1039話 ソラとソルの反応
ラットルアさんとヌーガさんは準備を終えると、トースの巣がある傍の木を登り始める。
セイゼルクさんとお父さんは、2人が登っている木から少し離れた場所で魔物に警戒し、シファルさんと私は、トースが巣に戻って来た時のために、巣が見える位置で矢を構えた。
「シファルさん」
「どうした?」
「巣の駆除ってどうやるんですか?」
「力で壊すんだ」
シファルさんを見て首を傾げる。
「力で壊す?」
「そう。トースの巣は硬いんだよ。弦の素材になる糸は柔軟で綺麗だけど、その糸で作られた巣は見た目以上にとても硬い。だから、素材になる糸などを回収した後は、力ずくで壊すしかないんだ」
シファルさんの説明を聞きながらトースの巣を見る。
枝や葉っぱで作られている巣は一見簡単に壊せそうなのに、実際はとても硬いのか。
不思議だな。
「シファル。いい弦が作れそうだぞ」
ラットルアさんが回収した糸を見せると、シファルさんが嬉しそうに頷いた。
「全て回収してくれ」
「もちろんだ」
ラットルアさん達が巣から糸を回収していると、こちらにものすごい勢いで近付いてくる魔物の気配を感じた。
「魔物が来たな。木をつたって近付いて来るからトースかな?」
シファルさんが、気配がする方に向かって矢を構える。
私も同じように矢を構え、深く息を吸い込んだ。
「にゃうん?」
「シエルは休憩していていいぞ。俺達も仕事をしないと駄目だからな」
「にゃうん」
シエルはシファルさんに向かって一声鳴くと、木にもたれかかるように座った。
ガサガサガサ。
巣から少し離れた場所の葉が大きく揺れると、黒と深緑の毛を持つ手の長い魔物が姿を見せた。
「トースだ」
シファルさんの声が聞こえたのか、トースの視線が私達に向く。
「グルルルル」
トースの唸るような鳴き声に、少し緊張する。
バキバキバキ。
上空から聞こえた音にチラッと視線を向けると、トースの巣が壊れていくのが見えた。
「グル」
トースの鳴き声に慌てて視線を戻すと、トースの後ろ姿が見えた。
「去ったみたいだな」
「巣を壊したから怒って襲って来るかと思った」
「トースは好戦的な魔物ではないから、人を襲う事はあまりないな。ただ、もし襲ってきた場合は注意が必要だ。動きがとても速く、長い手で木々の間を素早く移動しながら攻撃してくるんだよ。こっちは、木が邪魔で矢がなかなか当たらなかったりするのに。あぁそれと、仲間が近くにいたら加勢して来るから、それも気を付けないといけないな」
「去ってくれるのが一番いいって事だね」
「うん」
シファルさんが構えを解くと、上空を見る。
私もそれにつられて視線を向ける。
「終わったぞ~」
「お疲れさま」
ヌーガさんの報告にセイゼルクさんが片手を上げる。
ラットルアさんとヌーガさんが木から下りてくると、少し休憩してから果樹園の見回りを再開した。
「にゃうん」
「シエル、また見つけたの?」
尻尾を振りながら森の奥から戻って来たシエルの頭を撫でる。
「お手柄だな、シエル。案内を頼むな」
セイゼルクさんがシエルの頭を撫でると、尻尾が少し激しく揺れた。
次に見つけた巣も駆除し、また見回りを再開する。
最終的に、果樹園を一周し終える頃には、4つの巣を駆除することができた。
「まさか1回の見回りで、巣を4つも見つけるとはな」
セイゼルクさんが笑ってシエルを見る。
「凄い事なの?」
「あぁ、見つけた巣はどれも見つけにくい場所だっただろう?」
セイゼルクさんの言葉に頷く。
確かに、巣の場所を教えてもらっても枝や葉に遮られて見えなかったり、周りと同化していて分からなかったりした。
「普通だったら、数日かけてようやく見つけられる数だよ」
シファルさんの話を聞きながら、皆が入っているバッグを撫でた。
今日の夕飯は、少し多めにポーションやマジックアイテムを用意しよう。
「お客さんかな?」
果樹園に戻ると、オトガさんの執務室がある建物の前に、冒険者の格好をした男性が3人と、異なる服装の男性が1人いた。
「すみませんが、収穫した果物は取引先が決まっています。だから無理です」
果樹園で採れた果物の取引を頼みに来た商人なのかな?
