勇者の物語
気が付くと、俺は自宅のPCの前にパンツ1丁の姿で胡坐をかいていた。
日付と時刻を確認する。
間違いない――これは俺が異世界に飛ばされた日時だ。
――あぁ、本当に戻ってきたんだな。
向こうの世界で死んだ時のことを思い出す。
……うむ、やっちまったよなー。
後先考えずに【敵意引受】のスキルを使ってしまったおかげで、地獄土竜の爪を避けられなかった。
ぶっちゃけ事故みたいなもんだ。
――事故死エンドか。
昔のプロレス漫画の最終回みたいだな。
でもいいさ。
アルスくんを助けられたんだし。
やっちまったけど、後悔はしていない。
つーか、異世界の出来事って現実だったんだよな?
さっきまであっちの世界にいたはずなのに、いざ戻ってきたら夢だったような気がする。
でも、夢じゃ無かったんだよなー。
俺が今履いてるパンツ、異世界で履いていたヤツだし。
これはプラッドシルクモスという、動物の生き血を吸って育つ蛾の幼虫の吐き出す糸で作られたパンツ。
ものすごく履き心地が良くてすごく丈夫な、ダメージ吸収効果のあるパンツなのだ。
ちなみにこの真っ赤なパンツは、アルスくんに還暦のお祝いにとプレゼントされたものだ。
思い出の品ってヤツだね。
『異世界にも還暦はあるのか?』という野暮なツッコミはするな。
実際あるのだから仕方が無い。
そんな訳で……アルスくんの代わりに死んだことに関しては、後悔は全くしてはいないんだけど――。
やっちまったよなー。
――――
― 自宅・夜 ―
異世界から戻ってきて、2日が過ぎた。
その間、俺が何をしていたかと言うと――。
特に何もしていない。
なんか色々と懐かしくてさ。
そこいらを散歩して、ただただ風景を眺めて過ごしていたのだ。
でも今日からは違うぞ。
俺は今日から異世界での体験を元に、執筆活動を始めるのだ!
――てな訳で。
――PC起動だ!
まず『小説家になるぞ』のホーム画面にログインして……。
以前に書きかけた、数話だけ投稿済の『異世界テンプレ物語』は――削除っと。
さて、書くぞー。
まずはタイトルを決めないとな。
そうだな――よし、決めた!
新しい小説のタイトルは――【☆ロリコン勇者☆ ~アルスの大冒険~】だ!
主役はもちろんアルスくん。
俺のことも当然、脇役で登場させる。
物語の内容はこうだ。
トリアエズ王国の貴族の三男として生まれたアルスくんは、小さなころから冒険者に憧れていた。
そこで父親の――あ、そういやアルスくんのお父さんの名前、俺知らないな。
まぁ、いいや。
父親のウエイントン男爵を説得して、冒険者になる許しを得る。
頑張って訓練をし、晴れて成人である15歳になって――アルスくんは冒険者になるべく、旅立つのだ。
まず目指すのは、初心者御用達の街である『サイショの街』
そしてサイショの街へ行く途中で、アルスくんは空から落ちてきた『おっさん』を拾うことになる。
アルスくんに拾われる『おっさん』は、もちろん俺。
実は異世界から来たんだとか言い張るおっさんを、アルスくんはなんだかんだで面倒を見てやることにして、最初の仲間として一緒に冒険者登録をする。
ここでテンプレ展開。
新人冒険者であるアルスくんと俺が、ベテラン冒険者に絡まれる。
やっぱテンプレは大事だよね。
絡んでくるのは、やっぱりドンゴとジャニだ。
絡まれて逆にやっつけて、みんなで牢に入って仲良くなるのは実際と同じにしよう。
こうしてアルスくんの冒険者生活は、幕を開けるのだ。
最初の仲間である、俺と一緒に。
俺たちのパーティー名は、もちろん『黄金の絆』
これは譲れない。
まずは採取から始まって――狩猟――討伐と、俺たちは冒険者生活を続ける。
ここで再びテンプレ展開。
なんと襲われている馬車を、助けるのである。
襲われている馬車に乗っていたのは、もちろんフィーニア姫。
ここでタイトルの『ロリコン』を回収だ!
