運命の出会いは森の中で
まだ自分でもどう書くべきか掴めてません……。
『マルオース&コレス』と『アキエムの森』で『戦う』
どう見ても男同士の友情が芽生えるようなイベントのように思えるのだが、これは『恋のどきどきイベントスロット』とやらの結果である。
マルオースはこの国の王子、コレスは将軍の息子。
そんな2人と魔物の出没するアキエムの森で戦うというのが、たぶん『恋のどきどきイベント』ということなのだろうが――。
正直、恋のイベントって感じはしないよねー。
戦って勝てば好感度が上がるとかなのだろうか?
まぁ『乙女ゲーム』の世界的に序盤なのだから、最初は恋というよりも友情から始まるのかもしれない。
まずはお友達からってヤツですな。
で、今現在なのだが――春の『恋のどきどきイベントスロット』からは、既に14日が経過していた。
その間に俺は自家の領地を離れ、王都レイガミルへと生活の場を移している。
『王立レインボー学園』に、入学するためだ。
王立レインボー学園は、国内の貴族と平民の中でも特に優秀な者が教育を受けるための、高等教育機関である。
その年に13歳となる者に入学資格があり、3年間在籍して様々なことを学ぶらしい。
元の世界の中学校の年代が集まる学園だが、学ぶ内容に関してはナメてはいけない。
授業の内容としては領地の運営に関してとか、やや専門的な魔法や魔道具の理論だったりするので、この年代としてはかなりの基礎知識が必要不可欠なのだ。
付いて行けるかなー。
俺ってば学校の勉強はそこそこできたつもりなほうだけど、異世界だもんなー。
『悪役令嬢』としては、やっぱり学年トップクラスに入らないとマズいんだろうなー。
――よし、落ちこぼれないように頑張ろう。
学園に入学するのは4月になってからなのだが、いろいろと準備もあるので俺――エリスは早めにこの王都レイガミルに来ている。
住む場所は寮とかではなく普通に王都の屋敷から通学なので、引っ越しとかは無い。
ちなみに王都に来ているのは、俺だけでは無い。
父母と弟妹も一緒である。
この時期は学園への入学のついでとばかりに、貴族たちの社交の時期にもなっているのだ。
今年は7歳になる妹の『アリス』が社交界デビューなので、エリスの学園入学と重なり我が家は少々忙しいことになっている。
もっとも本当に忙しいのは、王都の屋敷の家宰であるセバスを筆頭に、主に使用人たちではあるが。
――まぁ、そんな訳で。
俺は今、入学前の準備の1つとしてレベル上げに向かっている。
王立レインボー学園に入学する前に、基礎的な身体能力を上げておこうというのだ。
目的地は『アキエムの森』
そう、例の『マルオース&コレス』と『戦う』というイベントの場所だ。
何でも入学前のレベル上げは、そこで行うのが通例らしい。
何やらこの時期はゴブリンとオークが増える時期でもあるので、駆除も兼ねているのだそうだ。
ちなみにこの世界には、冒険者制度というものは無い。
これはたぶん『乙女ゲーム』としての仕様か、もしくは大人しく『悪役令嬢』をやれという女神さまの配慮だろう。
――つまらぬ。
もちろんそんな事情があろうと無かろうと、レベル上げのために単独で森に入り魔物を狩る、などということはしない――つーか、させてもらえない。
何やら我がハイエロー家の護衛の騎士10人にアシストされ、自分は止めを刺すだけという接待プレイでのレベル上げをせねばならんらしいのだ。
さすがはハイエロー辺境侯爵家のお嬢様、大事にされてますなー。
ぶっちゃけ護衛とか邪魔だけど。
ちなみに一緒にレベル上げをする、同行者もいたりする。
今年一緒にレインボー学園へと入学する『アン・パンコロネ』と『ガーリ・ヒヨロイド』の2人だ。
この2人はハイエロー家の派閥に属する貴族の娘であり、いわゆるエリスの『取り巻き令嬢』である。
