ワイバーンの討伐
― ヤタラタカイ・山麓 ―
「もうそろそろですかね」
「そうだねー、もうそろそろだねー」
名残惜しそうなアルスくんに、俺はけっこうあっさりと答える。
「一緒に依頼をするのも、これが最後になるんですね」
「うーん、とりあえずはね――そのうち会いに来るつもりだし、そん時にはまた適当なのでもやろうよ」
生きていれば気の向いた時にまた、一緒に依頼をやれるさ。
「本当に明日、街を出ちゃうんですか?」
「うん、こういうのは先延ばしにしてもしゃーないからね」
つーかスッパリとケジメをつけないと、なんか気分をズルズルと引っ張られて俺が出立できなくなると思う。
仲間の女性陣たちはどうやら気を使っているらしく、俺とアルスくんとの会話に入っては来ない。
あいつらともしばしの別れになるのだが、一番付き合いの古い俺たちに、互いに言いたいことを十分に話させてやりたいのだろう。
俺は明日『黄金の絆』を抜け、ソロ冒険者となってこの街を出る予定だ。
この依頼を終えれば必要なだけのポイントが溜まり、俺は晴れて冒険者ギルドと協定を結んでいる全ての国への出入りが自由となる『ランク:銅』の冒険者にとなれるからだ。
もちろん『ランク:銅』になるために必要なランク料の500万円は、とうの昔に溜まっている。
で、さっきからアルスくんと名残惜しい系の会話をしているのだが、もうランク上げのポイントが溜まりそうだという話は前々からしていたので、この名残惜しい系の会話はもう一週間ほど続けていて、俺としては実は少し飽きていたりしているのだ。
イヤ、俺だって名残惜しいのは名残惜しいのだがさ……。
さすがに一週間続くとねぇ……。
あ、ちなみに俺以外の『黄金の絆』のメンバーは、とうの昔に『ランク:銅』になっている。
俺は週一で漁船に乗り込み、漁師として【気配察知】のスキルを使って魚群探知機役をしていたせいで、ちょっとばかし取り残されていたのだ。
で、『黄金の絆』であり『ランク:皮』としての俺が、最後にみんなと受けた依頼なのだが――。
それは『ワイバーンの討伐』という依頼だ。
ワイバーンは広範囲に移動する魔物なので、この依頼は国境をまたいで活動できなければならない『ランク:銅』以上の案件なのだが、仲間たちが『ランク:銅』なおかげで俺も受注できるのである。
ワイバーンとは『飛竜』とも呼ばれる翼竜――鳥型の竜だ。
竜という字はついているが、分類としてはドラゴンでは無い。
尾の先は毒針となっており、口はやや鳥のくちばしの様に尖っていて鋭い歯が生えている。
雑食性で人間も襲うので、人里近くに現れた場合には人間の味を覚える前に討伐することが推奨されている。
あと、実は大して強くもない。
イヤ、まぁ、一応竜の係累だからそこら辺の魔物よりは強いのだが、ひと月ほど前に討伐したトリプテルドラゴンなんかに比べたら大したことは無かったりするという話だ。
油断は禁物ではあるが、実際のところ俺たちなら楽勝だろう。
先頭を歩いていたノミジから右手で『停まれ』、と俺たちに合図があった。
どうやらワイバーンを目視したらしい。
その合図を見て全員がゆっくりと、ノミジの近くに集まる。
「こっちだべ――見えるだか?」
ノミジの指さす方向には木々の隙間があり、その向こうに――見えた、ワイバーンだ。
情報通り1頭だけ。
体長は10mちょいというところか。
巣を作っている様子も無いので、どうやらここに住み着く気では無いらしい。
さて、今回は俺の『黄金の絆』としての最後の依頼だし、いっちょみんなにカッコいいところでも見せてやろうかと【隠密】と【隠蔽】のスキルを発動し、悪魔の短剣に麻痺毒を塗り付けてワイバーンのところへと――。
バサッ! バサッ!
俺が動いた直後に、ワイバーンが飛んだ。
このタイミングで飛びやがるか、こいつ!
「逃がさねーだよ」
飛び立つワイバーンにノミジが矢を放つと、翼に4つの穴が開いた。
ノミジの奴、1射で4本の矢を放ったのか!?――また腕を上げたな。
「落ちなさい――【乱気流】!」
まだ空中でバタバタともがいているワイバーンにクェンリーが魔法を放つと、ワイバーンがバランスを保てなくなり落下してきた。
「もらった!――必殺! 飛燕昇斬!
