143話 ソラ……と剣?
朝から森へ行こうとすると、昨日とは違う門番さんにものすごく止められた。
何度、大丈夫と言っても『子供が1人で』と渋られてしまう。
おかしな気配を感じたらすぐ逃げる事と危ない事はしないと約束をして、何とか森へ出る事が許された。
そんなにこの姿は危なっかしく見えるのだろうか。
それにしても、オール町の門番さんは過保護な人が多い。
危険なグルバルが暴れているせいなのだが、森へ行く度に毎回これだろうか。
それは、疲れるな。
まずは捨て場へ向かう。
ソラとフレムの食料確保だ。
2匹に増えたので、ポーションが大量に必要かと不安だったのだがその心配は杞憂だった。
ソラの食べる量が、半分ほどに減った。
そして、その半分をフレムが食べている。
つまり、今までとほとんど消費量が変わらないのだ。
今までソラは、フレムの分も食べていたという事だろうか?
何とも不思議だ。
「あった。やっぱり広いな~」
目の前には広大な捨て場。
パッと見ただけでも、多種多様なゴミがある。
折れた剣も抜身の状態で捨てられているのが見えた。
足を怪我しないように気を付けないと。
捨て場の周辺を見て、風が吹いても影響が少ない場所を探す。
この行動も、なんだか懐かしいな。
1本の木の根元の、ちょっと窪んだ場所にフレムが入っているバッグをそっと置く。
そしてバッグの蓋を開けてフレムを優しく抱き上げると、風の影響が少ない場所に下ろす。
「ポーションの確保に行ってくるから、ここで待っていてね。風で飛ばされないように気を付けて」
ソラは風で転がされる事が多かったけど、フレムはどうだろう。
風が強く吹いたら気を付けないとな、何処までも転がされてしまうから。
「行ってきます」
今日はソラとフレムのポーションだけだ。
他のポーションは、正規のマジックバッグに入れた事で劣化がゆっくりになった。
なので、まだ余裕で使える状態だ。
捨て場に入ると、隣をぴょんとソラが飛び跳ねてゴミの中に突進していく。
何だか今日はいつもより元気だな。
「ソラ、怪我をしないように気を付けてね」
さて、あまり遠くに行くと戻るのが大変だからこの辺りでいいよね。
それにしても、大量に捨ててあるな。
あ~でも、ポーションの質はちょっと悪いかな。
「ぷっぷぷ~」
随分とソラはご機嫌だな。
何かいい事でもあった?
ソラの声がした方角を見ると、ソラに剣が刺さっていた。
「えっ! ぇえ~! ちょっとソラ、大丈夫?」
慌ててソラのもとへ走り寄る。
そして刺さっている剣に……ん?
きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~、きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~。
ソラの口元から何とも言えない音が微かに響き、剣がどんどん小さくなっていく。
もしかして食事中?
その間にも音は続き、剣がどんどんと口の中に収まって今は握りの部分が入ろうとしている。
間違いなく食べている。
えっと、ソラって最初は青のポーションしか食べなかったよね。
赤のポーションを食べたら赤のスライムが増えた。
剣を食べたら何を産むの?
って、違う!
今の心配はそこではなくて。
あれ?
ソラの食べている風景を見つめる。
きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~、きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~。
ものすごい勢いで2本目の剣が小さくなっていく。
以前、剣を食べるスライムを見せてもらったけれど、1本を食べ切るのに半日か1日掛かるって言っていたような。
きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~、きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~。
既に、2本目も握りの部分が口の中に入ろうとしている。
なんとなく満足そうな雰囲気なので、問題はないのだろうが。
消化速度がソラ仕様って感じかな。
もうそれでいいか。
うん、そうだ、そういう事にしておこう。
昨日から考える事を放棄しているな~。
「ハハハ、理解できる許容範囲を超えていますって」
誰に言い訳をしているのか。
はぁ、ポーションを探そう。
あっ、ソラが剣を食べるという事は、フレムもポーション以外の物を食べたりするのかな?
とりあえずポーションを確保してから、様子を見てみよう。
それにしてもゴミが多い。
「あっ、剣も拾って行く必要があるのかな?」
ソラを見る。
ものすごく満足そうに揺れている。
いったいどれだけの剣を食べたのだろう?