アンの家である『パンコロネ子爵家』は遠い昔だが、我がハイエロー家に恩を受けたのだそうだ。
当時、砂糖芋の大規模生産に成功したのはいいが、他の貴族にせっかく開発した土地を奪われそうになったのを、ハイエロー家の力で強引に排除したらしい。
それ以来『パンコロネ子爵家』は、ハイエロー辺境侯爵家を盟主と仰いでいるとのこと。
ガーリの家である『ヒヨロイド伯爵家』も同様に、我がハイエロー家に恩があるらしい。
これは貴族同士の争いで軍事的な衝突になり、敗北しそうになった時にハイエロー家が介入して逆転勝利を収めさせたのだそうだ。
それ以来『ヒヨロイド伯爵家』も、ハイエロー家の熱心な支持者となっている。
そんな2人と一緒に『アキエムの森』へと向かっている車内なのだが、馬車の中での会話がイマイチ盛り上がらない。
そりゃねー、無理ってもんでしょ。
年齢的に中学生な女の子たちと何を話せばいいのかなんて、おじさん分かんないもん。
一応、向こうが気を使っていろんな話題を振ってくれるんだけども、中身がおっさんなのでどうにも的からズレた受け答えしかできぬ。
なのでさっきから馬車内の空気が微妙だ。
『アキエムの森』まで、徒歩と変わらない速度の馬車移動で3時間……。
早く着かないもんかね……。
つーか、徒歩で3時間の場所に魔物の多い森があるとか、王都って街としてけっこう危なくね?
そんなことを考えつつ『まぁ、乙女ゲームの設定に文句言ってもしゃーないよねー』と適当な結論が出たところで、ようやく目的地へ。
12歳の女の子なのに、つい中身の俺の癖で『どっこいしょ』と口にしながら馬車を降りる。
ここが『アキエムの森』か……。
森にしては、それほど木々が密集していないな。
あと、なにげに春の山菜がたくさんある――――あー、すげー採取がしたい!
だが我慢だ!
今の俺は『悪役令嬢』、貧乏臭く採取などはしてはならん立場なのだ!
とまぁそんなことを考えている間に、レベル上げ装備をお付きのメイドさんに着せられた。
ちなみにメイドさんは、6人ほど馬車に乗って同行している。
姿見に映し出されたのは、傷1つ無くピカピカで軽い、パステルイエローで統一されたお洒落な金属鎧である。
縦ロールの髪形に合わせて膨らんだ顔出しの兜が、なにげに嵩張っていて邪魔くさい。
「さすがエリス様、お似合いですわ」
「鎧姿も凛々しいですわ!」
すかさず褒めてきたのは、取り巻き令嬢の『アン』と『ガーリ』
なかなかそつの無いタイミングだ。
「あなたがたも、鎧姿がお似合いですわよ」
と、俺も褒め返す。
――実はこのセリフ、変換されている。
イヤね、俺としては『君たちも、鎧が似合ってるよ』と言っているつもりなのだが、勝手にエリスの口調となって口から出てくるのだ。
他にも『俺のことは、今まで通りエリスと呼んでくれ』と家族に言ったつもりが、『アタクシのことは、今まで通りエリスと呼んでくださいまし』と変換されたり――。
おやつに何を食べたいか聞かれ『ポテチが食いたい』と言ったつもりが、『ポテトチップスを口にしたい気分ですわ』と変換されたりするのだ。
まぁ、おかげで話し方に関しては余計な神経を使わずに済むのだが、これはこれで違和感が半端ない。
どうにもならなそうなので、慣れるしか無いが。
そんなことを考えながら、『アン』と『ガーリ』の鎧姿を眺める。
行き過ぎたポッチャリ体系の『アン』が身に着けている鎧は、パステルブルーの金属鎧だ。
さほど重そうな鎧には見えないのだが、さっきからアンはエッチラオッチラと弓を引く動作を練習している。
この子、絶対に運動不足だよね。
顔立ちはこの体型でもそれなりに可愛い系なので、ダイエットすればけっこう可愛いくなるのではないだろうか?
