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無敵ガメの狩猟

 ― 牢屋の中 ―


「ふい~、疲れた~」

 3度目の尋問も終わり牢に戻された俺は、どっかりと腰を落として床に座り込んだ。

 牢内は清潔だが、椅子やベッドのようなものは一切無い。

 ちなみにトイレは穴である。


 ――さて、現在の状況を説明しよう。


 ここエルフの国『シンナカリン王国』の中層の街である『ナカリングの街』へ許可も無く潜入し、武器屋と武器職人の工房に不法侵入をしたところを見つかった俺は、エルフの皆さんに捕らえられた。


【隠密:極】と【隠蔽:極】のスキルを発動させていたのにバレてしまったのは、俺が鍵を開けるためにストレージから取り出した錠前外しの道具が鉄だったせいで、その場で居眠りしていた爺さんにアレルギー反応が起きてしまったのが原因らしい。


 近くにアレルゲンがあるだけで反応するとか、エルフの金属アレルギーはそれほど酷いもんだったんだね。

 国境で金属類が封印されたりするのも、大袈裟な対応では無いということか……。


 捕まって尋問はされたが、この世界では普通の手段である拷問はされなかった。

 そこのところはさすがエルフ、文明的で文化的な種族である。

 おかげで痛い思いはせずに済んだ。


 その代わりにエルフは『真実判定機』なる、ウソ発見器のような魔道具を使ってきた。

 質問の返答が真実か否かを正確に判定するという、世間一般に普及するとそれはそれで揉め事のタネになりそうなブツである。


 ちなみにこの『真実判定機』、輸出はされていない。

 エルフの国の秘匿技術案件なのだそうだ。


 尋問で主に聞かれたのは、『何のために潜入したのか?』ということ。

『刀という武器が存在するかどうかを知りたい』と、何度も何度も繰り返し説明したのだが信じてもらえず、『何を探りに来たスパイなのか』とか『どこの組織に頼まれて潜入したのか』とか『そもそも刀とはなんなのか』とか、そんなことを延々と質問され続けている。


『真実判定機』のおかげでウソでは無いことは伝わっただろうが、だからと言って俺が無罪になることも無いだろう。

 それにエルフの尋問のおかげで、俺は今やすっかり危険人物となってしまった。


 死の谷に【メテオ】をぶっ放したことや、メーキューの街のダンジョンを餌付けしてしまったことが、巧みでしつっこい尋問のおかげでバレてしまったのである。


 まぁ、【メテオ】とかぶっ放してる時点で、危険人物扱いはしゃーないよね。


 だがそのおかげで、テロリストの容疑だけは晴れた。

 テロを行うのであればわざわざ街に潜入しなくても、【メテオ】を街に落とすだけで甚大な被害をもたらすことができるはずだからだ。


 スパイ容疑はまだ晴れてはいないが、テロリストでは無いと認定されたのは助かった。

 テロ目的で街に忍び込んだとなれば、確実に死刑は免れないのだ。

 エルフの法には詳しく無いが、尋問官のエルフがそう言っていたのでたぶんそうなのだろう。


 あとはスパイ容疑とかエルフの秘匿技術を用いた品を窃盗しようとしていた容疑なのだが、『真実判定機』に嘘は言ってないと判定されているにも関わらず、質問の角度をあれやこれやと変えてまだ尋問は続いている。

 たぶん俺が真実を言いながらも何かを誤魔化しているという可能性を、確実に潰しておきたいのだろう。


 パンと水だけという昼メシを食い終わったところで、また兵士がやってきた。

 やれやれ、また尋問か……。

 あんまし【状態異常:老化】のおっさんを、いじめないで欲しいよなー。


 俺を連れに来た兵士は4人。

 最初の頃は2人だったのだが、危険人物認定をされてから4人になった。


 あと兵士の装備も良い物に代わっている。

 あれは俺を捕らえた兵士と同じもので、地水火風の魔法を弾き毒も無効化する優れものだ。

 どうやら俺の放つ毒魔法への対策らしい。


 兵士に連れられて来た部屋は、今まで尋問されていた部屋とは別な場所であった。

 部屋の中には尋問官の他に、なんか偉そうなエルフが3人。


「掛けたまえ」

 立場的に嫌だとは言えないので、俺は大人しくそこにあった木の椅子に腰掛ける。


「冒険者タロウ・アリエナイ、君への処分だが――」

 真ん中の偉そうなエルフが、どうやら俺への処分を言い渡そうとしているらしいが……イヤ、なぜそこで溜める……。

 そういうのはチャチャッと言って欲しいのだが。


「君の言い分はすべて真実だと判断し、今回は2000万円分の狩猟活動を課すことで刑罰とする。以上」

 言うだけ言って、3人の偉そうなエルフは去っていった。

 残りの2人は、何のためにここにいたのだろう?