落下してくるワイバーンに向かってアルスくんが飛び、その首を易々と落とす。
――ワイバーンの討伐は終わった。
俺の出番……無かった……。
――――
― ミッツメの街・自宅 ―
無事にギルドへ『ワイバーンの討伐』を報告し、俺は手続きを済ませて無事『ランク:銅』へとランクアップをした。
これで俺はようやくギルドと提携している国の全てに、自由に出入りできる資格を得たことになる。
まだこの異世界で見ていないものは、けっこうある。
エルフの国やダンジョン、あとちゃんとした正統派のドラゴンなんかも見てみたい。
戦わなくったっていい、見るだけで十分満足なのだ。
つーか、戦っても勝てる気しないし。
なので戦って勇者を目指すのはアルスくんをはじめとしたみんなに任せ、俺は物見遊山の旅に出る。
こんな世界だから物見遊山でも命がけになるかもしれんが、それだけの価値はあるだろう。
なんたってダンジョンとかドラゴンだぞ? せっかく異世界にいるんだから、見ないと損じゃないか!
そんな訳で忘れないよう今日のうちにギルドに届けも出し、あとは今夜の俺の送別会が終われば出立するだけとなったのだが――。
なして俺がメシ作ってんの?
送別会とかって、みんなどっかの店とかでやってなかったっけ?
自宅でやるにしてもさ、俺がメシ作るとか何か違うくね?
「今日は最後ですし、豪勢にいきましょう!」
「わたしトリプテルドラゴンの肉がいいなー、まだ残ってるよね?」
「おら昼に狩った、ワイバーンの肉を食べてみたいべ!」
「アタシはタコ焼き食べたーい」
「オレ、ラーメンがいい!」
俺の困惑をよそに、仲間たちは今夜は何を食べたいかで盛り上がっている。
まぁ、そんだけ俺の作るメシを楽しみにしてくれてるってのは、嬉しくないこともないんだけどさー。
どっちかっつーと、最後はみんなで俺のためにメシを作ってくれるとかして欲しかったんだけどなー。
まだ仲間たちは、何が食べたいかの話を続けている。
……うむ、これは俺が文句を言っても無駄そうだな。
仕方ない、俺がメシを作ることにしよう……。
つーか、品数多すぎるからお前らも手伝え。
…………
――ということで、晩メシ終了。
みんな満足げな顔をして、腹をポンポンと叩いている。
いつもの倍くらいの量を作った晩メシは、きれいに無くなっていた――お前ら、よくそんなに食えるな。
さてここからは、最後の『大スロット大会』だ。
イヤ、やるのは単なる『便利アイテムのスロット大会』なんだけど、俺の知らんところでいつの間にか『大』の文字がくっついていたのである。
まぁいいけどね。
つーか、みんな待ってるからそろそろ始めようか。
「【アイテムスロット】」
毎度おなじみ、青い半透明の筐体が現れる。
「おらが一番くじだべ!」
ノミジが張り切りながら、金貨1枚――10万円を投入した。
あと、どうでもいいことなんだろうけど、これ『くじ』じゃなくて『スロット』な。
回すくだりはカット。
結果はこれ。
<万能砥石> <超音波洗浄機> <防風の傘>
『万能砥石』は、どんな材質や用途の刃物でも砥げるという不思議な砥石。
『超音波洗浄機』は魔道式で、水を張った中に洗う物を入れて超音波で洗浄するアレだ。
直径30cmほどのタライ型なので、そんなに大きな物には使えない。
『防風の傘』は、どんなに強い風でも差し続けることができるという優れものである。
戦闘での風を防ぐとかもできそうなので、意外に重宝しそうだ。
「次はアタシね」
クェンリーがスロットを回すと――。
<小型冷凍アイテム袋> <レーザーポインター> <大回復薬>
「悪く無いわね」
悪く無いどころか、なかなかの引きだ。
『小型冷凍アイテム袋』は、容量こそ30ℓと少ないが冷凍保存ができるアイテム袋。
ノミジが『冷蔵アイテム袋』を持っているので、これで『冷凍・冷蔵』の2種のアイテム袋が揃ったことになる。
『レーザーポインター』は電気式では無く魔道式で、レーザービームで目的物を指し示す道具だ。
目潰しに使えば失明することもあるので、人に向けて使ってはいけない物である。
なにげに冒険者としての活動にも、良さげな使い道がありそうなアイテムだ。
「大回復薬」は、けっこうお高い回復薬で大怪我程度なら治せるなじみのポーションである。
3人目はパネロが手を挙げた。
「次わたしでーす!」
パネロは案外ハズレを引かない。
いいもの出るかなー?