もう1人の背が高くかなり細身の『ガーリ』の身に着けている鎧は、パステルグリーンの金属鎧。
こちらも重そうに、ガーリがヨタヨタとやや前のめりの姿勢で槍の練習をしている。
こっちも運動不足なのは間違いない。
釣り目だが美人系の顔立ちなので、もう少し体幹を鍛えて姿勢と歩き方を矯正すれば、モデルっぽくなるのではなかろうか?
これはアレだな。
俺――エリスも体質的に弱いので、3人で少し身体を鍛えたりしてみるといいかもしれない。
レベル上げが終わったら、2人と相談してみようかな?
さて、そろそろ出発のようだ。
いざレベル上げに、アキエムの森の中へと参ろう!
は? メイドさんたちも付いてくるの?
お世話するのがお仕事だから?
えーと……ご苦労様です。
――――
― 森の中 ―
「次はこちらへ行きましょう、ゴブリンの気配がしますわ」
アキエムの森に入ってほどなく、レベル上げの狩りは俺の主導で進めることとなっていた。
最初は我がハイエロー家の騎士たちの主導で始めたのだが、どうにも効率が悪いので俺が我慢できなくなってしまったのである。
俺の【気配察知】のスキルにガンガン獲物が引っかかっているのに、あっちこっちウロウロしながら痕跡を辿るとか正直やってられん。
悪役令嬢Tueeeは自粛するつもりだったが、騎士たちにお膳立てされてのレベル上げがあまりにも効率が悪すぎるので、俺が勝手に主導権を握り、狩りのほうも既にサーチ&デストロイとなっている。
エリスの獲物――長さ5mほどの『鞭』で、俺はさっきから遭遇するなりゴブリンやオークの首を叩き落しているのだ。
本当はここまで無双するつもりは無かったのだが、どうやらこの世界の魔物は前に行った異世界よりも総じて弱いらしく、簡単にポコポコ倒せてしまっている。
おかげで目的である、レベル上げも順調だ。
アンとガーリも『盟約の水晶』というアイテムでエリスと経験値を分配しているので、それぞれ獲得経験値の25%を得て順調にレベルが上がっている。
ちなみに、ややエリスの経験値の分配比率が多くレベルも多く上がっているのは、もちろん家の力関係が関係している。
あ、ついでにこの世界の諸々の単位について説明しておくと――距離は『m』重さは『g』など、相変わらずとっても分かりやすい親切設計な世界となっている。
ただ通貨の単位だけが『円』ではなく『G(グレース)』という単位なのだ。
どうせなら、通貨も円で統一しろよと言いたい。
――そのほうが楽だし。
「エリス様、そろそろご休憩をなされましては?」
声を掛けてきたのは、今回のレベル上げの責任者を任されている『クレシア』だ。
クレシアは若くしてハイエロー家で一軍を率いるほどの将なのだが、女性ということもあり今回のエリスのレベル上げの責任者として騎士を率いている。
正直今回はあんまし役には立ってないが、そもそも魔物を狩るのは専門外なのでそこは仕方がないだろう。
俺の【真・腹時計】のスキルによるとまだ午前11時なので、昼の休憩には少し早いのではと思ったのだが――クレシアが目くばせする先には、アンとガーリが息を切らせて歩いていた。
本当にこいつら運動不足だなー。
まぁ仕方ないのか。
そもそも貴族の御令嬢がレベル上げのためとはいえ魔物狩りとか、普段は絶対にやらんもんなー。
だから接待プレイのための騎士が、くっついてきているわけだし。
「そうですわね。 少し予定より早いですが、休憩にしましょう」
俺がそう言うと、メイドさんたちが『ようやく自分たちの出番だ』とばかりに、色々と支度を始めた。
良く見ると、なにげにメイドさんたちも少し疲れた顔をしている。
ごめんね、気づかんくて。
俺が森の中を歩きなれてるんで、つい……。
あ、マズいな。
エリスの身体は森を歩きなれていないんだった――ひょっとしたら、俺の気づかんうちに足にマメとかできているかも?
