13 テスト数日前に遊ぶリスク
放課後。
本来なら家に直行する俺だが、帰り際に朔楽に捕まり学校から三駅離れたファストフード店に足を運んでいた。
「飽きた」
空いているこの時間で周囲に俺たち以外の客はいない2階席。
朔楽はだらしなく勉強を放り投げてそう呟いた。
「お前が誘ったんだろ?」
誘ってきた張本人がこの調子じゃこっちまで勉強のやる気が削がれる。
「帰るか?」
「今日親父が家にいる」
「なるほど、逃げてきたわけか」
広末家の大黒柱、つまり朔楽と美織の父である雅紀さんは温厚だが、スイッチが入ると人が変わったように厳しくなる。
そのスイッチってのが、テストや試合など真剣勝負の場で切り替わるのだ。
「暇だ、バッティングセンター行こうぜ」
「正気かお前?」
テスト数日前。
しかも今回が高校生活一番最初のテスト。
どんな形式か難易度なのかも分からない状況だってのに。
「負けた方が夜飯奢りな」
「行くって言ってないんだが?」
既に帰る準備を始めてる朔楽。
ちなみに店に来てまだ20分しか経ってない。
マジで勉強を始めたばかりの、全くもって実の咲くような努力は何一つしてないたったの20分だ。
「まあ、どうせ授業中はちゃんと聞いてるんだろうな」
「当たり前だろ」
勉強を面倒臭がるタイプの朔楽だが、根っこから勉強嫌いってわけじゃない。
小学生の頃から授業は真面目に聞くタイプだ。そして授業中に理解力もちゃんと深める。
故に、テスト勉強の時は復習感覚で演習をすれば大体高得点をとれる。
器用というか要領が良いというか……そういう所は素直に頭が良いなと尊敬できる。
「行くか」
なんだかんだ俺も行く気分になった。
俺が勉強を続けようと朔楽はきっとやる気をもう出さない。
そんな奴と勉強してもだしね。
「あれ、広末じゃん!」
その時、2階に上がってくる数人の足跡が聞こえてきた。そして朔楽を呼ぶ男の声がした。
「おう」
ぺこりと会釈する朔楽。
階段を登ってきたのはどうやらサッカー部の連中らしい。全員が朔楽と顔見知りなようだし、それに――。
「夜星」
俺のクラスメイト、槇村の姿もそこにあった。
「夜星くんも勉強しに来たんだね」
当然最上の姿もそこにはあった。
「広末、用事あるって言って誘い断ったよな?」
「こいつと勉強する約束があった」
「なるほどな!」
キラキラと陽キャのオーラを放つイケメンはそう納得した様子で笑った。
良い人すぎるだろ。
朔楽はああ言ったが、絶対誘われた時は何も予定なかったぞ。
俺が朔楽に誘われたのはついさっきの事だからな。
そんな事を知る由もなく、サッカー部は席をつなげて俺たちのそばの席で固まった。どうやらサッカー部全員が集まっているわけではないらしいが、それでもかなりの人数だ。
「行くぞ」
ポツリと呟いた朔楽。
しかし――。
「あれ、二人とも一緒に勉強してたの?」
第三勢力はサッカー部が登場して間もなく現れた。
俺たちの席に駆け寄ってきたのは、言わずもがな。
朔楽の妹だ。
「お前も来たのかよ美織」
「何で誘ってくれないわけ? 水臭いんですけど」
「そう言ってお前も誰かと来たんだろ?」
「バスケ部でね」
そう言うのと同時に女子バスケ部が数人階段を上ってきた。
サッカー部と同様にテーブル席をつなげてグループを形成していた。
三駅離れた店だというのに、これだけのメンツが集まった。最寄りじゃ流石に冥海生が流れるだろうと踏んだが、みんな考えることは同じか。
朔楽も美織の登場は予想外だったらしく、帰る雰囲気が消えた。
親に伝わる可能性があるから下手に動けないってところか。
渋々教科書を広げて勉強を朔楽は始めた。
それなら俺もと、場の勉強する雰囲気に便乗して勉強を再開した。
「ねえ、君が夜星くん?」
「そうだけど」
隣に座る女バスに声をかけられた。
「美織と付き合ってるの?」
「え……」
ニヤッとした笑みを浮かべたと思ったら、質問の内容は予想していなかった事だった。
「付き合ってないけど……」
慌てながらも冷静に否定してみせるが冷や汗が止まらない。
ジロッと朔楽が俺を睨んでいる。
控えめな声で話していたつもりだが、俺の目の前に座る朔楽にはバッチリ聞こえていたらしい。
そうなるとつまり……。
「え、付き合ってないの!?」
「でも、この前の練習試合も応援に来てたよね?」
「一緒に帰ってたよね?」
一人が持ち出したこの会話は、どうやら女バス全員が耳を傾けて聴いていたらしい。
連鎖するような質問と興味関心が向けられる。
「だから付き合ってないってば! ただの幼馴染だし」
美織も焦って否定する。
以前に否定したと言っていたはずだが、それでも疑いが晴れていないのか……。
「幼馴染だからって、練習試合の応援に来る普通? 大会とかなら分かるけど、ただの練習試合だよ」
「あの日は課題を手伝ってもらう約束をしてただけ。そこにいる私の兄も遠征で家にいなかったし、一人じゃ面倒臭かったから」
「ほんとぉ……?」
女子たちの目は更に疑い深くなっているような気がする。
そしてこれだけ騒いでいれば当然サッカー部の連中にも声は届いていたようで。
「え、広末彼氏いたの?」
美織の知り合いだろうか。
サッカー部の一人がそう訊ねると、サッカー部の視線と関心もこちらに向けられていた。
「だから違うって!?」
この場にいる全員が俺たちの話題に興味を示している。
気まずい、非常に気まずいぞこの状況。
幼馴染と付き合ってるの? なんて周りから茶化され、目の前には俺たちのことをよく知るもう一人の幼馴染。
中学の頃はこんな事もなかった。そりゃあそうだ、俺たちが幼馴染だってことが周知の事実だったわけだし、仲が良くても不思議なことなんて何もなかった。
けど、異性を強く意識するようになる高校生にもなればその話題は一度火がついてしまうとなかなか弱めることはできない。
こういう時はあれだな……。
「本当に付き合ってないよ。幼馴染は恋愛対象にならないって前に笑われたし。だからそもそもの話、美織が俺に好意を向けること自体あり得ないんだよ」
「そうなの美織?」
「え、うん……。私好きな人いるし」
美織がぎこちなくそう呟くと、全員が度肝を抜かれたことだろう。俺と朔楽は平常運転だが、それ以外は恋バナに興味津々といった様子だ。
サッカー部の連中も何人か興味ないと装いながらも聞く耳を立てるという思春期特有の照れ隠しをしている。
「へー、幼馴染ってやっぱり恋愛対象にならないんだ」
全員が腑に落ちた様子だった。
俺と付き合っているというよりも、他に好きな人がいるという方がしっくりくるのだろう。
男としての魅力がないみたいな締まり方だが、騒がれないなら結果オーライだ。




