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20 スポ根なんてやってる場合じゃなくて

前日は2話投稿しました!

まだ見てないという方はそちらからお願いします!


 結局、最上が立ち去るまで5分かかった。俺もその間、ずっと座って瞑想をしていた。

 何も聞いてない。

 何も知らない。

 そう自分に言い聞かせ、ただじっと5分という短いようで長い時間を過ごした。

 それでも試合開始には間に合った。

 俺はベンチを温めるという立派な役がある。

 ベンチ要員は決して馬鹿にできない。選手のサポート、レギュラー陣に万が一のことがあった際の補欠。

 ベンチだって立派なメンバーなのよ。

 そう思っていると。


「悪い夜星。俺はここまでだ」


「大丈夫なのか宮下?」


「ああ、ちょっと捻っただけだから平気だ。けど試合は流石にな……」


 そこそこ活躍していた宮下が負傷した。

 ベンチを温めていたのは俺だけ。

 つまり俺が出場する以外の選択肢がないのだ。


「くっ、ここで秘密兵器の登場か」


「何言ってんだお前?」


 ひとまずビブスを脱ぐ。

 そして軽くジャンプして体を動かし、ストレッチを済ませてフィールドの中心に足を運んだ。


「宮下は?」


 槇村が汗を拭きながら尋ねてきた。


「問題ないって」


「そうか……」


 宮下はなかなか派手に着地を失敗していた。その負荷があまりにも大き過ぎたようだ。

 

「まだ試合始まったばかりだから気楽に行こうぜ」


 流石は今回の球技大会でクラスの盛り上げ役として活躍していた杉下。運動部なだけあって声量が大きくムードメーカーとして試合中も存在感がある。

 そんな杉下に背中を押してもらえると、俺まで運動部なんじゃないかって勘違いしそうになる。

 スポ根とか熱血とか大好物だし、そういう雰囲気に流されやすいんだよね俺。

 なんだか熱くなってきた。

 そう考えていると。


「あれ、凛月試合出てんじゃん! 頑張れ凛月!」


 騒がしい体育館内でも俺の耳にハッキリと届いた幼馴染の声。

 美織は俺たちが試合をするコートのそばでクラスメイトたちと観戦しているらしく、めちゃくちゃ目立つように手を振っている。

 流石に手を振りかえすだけの度胸はない。


「ちょっと美織、相手応援してどうすんのよ?」


「あ、そうだった。凛月達が戦ってるのうちのクラスの男子だもんね」


 天然なのか、素で幼馴染を応援していたらしい。


「ちっ、こいつが夜星か……」


「広末さんとイチャイチャしやがって」


「潰す」


 気のせいだよな?

 殺意と敵意と殺意と殺意が俺に痛いほど向けられてるような気がするんだけど……。

 まあ、流石に気のせいだよな。

 

「「「潰すっ!」」」


 あ、気のせいじゃなかったわ。

 そう言えば美織ってクラスの男子とはあまり話さないんだっけ?

 他クラスの男と仲良さげにしてればそりゃあ面白くはないよな。


「なんか相手気合い入ってないか?」


 熱血の杉下でさえ、相手の迫力に引いている。

 燃えるねこの展開!


「杉下」


「どうした夜星?」


「ゲームメイクは俺に任せてくれないか?」


「夜星に? いけるのか?」


「人生何度あるか分からない本気の本気を出す時が来たようだぜ」


「何言ってんだお前?」


 俺は指をぽきっと鳴らした。

 首もこきっと鳴らした。


「俺のドリブルは電光石火」


「はぁ?」


「レイアップの美しさは芸術家にも劣らない」


「……」


「放たれたスリーポイントシュートは綺麗な弾道でゴールに吸い込まれる。それはまるでゴルフのホールインワンのごとく、ブラックホールのように」


「みんな、取り敢えず切り替えて行こうぜ!」


「「「おぉおおっ!!」」」


 各々が自分のポジショニングをとった。

 酷いぜ。

 こっちはスポ根の強キャラ感を出してたって言うのに。誰か一人くらい反応してくれたっていいじゃない。


「よぉ、女子から声援を受けとって浮かれてるとこ悪いけど、手加減しねえからな」


 違うんだよ。

 相手チームのイカつい男子に絡まれたいわけじゃないんだよ。

 そこで俺はふと冷静になった。

 スポ根ムーブを楽しみたいところだが、世の中の青春真っ只中の高校生について考えてみたのだ。

 どいつもこいつも色恋沙汰が絡むと厄介になる。人間の本能ってのは、愛に飢えているのか?