メイドさんたちに鎧を外してもらい、足の裏をチェック。
良かった、マメとかはできていなかった。
気を付けないとなー。
女の子の肌に傷をつけるところだった、危ない危ない。
つーか、このままだと俺が自由に森で採取とかできないから、エリスの身体はやはり少し鍛えるべきだろう。
まぁ少々怪我をしたところで、俺の回復魔法ですぐに治せたりするのだけれどさ……。
そこは自重というヤツですよ――若干今更感もあるけど。
休憩しながら、少し早いお昼ご飯を食べる。
メイドさんが広げてくれたのは、色とりどりの美味しそうなサンドイッチ。
防水加工されたスベスベの大きな布に座り、しばしくつろぐ。
木々の間から見える青空に、時々雲が流れている――のどかだ。
周辺のゴブリンやオークは俺たちが乱獲してしまったので、魔物の気配は近くには無い。
魔物の気配は近くに無いのだけれど、人の気配はけっこうある。
あ、悪いことしちゃったかな?
その辺をウロついている人の気配も、たぶんレベル上げに来ている連中だろう。
俺たちが乱獲してしまったせいで、ここいらには獲物がいなくなってしまった。
なんかごめんね、つい自分たちのレベル上げに夢中になってたもんでさ。
「エリス様は、お強いのですね!」
「感動いたしましたわ!」
食事を摂ってしばらく休んだら体力が回復してきたのか、アンとガーリが先ほどまでの俺の活躍を、興奮した様子で称賛してきた。
目の前でゴブリンやオークの首が転がるのを見せられ続けたというのに、この子たちはそっちのほうは平気なようだ。
キミタチ、なにげに結構メンタル強いね。
「実は先日の病のおり女神ヨミセン様が枕元に現れ、使徒様のお力をアタクシに授けて下さったんですの。 ですから先ほどからの武勇は、そのおかげなのですわ」
「女神ヨミセン様が!?」
「まぁ!? 使徒様ですか!?」
実は『女神ヨミセンが現れ、使徒をエリスの体内に入れた』、ということは秘密にはしていない。
あの場には家族だけではなく医者や使用人もいたし、何より俺がやらかすことを考慮に入れた場合、下手に隠しておくよりも事実が広まるほうがまだ良いと判断したからだ。
内緒にしてあるのは、俺がエリスの身体の主導権を持っていることだけにしてある。
さすがにそこだけは黙っていないと、物語が成り立たんので。
その後やたらと取り巻き令嬢たちに質問攻めにされ、『アタクシはその時に生死の境を彷徨っておりましたので、良くは覚えていないのです』などと適当にあしらっていると、ソロゾロと大人数を引き連れてそいつらはやって来た。
「おう! 誰かと思って来てみりゃ、ハイエロー家のエリス嬢じゃねぇか!」
何だ? エリスの知り合いか? と振り向いてみると――。
黒目黒髪で短髪の、黒い鎧を身に着けた同年代にしてはガタイのいい男の子――こいつはエリスの知識にあるヤツだ。
アッカールド王国の将軍の長子、『コレス・ゼクロード』だったな。
ふむ、なるほど。
『恋のどきどきイベントスロット』で出てきた『マルオース&コレス』の、コレスはこいつか。
しかしやってきたのは総勢50人に近い大人数、将軍の息子とはいえこの人数はさすがに多すぎる。
ということは、ひょっとして――。
視線を動かして、これもエリスの知識にある相手を探す。
――いた!
視線の先にはクセのある赤毛に赤い瞳、まだあどけなさを残してはいるが端正な顔立ちの細身の男の子がいた。
アッカールド王国の第1王子、『マルオース・アッカールド』である。
その時、胸がドキッとときめいた。
あれ? なして?――こんな男の子にときめくとか……。
――はっ! まさか俺ってば、いつの間にかショタ好きに!?
落ち着け! 落ち着け俺!
軽く深呼吸。
うむ、少し落ち着いた。
落ち着いたらどうやら俺の胸がときめいたのは、気のせいだということに気付いた。
イヤ、全くの気のせいでは無い。
ときめいているのは、俺の中のエリスだったのだ。
どうやら俺の中のエリスのときめきが、俺に伝わっていたらしい。
ほほう……エリスはマルオースくんのことが――ふむふむ、なるほどねー。
よし、そういうことなら俺に任せなさい。
ぶっちゃけ恋愛音痴のおっさんな俺だけれども、男心ならエリスよりも分かる。
肉体に憑依してるのも何かの縁だ。
この俺がマルオースくんがエリスのことを好きになるように、頑張ってやろうではないか!