ソラの周りにあった剣が、いつの間にか全てなくなっている。
……マジックバッグがもらえてよかった。
そうでなければ大変な事になっていた。
「よし、終了」
バッグ一杯にポーションを詰め込み、新しいマジックバッグを取り出して剣を詰め込んだ。
持って来ておいてよかった。
フレムが待っている場所に戻ると、やはりというか何というか転がった姿のフレム。
やはりフレムも風に飛ばされたようだ。
今日はそれほど強い風でもないのだが。
「フレム、大丈夫?」
「てゅりゅ~」
この鳴き方ってもう少し何とかならないのかな?
ソラ以上に残念感が……。
「ぷ~!」
ちょっとどうかなって思っただけなのに、不満そうにソラが叫ぶ。
何でばれたんだろう?
「フレム、赤いポーション以外に食べたいモノはある?」
「てゅりゅ~」
……分かりません!
仕方ない、フレムの前に並べて様子を見よう。
捨て場に戻り、いろいろな物を集めてくる。
そして、フレムの前に並べる。
木綿の服、竹のカゴ、木のカゴ、剣、盾。
それに弓矢。
後は、壺に食器各種。
お鍋類にビン。
「よし。フレム、何が食べたい?」
…………………………無反応は悲しい。
そしてソラ。
フレムのために持ってきた剣を食べないで、さっきいっぱい食べていたよね?
「いらない?」
動かないってことは、いらないって事かな?
まぁ、ソラも仲間になった最初の頃はポーションだけだったしな。
「とりあえず、今はいらないって事でいいか」
「てゅりゅ~」
返事という事で、納得しておこう。
さて、並べた物を捨て場に戻さないとな。
「さて、戻す物は戻したし、シエルに会いに行こうか」
「ぷっぷ~」
「てゅりゅ~」
……力が抜けるな~。
フレムは、まだ自力で移動する事が出来ない。
なのでバッグに戻すのだが力を入れ過ぎると消えてしまいそうでドキドキする。
そーっとそーっと優しく優しく。
単純な動作なのだが、久々にすると疲れる。
「フレム、移動するから振動は許してね」
捨て場から森の奥を目指す。
魔物や動物、人の気配を探るがこちらに向かって来ているモノはない。
しばらくすると、風にのってシエルの気配を感じた。
その場に止まって、上を見る。
やっぱり。
木の上にいるシエルと目があった。
「シエル、おはよう。ちょっと遅くなってごめんね」
「にゃうん」
ふわっと木から降りるシエル。
そのままごろごろと喉を鳴らして、甘えてくる。
昨日はバタバタしてしまったから、ちゃんとお礼も言っていなかったな。
「シエル、昨日はソラ達を守ってくれてありがとう。あとグルバルを狩ってくれてありがとう」
「にゃうん」
「今、オール町には上位冒険者がいないから町の人達が不安がっていたんだよ。でもシエルがグルバルを狩ってくれたから少し安心できたみたい。本当にありがとう」
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる。
あたまをゆっくりと撫でる。
気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らすシエルは最高に可愛い。
「ぷっぷぷ~」
ソラも機嫌よく周りをピョンピョンと跳ねている。
そう言えば昨日から、1度もソラの機嫌が悪くなっていない。
このまま落ち着いてくれたらいいのだけど。
「あっ、そうだ! シエル、テイムの印が少し変わったの。ソラ、ちょっとこっちに来てくれる?」
「ぷっぷ~」
ピョンと大きく跳ねて腕に飛び込んでくるソラ。
やるかもっと考えていたので、すぐに対処が出来た。
ふ~、よかった。
「ぷっぷぷ~ぷ」
「はぁ~、言ってもこれだけは無駄だね。シエル、印はこれになったんだ」
ソラの印をシエルに見せる。
じっと見つめるシエル。
そして、シエルの額にある印が消えて直ぐに新しい印が現れる。
うん。
何度見ても、常識を覆す行為だよね。
そっと印の場所を撫でる。
いつか本当にテイムしたいな。