<警報ブザー> <煙幕玉> <金属探知機>
『警報ブザー』は、不審者に出会った時なんかにスイッチを押すと、大音量が鳴るやつ。
つーか、試しにここで鳴らすんじゃねーよ! 近所迷惑だろーが!
『煙幕玉』は5個セットで、地面とかに叩きつけると煙が広がるという、忍者がよく使うアレだ。
だからこの場で使って見ようとするなってば!
『金属探知機』はそのまんま、魔導式で地面に埋まってる金属に反応するものである。
だからここで使おうとするんじゃ――って、反応してるし! てことは、この建物って金属入ってんの?
知らんかった……恐るべし中世ナーロッパ……。
「オレの番だぜ!」
マリーカが金貨一枚を高々と掲げている。
で、投入!
結果――。
<魔物寄せの香木> <ポケットティッシュ> <黄金の剣>
「おい! 武器が出たぞ!」
騒ぐマリーカだが……これは俺もびっくりだ。
『魔物寄せの香木』は500㎖のペットボトルくらいの大きさで、削って燃やして使うと匂いに釣られて魔物が寄ってくるのだそうだ。
『ポケットティッシュ』は、ダンボール箱に10枚入りのが500個入っている。
広告入れて配れる数だな。
ちなみにティッシュはビニールではなく紙で包まれている。
で問題の『黄金の剣』だが――戦闘用では無く、お部屋のインテリア用だった。
これはアレだな、換金アイテムというヤツだな。
「つまんねー」
そう言うなよマリーカ、武器アイテムのスロットじゃないんだからしゃーないじゃん。
「やっと僕の番ですね」
アルスくんから並々ならぬ気合が見て取れる。
俺がいなくなるとスロットができなくなるせいか、やはり気持ちの入り方が違うようだ。
そして金貨1枚を投入し――。
「アルス、行っきまーす!」
勢いよくレバーを引いた。
<メモ用紙> <絆創膏> ―回転中―
もうこの時点で『安定の爆死コースだなー』とか思って見ていたら、信じられないことが起こった。
最後のリールが、なんと銀色に光ったのである。
嘘だろ……アルスくんだぞ!
『爆死のアルス』の二つ名を欲しいままにしてきた、あのアルスくんなんだぞ!
そして最後のリールが……停まった。
<メモ用紙> <絆創膏> <経験値カプセル>
『経験値カプセル』……だと?
「やりましたよタロウさん見ましたか! 僕は……僕はついにやりました!」
「あぁ……ちゃんと見たよ。ついに――ついにやったねアルスくん!」
互いにハグしあい、涙ぐむ俺たち。
何だこいつら、という目で見ている女性陣。
うむ、やはり男同士て無いと通じないものというのは、存在するのだな。
これから男1人の見た目だけハーレムパーティーになるが、強く生きろよアルスくん。
『経験値カプセル』は『開けると3000の経験値を得られる』という、カプセルトイでよく見るタイプの外観をした物であった。
「タロウさん……良かったらコレ、もらって下さい」
アルスくんが『経験値カプセル』を、俺に差し出す。
「いいの? これってアルスくんが初めて引いた、白じゃないアイテムなのに……」
そんな記念の品を、俺にくれるの?
「今まで、お世話になりましたから」
そんな……世話になったのはこっちのほうなのに……。
主に寄生とかで。
「分かった……ありがたくもらっておくよ」
これからは魔物なんかを倒す機会も減って経験値も入りにくくなるだろうから、正直この『経験値カプセル』をもらえるというのは、俺としては非常に助かる。
アルスくんから『経験値カプセル』を受け取る。
なぜだかちょっと、こっ恥ずかしい。
「よし! 最後は俺の番だ!」
照れ隠しも兼ねて、俺は大きな声を出す。
いいもの引いて、アルスくんにお返ししたいなー。
金貨1枚投入して――レバーオンだ!