俺がエリスの中から出ていくまでに、2人をくっつけてあげよう!
自分自身の恋愛で無いのならば、上手く行かせる自信はあるぞ!
――なんか自分で言ってて、ちと虚しい……。
さて、そうと決まれば――。
まずは無難にご挨拶からだ。
「これはマルオース様にコレス殿、奇遇でございますわ。 本日はごきげんよろしゅう」
「機嫌は良くない――むしろ悪いぞ」
無難に挨拶をしたつもりだが、どうやら王子様のご機嫌はよろしくなかったらしい。
ちなみにマルオースくんもコレスも、エリスと社交界で何度も顔を合わせている。
なのでエリスとは、友達とまではいかないがかなりの顔見知りである。
「何かあったのでございますか?」
「あー、なんつーかさ――さっきから全然ゴブリンやオークに出くわさねーんだよ。 おかげで朝から森の中を歩くばっかで、全然レベルが上がんねーのさ」
と、コレスが説明してくれた。
なるほど、それでイラついて機嫌が悪いと……。
うむ、それってたぶん俺のせいだな。
ごめんね、この辺の獲物を根こそぎにして。
そうだ! いいこと考えた!
「差し出がましいご提案かもしれませんが、午後はアタクシたちとご一緒にレベル上げを致しません? 実はアタクシたち今日は運がよろしくて、かなりの数のゴブリンとオークと遭遇しましたの。 よろしければ、獲物をおすそ分けしてさしあげましてよ?」
ありゃ? 俺としてはもう少し友好的に話したつもりだったのだが、なんかちょっと上から目線のエリス語に変換されているぞ?
しかも王子様に対して……。
エリスってば、マルオースくんのこと好きなんでなかったの?
ツンデレなの?
「うーむ……」
「そうさせてもらおうぜマルオ! オレたち今日は全然ツイてねーし、それにこのまま1コもレベルを上げられねーままじゃこの森に来た意味がねーしよ」
面白く無さそうなマルオースくんに、さっきからいかにも言動がやんちゃ坊主なコレスが、こちらの提案に乗ろうと説得しようとしている。
つーか『マルオ』って呼んでるんだね、王子様のこと――仲がいいんだろうな、この2人。
「いいだろう、但し条件がある。 レベル上げの戦闘は遭遇する魔物の種類に関わらず、僕らと君たちが同時にではなく交代で行うこと。 それと要請の無い限り、互いに手出しはせぬこと――それでどうだ?」
どうやらマルオースくんも同行を納得してくれたようだが――固い……固いよマルオースくん。
真面目なのか気を許していないせいなのか、エリスに対する態度がやたら固い。
こりゃエリスとマルオースくんをくっつける計画は、前途多難かな?
「構いませんわ。 ならば礼儀として、先手はお譲りいたしますわね」
まぁいいさ、同行してくれるというのならこの辺の余所余所しい雰囲気も、少しは和らげることもできるかもしれない。
とりあえずは経験値を譲って、マルオースくんの機嫌を取るとしよう。
「良かろう、そうと決まれば動くぞ。 早く支度をしろ」
まだ休憩中の俺たちに向かって、マルオースくんが早く行くぞと急かし始めた。
「ちょ、待てよマルオ! もう昼だし、オレらも休憩しとこうぜ!」
「しかしな、私たちはまだ……」
「腹が減っては戦はできぬ――休憩して体調を万全にするのも、戦いに勝つには必要なことだぜ」
「ふむ、そうか――分かった、コレスが言うならそうなのだろう。 なら30分休憩して、食事も済ませてしまうとしよう」
ふむ……コレスは脳筋っぽい感じに見えるが、案外バカでは無いのだな。
休憩の大事さを理解しているとは、なかなか見どころのあるヤツだ。
こいつは将来、いい冒険者になるかもしれない。
――まぁ、この世界には冒険者なんて職業なんぞ無いのだが。
マルオースくんとコレスたち一行も休憩タイムとなったので、俺たちもまったりと茶を飲んで過ごす。
茶と言っても、まぁ紅茶なんだが。
緑茶ってこの世界にあんのかな?