 そんなことより、今は俺に出された刑罰の内容だな。

 確か2000万円分の狩猟活動だったか……つまりそれは、2000万円分のタダ働きをしろって意味だよね?

 要は罰金刑みたいなもんじゃん。


 タダ働きは面白くは無いけど、死罪とか懲役刑じゃなくてラッキーだぜ♪

 ちゃんと2000万円分働けば刀の情報を調べてくれるとも言われたし、おじさん頑張っちゃうぞー!


 …………


 ――――と思っていた時期が俺にもありました。


 刑を言い渡された後、尋問官のエルフさんから『狩猟内容は、この中から選ぶように』と渡されたリストが、けっこう無茶ぶりな中身だったんすよねこれが……。


 フォレストドラゴンの狩猟とか。

 ブラックヒドラの狩猟とか。

 ベヒーモスの狩猟とか。

 ――――etc.


 まぁ、とにかく俺にはどうにも無理ゲーな相手ばかりが並んでいたのである。

 これって実質、死刑宣告されてんじゃね?


 ちなみに逃げたらその時点で死罪確定で、即座に国際手配される。

 それと1年以内に2000万円分の狩猟を終えないと、それも死罪確定となる。


 死ぬのを免れるには、ヤバそうな魔物を2000万円分狩るか――。

 もしくは逃げるしか無い。


 ちなみに俺の左腕には、外すのが不可能な銀色の腕輪が着けられている。

 これは発信機にもなっており、シンナカリン王国内もしくは国外でも、受信機の半径300kmの範囲内なら、俺がどこにいるかがこの腕輪で分かるとのことだ。


 腕輪はこのエルフの国――シンナカリン王国の中層より奥に入るための許可証にもなっており、命じられた分の狩猟を無事終えたら、特別にそのまま許可証としてもらえるらしい。

 エルフでも手に入れにくい素材を集めることのできる冒険者ならば、王国としても確保しておくのが得策という方針なのだそうだ。


 さて、どうしようかな……。

 逃げようと思えば逃げられるのだが……。


 ぶっちゃけ腕輪なんて、左腕ごと切り落とせば済む話だしね。

 部位欠損なんて魔法でもポーションでも治せるからさー。

 でもなぁ――。


 狩猟をこなせば今後、シンナカリン王国の中層より奥に堂々と大手を振って入ることができる。

 この特別な許可というのも、なかなか魅力的に思えるんだよね。


 うーむ……。


 とりあえず、試しにやってみっか。


 …………


 ― 森の奥地 ―


 とりあえず準備を整えて、『シンナカリン王国』の更に奥地にある森へと入ってみた。

 無理っぽい魔物ばかりだが、中にはひょっとしたらと思えるのもいないことも無い――かもしれないのだ。

 ほら一応さ、直接見てみないことには分かんないから。


 で、今までに遭遇したのが『ヘルハウンド』の群れと『火炎竜(ドレイク)』の2種。

 双方とも『俺に触ると火傷するぜ』系で毒が効かない、炎を噴く魔物である。


 火炎竜(ドレイク)とか絶対に無理だし、ヘルハウンドは1頭なら狩れる可能性はあるが、群れとかどう考えても囲まれてこんがりと焼かれるビジョンしか浮かばない。

 なので華麗にスルーさせてもらった。


 ほら、俺ってば加齢なお年頃だから……。


 ――まぁ、そんな感じってことで。


 そして今、3番目に遭遇した魔物がいるのだが――。

 これはもしかしたら、何とかなるかもしれない。


 その名も『無敵ガメ』

 この全長30cmほどの魔物――というかカメは、甲羅に絶大な価値があるらしい。


 というのもこの無敵ガメの甲羅、ほとんどの攻撃を受け付けないのだ。

 この世界で最も硬い金属であるアダマンタイトでも傷一つ付かないその硬度に加え、熱にも低温にも強く電撃なども通らない。


 もちろん毒だって意味が無い。

 魔法は闇属性の即死魔法とか聖属性の昇魂魔法なんかは効くらしいが、地水火風の四元素の魔法は効果が全く無いそうだ。


 しかも気配察知に長けていて、かなり遠くからでもエルフや人間の気配を察知して甲羅に閉じこもるので、遠距離攻撃が難しい。

 更にはその異常なまでの硬さを誇る甲羅に手足を引っ込めたまま、魔法的な何かの能力で超高速で飛行し体当たりを仕掛けてくるという厄介さなのだ。


 だがしかし、【隠密:極】と【隠蔽:極】のスキルで気配を消している俺には、ヤツはまだまだ気づいてはいない。

 このまま近づいて、甲羅に守られていない首を短剣で落とすことができれば――。


 その時『無敵ガメ』の動きがピタリと止まった。

 キョロキョロと辺りを見まわそうとしている――これは俺の気配をうっすらだが察知したか?