アルスくんはフィーニア姫に一目惚れをする。
うむ、なんか思い出しながら考える作業って楽しい。
続きを考えよう。
冒険者生活は続き、新たな仲間ができる。
まず仲間になるのは、治癒士――パネロだ。
パネロには早めに『ペンギンスーツ』を着てもらおう。
そのほうが、キャラの書き分けがしやすいからな。
3人になった仲間は順調に依頼をこなし、今度は『ツギノ村』へと舞台は移る。
豊かな森に囲まれたこの村で、最初に仲間になるのは――やっぱりノミジだ。
あれ? なんかノミジって、キャラ的に書きやすい気がするぞ?
方言キャラだからかな?
よしよし、プロットを考えるのが、軌道に乗ってきたぞー。
次に仲間になるのはクェンリーだな。
あの時は確か――そうだ、クェンリーがいたパーティーがオーガに襲われたんだった。
物語としては、実際に起きたあのことをまんま書いたほうがいいよな――。
冒険者という職業は、危険な職業だと読者に知ってもらおう。
仲間をオーガに殺され、俺たちに助けられたクェンリーが『黄金の絆』に加入。
うーむ、クェンリーって何かキャラ的に弱いよなー。
いいや、面倒だからクェンリーは最初から、魔法少女姿だったことにしちゃえ!
えーと、次は……。
そうだ、マリーカが仲間になるんだ。
これはまんまでいいか。
傷心旅行でツギノ村に来たマリーカが、成り行きで仲間になる。
いいよね? 事実だし。
これで『黄金の絆』のメンバーが揃った。
俺たちの冒険は、ここからだ!
――打ち切りエンドじゃ無いぞ。
まだ続くから。
…………
物語は進む。
今度は『ミッツメの街』編だ。
コロッポルくんや、エドガーくんたちも出してあげよう。
そうだ!
せっかくの港町だしビーチもあるんだから、やっぱ水着回はやらなきゃだよね。
俺は女性陣の水着姿を妄想する――。
――駄目だ。
なんかマリーカの腹筋しかイメージできねーし……。
まぁいいや、水着回は適当で済ませよう。
そしてミッツメの街編のクライマックス――トリプテルドラゴンとの戦いだ!
ここは少し実際とは変える。
俺がトリプテルドラゴンとの戦いで、大怪我をする展開だ。
そしてみんなとの実力の差を痛感した俺は、『黄金の絆』を抜ける決意をするのだ。
抜けるけど、これから先も俺はちょいちょい出る予定だ。
だって、やっぱ自分キャラとかたくさん物語の中に出したいじゃん!
俺が抜けた後も『黄金の絆』のみんなは、順調に活躍を続ける。
冒険の合間に、アルスくんとフィーニア姫の恋愛展開もちょいちょい挟んでおくのがいいかな?
後半には、冒険者ギルドの副理事長アーク・ドイマンによる『陰謀編』を入れておこう。
俺のエピソードだが、ここはアルスくんにプレゼントだ。
ストーリーとしては、ギルド反対派のヌイルバッハ侯爵をアーク・ドイマンの手の者が暗殺し、偶然それを知ったアルスくんたちが巻き込まれる。
そしてやっぱりアルスくんがアーク・ドイマンの陰謀により、殺人犯にされてしまうのだ。
ここで俺の出番。
アルスくんたちに協力して見事に冤罪を晴らし、アーク・ドイマンの悪事を暴いて逆転勝利に導く、ストーリーのキーマンとなるのだ!
うむ、なかなか美味しい役だな。
つーか、冤罪の晴らしかたとかの、細かい内容とかどうしようかね?
――よし、考えるのは後回しにしよう。
そしてそして、更に名声を上げて活躍するアルスくんたち『黄金の絆』
残るは最終イベント――『魔王』の襲来だ!
ここからは異世界で経験したことではなく、俺が考えたオリジナルの物語となる。
アルスくんたちが『ランク:金』の冒険者になった頃、辺境に『魔王』と呼ばれる強大な魔物が出現。
アルスくんたち『黄金の絆』は王様に、『魔王』の討伐を命じられる。
ちなみにラスボスの魔王役は、フェンリル――『ポチ』である。
モグラはビジュアル的に、魔王っぽくないので却下だ。
ドラゴンの金ちゃんが魔王役ではないのかって?
