1092話 ドルイドと未来視
―ドルイド視点―
フォロンダ公爵に呼ばれ、王城の指定された場所へ行くと、アマリさんが待っていてくれた。
「ドルイド様、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
アマリさんに向かって頭を下げると、彼女は微笑んだ。
「急にお呼び立てしてしまい、申し訳ありません」
「いいえ、大丈夫です。それで、今日はなぜ呼ばれたのでしょうか?」
「それについては主人より話があります。こちらです」
アマリさんの後について行くと、ふと視線を感じた。
「失礼いたしました。あれは後ほど、こちらで対処しておきます」
アマリさんを見ると、笑顔で俺を見た。
「フォロンダ公爵の周辺を調べている者がいるんですか?」
「そうなのです。次から次へと……無駄な事です」
一瞬、アマリさんから殺気を感じた。
「あらっ、失礼いたしました」
アマリさんも無意識だったようで、すぐに殺気を抑えると俺に謝った。
「いえ、最近はお忙しかったですしね」
「えぇ、本当に」
アマリさんは、少し疲れた表情を見せると、ある部屋の前で立ち止まった。
コンコンコン。
「アマリです」
「どうぞ」
フォロンダ公爵の声が聞こえると、アマリさんが部屋の扉を開け、俺を中へ促した。
「失礼いたします」
部屋に入るとフォロンダ公爵がソファから立ち上がった。
「急に呼び出して悪かった」
「いえ、森の後片付けも終わったので大丈夫です」
フォロンダ公爵に挨拶をしながら、彼の前のソファに座っている高齢の女性へ視線を向ける。
「今日は彼女を紹介しようと思ってね」
フォロンダ公爵に促されて彼の隣に座ると、高齢の女性を見た。
彼女は、肩までの長さの白髪で随分と痩せていた。
何より気になったのが、彼女の顔色だ。
病気なのかと不安になるほど青白い。
「こんな姿で失礼いたします」
高齢の女性は、俺を見ると静かに頭を下げた。
「いえ、初めまして。ドルイドと言います」
「私は未来視のルトと言います。フォロンダ公爵様から、ドルイド様が会いたがっていると聞き、1度だけならと思い、今日は会いに来ました」
フォロンダ公爵の手紙を受け取った時に「もしかして」と思ったが、やはり未来視か。
「会う機会を下さりありがとうございます」
ルトに向かって深く頭を下げると、彼女はほんの少し嬉しそうに笑った。
「お聞きになりたい事は、ドルイド様の娘、アイビー様の事ですか?」
ルトの質問に、俺は少し緊張してしまう。
「それもありますが、確認したい事があります」
「なんでしょうか?」
ずっと気になっていた事がある。
「捨てられた大地へ行くのは、アイビーでなくては駄目なのでしょうか?」
アイビーにはスキルとは違う不思議な力があると思う。
テイマーの力だけで、木の魔物やサーペントがあれほど集まるとは思えない。
魔力の色が、関係しているのかもしれないが……。
「アイビー様でなければならない訳ではありません」
「えっ、そうなのか?」
フォロンダ公爵が驚いた表情でルトを見る。
「はい。未来視の中には、別の冒険者たちが捨てられた大地へ行く未来を見た者もいます。ただ、結果は芳しくありません」
「そうか……。別の者の情報をいただけるだろうか?」
フォロンダ公爵の質問に、ルトは彼を見る。
「未来は、ほんの少しの変化でガラリと変わります。私が彼らの情報を渡した結果、未来がどう変わるのかわかりません。良いほうへ転ぶのか、悪いほうへ転ぶのか。それでもかまいませんか?」
ルトの説明を聞いたフォロンダ公爵は、少し悩むが、頷いた。
「どんな変化になるにしても、情報は必要だからな」
「わかりました」
ルトはそう言うと、彼女が肩から提げているマジックバッグから折りたたんだ紙を出して、テーブルに置いた。
ルトは、フォロンダ公爵が選ぶ未来を知っていたのかな?
「ありがとう」
フォロンダ公爵は紙を受け取ると、中を確認して目を見開いた。
「なぜ、彼らが?」
フォロンダ公爵の呟きに、俺とルトは彼に視線を向ける。
「知り合いの冒険者だったのですか?」
俺の質問に、フォロンダ公爵が小さく頷く。
「彼らがどうして捨てられた大地に行ったのかわかるか?」
ルトは、フォロンダ公爵の質問に首を横に振る。
「わかりません。その未来を見た者は、彼らが捨てられた大地へ入るところから見たと言っていましたので」
「そうか」
フォロンダ公爵は紙をもう一度見ると、小さく溜め息を吐いた。
「ドルイド、悪い。話を中断させてしまったな」
「いえ」
俺がルトを見ると、彼女は少し疲れた表情を見せた。
「大丈夫ですか?」
「えっ、あぁ大丈夫です。お気づきだと思いますが、私は病気で、もう長くはありません。だから、フォロンダ公爵様やドルイド様にお会いする勇気が湧いたのです」
やはり病気だったのか。
しかも先が……。
「未来視や過去視は、これからも表に姿を見せる事はないでしょう。人は、もっと、もっとと求めるものです。そして、自分の求める結果を得るために、非道な事も出来てしまう。未来視達は、見たい未来を見る事は出来ません。そう言っても、彼らは『出来る筈だ』と力で持って従わせようとします。これは過去ではなく未来でも同じです」
「そういう未来を見た者が?」
フォロンダ公爵の質問にルトは悲しげに頷く。
「そうか」
フォロンダ公爵が少し肩を落とす。
「ドルイド様」
「はい」
「我々は、教会からずっと隠れていました。そして、彼らを倒す方法がないか、未来視達の見た未来を繋ぎ合わせ、模索してきました。未来を変えようと動いた事もありましたが、未来を変える事は出来なかったです」
隠れていただけではなかったのだな。
「10年前はどの未来も、悲惨な未来でした」
「それは教会側が勝った未来か?」
フォロンダ公爵が少し険しい表情をする。
「はい。王を守っていた存在が力尽き、教会側の組織が勝った未来です」
教会が勝つ未来か、考えただけでも恐ろしい未来だな。
「ですが、ある日、1人の未来視が、全く別の未来を見たのです」
「別の未来?」
俺が聞き返すと、ルトは頷く。
「はい。教会側の組織が敗れ、新しい王が誕生する未来です。我々は何が起こったのか、全くわかりませんでした。ですが、その1人に続くように、未来視達は新しい未来を見始めました。ただ、未来視達が見た未来を共有すると、全て少しずつ違った未来だったのです」
少しずつ違った未来?
それは、絶えず変化が起こっていたという事か?
「ある日、2人の未来視が同時に同じ未来を見ました。ある少女が、ドルイド様と笑い合っている姿です」
アイビーの事か?
「なぜ、その少女の未来が見えたのか、その時は全くわかりませんでした」
「見えたのは、そこだけなのか?」
「そうです。2人が笑い合っている姿だけです。前後がないので、意味がわかりませんでした」
フォロンダ公爵が不思議そうに聞くと、ルトは申し訳なさそうに答える。
未来視の見る未来は、意味を知るのも大変なのだな。
「でも、教会側の組織が潰れ、しばらくすると、過去視により、その少女が教会の最後の鍵と呼ばれる存在で、彼女の行動で教会の思惑が潰えたとわかりました」
「あぁ、アイビーの洗脳が解けたからな」
「いえ、そうではありません」
フォロンダ公爵の呟きにルトは首を横に振る。
「アイビー様が生き延びたから、未来が変わったのです」