 俺の【気配察知】に引っかかっていないのだから、他に警戒するような生き物はいないはず――やはり俺の気配だな。


 少し離れると、無敵ガメは警戒を解いた。

 やはり俺の気配を僅かに感知していたようだ。


 しかし困ったな。

 無敵ガメと俺との距離は、まだ30mはある。


 俺の遠距離でのまともな攻撃方法は【毒球】しか無いが、無敵ガメの甲羅には毒は効かない。

 飛んで行く【毒球】を察知されて手足を甲羅に引っ込められてしまっては、むしろこちらが手も足も出なくなる。

 というか、そのまま飛んで体当たりなんぞかまされると、こっちの命が危ない。


 俺はその場に胡坐をかいて、どうしようかとじっくり考え始めた。

 ステータスを開く。

 何か使えそうなスキルは無いものだろうか?


【メテオ】は周辺への被害が尋常じゃ無いし、【真・暗殺術】は対人スキルなので通用しなかったら反撃をくらってこっちが死ぬ、【投擲術】で短剣を投げたとしても途中で察知されるのがオチだ。


 ここは死の谷に【メテオ】をぶっ放した時に上がったレベルで得たスキルポイントで、一か八かスキルスロットを回して何か新しいスキルでもゲットするべきか――と考えたところで、今まで1度も使ったことの無いスキルが目についた。


 それは【呪い(カース)】の魔法スキル。

 威力はこんな感じ。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

【呪い(カース):極 / 呪い属性】対象の最大体力を、消費魔力の1/10下げる。

 解呪の魔法以外で、治療は不可。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 いままで使い辛くて1度も使ったことは無いが、呪い属性というこの珍しい魔法なら効果があるのではないかという気がする。

 それに無敵ガメはあのサイズだ、大型の魔物と違って体力はそんなに大きな数値ではあるまい。

【呪い(カース)】で最大体力を削るというのを、魔力を回復させながら何度もちまちまと続ければ、もしかしたら俺にも狩れるかもしれない。


 うむ、やってみよう!


 俺は【呪い(カース)】の魔法を無詠唱・無音声で発動する。

 呪いが無敵ガメに向かって、漂っていくのが分かる――よし、届いたぞ!

 思惑通り向こうは全く気付いていない。


 俺の呪いと無敵ガメが繋がった。

 あとは俺が魔力を使って念じ、無敵ガメの最大体力を削るだけだ。


 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――。


 なんか危ない人のひとり言みたいだが、これは呪いの発動に必要なことなのだ。

 そこんとこ、誤解しないで欲しい。


 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死――あれ?


 無敵ガメが急に動かなくなり、力なく地面に沈んだ。

 たぶん最大体力が『0』になり、死んだのだ。


 よっしゃー!

 狩れたー!

 これで死罪にならんで済むぞー!


 ステータスを確認すると、魔力は380しか減っていなかった。

 ということは、この無敵ガメの最大体力は38しか無かったのか……。

 これが無敵ガメの標準なら1日に5匹は狩れる計算になる、これは嬉しい誤算だ。


 確か無敵ガメの甲羅は、素材屋に持っていくと200万円ほどにはなるはず。

 なら10匹も狩れば、俺は無罪放免に!――違うわ、無罪じゃないか――罪の償いを終えて、大手を振ってシャバに出られるということだ!


 俺はウキウキ気分で、死体となった無敵ガメをその手に掴んだ。

 そして思った。


 この無敵ガメ――。


 食ったら美味いんだろうか?


 ――――


 ― シンナカリン王国・王都デカイキ ―


 無敵ガメの狩猟を始めてから、約1か月の時が過ぎた。


 個体の絶対数が少ないらしく、無敵ガメを探すのには俺の【気配察知:極】をもってしてもそう簡単に見つかる物では無かった。

 それでもとうに2000万円分の狩猟は終えて、俺は既に自由の身である。


 それどころか、エルフでも手に入れにくい素材を集められる、シンナカリン王国にとって有用な冒険者とみなされ、中層および深層――王都にまで出入りを許される身となった。


 無敵ガメというのはそもそも見つけるのが難しい魔物だったらしく、狩るのが難しいことも相まってなかなか数が揃わない素材であったらしい。


 しかも伝統的にシンナカリン王国の王家の人間の鎧には、無敵ガメの甲羅が使われるそうなのだが、最近は素材の集まりが悪くて鎧の製作が滞っていたのだそうで、なんか王家御用達の偉い職人さんが俺に会いに来て『良く集めてくれた』と、感謝までされてしまった。


