43 サボったあいつ
期末試験が終わって数日。
模試という試験がまだ残ってはいるが、学校の成績に関連する大きな行事は全て終わった。
終業式まで残り僅か。
夏休みが近付くと気が抜けてしまうのが学生という生き物だ。
そんな中、週に一度設けられているホームルームの授業で全校生徒は体育館に集められていた。
中等部はいない、高等部だけの集まり。
そして壇上に立つのは生徒会副会長の坂田真由。
「本日は来年度以降の生徒会役員を務めるメンバーの選定方法と、生徒会長についてお話をします」
集められたのは生徒会についてを説明するため。
二年生、三年生は去年も経験しているため今更な話ではあるが、一年生にとっては初めて聞かされる情報。
そして、二年生にとっては来年度の生徒会長は関係あるのでこの場に呼ばれている。
三年生は受験をしない生徒が大半であるため、授業を押しのけてこの場に呼ばれてる。
ただのギャラリーである。
「我が溟海高校では毎年、学年上位の成績者から厳選して生徒会役員の席に就きます」
初めて知る一年生は多いだろう。
しかし、大半の学生にとってはどうでもいい話でしかなかった。
学年上位じゃなければ選ばれることはないと言われているようなものだからだ。
それに加えて、生徒会など興味がない。
この学校に生徒会募集の知らせが無いことにすら気付いていない学生が大半だろう。
それくらい、どうでもいい話でしかなかった。
全校生徒の前で話してる坂田副会長が美人だなぁ……くらいは感じてるのかもしれない。特に男の視線はしっかりと前に向いているのだ。
「現生徒会で話し合いを重ねた結果、一年生から三名の生徒が次期生徒会長候補になりました。本日はその三名の演説を聴いていただきます」
そう言ってすぐに一年生の紹介が始まった。
「まずはじめに、一年六組の田口 宗介くん」
そのまま司会進行を務める真由のアナウンスで呼ばれた生徒が舞台裏から姿を見せた。
眼鏡をかけた知的な男子生徒だ。
◇
「ご清聴ありがとうございました」
女子生徒がそう言うと、体育館は拍手で包まれた。
トップバッターを飾った田口宗介の時もそうだったが、二人目の笠原 蛍もまずまずの演説。
共に学年上位の成績なだけあって言葉選びが上手い。
「続きまして最後の一人……ですが」
学年トップ3でまだ呼ばれていないのは凛月だけだ。
しかし――。
「本日は欠席のため、本人の登壇はありません」
最後の一人が欠席。
大半の生徒はただ休んでいるだけとしか感じないだろう……。
「あいつ、このために今日休んだのかよ……」
呆れながらもそう呟いた賢一。
下書きを書くのに随分と苦労しているようだったが、まさかこんな手段をとってくるとは予想もしていなかった。
肝が太いのか、面倒臭がりを極めた怠惰な奴なのか……。
少なくとも行動力と決断力は一丁前だった。
「本人に代わりまして、現生徒会長より夜星凛月くんの演説代行があります」
そう紹介されて登壇したのは色白な男、宮國生徒会長だった。
「えー、夜星凛月くんに代わりまして、この宮國が彼の演説を代行させていただきます」
そう言って淡々と始まる演説。
どうでも良い、興味ないと聞く耳を持っていなかった生徒たちが興味関心を持って壇上を見つめた。
本人が欠席していて、生徒会長が代行を務めるとは何事だと、誰もが疑問を浮かべているのだ。
「今から私が読み上げるのは、私なりに言葉を改変させていただきますが、基本は彼が提出してくれた下書き通りに話させていただこうと思います」
そう言ってチラッと下を見た。
息を吐く。
そして――。
「私が生徒会長になった暁には、冥海ブランドを更なる発展へと導くため、あらゆる行事等で生徒の皆様がより一層楽しく参加できるよう、生徒の意見を多く取り入れ、生徒会の立場を存分に発揮して改革を行なっていこうと考えています」
語り初めは無難だ。
誰もが演説で話すような内容で特別なことはない。
あるとすれば、宮國会長の話し方だろう。表現力が凄まじい。聴きたくなるような演説をライブしているのだ。
「さて、この導入はあくまで最低条件だと私は考えているので、さっさと本題に入りましょうか。私が生徒会長になったのならば、生徒第一の学校作りをしたいと考えています。そのために欠かせないのは、制服の規定についてです」
宮國会長がそう告げると、聴衆はザワザワと騒がしくなり始めた。
「女子のスカートの丈や、パーカーの着用など、校内では自由とする方針を目指したいと考えています」
その瞬間、静かだった生徒たちが騒がしくなった。特に女子の声が大きいだろうか。
悲鳴のような声もあるが、スカートの丈と聞いて興味が湧いたようだ。
「あくまで校内に限っての話であり、極端な短さはNG。しかしある程度の自由があってこその学園生活。自由の反対が責任と言われるように、伝統と気高き誇りを掲げる名門冥海において、責任を持つなんて造作もないはずです」
その言葉で生徒は笑顔に、教員側は表情をしかめて聞いていた。
「それと目安箱についても有効活用すべきかと私は考えました。目安箱なんて効果があるのかどうか胡散臭いと考えている諸君、ならば月に一度、そのアンサーを掲示板に貼ろうではないか! 前向きに検討……いや、それこそ胡散臭いか。可能な範囲であれば必ずや実現して見せよう」
演説に拍車がかかった。
舞台裏からその様子を眺めていた坂田副会長にとっては見慣れたギャップ。
普段のやる気ない様子からは考えられないほど、表現性が豊かな男は壇上にいた。
普段との差がこの会長にはあった。
それがカリスマ性を磨き、生徒会長として大成させたのかもしれない。
「あ、もちろん生徒会長へのラブレターも大歓迎。ラブレターで埋めちゃってくださいな!」
最後のそのセリフが笑いを誘い、演説は終わった。
宮國会長は一息吐いて舞台裏へ降りていく。
「お疲れ様です」
「あぁ……」
眠たそうに相槌を打つ。
このギャップがなかなかに酷い。
「良いんですか? あれじゃあ凛月くんではなく宮國会長そのものでしたけど」
「構わないだろ。あくまで俺は下書き通りに話していた。それと、俺が代行を務めることになったのは夜星がサボったからに他ならない」
「サボったと決めつけるのはどうかと思いますけど」
「昨日、あいつが保健室にいるのを見た。そして早退してた」
「本当に体調悪かった!」
「早計だ。俺は確かに見た。あいつが体温計を温めて仮病を使っていたところをハッキリとな」
「げっ! あの子卑怯だったんですか?」
「だろうな。勝てる勝負しかしない主義だろあれは」
模試での勝負が良い例だろう。
生徒会長の実力を聞けば、途端に勝負を放り投げた。あれは負けると踏んだからに他ならない。
「徹底してますね。それなら田口くんと、笠原さんから選んだ方が良い気がします。その方が生徒会のためにもなりますし」
それが得策だろう。
夜星凛月は生徒会長の器ではない。
そう言いたいところだが、そんな単純な話でもなかった。
「これで逃したら俺の負けだろう? それは許せんな……」
「どこで負けず嫌いを発揮してるんですかっ!」
よく分からない宮國会長vs夜星凛月の戦いの火蓋はとっくに切られていたらしい。
先手を取ったのは宮國会長だったようだ。