<圧力鍋> <美肌クリーム> <低反発枕>
うーむ……アルスくんにもらった『経験値カプセル』のお返しに良さげなアイテムは、引けなかったか……。
とりあえず俺の引いた分は、みんなに置いて行こう。
つーか『美肌クリーム』は、既に女性陣で取り合いになってるし……。
さて、大スロット大会の〆に『スキルスロット』を回そうか……と思ったところで、アルスくんが俺に向かって真剣な顔で詰め寄ってきた。
何だろ? まさかこの期に及んで愛の告白からのBL展開とかじゃなかろーな……イヤ、まさかね、アルスくんはフィーニア姫LOVEなはずだし――。
「『武器アイテム』のスロットを回して欲しいんです! お金はみんなで出し合うことに、相談して決めました――お願いします!」
あー、そう来ましたか……。
「『武器アイテム』のスロットは、俺一人で無いと……って言っても、納得してくれないんだろうね」
俺はそう言いながら軽く溜息をつく。
たぶん大嘘だって、バレてるんだろうなー。
「だってそれ、嘘じゃないですか」
やっぱバレてたか。
「たぶん僕らにも隠しておきたい何かがあるんですよね? でも僕らは何を見ても絶対に誰にも言いませんし、出てきた物はタロウさんの許可なしには絶対に見ることも触れることもしません! タロウさんが教えないというのなら、何が出てきたかも聞きません! ですから、お願いします!」
気が付くとアルスくんだけでは無く、仲間全員が俺のほうを向いて真剣な顔をしていた。
ふぅ、やれやれだぜ……。
「なしてそんなに『武器アイテム』のスロットにこだわるのさ」
俺としては、そこが解せぬ。
強力な武器が欲しいとかでは無さそうだというのは、さすがに俺でも分かるのだが……。
「だって……なんかタロウさんに信用されて無いみたいで、寂しいじゃないですか……」
あぁ……そういうことだったか……。
納得した。
俺も同じ立場だったら、同じことを思うだろうな。
みんなこっち見て真剣な顔をしてるということは、同じ気持ちということか……。
ふむ……ならば俺も覚悟を決めて、みんなを信じることにしよう。
「分かった、『武器アイテム』のスロットを回すよ。でもさっき言ったこと、絶対守ってよ――絶対だからね」
振りじゃないからな!
「もちろんです!」
信用するからねアルスくん――あと、みんなも。
話はまとまった。
俺はみんなから金貨10枚ずつ――計500万円を受け取り、出しっぱなしでそのままだった青い筐体へと投入した。
つーか、金貨50枚の投入はやはり少し面倒くさかった。
ちなみに金貨より額面の大きい通貨はあるにはあるのだが、白金貨といってプラチナ製で1枚1000万円というものなのである。
金貨と白金貨の間の100万円の通貨とか、作って欲しいよなー。
そんなどうでもいいことを考えながら、『武器アイテム』のスロットを――「レバーオン!」
『友情』と『信頼』と……あと……えーと……『何か』の、3つのリールが回り始めた。
くそっ! あと1つが思いつかなかった!
まず『友情』のリールの回転がゆっくりとなり――赤く光って停まった。
<爆魔の矢> ―回転中― ―回転中―
また何とも面白そうなのが……。
赤のレア程度なら渡してもよかろう――これはノミジのだな。
次に『信頼』のリールが停まる。
<爆魔の矢> <吹き矢> ―回転中―
イヤ、何でまた吹き矢……。
あ、まさか……最近忘れがちだったけど、まだ暗殺者に寄ってく設定とか生きてたのか?
いいかげんしつこいよなー。
そして最後に、何か適当なのが思いつかなかった3つ目のリールが――。
また赤く光ったし!
<爆魔の矢> <吹き矢> <飛斬の剣>
剣が出た。
それも赤のレアのヤツ。
うむ、これでアルスくんへの良い贈り物ができた。
ありがとう、ご都合主義――君のことは忘れないよ。
つーか、これからもよろしく。
念のために、内容をチェック。
名前は問題無さそうでも、間違ってこの世界にあるとマズそうなブツということもあり得るからね。
――――――――――――――――――――――――――
爆魔の矢
※弓専用※
※100本セット※
魔力を込めて射ると、命中時に爆発する矢。
爆発ダメージは、込めた魔力×20
―――――――――――――――――――――――――――
100本セットということで使いどころの判断を考えないとすぐ無くなりそうだが、これはなかなか良い物だと思う。
特に矢が通らない硬さの相手には、この矢ならダメージを叩き出せる可能性がある。
袋から取り出し説明をして、『爆魔の矢』はノミジに渡した。
空気を読んで大人しいが、ノミジの目が輝いているのが分かる。
試して見たくて仕方が無いのだろう。
次は――。
――――――――――――――――――――――――――
吹き矢:攻撃力37
筒から呼気により、針の付いた小さな矢を飛ばす武器。
