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183話 吹っ切れた女性は最強

お店に着くと、何やら騒がしい。

どうしたんだろうとドルイドさんと顔を見合わせる。


「どうします? 中に入りますか?」


「その前に、ちょっとだけ様子を見ようか」


扉の窓から、2人で中を覗きこむ。

うわっ!


「げっ」


私は声を抑えられたが、ドルイドさんは無理だったようだ。

ちらりと隣に視線を向けると、眉間にすごい皺が。

それにちょっと笑いが込み上げる。

前までは、ぐっと感情を抑え込んでいる節があったが今は感情がもろに出ている。

ドルイドさんの中で、何かが変わったのかもしれないな。


もう一度、店の中を覗き込む。

ドルイドさんに突っかかってくるお兄さんドル……あれ?

なんであの人の名前はなかなか覚えられないのだろう。

無意識の拒絶反応だろうか。


「どうして、奴をここに入れるんだ!」


店の中では問題児さんが店主さんを怒鳴っている。

傍にいる店主さんの奥さんは、あきれ顔だ。

その隣ではお姉さんが……えっと、小馬鹿にしたような目で見ているような……気のせいかな?


「どうします?」


「なんだろうな」


ん?

どういう意味だ?


「前までは、後ろめたいという気持ちが強かったんだけど……」


今は違うのかな?

それって過去を吹っ切れたって事でいいのかな?


「前へ進めたって事ですね」


「えっ? そうか……前へ」


違ったのかな?

いや、でも過去に囚われていたからずっと後ろめたく感じていたんだよね。

それが無くなったという事は、前へ進んだって事にならない?

まぁ、違ったとしてもいいか。

ドルイドさん、なんだかうれしそうだし。


「で、ドルイドさんどうします? お店に入って笑顔で挨拶してみます?」


「……アイビーって時々何と言うか黒さが出るよな」


「失礼です。挨拶は大切ですよ?」


「いや、今入って『いい笑顔』で挨拶したら完全に嫌味だろう」


「え~、いいと思ったんですが」


笑顔であいさつは基本です。

だから嫌味ではないはず……きっと。


「なんなんだ。どいつもこいつも、俺は被害者だぞ! なんであいつを」


問題児さんの声が大きくなる。

さすがに外にまで声が響くのは駄目だろう。

ドルイドさんもそう感じたのか、すっと店の扉を開ける。


「はぁ、いい加減にしてくれないかしら? 馬鹿なの? それとも屑なの?」


えっ?

扉を開けた瞬間、聞こえてきたお姉さんの声。

その言葉にドルイドさんと一緒に固まる。


そっとお姉さんを見る。

見た目は何と言うか、清楚で大人しそうな印象を受ける。

きっと男性から見ると、守ってあげたくなるだろうな。

そんな人の口から……気のせいであってほしい。


「さっきから聞いていれば、馬鹿の一つ覚えのように被害者、被害者って」


「何を、本当の――」


「いつまでも被害者面しているんじゃないわよ。5歳や6歳の子供じゃないのだから!」


「なっ!」


お姉さんは、けして怒鳴っているわけではない。

涼やかな印象を受ける静かな声なのだが、聞いていたら何故かものすごく背中が寒くなった。

季節は夏で、今日は暑いのですが。


「はぁ~、本当に頭が悪いわね、可哀想に。あのことがなかったら、もっと前にこの店から追い出されているわよ。それを優しいお義父さんが人として成長してほしいから、見込みも無いのに店に置いてあげているだけ。私だったら追い出しているわね。いい加減、自分の立場をちゃんと認識したらどう? 誰も、ドルガスの味方になんてなってくれないわよ。するだけ無駄だもの」


あっ、ドルガスさんだ。

いい加減、ちゃんと覚えないとな。

それにしても、話の中にすごい言葉がちょいちょい紛れ込んでいたような……。

まさか、あんな可憐な印象を持つ人が……ね。

おかしいな、鳥肌が立ってる。


「な、ふざけるな。だいたいこの店から追い出すなんて、お前に何の権限があって」


「あぁ、言っていなかったわね。ごめんなさいね。この店は私が継ぐことになったから。という事だから、いつまでもその状態なら出ていって。この店に必要ないわ。というか、顔も見たくないわ」


怖いです。

と言うか、お姉さんの眼が本気だ。

すぐにでも追い出しそうだ。

隣の店主さんの奥さんが、拍手を送ってお姉さんを応援している。

店主さんは苦笑い。

何だろう、この混沌とした空間は。


「出直したい」


小さなドルイドさんの声が届く。

私も同意見です。

でも、扉を閉めるときっと音がする。

開ける時は、お姉さんの声と一緒になったため気付かれなかったけど。

ドルイドさんと顔を見合わせる。

きっと2人とも逃げたいという表情になっているはずだ。


「あら、ドルイド。それにアイビー」


奥さん、今は呼んでほしくなかったです。


「あら、おはよう。アイビー、今日はよろしくね」


「えっと、おはようございます。何がよろしくなのでしょうか?」


お姉さんが普通に声をかけてくる。

私も普通に返すが、お姉さんを見ると近くにいるドルガスさんが視界に入ってくる。

ものすごく怖い表情のドルガスさん。

あれには近づきたくないので、お店には入ったが扉の前から移動はしない。


「あれ? まだ聞いてないの?」


何のこと?