 嫉妬って言葉はスポーツでも仕事でもどこでも聞く話だが、恋愛においてはありふれ過ぎている気がする。

 

「夜星っ!」


 杉下から貰ったパスを受け取りながらも、心は冷静に、それでいて闘志は十分に燃やしながら思考を続ける。

 こうして俺に対して嫉妬心を向けてくる目の前の男子も、美織に対して好意を向けているからなのか……。

 それとも美織に限らず女の子から応援されるという行為自体に対する怒りをぶつけてきているのか……。

 その感覚は分からなくもない。

 街中でイチャつくカップルを見てリア充爆ぜろと文句を言う奴らも多い。

 

「くっ、このっ!」


 俺をマンマークしていた男を揺さぶるようにフェイントをかける。

 緩急を活かしたドリブルだ。相手の切り返しの隙を狙ってドライブに踏み込み、相手がギリギリの対応をしてきたら再び緩急で揺さぶる。

 素人のディフェンスほど咄嗟の切り返しに弱い。瞬発力も経験もないからだ。


「止めろっ!」


 好きな人に自分でない別の好きな人がいたら?

 そんな話を前に華紫波としたことがあった。


「くっ、パスコースを塞いで囲めっ!」


 俺は「嫌だ」と、そう答えた。

 無論本音だ。

 そういう意味では俺も立派に嫉妬するし、敵意や殺意を向けたくなるタイプの人間。

 だけど、それをしたって意中の相手が俺に振り向くはずもない。

 あくまで牽制……いや、負け犬の遠吠えみたいなもんか。

 やるだけ無駄だと思う。


「ちっ、いい加減止まれよっ!」


 気がつくとダブルチームを抜き去り、最初にマンマークをしていた相手も含めて三人抜き。

 そして指示を出していた司令塔が満を持してボールを奪取しに来た。

 冷静になれ。

 俺一人に対して敵四人が動いた。

 それはつまり、俺以外の四人がドフリーに他ならない。

 俺はゴール近くで一番フリーな槇村にパスを出す。


「ナイス夜星」


 槇村はそのままレイアップで決めた。

 


 ◇



「お疲れ。これ飲みなよ」


「ありがとう」

 

 試合が終わって人気のない場所まで足を運ぶと、試合を観戦していた美織が労いの言葉とスポーツドリンクを渡してくれた。


「上手いね凛月。やっぱり小学生の頃から私とやってるだけあるよ」


「美織には何度も付き合わされたしな」


「ミニバスの子たちにも混ざってやってたもんね」


「今思えば、小学生のコミュ力でどうにか切り抜けてたけど、知り合いの知り合いとバスケするとか気まずいにも程があんだろ」


 知り合いは美織だけ。

 全員で15人とかいたけど、美織以外誰も知らない状況。そこに混ざる俺。

 よく頑張った俺。


「ねえ、試合中何考えてたの?」


「勝つことを考えてた」


「いや、そうじゃなくて、もっと他に何か……」


「どうしてそう思う?」


「癖だよ。凛月って時々つまらなそうな顔を浮かべるから。一見すると集中していて、それで気難しい顔を浮かべてるように見えなくもないんだけど、私レベルになると流石に分かるし」


「つまらなそうだったか?」


「そりゃあつまらなそうでしたよ。ゴール決めてもチームが盛り上がってる時も、勝った時もすんと済ました顔だったし」


 そういえば勝った時、ハイタッチを求められたがあまりにもぎこちなく返してしまったかもしれない。

 要反省だな。


「何考えてたの?」


「色恋沙汰に付きものの悩みというか、永遠に解決することはないだろう迷宮入り課題をな」


 隠すことはない。


「面白そうな課題じゃん。え、なに? もしかして好きな人でも出来た!?」


 ニヤリと面白いおもちゃを見つけたぞ、という小学生のような目を向けてくる。


「別に……」

 

「そうやってはぐらかして……。凛月って人を好きになるのがダサいとか思うタイプでしょ? 俺は恋愛とか興味ないからって思春期男子の逆張りをするタイプでしょ?」


「違えよ」


「じゃあなんでつらまらなそうにしてたの。どうして色恋沙汰について考えてたわけ? わざわざ興味ないことに頭を使う理由は何なの?」


 気のせい……ではない。

 美織は少しだけ怒気を孕んだ声で俺に質問をぶつけてきた。

 他人の思考なんて自由そのもの。他人が理解する必要なんて一切ない。

 だというのに、お節介なくらいに美織は俺から答えを引き出そうとしている。向けられてくるつぶらな瞳がそう物語っているのだ。


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