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勇者パーティを追放された鑑定士、第三王女につきまとわれる  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ


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24話 さ、帰ろうか!

 目を開いた時、最初に視界に入ったのは。


『ブ、ブモ……っ』


 因縁の相手、(くだん)だった。


「はぁ、散々な目に遭ったぜ」


 ため息を一つ。

 後悔も一つ。

 ここにおいて去ろうか。


『ル……ジマ、ル』

「いいや、終わりだよ」


 件が予言を残すより早く、俺が未来を確定する。

 少なくとも、俺が生きている間は魔族との争いが起こらない、そんな予言を先置きする。


「あぐ……っ」


 何度やっても慣れない頭痛。

 だけど、今回は可能性という木を枝刈りしながら進めばいいだけだ。これまでと比べたら負担はずっと軽い。


 そして、見つけた。


 魔族との争いが、向こう百年起きない世界。


 これで、チェックメイトだ。


「魔族との抗争は、向こう百年起きねえよ」

『ブモ……ブモ……ッ』

「抗えねえだろ。先に決まった予言は覆せない。それはこの身をもって確認済みだ」

『ブモォ……ブモォォォッ……!』


 俺みたいに過去へ干渉したならそれはまた別だが、件の寿命はひどく短い。チャブクロを見つけるまでに死に絶えるほかない。


『イ……レ、ナイ』

「は?」


 ちょっと待て。

 先に決まった未来は覆せないはずだろう!?

 少なくとも、俺が試みた時はそうだった。


 どれだけ可能性を探っても、必ず争いが起きた。

 何度も大事な人を失った。

 予言を破れないことは実証済みだ。


 だというのに、なんだ。

 この不安、この悪寒、この恐怖。


「くっ」


 それなら俺にも考えがある。

 奴が言葉を遺す前に命の綱を断ち切るのだ。

 件に繋がる生命の糸。

 俺が手を下すまでもなく、枝毛のように細くボロボロな糸。それを、引き裂く。


 その、少し前の事だった。


『王女カラハ逃ゲラレナイ』

「……なんて?」


 そう口にして、件は息絶えた。

 予言を残した件は絶命する。

 それは恒常不変の絶対だ。


 まあいい。

 気にするべきはそこじゃない。

 いまこいつ、なんて言った?


「ゼクスさん!? どうしたんですか!?」

「確認、ゼクス、何があった?」


 ちょうどタイミングよく、牛舎から飛び出してくる二人。……おいおい、冗談だろ?


「……子牛、ではなさそうですね。おかしな『香り』がします」

「ああ、(くだん)っていう妖怪らしい」

「検証、件であることを確認。件とは人語を操る牛の妖怪。生まれてすぐに予言を残してこの世を去り、その予言は必ず現実になる」


 この妖怪、とんでもない爆弾残していきやがった。


「ゼクスさん? この件はなんと予言を?」


 何事も無かったかのように無邪気な笑顔でリスチェが言う。いや、何事も無かったかのようにではない。この改変された現在において、リスチェにとっては何も起こっていないのである。


「どこまでリスチェの手の平の上なんだか……」

「え? 私、気に障るようなことしましたか!?」


 小さく零した愚痴は、彼女の地獄耳に拾われた。

 だけど、まあ。いっか。


「いや、助かったよ。ありがとう」

「はへ? ど、どういたしまして? ゼ、ゼクスさん!? どうしたんですか? 体調が悪いんですか!? 私が看病しましょうか?」

「否定、ゼクスの調子が悪いときは当機が看病する」

「なにをー!?」


 組み合って幼児レベルの争いを始める二人。

 規模は拍子抜けするほど小さいが、『人族ト魔族ノ戦争』と言えなくもない。随分と平和的な争いだ。

 やっぱり、確定した未来は完全には覆す事は出来ないのかもしれない。それでも今回は、俺の勝ちってことでいいんじゃないかな、運命とやらよ。


「……そう言えば」


 件を転がす。

 そこにはやはり、チャブクロがいた。


(やり直して、件を殺せば世界は変わるかな?)


 あいつのおかげで、リスチェから一生追いかけられ続ける羽目になっちまった。嫌ではないが、妖怪に俺の人生についてあれこれ口を出されるのは不愉快だ。やっぱり消し去ろうか。


(なんてな)