ドルイドさんを見るが、彼も首を傾げている。


「悪い。伝言を届けたんだが既にいなかったみたいでな」


今日は朝早くから森へ行っていたからな。


「すみません、少し用事があって。それで何かありましたか?」


ドルガスさんを無視して会話を続けていると、彼の顔がどんどん真っ赤に染まっていく。

かなりお怒りのようだ。

怖ろしいので視界に入らないように、そっと視線をずらす。


「アイビー? どうかした?」


お姉さんが、私のおかしな行動を不審に思ったのか隣を見る。

って、噴きださないでください。

もっと怖くなるから。

奥さんも、笑わない!


「ふっふざけるな!」


「「アハハハ」」


『女性は強い』という言葉が、頭の中でぐるぐる回る。

今の私には馴染みがないので、前の私の知識なんだろうけど。

確かに強い。

あんな怒り狂っている人を見て、大笑いできるんだから。

お姉さんも、奥さんも最強かもしれない。


「くそっ、退け!」


入り口に立っているドルイドさんと私の方へ大股で歩いてきたドルガスさんは、店の入り口を壊すような勢いで開けると出ていった。


「ごめんね~。まったくいい年して相変わらず頭の中は残念なんだから」


奥さんの言葉に、店主さんが諦めた笑いを浮かべる。


「何かあったのか? 対応が今までと違うんだが」


そうなの?


「旦那を立てていたからよ。でも、代替わりするならもう我慢する必要ないでしょ?」


「えっと、母さんは我慢していたのか?」


「当たり前じゃない。ドルガスも可愛い我が子だけど、ドルイドだって私の大切な子供なの。それを上2人が揃いもそろって弟を苛めるなんて。愚か者のする事だわ。何度注意しても『俺は被害者だ』の一点張り。性格も悪ければ頭も悪いなんて、何度も話し合って来たけど無駄だったわね」


奥さんの言葉に、ドルイドさんの表情に照れが混じる。


「ごめんなさいね、ドルイド。これまで色々と我慢させて」


「いや、俺のせいで何度も大ゲンカさせてしまって、悪いなって」


「いいのよ、そんなこと思わなくて。あの2人の母親なんだもの、喧嘩したって間違っていることはちゃんと教えないと。でも諭すように話しても駄目、喧嘩しても駄目。正直、なぜ通じないのか悩んだものよ」


一瞬だったけど、奥さんの表情に疲れが見えた。


「母さん」


「まぁ、今はスッキリしているわ。もう諦めたもの。だからあとはシリーラさんの邪魔をさせないようにするだけ。出来の悪いドルウカのお嫁さんに来てくれた人よ。大切にしなくちゃ」


「お義母さん、ありがとうございます」


あっ、さっきの怖い雰囲気がまるで嘘のような綺麗な笑顔。

声からも冷たさは感じない。

こっちがいつものお姉さんだ……きっと。


「ごめんね、アイビー。我が家のいざこざに巻き込んでしまって」


奥さんが私を見て1つ頭を下げる。


「大丈夫です! 気にしていませんから」


「ドルイドの事でもお礼を言いたかったの。この子を救い上げてくれてありがとう」


「いえ、私は何も……」


何かをした覚えはない。


「いっぱい私がお世話になっているので、逆にドルイドさんには迷惑ばかりかけています」


あっ、焦ったからおかしな話し方になったかも。

ポンと頭に優しい手がのる。

見ると、優しい笑顔のドルイドさん。


「俺にとって、アイビーが救世主だな」


いやいや、それ違います!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何回読み直しても普通に面白い事。 [気になる点] アイビーのスキルはテイマー星無しと###でしたけど、###は救世主なのかなと改めて思いました。 [一言] お疲れ様です。何回も読み直して楽…
[気になる点] なんだろう、12才で家を出た末っ子を20年間、口もきかないほど放置して、屑の上二人を屑のまま養って、今さら親面されるのがモヤモヤするかな。
[一言] 漫画みたいに話してるときに割り込まれる、という状況を作りたいのならば文章中に『』でつけないでちゃんと改行して頂きたい。 読みづらいしこの話なら『いい笑顔』や『女性は強い』など同じように文章中…
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