――――――――――――――――――――――――――
はい、次――。
――――――――――――――――――――――――――
飛斬の剣:攻撃力876
斬撃を飛ばすことのできる剣。
斬撃の攻撃力は351
――――――――――――――――――――――――――
ほう、斬撃を飛ばせるのか。
普通に攻撃力も高いし、これはいい物だ。
でもアルスくんの今の剣もかなりの業物なんだよなー。
ふむ……ならば近距離と遠距離とで、使い分けするのがいいかもしれない。
俺は袋から『飛斬の剣』を取り出し、性能を説明しながらアルスくんへと渡した。
アルスくんもノミジと同様、やはり目を輝かせている。
「だったら、二刀流で使うのもいいかもしれませんね」
剣の説明を聞いたアルスくんの反応は、俺の予想外であった。
「へ? 二刀流とかできるの?」
「できますよ――というか、やらないと勿体ないですからね!」
できるんだ――つーか、ホント底が知れんな……この未来の勇者くんは……。
なんか急にみんな黙っちゃったな。
あるよね、こんなタイミング。
「さて、〆で『スキルスロット』を回すぞー」
なんか湿っぽい空気になりそうゆだったので、俺はわざと元気な声で言ってみた。
よし、ちょっと空気が明るくなったな。
そういや最近ステータスも見て無かったので、ついでにそっちも見てみることにしようか。
「ステータス!」
なんか『え~、そっからかよー』とか言ってるマリーカの声とか聞こえてるけど、気にするつもりは無い。
※ ※ ※ ※ ※
名 前:タロウ・アリエナイ
レベル:33/100
生命力:1782/1782(3300)
魔 力:1997/1997(3300)
筋 力:166(346)
知 力:191(348)
丈夫さ:109(339)
素早さ:67(336)
器用さ:238(350)
運 :333
スキルポイント:5
熟練ポイント:116
スキル:【スキルスロット】【アイテムスロット】
【光球:極】【着火:極】【暗視:極】
【お宝感知:極】【隠密:極】【鍵開け:極】
【気配察知:極】【隠蔽:極】【罠解除:極】
【水鉄砲:極】【呪い:極】【メテオ:極】
【真・暗殺術:極】【水中戦闘術:極】【投擲術:極】
【短刀術:極】【毒使い:極】【防具破壊:極】
【筋力強化:極】【真・餌付け:極】【魔力譲渡:極】
【解呪:極】【回復魔法:極】【吸着:極】
【便意の魔眼:極】【悪臭のブレス:極】
付与スキル:【刀術:中級】※森定貞盛の兜による
加護:【女神ヨミセンの加護】
状態異常:老化
※ ※ ※ ※ ※
うーむ……結局このミッツメの街に来てから、レベルが5つしか上がらなかったな……。
海の生き物の経験値って、難度の割に低いんだもの。
稼ぎは凄く良くて、手持ちの金は5000万円を超えてるんだけどねー。
つーか惜しい……。
【メテオ】の魔法が2000の魔力で使えるのに、老化が進んでるせいで僅かに魔力が足りぬ。
あとスキルの数がやたら多いのと――微妙な加護があるんだよなー。
まぁ、その辺は後回しだ。
どうせこの先一人旅になるのだ、考える時間ならいくらでもあるのだから。
それよりも今は『スキルスロット』を回さねば。
みんながの目がまだかと催促しているし。
まだ出しっぱなしだった半透明の青い筐体を消し――。
「【スキルスロット】」
改めてスキルスロットの筐体を呼び出す。
今現在5ポイントのスキルポイントを持っているが、レベル30を超えたので次回すとうっかりボーナスになってしまうかもしれない。
なのでまずは1ポイントを消費して『便利スキル』を回し、それから4ポイントを使用して『魔法スキル』のスロットを回す予定である。
つーか、いいかげん戦闘に使いやすい魔法が欲しい。
まずはスキルポイントを1つぶっ込んで――。
「レバーオン」
3つのリールがくるくる回って――。
なんか派手な演出の末に揃った。
<腹時計> <腹時計> <腹時計>
《【ボーナス】が揃いました。ボーナスが揃ったことによって、スキル【腹時計】が【真・腹時計】へとランクアップし、更に熟練ポイントが100加算されます》
やはり【ボーナス】が揃ったか……。
つーか毎度毎度【ボーナス】が揃う度に熟練ポイントが100増えてるんだけどさ、これマジでこの熟練度の設定とかいらんだろ、どうよ?
で、【真・腹時計】というスキルが手に入ってしまったのだが――。
まぁ、だいたいどんなスキルか想像できるけどねー。
一応確認するか……。
―――――――――――――――――――――――――――――――
【真・腹時計:極】腹の減り具合により時間を秒単位で知ることが出来る。
―――――――――――――――――――――――――――――――
これって時計持ってたら必要無いスキルだよね。
イヤ、便利は便利なんだけどさ。
今の時刻が『21時13分49秒』とか瞬時に分かるけどさ!
