1093話 ドルイドと未来視 2
―ドルイド視点―
ルトの言葉に息を呑む。
「アイビー様が生き延びたから、未来が変わった」とは、どういう意味だ?
「アイビーが生き延びたとは?」
フォロンダ公爵が険しい表情でルトを見る。
「アイビー様の幼い頃の過去を見た者がいないので、彼女の傍に誰がいたのかわかりません。ですが、彼女の生まれた村は王都からかなり遠く、教会の影響が強い場所です。おそらく、教会に利用されてきた占い師がいた筈です」
ルトの説明に、アイビーから聞いた占い師の事を思い出す。
「占い師達は、教会が目を付けそうな子供達を密かに守っていたのです。彼らは契約させられている状態ですから、守れた子供の数は生涯に1人か2人だけだったでしょう。それも完璧に守る事は出来なかった筈です。でも、彼らは彼らなりに、子供達を守った。その1人が、おそらくアイビー様だと思うのです」
ルトの説明に、思わず微笑んでしまう。
アイビーが信じた人は、本当に信じられる人だったんだ。
良かった。
「占い師達と我々は密かに連絡を取っていました。頻繁に連絡を取るとバレるので、2~3年に1~2回。どうしても情報が欲しい時だけです。連絡を取れる占い師は病気で、もう長くない者達です。そうでなければ、こちらの情報が教会に伝わってしまう恐れがありました」
つらそうな表情で話すルトに胸が痛む。
「占い師がアイビー様を助けたのは、偶然だと思います。おそらく自分の最後が近いとわかった時、たまたま教会に狙われそうなアイビー様が目の前にいた。だから占い師はアイビー様を教会から守ったのだと思います」
偶然か。
その偶然がなければ、未来は最悪な事になっていた。
そう考えると、アイビーと占い師が出会ったのは奇跡だな。
「そうか。彼女の行動で……」
フォロンダ公爵の小さな呟きが聞こえ、視線を向ける。
「フォロンダ公爵?」
「んっ? いや、なんでもない」
フォロンダ公爵は首を横に振るとルトを見る。
「アイビーが生き延びた事で未来が変わった事はわかった。教会に捕まっていた占い師達のおかげなんだな」
「はい。彼女達は、命がけで戦っていました。本当に強い方達だと思います」
優しげに微笑むルトを見る。
「ドルイド様」
「はい」
「捨てられた大地へ行くのはアイビー様でなくてもと言いましたが、おそらく彼女が未来を変える存在だと、私は思っています」
「未来を変える存在?」
アイビーが?
「教会の組織が壊滅しても、捨てられた大地から溢れた魔物によって、王都が壊滅する未来を、未来視は見ていました」
ルトの言葉に、フォロンダ公爵と俺は彼女に視線を向ける。
「半壊とかではなく、壊滅?」
「はい。完全に魔物によって人の住める場所ではなくなっていました」
フォロンダ公爵の問いに、ルトは頷く。
「でも、それが少し前に変化しました。変わった未来では、捨てられた大地から魔物は溢れましたが、王都は半壊ですんだのです」
「半壊も凄い被害なんだが」
ルトが嬉しそうな表情で話すと、フォロンダ公爵は眉間に皺を寄せる。
「すみません」
フォロンダ公爵の呟きに、ルトが困った表情で頭を下げる。
「いや、すまない。続けてくれ」
「はい。半壊した王都の未来を見た未来視が、ドルイド様と少女を見たと言い出しました」
俺と少女?