 自分が自由の身になるために狩っていただけの俺としては、感謝までされると逆に申し訳ない気分である。


 自由の身にはなったのだが、『無敵ガメの狩猟』はまだ続けている。

 何と言っても無敵ガメの甲羅は、これがまたけっこういい稼ぎになるのだ。


 普通に素材屋に売ると、500万円とかで引き取ってくれるし……。

 奉仕活動中の買い取り価格200万円とか、いったい何だったんだろうね。


 おかげさまで今では老後の資金も増え、ちょっとした高価なエルフ製の品に手を出せるくらいの生活までできるようになった。

 やっぱ人間、行動するって大事だよね。


 俺の場合、不法侵入だけど。


 あ、それと――無敵ガメの肉は思ったより美味しくは無かった。

 いろいろと微妙だったので、カレーの具にして美味しくいただいた。

 カレーって、だいたいの具材を美味しくしてくれるよね。


 そしてここからが大事な話。

 偉いエルフさんが調べてみてくれたところ、エルフの武器には『刀』なるものは無いとの結論が出た。

 これは無敵ガメの甲羅の納品で仲良くなった、王家御用達の職人さんにも聞いたから間違い無いだろう。


 つまりは、結局ガセだったという……。

 悲しいよねー。

 俺はいったい、何のために捕まるような危険を冒したのだろう……。


 結局、刀の情報は無いという悲しい結果に終わったが、それとは別に素晴らしく有用な情報もあった。

 王家御用達の職人――ツクールさんによる貴重な情報だ。


 ツクールさんよりもたらされた情報。

 中層の街には無く王都にしか存在しないというその情報は、俺を大いに奮い立たせるほどであった。


 それは、そう――。


『エルフのキャバクラ』である。


 俺のどこが奮い立ったかは、皆さんのご想像にお任せすることにしよう……うむ。


『エルフのキャバクラ』――それは異世界に興味のある健全な男であれば、誰もが存在して欲しいと願う漢のロマン。

 それがここ、王都デカイキにあるというのだ!


 そして俺も漢だ。

 ならば行かねば――というより、行く以外の選択肢などあるはずが無いではないか!


 てな訳で俺は今、王都デカイキへとやってきているのである。


 つーか、お前はわざわざエルフのキャバクラのために王都に来たのかと、皆さんは思われるだろうが……。


 そ の 通 り だ !


 おっさんなんぞ、そんなものなのだ!


 で、今は目的のお店を探しているところなのだが……。

 これがなかなか見つからぬ。


 それもそのはず王都デカイキは、文字通りものすごーい巨木を、中をくりぬいたり外に建築物をつけ足したりしてできた都市なのだ。

 それがもうなんか増改築を繰り返した都会の魔窟ビルみたいに、入り組んでて訳分かんねーのよ。


 ちゃんと地図持って歩いているんだけどねー。


 ん? あれかな?

 お酒と宝石が描かれた、ゴージャスなピンクの看板。


 イヤ、待て待て待て――それでこないだ騙されたのを忘れたか。

 ウワッツラ村で入ったピンクの看板の店は、おっさんしかいない店だったじゃないか。

 ここは慎重に行動すべきだ。


 俺は不審者だと思われないように【隠密】と【隠蔽】のスキルを発動し、密かに入口を見守る。

 人の出入りを監視するのだ。


 時間帯が早いせいか店に入る男は何人かいたが、出てくる者はまだいない。

 俺が確認したいのは、客の出ていく時なのだ。

 予想が正しいならば――おっと出てきた!


 まず出てきたのは、黒服のエルフ――こいつは扉を開ける役目だろう。

 その後に、小太りのエルフのおっさん。

 そして――よし! 若い女性が出てきた!


 間違い無い、ここは女の娘が接客してくれる店だ!


 隠れる系のスキルを解除して――。

 お店へGOだ!


「いらっしゃいませ、当店へのご来店は初めてでございますか?」

 ドアをくぐったところにいたのは、黒服のエルフのおにーさん。

「あ、はい」

 なんか間抜けな返答になってしまった気もするが、この手のお店はとんとご無沙汰なので仕方あるまい。


「ご指名のキャストは、お決まりになられておられますか?」

 どうやらこのお店では、女の娘のことをキャストというらしい。

「あ、いえ」


「でしたらこちらでキャストを付けさせていただきます。お気に召さない様でしたらチェンジと言っていただければ別なキャストと交代致しますので、どうぞご遠慮なくお申し付け下さい」

「あ、へぇ」

『へぇ』とか返事してしまったし……俺はどこのお(のぼ)りさんだよ!