あと、なんか癖で熟練度を『極』まで上げちゃったけど、これ必要無かった気がする……。
よし! 切り替えよう!
そもそも『便利スキル』のスロットには期待してなかったし。
俺たちのスロットはこれからだ!
――ということで。
スキルポイントを4投入し、準備完了。
『魔法スキル』のスロットを『レバーオン』だ。
もはや説明不要であろう、目押しのできない3つのリールが回り始めて――。
停まった!
<治癒> ―回転中― ―回転中―
おぉっ! これはありがたい!
ちょうど欲しかったんだよなー、病気の治療のできる魔法。
次に真ん中のリールが停まる。
いいかげん普通の攻撃魔法が欲しいんだが……来ないもんかねー。
<治癒> <不死者消滅> ―回転中―
これもありがたいな。
実はソロになってから行こうと思ってた場所には、アンデッドが出るという話なのだ。
つーか俺ってばもう【回復】の魔法も持ってるところに、これで【治癒】と【不死者消滅】が来たので、これ聖属性回復職と言っても通用するんじゃなかろーか?
まぁ、それ以上に暗殺者系のスキルが充実しているんだけどもさ。
いっそ合体して、回復系暗殺者というのは――はっ! いかんいかん、うっかり自分を暗殺職だと認めてしまうとこだった……。
俺は斥候、俺は斥候……っと。
で、自分に斥候だと言い聞かせているうちに――。
最後のリールが停まった。
<治癒> <不死者消滅> <毒球>
ついに攻撃魔法、キタ――――(・∀・)――――のだけれど……。
毒ですか……そうですか、そう来ましたか……。
うん、まぁいいや――無いよりマシだし。
「なんか、またわたしと被ってるしー」
引いた魔法のラインナップを見て、何やらパネロが不満層である。
まぁねー、【回復】の魔法も既にカブっていた上に、【不死者消滅】も【治癒】もパネロの持ってる魔法スキルとしてカブったからねー。
「まぁまぁ……ちょうど離脱のタイミングだったし、いいじゃん」
頬を膨らましているパネロは放置しておいて、一応どんな魔法を引いたかチェックしておこうっと。
あ、忘れずに熟練度も上げておかないと。
―――――――――――――――――――――――――――――――
【治癒:極 / 聖属性】老化・呪いを除く状態異常を治癒できる / 消費魔力:20
―――――――――――――――――――――――――――――――
うむ、知ってた。
老化は治せないんだよね。
はい次ー。
―――――――――――――――――――――――――――――――
【不死者消滅:極 / 聖属性】呪われた不死の存在を消滅させる / 消費魔力:77
―――――――――――――――――――――――――――――――
ほう……消滅させられるのは、呪われた不死の存在だけなのか。
…………。
思ったのだが……呪われた不死の存在を【解呪】したら、どうなるのだろう?
ちょっと実験してみたいな。
―――――――――――――――――――――――――――――――
【毒球:極 / 邪属性】毒を精製し球状にして飛ばすことができる / 消費魔力:55
※毒の種類は任意に変更可※
―――――――――――――――――――――――――――――――
なるほど、この魔法があれば毒には不自由しないね♪
……って、そんなに毒とかいらんし。
それに魔物や獣を毒状態にしてしまうと素材が駄目になるから、冒険者としては毒はあんまし使えないんだよねー。
あとすごーく強い系の魔物は、だいたい毒が効かないという話も聞く。
使い道は限定されるけど、俺の初めてのマトモな攻撃魔法だ。
これはこれで、ありがたく使わせてもらおう。
さて、これで『大スロット大会』は終了した。
――終了してしまった。
盛り上がりの時間が終わってしまったので、空気がちょっとしんみりし始めてしまった。
こういう空気は苦手だな。
なんとなーく会話に困ってしまい、ついついアルスくんにもらった『経験値カプセル』なんぞを手でコロコロと転がしてしまう――。
そうだ、この『経験値カプセル』この場で使っちゃおうかな?
ほら、プレゼントとかはその場で開けた方がいいとか言うじゃん!
「あのさアルスくん、この『経験値カプセル』って今使ってみてもいい?」
「あ、はい! もちろんです!」
うむ、少し空気が明るくなったな。
アルスくんにも快諾してもらったことだし、早速この『経験値カプセル』を使って見よう!