「少女はアイビーですか?」
「はい、そうです。すみません、ずっと『少女』と言っていたので」
半壊した未来の王都に、俺とアイビーか。
冒険者になったのだから、その未来はありえるな。
「未来視が見る未来は、部分的だったり、途切れ途切れですが、意味のない未来は見ません。ずっと意味がわからなくても、あとから意味がわかる事もあります。ですから、未来が変化した理由が2人にあるのか、もしくは半壊ですんだ理由が2人にあるのかと考えました」
なるほど。
「それからしばらくすると、大人になったアイビー様が捨てられた大地へ向かう未来が見えました」
アイビーが受け取った本に書かれていた未来か。
「アイビーの未来が描かれた本は、ルト達がくれたのですか?」
俺の質問にルトは頷く。
「私の仲間です。あの本がアイビー様に渡った日に、王都でお祭りが開かれる未来を見た未来視がいます」
「えっ?」
「ただ、その未来はたった1度だけでした。なので、いつ頃の祭りなのかは不明です」
アイビーが本を受け取った日に見た、未来の王都。
どんな意味があるんだ?
「私はアイビー様の過去を知りたいと思い、未来視にアイビー様の姿を描いてもらい、それを過去視達に渡しました」
ルトの言葉に首を傾げる。
「過去視の中には、絵に描かれた人物を見て眠ると、その人物に関連した過去が見られたりするんです。見られる確率はものすごく低いですけれど」
過去視にそんな力があるのか。
「アイビー様の過去が見られたのは1人だけでした。幼いアイビー様が必死に森を駆け抜ける姿と、森の中でどちらに進むか迷い、そして決めた姿です」
何か意味がある過去なのか?
「私は、その2つの過去が未来を変えた転換点ではないかと考えています」
「それはどうしてだ?」
フォロンダ公爵の問いに、ルトは彼を見る。
「フォロンダ公爵様、先祖にアイビー様のような存在の方がいらっしゃいませんでしたか?」
「えっ?」
アイビーみたいな存在?
まさか、前世の記憶を持った先祖がいたのか?
「あぁ、いた。冒険者ギルドを作った者だ。そして彼女の日記には、不思議な記述が多数見られた。そこから考えると、前世なのかわからないが、不思議な記憶を持っていたと思う」
フォロンダ公爵の説明に、俺は彼に視線を向けた。
「黙っていてすまない」
フォロンダ公爵が俺に向かって頭を下げる。
「いえ……」
アイビーと同じ記憶を持った存在が先祖にいたのか。
だからアイビーに対して優しいのだろうか?
「過去の仲間が残した記録から、フォロンダ公爵の先祖の1人が未来を変える転換点だったと思います。彼女の行動が、未来を変えた可能性があると、昔の未来視も記録に書いていました」
「あの方が、未来を変えた……」
フォロンダ公爵の小さな呟きに視線を向けると、彼は何か考え込んでいた。
「そして私は、未来視と過去視が見たものから、アイビー様の行動で未来が変わるのではないかと考えています」
ルトの説明に何とも言えない気持ちになる。
アイビーは前世の記憶があったから頑張れたと言ったけど、その記憶のせいで未来を変える存在に?
「ルト。不思議な記憶を持つ者は、俺が確認しているだけで21人はいる」
フォロンダ公爵の言葉に、目を見開く。
「そんなにいるんですか?」
「あぁ、教会に捕まり殺された者もいるが、教会から逃げられた者もいる。ルトは、彼らも未来を変える転換点だったと思うのか?」
フォロンダ公爵の問いにルトは首を横に振る。
「わかりません。全員がもしかしたら小さな変化を起こしているのかもしれませんし、もしかしたら不思議な記憶を持つ中の数人だけなのかもしれません。でもフォロンダ公爵の先祖とアイビー様の選んだ道が、未来を変えたのだと私は思っています」
アイビーの選んだ道か。
「ドルイドだけに会うと言ったのは、この話をアイビーに聞かせない為か?」
「はい、そうです」
フォロンダ公爵の問いに、ルトが力強く答える。
「たった1人に未来を背負わせてはいけません。未来は、今を生きている全員が背負うものです。フォロンダ公爵様はそう思いませんか?」
「あぁ、その通りだ。俺はアイビーが捨てられた大地へ行こうとしているのを、止めたいと思っているからな」
フォロンダ公爵を見ると、彼は真剣な表情で俺を見た。
「アイビーはまだ子供だ。捨てられた大地は本当に危険なんだ。子供が、あんな場所に行くものではない」