オトガさんと話している男性を見る。
黒に近い青い少し長めの髪で、少し背が低い。
「そうですか? いい取引が出来ると思ったのですが。残念です」
「申し訳ありません」
オトガさんは男性に向かって頭を下げた。
「分かりました。でも、もし余裕があれば、私の事を思い出して下さい。そうだ、これをどうぞ。魔物除けです。ぜひ使ってみて下さい」
「えっ? 幾らなんですか?」
驚いた表情で男性を見るオトガさん。
「いえ、代金はいりません」
「そんな、貰えませんよ」
慌てた様子で首を横に振るオトガさんに、男性は穏やかに微笑んだ。
「ただし、使った感想を教えて欲しいんです」
「感想をですか?」
男性の説明に首を傾げるオトガさん。
「実はこの魔物除け。私の店で売り出す予定の物なんです。それで実際に使った方の感想を頂ければと思っていまして」
「あぁ、なるほど」
オトガさんは魔物除けを手に取り、匂いをかいだり作りを確かめたりした。
「特定の魔物向けではないですね」
「はい。多くの魔物に効くように作っています」
「分かりました。果物の取引は出来ませんでしたが、使ってみた感想ぐらいでしたらお手伝い出来ます」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑う男性に、オトガさんも笑う。
「では、また数日後に感想を聞きに来ます」
「えっ。感想を書いた手紙を送りますが」
不思議そうな表情で男性を見るオトガさん。
「そうですか? では、よろしくお願いします。王都の大通りに「フォード」という名前の店を構えています。そこに手紙を届けて下さい」
話しをしている彼等の傍を静かに通り過ぎる。
ぷるぷるぷる。
えっ?
ソラ達が入っているバッグに手を当てると、しっかりとした振動が伝わってきた。
「分かりました。『フォード』という店ですね」
「はい、そうです」
ぷるぷるぷる。
バッグに当てていた手のひらに、より激しい振動が伝わってくる。
「お父さん」
傍にいるお父さんの袖を引っ張る。
「んっ?」
小声でお父さんを呼んだので、お父さんも小声で答えてくれた。
「どうした?」
お父さんが私を見ると、私はソラ達の入っているバッグに視線を向ける。
そして、お父さんに視線を戻した。
「そうか」
お父さんは私の意図に気付き、セイゼルクさんを見た。
「セイゼルク。この依頼が終わったら、彼の店に行ってみないか? 気になるから」
不審な表情でお父さんを見るセイゼルクさん。
お父さんは、彼を見てニコリと笑みを作る。
「あぁ、そうだな」
お父さんの作った笑みを見て、セイゼルクさんは少し嫌そうな表情を浮かべた。
「おかえりなさい。遅かったですが、何か問題でもありましたか?」
オトガさんが心配そうに私達を見る。
「大丈夫です。問題ないですよ」
セイゼルクさんがオトガさんに答えると、足早に宿泊施設に入っていったので私もあとに続く。
宿泊施設に入ると、セイゼルクさんがお父さんを見る。
「奴を知っているのか?」
「いや、俺は知らない。でもソラが反応したみたいだ」
「それなら間違いないな」
シファルさんが私の頭を撫でる。
「俺の部屋に集まろう」
セイゼルクさんの言葉に、全員で彼の部屋に行く。
「さすがにこの人数だと狭いな」
部屋に6人が入ると、確かにちょっと狭く感じる。
でも、話し合うにはちょうどいい広さかもしれない。
ソラ達の入っているバッグを開けると、ソラ達が飛び出してきた。
「ソラ」
お父さんがソラを抱き上げ、テーブルに載せる。
「ぷっぷ?」
「話をしていた男性に反応したのか?」
「ぷっぷぷ~」
「あれは危険なんだな」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
ソラの返事のあと、なぜかソルも鳴く。
「ソル?」
お父さんがソルをソラの隣に載せる。
「ソルもさっきの奴が危険だと思うのか?」
「……」
お父さんの質問に無言になるソル。
「あれ? さっきは鳴いたのに、今は鳴かないな」
お父さんはソルを見て首を傾げた。
「あれは危険」
「ぺふっ」
セイゼルクさんの呟きに反応するソル。
ソルは男性ではなく、「あれ」に反応しているのかもしれない。
でもあれって何?
もしかして……魔物除け?
「ソル。男性の持っていた魔物除けが危険だと言っているの?」
「ぺふっ」
私の質問に嬉しそうに揺れるソル。
正解だ。
でも、あの魔物除けには一体何があるんだろう?