使い方は――カプセルを開けるだけだったよね?
何が出るかなー、って経験値が入ってるのは知ってんだけどさ。
では……パカッとな。
カプセルを開けると、中からキラキラした何かが出てきた。
そのキラキラが俺の頭上に移動して、頭から降りかかる。
たぶん傍から見たらそれなりのシーンになっているのだろうが、ぶっちゃけ本人にはロクに見えてないので俺にとっては大して面白いものでは無い。
《レベルアップしました》
おや? なんかレベルアップしたし……。
けっこう溜まってた経験値があったんだなー。
「ひょっとしてレベルアップしたんですか?」
「うん、おかげさまで」
実際アルスくんのおかげだしね。
ん?……待てよ……?
さっき見たステータスだと、確かギリで魔力が2000に届いてなかったはず……。
だったら今は……!
「ステータス!」
改めて確認すると――やはり!
「どうしたんですか!?」
俺の不審な行動にさすがにアルスくんも驚いたらしく、いったい何事かと聞いてきた。
「魔力が2000を超えた」
「2000ですか?」
そう言われてもピンと来ないようなので、俺は分かるようにともう一度アルスくんに説明する。
「魔力が2000を超えたから、【メテオ】の魔法が使えるようになった」
「【メテオ】がですか!?」
【メテオ】の魔法に関しては、以前からアルスくんに『凄い魔法なんだよ』とか『隕石を落とせるんだ』とかしつこく繰り返し話していたので、どうやら分かってもらえたようだ。
「そう、ついに……ついに俺は【メテオ】が使えるようになったのだ!」
この世界に来てからの出来事を走馬灯のように脳裏に浮かべながら、俺はしっかりとガッツポーズをした。
これで俺は、たとえ相手が強大な敵であっても戦えるようになったはずなのだ!
「使って見ませんか!」
アルスくんがそんなことを言い出した。
確かに俺も使って見たい――だがむやみに使っていい魔法では無い気もしないでも無い。
万が一、人に当たったら大変だし。
「わたしも見たいです!」
「おらも見たいだ!」
「アタシも見たいわね」
「オレも見たいぞ!」
ふむ……仲間全員に言われては、さすがに俺も断れぬ。
つーか、俺は今夜で『黄金の絆』を抜けてしまうので、これを逃すともう見せてやれる機会とかが無いかもしれない。
「よし、じゃあ使ってみよう!」
強力な魔法だけど、とりあえず人のいなさそうなとこに落とせば問題は無いはずだ!
そうと決まれば、早速みんなで街の外に出よう!
…………
ミッツメの街の外へと出た俺たちは、人気の無い場所を求めて少しだけ街から離れた。
出た門は西側――海とは反対側である。
最初は【メテオ】を海に落とそうかと思ったのだが、落とした時に大波が発生して漁師さんたちに迷惑がかかりそうなので止めておいた。
陸地のほうが人のいない場所を探すのが面倒そうだけど、たぶんなんとかなるだろう。
「この辺でいいかな?」
俺の【気配察知】を目一杯広げると半径5kmほどになるはずだが、その範囲内に人の気配は一切無い。
この辺りならたぶん問題ないだろう。
「じゃあ始めるよ」
俺の言葉を合図に、みんな一斉に空を見上げるが――ちょっと早いようだ。
なんか【メテオ】の魔法を使おうと意識したら、落下地点の指定モードに入ってしまったのだ。
この【メテオ】の魔法には、最初に落とす対象や地点を決定するというプロセスが必要らしい。
普通の魔法だと、発射する方向を無意識で決めてる感じなんだけど――それだけ特殊な魔法ということなのだろうか?
