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17 生徒会長を目指す志はカッコよくて


「夜星、お前の野望を聞かせてくれ」


 唐突だが現在、俺は購買で昼食を購入し渡り廊下を歩いているところだった。

 そんな時に、クラスメイトの安曇 賢一(あずみ けんいち)が話しかけてきた。

 すらっとした高身長でメガネをかけた知的な男子。話したことは一度もない。


「野望?」


 なかなかリアルで聞かないワードだ。アニメとか漫画でしか聞いたことがない。


「先生に聞いた。夜星がクラス一位だったんだろ?」


「安曇は?」


「二位だ」


「そっか」


「で、野望は?」


「ちょっと待て、話が急展開過ぎる。野望ってのは?」


「野望とは、その人間が目指す大きな――」


「いやいや、そういうことじゃなくてだな……」


 野望の意味くらい知ってるっつうの。

 俺が聞きたかったのはどうして話したこともないようなクラスメイトに野望を聞いたのかという事。

 普通聞かないでしょ。


「クラス一位の意味を知ってるか?」


「もちろん知ってるけど」


「少なくともお前は現段階において、クラスの中ではトップなわけだ。それはつまり、何をするにしてもお前が一番可能性を秘めているということ」


 言い得て妙だな。


「知ってるか夜星。どうやらこの学校の生徒会ってのは成績優秀者しか入れないらしい」


「へー」


「つまりだ。お前が俺たちのクラスでは一番生徒会に近いということ。これから行われる校内模試や校外模試の結果によっては、お前が生徒会長になる可能性だってあるわけだ」


「やらないぞ? 立候補するつもりないし」


「残念だが、うちの学校は代々首席が生徒会長を務めているらしい。現生徒会長もそうだ」


「まじ?」


 初耳で有益な情報だ。

 生徒会なんて微塵も興味はないが、代々首席が勤めてきたという話は無視できない。

 たまたま首席の人たちが生徒会長になりたかったなんて都合のいい話はないだろう。

 おそらく首席が生徒会長を務めるって暗黙の了解なのかもしれない。

 そうすると困るのは俺だ。

 自惚じゃない。クラスで一位だったということは学年でも上位。勉強で手を抜くつもりはないし、やるからにはトップを目指すつもりだ。

 けれど、万が一にも首席になったら?


「生徒会とか入りたくないんだけど……」


「だろうな。大半の生徒もそう思ってる。しかし、それ故だろうな……あまりにもやりたいと言う生徒がいないから学年上位の優等生から毎年選ばれるんだろう」


「それでいいのか生徒会?」


「やりたがらない学生ばかりなんだから仕方ない。むしろ優秀な生徒が生徒会長になるのは必然だろう」


「たしかに……」


 凄いな安曇は。

 話し方に説得力がある。聞いていて理解しやすい話し方だ。


「安曇は生徒会に入りたいのか?」


「ああ。野望のためにもな」


 野望……好きねその言葉。

 けど、野望ってのは本人の身の丈に合わないような大きな夢の事だろう。

 高校一年生でそんな夢があるならかっこいいと思ってしまう。


「安曇の野望を聞いてもいいか?」


 気になったから聞いてみる。

 同級生の夢を聞く機会とかなかなかないしね。


「俺の野望は医者になって、父の病院を継ぐことなんだ」


「父親が医者なのか。しかも父の病院ってことは開業医なんだろ? めちゃくちゃ凄いな」


「ああ、俺の誇りだ。そして照れ臭いがそんな父が俺の憧れでもある」


「いいね。かっけえよ」


 親が医者な時点でまず凄いが、そんな親に憧れを抱き自分もそうなりたいと思えるのが心底かっこいいと思えた。


「将来は医学部に通いたい」


「冥海大学にも医学部はあるな」


「俺はそこを目指してこの学校に入学したんだ」


「なるほどね。内部推薦枠を狙ってるのか」


「大学受験で冥海大学の医学部を狙うか、高校から入学して内部推薦の枠を狙うかのどちらかを考えた時、見えない敵と狭い枠を争う大学受験よりも、視える同級生と三年間競い合って枠を争った方が勝算があると判断したんだ」


「マジで凄いな。そこまで考えて入学してる奴なんてそういないぞ」


 冥海大学の医学部といえば私立じゃトップの偏差値だし、国公立を含めても五本指には入る。

 そして冥海ブランドとOBたちからの寄付金で年々研究の規模も拡大しているらしく、ニュースでもしょっちゅう目にするようになった。


「毎年内部推薦枠を利用して医学部進学するのは三人から五人。ばらつきはあるが、多くて五人という事を踏まえると本当に狭き門だ」


「だな」


 医学部に限らず、溟海大学に内部推薦する枠は他学部も当然用意されていて、九割はそれを利用する。

 成績が足りなかったり、行きたい学部がなかったりする場合は他大学を受験するらしい。


「ここでさっきの話に戻すが、俺が生徒会長を目指す理由はただ一つ、評定を上げるためだ」


 当然、成績順で内部推薦枠が回ってくるのだから評定を上げることは大事だ。

 

「枠が全て埋まったとして、希望者の中から選ぶ際、成績が近いもの同士なら生徒会長をやっていた方が有利になる」


「確かにな……」


「生徒会長をやっていれば医学部に行けるわけじゃないが、一つの武器には間違いなくなる。無論、生徒会長になって今まで通りの勉強時間が確保出来なければ本末転倒だが、医学部に入れば勉強漬けって言うしな。その練習だと考えれば恐れることもない」


「やっぱすげえや安曇。そんな立派なビジョンがあるならお前が生徒会長になるべきだと思うんだけど」


「野望なら好きなだけ語れるさ。俺にその実力があるのかどうかが問われるんだ」


「クラス二位だろ?」


「一位じゃない。多くて五枠の中に入るには、少なくともクラスで一番じゃなきゃだめだろ」


「そっか……」


 クラス一位だった俺がああだこうだと助言をすれば上から物を言っているように感じられるかもしれない。

 素晴らしい野望……いや、素晴らしい夢だと思った。けれど、一位の座を簡単に譲るわけにもいかない。

 もっと言えば、簡単に譲られたクラス一位で、学年上位になれるかどうかも怪しい。

 こればかりは安曇の努力次第だ。


「高校一年生のうちはカリキュラムが異なる内部進学組と俺たち高校進学組の成績を定期試験で測ることは出来ない。勝負になるのは内外問わず模試になってくる」


「もしかしたらクラス二位でも学年上位五名に名を連ねるかもな」


「そうなったらお前は本当に首席の可能性が出てくるぞ?」


「それは嬉しいようでなんか嫌……うん、流石に嬉しいんだけどさ。でもまあ、模試になったら安曇がクラス一位の可能性だってあるし、やってみなきゃ分かんないか」


「ああ。俺の当面の目標は夜星に勝つことだな」


「なら負けないようにしなきゃだな」


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