金ちゃんにはまた別な、大事な役があるのだよ。
次々と冒険者たちがポチに倒されていく中、颯爽と登場するアルスくんたち。
しかしアルスくんたちは、ここで魔王であるポチに敗北してしまうのだ。
ポチの暴風の魔法で『黄金の絆』のみんなは、深淵の森へと飛ばされる。
彷徨いながらもなんとか合流したアルスくんたちは、その深淵の森の奥で『森の主』――神話のドラゴンと出会う。
もちろん神話のドラゴンは、『金ちゃん』である。
金ちゃんは『魔王に勝つ力が欲しいか? ならば我が課す試練を見事達成できたならば、与えてやろう』的なことをアルスくんたちに言う。
――試練の内容とかも、後で考えることにしよう。
あわてない、あわてない――あとまわし、あとまわし。
試練を達成した『黄金の絆』のみんなに与えられた力、それは――。
アルスくんには『剣』と『鎧』、パネロには『竜回復魔法』、ノミジには『弓』と『矢』、クェンリーには『竜攻撃魔法』、マリーカには『盾』――装備品は全て神話のドラゴン素材で作られた物だ。
実際には加工とか無理なんだけど、そこはほら――物語だからさ。
そして金ちゃん装備と金ちゃん魔法によって強くなったアルスくんたちは、王都にまで迫った『魔王』フェンリル――ポチと再び戦うのだ!
死闘の末、みんなは『魔王』――ポチを倒す。
こうしてトリアエズ王国は『黄金の絆』のみんなに救われ、アルスくんは晴れてフィーニア姫との結婚を許されることとなるのである。
最後のシーンは決まっている。
アルスくんとフィーニア姫の結婚式のシーンだ。
やっぱりアルスくんの物語は、ハッピーエンドでなくっちゃ!
死亡エンドや鬱エンドになど、誰がするものか!
これでストーリーはだいたい決まったな。
よし! あとは書くだけだ!
つーか、いいかげん書こうっと。
――――
次の日から、俺は書いた。
無職なのを良いことに、暇に飽かせて執筆しまくった。
まぁ、その割にはなかなか筆が進まなかったが……。
更新も、3000文字くらいの量を5~6日に1回しかできんかったし……。
毎日更新とかしてる奴は、化け物か!
頑張って書いたのだけれど【☆ロリコン勇者☆ ~アルスの大冒険~】は、あんまし読まれていない。
文字数は12万文字を超え、物語は終盤だが――。
ブックマークは13件、総合で32ポイントという具合だ。
全然読まれないなと最初は思っていたが、さすがにこれだけ書くと俺の執筆力が低いという自覚も芽生えてきているので、むしろ『良くこれだけ読んでくれている人がいるよなー』と最近は感じている。
異世界ファンタジーなんて膨大な数があるしなー。
大体の連中は、ポイントの高いランキング上位の作品しか読まんだろうし……。
複垢作って自作のポイントを伸ばしてみようかな?
確か不正をしてポイント増やしても、書籍化までこぎつけたら大人の事情でアカウントはBANされないって噂だし……。
うむ、やっぱそれは止めよう。
不正をすると、自分の書いたものが穢れる気がする。
それは俺の異世界での楽しい思い出を、ブチ壊してしまうようなものだ。
俺の大切な、友達との思い出を……。
――思い出に浸っている場合じゃ無いな。
さて、続きを書こう。
あとは最終話だけ。
アルスくんとフィーニア姫の結婚式のシーンで、大団円だ。
結婚式は盛大に行われ、祝福ムードに包まれる。
出席者の顔ぶれには、もちろん仲間たちの笑顔が欠かせない。
もちろんその中には、俺の顔もある。
そう――物語の中では、俺はアルスくんとフィーニア姫の結婚式に出席するのだ!
…………いいよなぁ。
物語の中の俺が、すんごく羨ましい。
羨ましすぎて、ついつい溜息が出てしまう。
あとひとり言というか、愚痴も――。
「はぁ……アルスくんとフィーニア姫の結婚式、ひと目でいいから見たかったなー」
そこら辺に思いを馳せると、ついつい執筆の手が止まってしまった。
本当に出席したかったんだよ、結婚式に。
その時、どこからか涼やかな声が聞こえた。
「その願い、叶えてあげましょう」
この声は、まさか――読み専の女神さんか!?
俺は光に包まれた。
そして――。
光に包まれたまま、この世界から消滅した。
☆ ★ ☆ ★ ☆
気が付くと、俺は空にいた。
眼下には、中世っぽい街並みと大きなお城。
えーと……ここって、どこ?
たぶんアルスくんたちのいる異世界に連れてこられたとは思うんだけど――。
俺ってば上空から地上を見下ろすこととかほぼ無かったから、こんな景色を見せられてもどこだか分からんのですよ。
なんか知らんが、ゆっくり高度が下がってきた。
あと気付いたんだが、俺ってばなんか光っているみたいだ――つーか俺の身体、光の粒子で作られてる?