 もう縋らねえよ。

 そんな私利私欲のためにチャブクロを使ったら、今度こそ俺は幻想の世界に喰い殺されちまう。そんなのまっぴらごめんだ。


 チャブクロの見た目は茶袋だけど、妖怪である以上魂もあれば命だってある。プレセアを暴走する車体から守った時と同じだ。こいつからだって生命の光を感じ取れる。


 チャブクロに伸びる、青く淡い光。

 それに俺は手を伸ばし、掴んで、千切った。


 俺はチャブクロを殺したんだ。

 もう誰も、幻想に喰い殺されてしまう人が現れないようにと、祈りながら。こんな俺にチャンスをくれてありがとうと、感謝を捧げながら。


 青命線を裂かれたチャブクロは、灰になって空中に溶けた。風に攫われて消えていった。


 どこまでも続く青い空に還っていくチャブクロ。

 最後の一片が見えなくなるまで見続けた。

 やがて完全に見失ってから、歩き出す。


「さて、怪異は片付いたし帰るか」

「え、ゼ、ゼクスさん!? まだ件の予言を聞いていないのですが!」

「同意、当機も気になる」

「知らない方がいい事だって世界にはいっぱいあんだよ!」


 まあ、リスチェにとっては嬉しい情報だろうが。


「何か大変な事だったんですね!? 相談に乗りますよ!?」

「はいはい。本当に大変な時は泣いて縋るよ」

「信じていませんね!? こう見えても一国の王女、大船に乗った気でいてくれていいんですよ?」

「代しょ……料金が気になって安心できない」

「代償って言いましたか!?」

「言葉の綾だ」


 ああ、帰ってきたんだな。

 なんとなく、そう思った。


 幻想に囚われたままの方が良かったか?

 いいや、そんな事は無い。

 今この瞬間が、何にも代えがたいほどに大切だ。


 だから、この選択で良かったんだ。


「今回はもう大丈夫だから」

「むぅ……嘘の『香り』はしませんね、信じますかぁ……」


 訝しんでる訝しんでる。

 信じますって言いながらめっちゃ怪しんでる。


 まあ、どうにも腑に落ちないんだろうな。


 俺をここに連れてきたことで、「人魔大戦の勃発」という未来が「俺に王女がつきまとう」という未来に切り替わったんだ。そりゃあまあなんとも平和な未来になったもんだ。そりゃあ彼女も、あんな強引に俺をこの場所に連れてくるわけだ。納得。


 だが、それはあくまで俺視点の話。

 彼女からすると、牛舎でお茶会をしていたとしたら怪異が死んでいて俺が「解決解決~」っていいながらさっそうと帰宅しようとしているわけだ。ここで起こるはずだったいいことが何だったのか一切分からないわけなのだ。


 だけど、打ち明けるつもりはない。

 というか言いたくない。


 勇者パーティの皆と過ごす未来と、今現在。

 二つを秤にかけて今を選んだなんて恥ずかしい。

 大っぴらにできる話じゃないだろ。


「でもでも!」


 ずいと顔を寄せたリスチェ。

 顔近っ。


「本当に本当に、本当に困ったときはいつでも頼ってくださいね? 私はいつでもゼクスさんの力になりますから!」

「同左、当機もいつでもゼクスの味方」


 ほんと、そういう恥ずかしい事をよく言えるよな。

 俺には真似できそうにないや。

 男って言うのはいつだって、ちょっぴり見栄を張りたい生き物なんだ。


「おう! その時は頼りにするよ!」


 いい縁と巡り合えた。


 これで良かったんだ。

 良かったんだよな。


 リラとは絶縁した。

 だからこそ今がある。

 プレセアと出会い、リスチェと出会い、ドラちゃんと出会った。その事実は、リラと絶縁した因果に紐づいているんだ。

 だから、後悔なんてない。そうだろ?


「やっぱり、無理してるんじゃないですか」

「……え?」

「はい、じっとしててくださいね」


 どこからともなくハンカチを取り出したリスチェが俺の頬を拭う。気づけば涙が流れていた。


「申し訳ございませんでした。なにか、辛い思いをさせてしまったんですよね、私は」


 眉毛をへの字に曲げて、困ったように笑うリスチェ。困らせたのは、俺だ。


 うじうじしてても仕方ない、か。


「いや、もう大丈夫。ありがとう」


 どのみち、チャブクロはもういない。

 これは俺の選択だ。

 信じた道を進むほか無いのだ。


「さ、帰ろうか!」


 見上げれば、どこまでも続く空が広がっていた。

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IF(カクヨム)
【短いタイトル】
勇者パーティを追放された鑑定士、第三王女につきまとわれる 畏怖-if-

【長いタイトル】
勇者と幼馴染に裏切られた鑑定士だけど、魔族の第三王女に「君が必要だ」と言ってもらえるし結果的に幸せでした。一方で勇者一行は連携が取れずにボロボロらしいけど、無能な俺が抜けたくらいで諦めないでほしい。
勇者と幼馴染に裏切られた鑑定士だけど、魔族の第三王女に「君が必要だ」と言ってもらえるし結果的に幸せでした。一方で勇者一行は連携が取れずにボロボロらしいけど、無能な俺が抜けたくらいで諦めないでほしい。
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― 新着の感想 ―
[一言] 未来が切り替わったのはわかる。 だが、なんで「王女からは逃げられない」なのさw 渾身のシリアス予言を潰された「件」の意趣返しなのか?
[一言] 知らなかったのか?王女からは逃げられない。 ストーキングだと思ったか?あれはただの『ス』だ。
[一言] 読んだ時にこの小説の名前は「王女カラハ逃ゲラレナイ」だと一瞬思ってしまった。
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