑顔。

それにつられて私も笑顔になる。

噂では、魔物も元に戻っているらしい。

成功して本当によかった。


それにしても、と立ち止まって周りを見回す。

道のあちこちに転がっている酔っぱらい。

通常の時でもたまに見かけることはあるが……多い。

今日は多すぎる。

先ほどから自警団の人たちが1人1人声をかけているが、かなり大変そうだ。


「おはようございます。森はどうですか?」


門番さんへ声をかける。


「おはようアイビー。昨日の昼すぎからグルバルの姿は見られないよ」


どうやら噂は本当だったようだ。


「森へ行って大丈夫ですか?」


「ん~。どうだろう」


無理かな?

少し確かめに行きたいだけなんだけど。


「俺も一緒に行くよ」


えっ?

後ろを向くとドルイドさんが。


「ドルイドさん、お疲れ様です。仕事終わりましたか? 疲れているのでは?」


「大丈夫。まぁ、酔っぱらいは当分見たくないがな」


苦笑いを浮かべるドルイドさん。

かなり大変だったんだろうな。

着ている服があちこちほつれている。

おそらく酔っぱらい同士の喧嘩の仲裁などもしたのだろう。


「疲れているなら」


「森で癒されたい」


「えっ? 何か言いました?」


ぼそっとドルイドさんが言った言葉は近くにいた私にしか聞こえなかったようで、門番さんが聞き返す。


「なんでもない。俺が一緒なら問題ないな?」


「そうですね、いいでしょう。ただし、気を付けてくださいね」


「ありがとう。アイビー行こうか」


「はい。行ってきます」


門番さんに手を振って森の奥へ進む。

ある程度森の奥へ入ってから、ソラをバッグから出す。

すぐにドルイドさんが抱き上げて、抱きしめてしまった。


「ぷ~?」


「大丈夫ですか?」


「ハハハ、大丈夫。しかしすごかったな。まさかあそこまで騒がしくなるとは思わなかったよ」


確かに、太鼓の音や笛の音などもしていた。

まさにお祭りのような騒がしさだ。


「不安から解放されたからでしょうか?」


「そうだろうな。上位冒険者が負けたことが相当、影響していたから」


上位冒険者はいるだけで違うって言うもんね。


「これからも大変ですよね。町に上位冒険者がいないので」


「師匠が当分ここで活動するそうだ。その間にめぼしい奴を見つけて鍛え上げると言っていた」


「そうなんですか? ギルマスさんも安心ですね」


「ハハハ、ギルマスはその事を聞いて顔を引き攣らせていたけどな」


ん?

上位冒険者を育ててくれるのに?


「嬉しいが、師匠の性格があれだからな」


「ハハハ」


それはもう、笑うしかないです。

あっ。


「シエルが来てくれました」


立ち止まると、ちょうど上からふわりとシエルが降りて来る。


「シエル、協力してくれたんだってね。怪我はしてない?」


「にゃうん」


頭から順番に撫でて傷が無いか確かめる。

体にも傷1つ無い。

よかった。


「シエル、ありがとう。シエルのお蔭で早く問題が解決出来たよ。怪我人も少しで済んだって」


「あのポーション、試したかな?」


ドルイドさんが、近くにあった巨木の根元に座り込む。

ソラはまだ抱っこされた状態だ。

彼の横に座りながら答える。


「どうでしょうか? 瀕死の怪我人が出ない限り使わないと思いますけど」


鑑定不可能と鑑定されたポーション。

タンバスさん曰く、鑑定スキルを使って見ると対象物の近くに文字が現れるらしい。

が、ソラのポーションは鑑定スキルを使うとキラキラと輝いて見え、その光がまぶしくて文字が読めず、鑑定出来ないそうだ。

『こんなことは初めてだ』と呟いていたらしいと師匠さんが言っていた。


その話を聞いて『さすがソラ』と何故かドルイドさんが感心していた。

師匠さんとドルイドさんの予測では、ソラのポーションは上級ポーションをはるかに凌ぐ力があるだろうと。

私はそのポーションをバッグの底に封印するつもりだったのだが、師匠さんが『買い取らせてほしい』と言ったので驚いた。

こんなポーションを持っていたら、色々と訊かれて大変だと思ったからだ。

でも、師匠さんは『そうだな、だが今回の作戦はかなり危ない。このポーションで1人でも多く生き延びられるのなら俺は持っていきたい。買い取らせてくれ』と。

色々考えて、使った場合だけ買い取りをお願いした。

使わなかった場合は、そのまま戻ってくる。

ちなみに、赤の魔石も持っていっている。

火魔法での攻撃に使えるらしい。

役に立ってくれただろうか?


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― 新着の感想 ―
明治時代から昭和初期頃なら、日本でもあり得た話だよ、子供の長時間労働。今現在でも、アジア・アフリカの地域では珍しくない話だし。小さい頃の環境が成長に影響を〜ってのも、現代知識でしょう?それをファンタジ…
前に日の出から日の入りまで歩き通せるアイビーの体力をお忘れ?
[一言] 地球の現代日本の9歳と同じに考えて意見してもなー 物語だし、異世界だし、今の日本と違う考えの文化だし、そんな細かい所に突っ込まなくてもよくない?
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