降りていくと、色々と見えてきた。
お城の上を旋回しているのは――もしかして金ちゃんか?
もっと降りていくと、お城とその周囲が人でごった返しているのも見えた。
その中心にいる2人は――もしやアルスくんとフィーニア姫か!?
――あぁ、俺は来ることが出来たんだ。
――アルスくんとフィーニア姫の、結婚式に。
俺に最初に気づいたのは、金ちゃんだった。
こっちを見て、ものすごい驚いた顔をしている。
「やっほー、金ちゃん――久しぶりー」
手を振りながら何気なく声を掛けたつもりだったのだが、なんか天地に響き渡るような大音量が俺の口から出やがった。
声を出した当の俺も、びっくりである。
そんな大音量の声のおかげで、地上の人々も俺に気が付いた。
当然その中には、お城のバルコニーにいるアルスくんとフィーニア姫の姿もある。
バルコニーのすぐ下には、パネロにノミジ、クェンリーとマリーカもいた。
みんなドレス姿で、しかもそれぞれ彼氏やら旦那やらを連れている――って、パネロのヤツ彼氏いたのかよ!?
お城の周囲の群衆の中にも見知った顔があるが――まぁ、あいつらのことはいいや。
それより今は、結婚式の主役たちだ。
俺は手を振り、お祝いの言葉を――心からのお祝いの言葉を、2人に送った。
「アルスくん、フィーニア姫――結婚おめでとう!」
アルスくんの笑顔が弾けた。
フィーニア姫も驚いてはいるが、笑顔だ。
アルスくんが手を振りながら、俺に向かって何か叫んでいる――だけど大群衆の声にかき消されて、何を言っているのか聞き取れない。
まぁ、いいさ。
喜んでくれているんなら、それで。
どうやらアルスくんが俺に声が届いていないことを察知したようで、今度は口を大きく動かし始めた。
口の動きで何を言っているのかを読め、ということらしい。
俺はアルスくんの口の動きに集中した。
なにげに俺の老眼が、どっかに旅に出てるな――ちゃんとくっきり見えるし。
えーと、その口の動きは――――『あ・り・が・と・う』か……。
なんだかなー。
『おめでとう』と『ありがとう』
ありきたりの言葉のやり取りなんだけど、嬉しいものだ。
何かもうひと言……と思ったのだが、声が出ない。
気が付くと俺の光の粒子でできた身体は、もう消え掛かっていた。
時間切れか……。
名残惜しいけれど、アルスくんの結婚式を見られて良かったな。
俺は手を振った。
さようならアルスくん、さようならみんな――さようなら、異世界。
もう会えないかもしれないけど、俺は忘れない。
だからさ――。
めでたい結婚式なんだから――。
泣くなよ、アルスくん。
☆ ★ ☆ ★ ☆
元の世界に――俺の部屋に戻ってきた。
さぁ、結婚式のシーンの続きを書こう。
さっきの光景を忘れないうちに――目に焼き付いているうちに。
この幸せで嬉しい気持ちが、俺に残っているうちに。
俺は頑張って書き上げた。
みんなの嬉しそうな顔を、幸せそうな光景を。
アルスくんとフィーニア姫の笑顔を。
そして結婚式のシーンが終わり、今度はお城のバルコニーに立って国民へのお披露目のシーン。
姿を見せると見ている全ての人々が沸き立ち、大声援の祝福が2人を包む。
その時、神話のドラゴン――金ちゃんが大空からやってきて、お城の上空を旋回してアルスくんとフィーニア姫に祝福を授けるのだ!