試しにエリスのお父様におねだりしてみっかな?
ズズズーっとはしたない音を立てて紅茶をすすりつつ、俺はまったりしている。
俺はまったりしているのだが、アンとガーリの取り巻き令嬢コンビがさっきからソワソワと落ち着かない。
まぁ、王子様と一緒にいるんだもんね。
そりゃー緊張するか。
つーか、話しかけようとするのは止めなさい。
絶対ウザがられるから。
…………
休憩も終わったので、身支度をして午後のレベル上げに出発。
エリスの好きなマルオースくんの前で無双するのは、男の子のプライドをへし折りそうなので自重しておくことにした。
我がハイエロー家の護衛の将である『クレシア』には既に、午後からは接待プレイでよろしくと伝えてある。
さて、先手はマルオースくんとコレスに譲るんだったよね……。
ふむ、おあつらえ向きに良さげな魔物の気配が近づいてきているから、アレにするか。
俺の知らん気配だが、そんなに強い気配では無いので経験値稼ぎには丁度いいだろう。
「ではまず、獲物を求めてあちらに向かいましょう。 お任せ下さいな――アタクシの勘は、今日は冴えに冴えているのです!」
などと適当なことを言って、俺はレベル上げの団体さんを率いて良さげな気配へと向かった。
――歩くこと3分、獲物が見えてきた。
あれは――。
「サイクロプスだ!」
「なんでこんなところに!」
「総員! マルオース様をお守りしろ!」
現れたのは身長5mサイズのサイクロプス、ひとつ目の巨人である。
つーか、皆さん慎重だね、こんなんこの人数なら楽勝だと思うんだが?
あぁそうか。
万が一にも、マルオースくんに危害が及ばないようにしなければならんのか。
面倒くさいな。
つーか、向こうがこっちに気づいて駆け寄ってきたぞ。
守るより攻めた方が安全じゃないのか?
「こっちへ来たぞ!」
「総員、戦闘準備!」
「魔法を放て!」
護衛の騎士たちが、わらわらとサイクロプスへ立ち向かい始めた。
緊急事態っぽい割には素早い対応である。
「マルオース様はお下がりください!」
「絶対に前には出るなよ! マルオ!」
「魔法も決して使わぬよう、お願いします!」
微妙に『行こうかどうしようか』的な動きをしていたマルオースくんに、騎士さんたちとコレスが出るなとクギを刺してきた。
そりゃそうだよねー、王子様に万が一のことがあったらマズいもんねー。
賑やかにサイクロプスと戦っている騎士さんたち。
もちろん、ウチの騎士さんたちも一緒だ。
俺とマルオースくんと取り巻き令嬢たちは、当然ながら安全圏である蚊帳の外で見学である。
つーかコレスのヤツ、普通に騎士の人らと遜色ない動きで戦ってるな。
将軍の息子ということで鍛えられているのかもしれないが、まだ12歳の男の子が大したもんだ。
――さて、守られているというのは悪くは無いが、ぶっちゃけ暇である。
暇なので騎士さんたちとサイクロプスの戦いを眺めていたのだが、どうにもまどろっこしくて見ていられない。
ついこないだまで冒険者だった俺としては、昔取った杵柄が疼いて仕方が無かったりする。
もうちょっとこうさ、狩りようがあるだろうに……。
デカいとはいえ人型の魔物なんだから、どう対処すりゃいいか騎士なら分かるだろうに。
その手のデカブツは、まず足を止めるんだってば!
だからひとつ目だからって、魔法とか矢でむやみに目を狙うんじゃねーよ!
――やべぇ、仕切りたい。
戦闘に参加すると悪目立ちして、俺が憑依しているエリスの恋愛フラグをへし折ってしまいそうなので、そこは我慢するとして――。
さて、何かサイクロプス狩りに口出しできる、上手い手は無いものかなー。
10000文字は超えないぞ!




