189話 誰も残らなかった?
「ドルイドさん」
「ん?」
「私、少なめでお願いした記憶があるのですが……」
「ハハハ」
私が持っている木箱とドルイドさんが持っている木箱。
それだけだったら昨日と同じなのだが、彼が持っている木箱、どう見ても昨日より少しだけ大きいような気がする。
広場に戻る時に渡された木箱を見て驚いていると、奥さんから『遠慮なんてしなくていいの。体力を付けないと旅は辛いわよ』と言われた。
「あ~、義姉さんはたぶん伝えてくれたと思うよ。ただ、母さんには遠慮だと思われたみたいだけど」
なるほど。結果、昨日より大きな木箱になったのか。
美味しいので、沢山もらえると嬉しいが『いいのかな?』と少し不安になる。
それにしても、正規版のマジックバッグがあってよかった。
暑い季節の今、食べ物には最大の注意が必要だ。
バッグをくれた方達には本当に感謝だ。
広場に戻りテントの中でソラとフレムを出す。
「今日もごめんね。でも、今日までだから。明日は森へ行こうか?」
2匹は嬉しそうにプルプルと揺れてくれた。
米が思ったより早く浸透したので、これ以上は必要ないと今日のお昼頃店主さんが決定を下した。
その後『本日最終』と看板を出したら、噂が広まったのか人が押し寄せ大忙し。
米を売っていたお店の方も、米が無くなると勘違いした人たちがお店に集まり大混乱。
店主さんが慌てて、「いつでも『こめ』購入できます」と新しく看板を出して何とか落ち着いたようだ。
噂ってすごいな~と、感じる1日だった。
「ポーション置いておくね。どうぞ。う~、腕が痛い」
おにぎりの握り過ぎだ。動かすと鈍い痛みが……。
バッグから出して並べたポーションを食べていくソラとフレム。
少し様子を見るが2匹とも問題なし。
眠いな~。
2匹の食べているところをじっと見ていると、相当疲れているのか瞼が落ちてくる。
ぐっぐ~……。
「あっ……」
お腹から、とても大きな音がテントに響いた。
ソラとフレムだけだが、ちょっと恥ずかしい。
「えっと、ご飯食べてくるね。行ってきます」
お腹の音ってこんなに大きくなるんだ。
テントの中でよかった。
「お待たせしました……あっ。師匠さん、ギルマスさん」
テントを出ると、見たことのない机と椅子が用意されていた。
机の上には持って帰って来た木箱の蓋が開いた状態で置いてある。
やはり随分と量があるようだ。
師匠さんたちが来てくれてよかった。
3人を見ると癖のある笑顔だが、少し疲れた表情の師匠さんと、あきれた表情のドルイドさん。
そして、大丈夫なのかと心配になるほど疲れ切っているギルマスさん。
何があったんだろう。
「お待たせしました。えっと、この机と椅子は……」
まずは、簡単に聞けることから解決していこうかな。
「余っていたモノを持ってきた。やるよ。これいいぞ、マジックアイテムで小さく出来るから」
ん?
聞き間違いかな?
マジックアイテムの机と椅子なのに『やるよ』と聞こえた。
気のせいだよね、かなり高そうな物だし。
「アイビー、良かったな。師匠が持っていた物だから間違いなしだ」
ドルイドさんの笑顔で、ようやく実感する。
どう見ても、かなり高額のマジックアイテムをくれるらしい。
「いえ、師匠さん。さすがにこれは高すぎます」
「いいの、いいの。同じ物をあと2つ持ってるから気にするな。今日のお礼だ」
今日のお礼って『殴り合い作戦』のことかな?
どうなったか気になるが、ギルマスさんの状態を見ていると聞きづらい。
それにしても、いいのかな?
かなり高額の値がつくマジックアイテムだと思うけど。
「これこれ、この机のおすすめの所だ」
師匠さんが指す方向を見ると、見たことがあるマジックアイテムが机に埋まっている。
これ、周りに声を聞こえなくさせるマジックアイテムだ。
あれ?
これもしかしてレアモノ?
「師匠さん!」
「旅を続けるならアイビーには絶対にこれが必要になる。これから人が多くいる場所へ向かうんだろう?」
あっ、だから師匠さんはこれを選んだのか。
でも、これってすごく高いよね。
「アイビー、貰っていいと思うよ。俺も弟子の時、色々貰ったし」
ドルイドさんは弟子だったから……。
でも、私のことを考えて選んでくれたんだよね。
「えっと、ありがとうございます」
「いいの、いいの。気にするな」
うわ~、凄いモノを貰ってしまった。
確かに声を聞こえなくさせるマジックアイテムは、欲しいと思っていた。
なのでかなりうれしい。
「さて、食うか」
「はい。頂きます」
4人で食べ進めるが、異様な静けさだ。
ドルイドさんもギルマスさんも話す元気がない様子。
まぁ、確かにかなり忙しかったからな、ギルマスさんも忙しかったのかな?
それとも何かあったのかな?
……気になる。
こういう時は、一番元気そうな……。
「師匠さん、何かありましたか?」
「ん? いや、問題なく人を篩い落とせたよ。ちょっと予想外な事があったが」
ちょっと?
「集まった冒険者どもが痛い奴ばかりだったんだ。まさか全員が登録しに来るとは思わなかった」
あちゃ~。
まさかの全員。
「はぁ、ありえないだろう?」
「そうですね。全員はさすがに」
ギルマスさんの疲れた表情は、師匠さんではなく冒険者たちが原因か。
「ドルイドから話を聞いて、これは良い人材を見つけられる機会だと思った。まさか誰1人残らないとは思わなかったからな」
ギルマスさんには、冒険者たちを育てるという重要な仕事があると聞いた。
次の世代の上位冒険者であったり、次のギルマス候補だそうだ。
大変だよね。
「えっと、お疲れ様です」
これ以外に言葉が出てこないです。
「はぁ、ありがとう」
「えっと、これ、美味しいので食べてください。これも」
とりあえず、お腹がいっぱいになれば少しは落ち着くかな?
無理かな?
「しかしゴトス、どうするんだ?」
何がだろう?
「あ~、そうなんですよね。上位冒険者がいないのは町として痛い。何とか今いる奴らを育てるしかないんですが……」
そうか、グルバルにやられてしまったから、今この町には上位冒険者がいないんだ。
それはかなり不味い状況だと思う。
上位冒険者は、町の人達の安心材料でもある。
いないと言うだけで、不安を感じる人たちもいるぐらいだ。
「旅をしている上位冒険者に声をかけて専属になってもらう方法もあるが、難しいだろうな」
理由があって旅を続けている冒険者も多いと聞いた。
なのでそう簡単に専属にはなってくれないだろう。
「どっかから湧いて出てこないかな」
ギルマスさん、それはちょっと怖いです。
土の中からにょきにょきと人がでてくる……あっ、これ駄目。
出て来た人が、死んでいる気がする。
というか、無茶苦茶怖い想像をしてしまった。
これって、前の私の記憶が混ざっているのかな?
というか前の私の世界には、死んだ人が復活するようなことがあったの?
恐すぎる。
「どうした、アイビー? 顔色が悪いが」
「いえ、大丈夫です」
想像で気分が悪くなるとか、最悪だ。
えっと楽しい想像、楽しい想像。