これがラストシーン。
そして物語は終わりだ。
結びの言葉は決まっている。
それはありきたりだが、この物語にはぴったりの言葉。
――そして勇者アルスとフィーニア姫は
――いつまでもいつまでも
――幸せに暮らしましたとさ。
これでおしまい。
俺は最後の1話を投稿し――。
物語は完結した。
――――
3日が過ぎた。
俺はどうやら燃え尽きてしまったようで、あれからボーっと過ごしている。
完結した【☆ロリコン勇者☆ ~アルスの大冒険~】は、10万文字ブーストとか完結ブーストなどという都市伝説とは全くの無縁だったらしく、結局ブクマもポイントも増えなかった。
それでも俺は、そこそこ満足はしている。
なんとか完結して、アルスくんの物語を世に出すことができたのだから。
まぁ本音を言えば、たくさんの人たちに読んでもらえたほうが嬉しいけどね。
こればっかりは、しゃーない。
――腹が減ったな。
なんか晩メシ作るの、面倒臭いなー。
コンビニ弁当でも買ってくるか。
俺は外へ出て、ちょっと距離のある近所のコンビニへと向かった。
うぅー、寒い――そろそろ冬だからな、夜は冷えるぜ。
コンビニで牛カルビ焼肉弁当と緑茶を手に取り、レジへと持って行く。
弁当をレンジで温めてもらって、清算して外へと出た。
やっぱ寒いな。
牛カルビ焼肉弁当が冷めないように、【無限のアイテムストレージ】に入れておこう。
帰り道、ふと何気なく夜空を見上げた。
月がきれいだ。
高い建物が多いせいかな――。
異世界の月より、こっちの月のほうが大きく見える。
俺の部屋へと戻り【無限のアイテムストレージ】から、牛カルビ焼肉弁当を取り出す。
よしよし、まだちゃんと暖かいな。
――――って、ちょっと待て。
俺ってば、今どこから弁当を取り出した?
なんか嫌な汗が出てきたぞ……。
落ち着け、俺。
そうだな……よし、まずは俺が牛カルビ焼肉弁当を【無限のアイテムストレージ】から取り出したと仮定しようか。
だとしたら【無限のアイテムストレージ】を、俺はまだ保持しているしていうことになる。
俺は左腰の辺りにストレージの開け口を設定していたから、こうやって念じれば――――うむ、開いたし。
――マジかよ、こん畜生め!
てことは、この中には異世界の品が大量に入っているということに!
金貨とか銀貨とかもけっこう入ってるんだけど、換金したら怪しまれるかな……。
あ、魔道具とか使ったら、光熱費の節約ができるかも?
そういや魔物肉も大量に入ってるんだよなー。
あれ? 魔物の肉とか森で採取した物とかって、ホントは検疫とか受けないといけないのか?
イヤ、そもそもストレージから出しちゃいけない?
どうすりゃいいんだコレ?
待て待て待て……そもそも【無限のアイテムストレージ】はアイテムのカテゴリーではあるが、実際には俺の能力みたいなものだしスキルの類に準ずると言ってもいい。
だとしたら――。
まさかとは思うが――。
「ステータス!」
※ ※ ※ ※ ※
名 前:タロウ・アリエナイ
レベル:63/100
生命力:4221/4221(6300)
魔 力:4536/4536(6300)
筋 力:390(650)
知 力:421(662)
丈夫さ:257(641)
素早さ:128(639)
器用さ:536(655)
運 :638
スキルポイント:1
熟練ポイント:280
スキル:【スキルスロット】【アイテムスロット】
【光球:極】【着火:極】【暗視:極】
【お宝感知:極】【隠密:極】【鍵開け:極】
【気配察知:極】【隠蔽:極】【罠解除:極】
【水鉄砲:極】【呪い:極】【メテオ:極】
【真・暗殺術:極】【水中戦闘術:極】【投擲術:極】
【短刀術:極】【毒使い:極】【防具破壊:極】
【筋力強化:極】【真・餌付け:極】【魔力譲渡:極】
【解呪:極】【回復魔法:極】【吸着:極】
【便意の魔眼:極】【悪臭のブレス:極】【真・腹時計:極】
【治癒:極】【不死者消滅:極】【毒球:極】
【真・包丁術:極】【手加減:極】【敵意引受:極】
【対人特効:極】【縄抜け:極】【捕縛術:極】
【採取:極】【藁細工:極】【木登り:極】
【賄賂:極】【チョーク投:極げ】【採掘:極】
【盲牌:極】【雄雌判別:極】【アク取り:極】
【染み抜き:極】【育樹:極】【飴細工:極】
【火加減:極】【真・操船:極】【開墾:極】
【燻製作り:極】【通貨偽造:極】【美味しい店探し:極】
【下処理:極】【耐G:極】【浮遊:極】
【水中呼吸:極】【人化:極】【真・盗撮:極】
加護:【女神ヨミセンの加護】
状態異常:老化
※ ※ ※ ※ ※
なんかステータス出ちまったし!
――どうしよう。
イヤイヤイヤ、これはさすがにマズくないか?
これたぶん、ステータスの数値だけ見てもかなりヤバいぞ!
つーかスキルとか全部込みだと、もう完全に人としてヤバくね?
俺ってばひょっとして、異世界帰りのヤバい奴!?
