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14 放っておけない幼馴染


 サッカー部とバスケ部が来て一時間くらいが経過した。最初の方はワイワイと騒いでいたが、時間と共にみんな勉強に集中していたと思う。

 周りの客が徐々に増えたってのもあるだろうけど、溟海生はそもそも勉強をするのが得意な人たち。

 みんな凄まじい集中力だ。

 そんな中、勉強をしているようでずっと落書きをしていた朔楽がいよいよ落書きすら飽きてしまったらしい。

 落書きの手を止めて俺の方へと視線を向け。


「勉強してんのか?」


 俺の手元を見つめてそう訊ねてきた。


「してないように見える?」


 朔楽と違って教科書を読み込んでいた俺。真面目に勉強中よ。


「科目は?」


「世界史」


「織田信長は何をした?」


「世界史だって言ってんだろ!」


 ああ、今ので全部抜けたかも……。


「そろそろ行くぞ」


「結局行くのね……」


 美織が来たからてっきり大人しくしてるのかと思っていたが、さっさとバッティングセンターに行きたいらしい。


「帰るの?」


 案の定、美織が気にかけてきた。


「帰る」


「凛月も帰るの?」


「朔楽が帰るからね」


「本当に二人とも帰るの?」


「帰るから荷物まとめてんだろ?」


「遊びに行くとかじゃなくて?」


「……」


 あっ……こりゃあかんわ。

 図星過ぎて朔楽何も言い返せなくなってる。

 こういう分かりやすいところが朔楽の良さでもあるが、長年一緒に暮らしてきた美織が見逃すはずもない。


「どこ行くの?」


「どこでもいいだろ」


「パパに言うよ?」


「……」


 パパには弱いらしい。


「バッティングセンター」


「勉強は?」


「帰ったらする」


 流石にパパというワードを出されて強気でいられる朔楽ではない。

 テスト前に遊びに行くなど言語道断。 

 それが広末家の大黒柱の絶対理念。

 やるからには死力を尽くせ。そう幼い頃から子供たちを育ててきたことだろうし、その教育の賜物とも言えるだろう、二人は実際に賢くて優秀に育った。


「凛月も行くの?」


 不安そうに俺へと視線を向ける美織。


「行くよ。夜飯を奢ってもらえるし」


「は? 負けた方が奢るっつう話だぞ?」


「だから奢ってもらうんだよ。どうせ勝つし」


「しばく」


 そう言って朔楽は歩き出した。

 俺も美織にバイバイと告げて朔楽を追う。

 美織は朔楽を脅していたが、きっと父親に報告することはないだろう。

 今までもそうだった。

 そして、今までもそうだったように、朔楽が父親の理念に反するようになっても自由を貫いているのは、それだけのスペックがあるからに他ならない……。



 ◇



「行っちゃったね、お兄さん」


 女バス一同は階段を下っていく凛月と朔楽の背中を見つめていた。

 そして朔楽と同じ部活仲間のサッカー部もその場面を目撃していた。


「凄いね。テスト前なのに遊びに行く余裕とか普通ないでしょ。しかもサッカー部なんでしょ?」


「うん……」


 周囲はバッティングセンターに向かった凛月と朔楽がどう見えたのか……。

 そんな事は美織にとって些細な問題でしかなかった。

 ここにいる誰よりも二人を知っているのは美織だ。その分、実際は心配なんてこれっぽっちもしてはいない。

 それでも――。


「どうしたの美織?」


 美織の表情は浮かばない。

 明らかに元気が減っている。

 それを周囲は察していた。


「やっぱり心配?」


「どうなんだろう……今までもずっとそうだったから今更って感じもするの。ただ今回は高校生になって初めてのテストだし」


「中学の頃からあんな感じなの?」


「うん。でも結果は出すよ。本人も言ってたけど、家に帰ったらちゃんとするし、やる時はとことんやる。だから朔楽の心配はないんだけど……」


 美織の心配は兄じゃない。

 その兄と一緒に姿を消した幼馴染の方だ。


「夜星くんが心配なの?」


 核心をつかれたその言葉に、美織はこくっと俯いた。


「私がどれだけ心配したって、凛月にとっては余計なお世話だろうし、本人も危機感ってものが欠如してるからどれだけ言おうと説得はできないよ」


「なにそれ? ちょっと闇を抱えてる感じがするんだけど……」


 一人がそう言うと、全員共感したようにコクコクと力強く首を縦に振った。


「闇とかはないよ」


「ほんと? 美織もさっきから元気ないし」


「なんだかんだで心配してるんじゃないの?」


「心配……」


 凛月は今回のテストでどんな成績になるんだろうか?

 あれだけ遊んでいればビリ争い?

 いや、そんな未来は想像できない。凛月は中学の頃から頭が良かった。

 頭が良すぎたのかもしれない……。


「心配、かもね……。将来一人でやっていけるのかなっていう、そんな心配」


 正直なところ、試験の心配は一ミリもしていない。凛月なら器用にこなし好成績を収めるだろうから。

 いつだってそうだった。

 きっと今回も変わらない。


「将来の心配って、やっぱりあんたら付き合ってんじゃないの?」


「っ!? お、幼馴染として当然だって!」


「そお?」


 地雷を踏んだ。

 凛月の心配をすればするほど、みんなが疑いの目を向けてくることは明白だ。

 幼馴染だから将来を心配する?

 確かに少し違和感がある。

 仲が良くても所詮は他人。過保護になることではないのかもしれない。

 それでも……放ってはおけないのだ。  

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 文章が読みやすく、すぐ読んでしまいました。 良い作品ありがとうございます。
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