 ――イヤ、実際お上りさんなのだがさ。


 席に案内されたので、どっこいしょと座る。

 案内してくれた黒服の人がアイコンタクトを飛ばすと、どこからかキャストの女の娘がやってきた。


「チャーミーでーす、よろしく♪」

「ラバーニャです、先にお名刺お渡ししておきますねー」

 なんか2人も来たし!


 チャーミーちゃんは金髪ロングで、モデルみたいなスタイルの華やかなエルフさん。

 ラバーニャちゃんはピンクのゆるふわな髪で、セクシーな美形エルフさん。

 こんなもんチェンジなんかするわけ無いじゃんよ!


 あ、なんか勝手にお酒注文されてるし……まぁいいか。

 うむ、美味い。

 これってば例の大豆のお酒じゃん、しかも前に飲んだのより格段に美味しいやつ。


「いらっしゃいませ。ティラです、お待たせしました♪」

 3人目まで来たし!


 ティラちゃんは黒髪ストレートの、綺麗な女優さんみたいなエルフさん。

 うおぉー! エルフのキャバクラ、無茶苦茶レベル高いぞ!


 これは……毎日でも通いたくなるぜ!

 ヤバい、ハマりそう……。


「お兄さん冒険者なんですか? なんかカッコいいですよねー」

 正面に座ったティラちゃんが、しきりに俺を持ち上げてくる。

 ホントはこういうの苦手な俺なはずなのに、なんか素直に気持ちいい。


「今までに倒した魔物とかってー、どんなのいるんですかー?」

 チャーミーちゃんが、俺の左腕にしがみつきながらそんなことを聞いてきた。

 そんな密着されたら、おじさん困っちゃう!


「えー! ドラゴン殺し(スレイヤー)なんですかー? すごーい!?」

 今度は右腕にラバーニャちゃんがしがみついて――なんかボリューミーな感触が!?

 うおぉー! 神よ! エルフが貧乳だとか偏見を持っていた俺を許したまえ!


 その後のことは、ハッキリとは覚えていない。

 何やら天国にいたような気がするのは、きっと記憶違いでは無いだろう。


 チーン!

【真・腹時計】のスキルにセットしてあったタイマーの音で、俺は我に返った。

 もう2時間も経ったらしい。


 楽しい時間というものは、やはり早く過ぎるものなのだな。


 もっと飲もうという声を、気力の全てを振りしぼって振り切る。

 黒服が、お会計の請求を持ってきた。


 はい? なんですと!?


 えっと……一、十、百、千……316万6000円也ですと!?

 何この金額!? まさかボッタクリ?


 請求金額に驚いていると、ちょうど清算カウンターに恰幅の良い紳士なエルフのおじさまが向かっているところだった。

 ――なんか普通に笑顔でお支払いをしている。


 へ? ということは、この金額で妥当ってことなの?

 やっぱエルフの感覚って、さっぱり分かんねー……。


 仕方ない、ここは大人しく支払うのが筋というものだろう。

 俺は316万6000円を支払い、店の外へと出た。


 チャーミーちゃん・ラバーニャちゃん・ティラちゃんが、扉のとこまでお見送りに来てくれた。

「ありがとうございましたー」

「また来てくださいねー」

「今度は指名してねー」


 みんなこちらに手を振ってくれているので、もちろん俺も降り返す。

 もちろんだよー、また来るねー!



 ――――じゃねーし。


 こんなとこ通ってたら、すぐ破産してしまうし!

 つーか、もうこの場で店に引き返したい自分が怖いし!


 通っちゃ駄目だ、通っちゃ駄目だ、通っちゃ駄目だ!

 通っちゃ駄目なのは分かっているのに、このままでは毎日通ってしまいそうだ!

 エルフ女の娘の誘惑には勝てぬ!


 勝てぬとなれば――。

 三十六計逃げるに如かず。


 この街――王都デカイキを出よう。

 そうすれば、通いたくても通えなくなるはずだ。

 ――あんまし自信無いけど。


 もうあれかな?

 いっそエルフの国――シンナカリン王国を出ちゃったほうがいいかな?


 うむ、そうしよう。

 それならば間違いはあるまい。


 さよならエルフの国、君のことは忘れないよ。


 つーか、思うんだけどさ――。



 最近、街から逃げるパターン多くね?

キャバクラとかほとんど知らんので、適当です。

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