とりあえず落ち着け、俺。
とりあえず落ち着いて――うむ、弁当を食べよう。
そうだ、そうしよう。
たぶん腹が膨れたら落ち着くはずだ。
俺は牛カルビ焼肉弁当を頬張り、ペットボトルのお茶で胃に流し込んだ。
うーむ……なんか味とかイマイチ分かんねーし。
でも、ちょっと落ち着いた。
落ち着いて考えてみたら、とりあえず誰にもバレなければいいということに気付いた。
ストレージの中のブツも、取り出さなきゃいいだけの話だ。
うむ、大丈夫。
大きく深呼吸をしよう。
そうだ! いい機会だし、【☆ロリコン勇者☆ ~アルスの大冒険~】の誤字脱字のチェックをしよう!
誤字脱字って、セルフチェックだけだと何度チェックしても残るんだよねー。
あわてない、あわてない――現実逃避、現実逃避。
などと考えながら『なるぞ』のホーム画面を開くと、『感想が書かれています』という赤文字があった。
「あひぇ!?」
びっくりして、なんか変な声が出ちまったし。
おそるおそる、赤文字をクリックすると――。
――――――――――――――――――――――――
投稿者:読み専の女神
[良かったところ]
頑張って書きましたね。
ストーリーは、まぁまぁでした。
[気になるところ]
まだまだ文章力が足りないと思います。
もっと精進しましょう。
[ついでの一言]
全体的に、まぁまぁでした。
頑張ったご褒美に、文章評価に2pt、物語評価に3ptを差し上げますね。
次の小説は、もっと面白くなることを期待しています。
――――――――――――――――――――――――
感想の主は『読み専の女神』だった。
なんだよー、こいつかよー。
一応、評価ポイントも確認してみよう。
うむ――文章評価が2ポイント、物語評価が3ポイント、しっかり増えている。
なんだかなー。
俺をわざわざ小説のために異世界へ飛ばしておいて、感想がコレかよ……。
なんかこいつの感想読んだら、ステータスやスキルの件で悩むのがアホらしくなってきた。
結局のところ俺は、この『読み専の女神』の評価を【1:1】から【2:3】に上げるために、異世界に10年も行っていたことになるのか。
そう考えると、全身が脱力しちまうよなー。
なんとなく、笑いが込み上げてきた。
こいつのせいで――こいつのおかげで、俺はずいぶんと面白い経験をさせてもらったもんだ。
迷惑だったけど、ありがとよ。
おかげで長編小説が、1本書けた。
でもさ――。
評価【2:3】は無いんじゃないか?
俺はあんたのおかげで異世界でさんざん苦労した末に、なんとか【☆ロリコン勇者☆ ~アルスの大冒険~】を書きあげたんだぞ。
そこら辺を考慮して、もう少し評価してくれても良くね?
つーか、評価ポイントをくれるんだったら――イヤ、評価ポイントはそれはそれで嬉しいんだけどさ。
『次の小説は、もっと面白くなることを期待しています』って言うんなら、もっと違うものをくれてもいいんですよ?
ということで『読み専の女神』さんよ、次もっと面白い小説を読みたいんだったらさ――。
遠慮はいらんから――。
とりあえず俺に【 執 筆 】のスキルを寄越せ。
――――――――――――――――
☆彡 読み専の女神は、おっさんを異世界に飛ばす ☆彡
~ 第1部:冒険者おっさん編 ~
― おしまい ―
これにて『☆彡 読み専の女神は、おっさんを異世界に飛ばす ☆彡 第1部:冒険者おっさん編』は、おしまいでございます。
なんとかここまで漕ぎつけましたのは、読んで下さる皆様のおかげです。
さて……ぶっちゃけるとどうにも執筆が進まなく、いっそ第1部だけで完結作品にしてしまおうかとも考えたのですが、ここまでせっかく書いたのだからやっぱり当初の構想通り3部まで頑張って書いてみようとかと、つい魔がさして思ってしまいました。
なので次からは、唐突ですが『第2部:悪役令嬢おっさん編』に突入しまする。
ただ執筆疲れが溜まっているのと、もう少しまともなプロットを考えたいのとで、しばらく間を開けさせて頂きたく思います。
第2部は学園が主な舞台なので、できれば桜の咲くころ(北海道基準)には始めたい……。
――ということなので。
次からは全然違う話になってしまいますが、それでも『しゃーないな、付き合ってやんよ』と思って下さる読者様におかれましては、しばらくお待ちください。
ポンコツなんで、色々とキツいんすよ(- -;)