落下地点を指定しようと意識と目線を動かしていると、【メテオ】の魔法の射程距離がかなり超長距離であることが分かった。
なんと目視できる山の山頂までが、射程に入ってしまうのだ。
ただし、山の向こうには落とすことができないらしい。
山頂より近くても目視できない場所を落下地点に指定できないようなので、目視できる場所だけが【メテオ】を落とせる場所ということなのだろう。
ということは、目視できない敵を目標にして【メテオ】を落とすことはできないということか……。
ふむ、やはり試射をすることにして良かった。
「まだだかー」
ノミジがそろそろしびれを切らしてきたらしい。
あいつ、じっとしてるの嫌いだからなー。
「ちょっと待ってね、なんか思いのほか射程距離が長くてさ……」
「どこまで届くんだ?」
「ガスガデル山の山頂まで届く」
聞いたマリーカが驚いた顔をしている。
だよねー、普通あんなとこまで魔法なんか届かないもの。
「凄いですね――だったら『死の谷』とか狙ってみるのはどうです?」
アルスくんの提案してきた『死の谷』とはガスガデル山の中腹から麓へと広がる谷であり、有毒ガスが噴出していることから人どころか魔物すらほぼ住めないという場所だ。
もちろんここからでも『死の谷』は目視できる。
ガスガデル山の中腹から麓に向かって、森林が全く見られず山肌が露出している場所がそうだ。
なるほど、あそこなら間違いなく人はいないだろう。
というかガスガデル山とその周辺の全てが、高ランク冒険者でも躊躇するほどの魔物がうようよしている危険地帯で、人が住むなどあり得ない地域なのである。
「いいねアルスくん、それ採用!――じゃあ今度こそ行くよ!【メテオ】!」
俺は『死の谷』を目標地点と定め、ついに【メテオ】の魔法を放ったのであった。
……ここまで、長かったなぁ。
つーか、一気に魔力使ったせいか頭が痛てーし。
――――落ちてこねーな。
発動してから10秒くらい経過しているのだが、まだ全然見えてこない。
まさかとは思うが、実は本当に宇宙空間から石を引っ張ってくる魔法とかじゃなかろーな……。
そんなことをチラッと考えたところで、ようやく夜空に光るものが見えた。
しかもかなりの高空から。
「うわー」
「きれいだべ」
「すごいわね」
「うぉー」
女性陣が喜んでいる声が聞こえる。
アルスくんは黙って、【メテオ】の落下を見ているようだ。
落下してくると、【メテオ】は1つではなく5つであるのが見えるようになった。
そういやスキルの説明に、そんなこと書いてあった気がする。
そしてその5つの落下する光は――。
目視からきっかり24秒後に、『死の谷』へと落下したのであった。
ドドドドドオオオォォォォォン!!!!!
もの凄い音とともに、地面が揺れる。
一瞬宙に浮いたぞおい!
見ると落下地点では、巨大な土煙が舞い上がっていた。
イヤイヤイヤ! ヤバいだろこれ!
これ攻撃魔法とかじゃなくて、もう『戦略兵器』レベルの威力じゃねーか!
《レベルアップしました》
《レベルアップしました》
《レベルアップしました》
《レベルアップしました》
《レベルアップしました》
《レベルアップしました》
《レベルアップしました》
《レベル40に達しましたので次回の【スキルスロット】では【ボーナス】又は【コンボ】が発生します》
うわー、なんかすげーレベルアップしたし!
だいぶあの辺の生き物を、たくさん殺しちゃったんだろうなー。
『これはもう戦争じゃない――虐殺だ!』などというセリフが頭をよぎったが、そんなこと考えてる場合じゃないよねたぶん。
つーか、地形変わってね?
谷が穴になってるように見えるんすけど……?
あと地滑りも起きてるように見えるし……。
やべーな……。
さすがにやり過ぎた気がする。
あと、なんか街のほうが騒がしくなってきた気もする。
「みんな聞いてくれ――俺は今すぐに旅立とうと思う!」
唐突にそんなことを言い出した俺を、みんな目を丸くして見ている。
うむ、気持ちは分かる。
「そんな訳だから、みんな何も見なかったということで、ヨロシク!」
これにはさすがに抗議が来た。
「何も見なかったは、さすがに無理があるんじゃ……」
なるほど、パネロの言うことも一理あるか……。
「じゃあ、普通に『流れ星が落ちてきた』とか、そんなんで!」
「あー、まぁ、それならなんとか……」
「要はおっさんさがやったと、言わなければいいんだべ?」
そうそう、それで頼むよ――マリーカ、ノミジ。
「そうと決まれば、早く逃げた方がいいんじゃない?」
「逃げるとか人聞きの悪い……ちょっと早く出立するだけだよ」
クェンリーよ、これは逃げるのでは無いのだ。
そこんとこ間違えないように。
「タロウさん!」
「ん?」
「お元気で! 絶対にまた会いましょう!」
ありがとうアルスくん、もちろんだよ!
「またな! 親友!」
俺はアルスくんに向かって、大きく手を振った。
世話になったな、友よ。
感謝してるぞ、仲間たちよ。
最後はドタバタになっちまったけど、湿っぽくならなかったんでこれはこれで良しだ!
これでようやく、俺も独り立ち。
気ままな異世界見聞録が、これから始まるのだ。
とりあえず最初は何を見に行こう?
俺の異世界の旅はこれからだ!
まだもうちっとだけ続くんじゃ




