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とある巨人の異世界召喚  作者: 井上欣久


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28 とある巨人と魔王の技

 階段の破断により魔王と俺たちの間は分断された。

 これをどうにかしようとすれば資材がいる。半日かそこらの時間は稼げるだろうと計算する。


 先行したカクリュウたちと合流しようと階段を上る。

 リスティーヌさんがそれを止めた。相変わらず耳は馬鹿になっているが、彼女の視線の先を追うと。


「あいつら、正気か?」


 大鬼二人が向かい合ってお互いの腕を掴んでいる。

 魔王がいるのはその上だ。

 アイツらは資材の代わりを組体操でやろうとしている。


 幅3メートル。地表までの高さは300メートル以上。

 失敗したら確実に死ぬが、確かに飛び越えられない距離ではない。

 俺は背中を押してリスティーヌさんを先に行かせた。


 大鬼二人が魔王を放り投げる。

 魔王はその腕をさらに蹴って加速した。


 魔王が崩壊した階段のこちら側に着地した。

 片側が崩れているので着地した階段がぐらりと揺れる。さすがにバランスを崩しかけ。、魔王は手に持った棍を取り落とした。いや、棍を捨てて手すりを掴んだ。


 魔王が来る。


 俺は階段を上った。

 魔王と一対一ならばある意味では予定通りだ。戦いを避けるつもりは無かったが、どうせ戦うならばもう少し広い所で戦いたかった。

 階段の突き当りに扉があった。

 そこを抜けると、風除室かな? 小さな部屋があった。

 ここも狭すぎる。


 風除室の先でようやく広い空間に出た。

 そこは回廊の一部のようだった。ガラス張りの空間だ。一方の壁がガラス張りなだけでなく、床の一部までもがガラスでできていた。


 ガラス張りの空中リング、か。

 どこかの漫画でやりそうな事だ。


 観客はなし。

 セコンドは一名。

 リスティーヌさんには逃げてほしかったが、梃子でも動きそうにない。

 敵が魔王一人ならばさほどの危険は無いだろう。俺が負けない限りは。


 俺たちを追って、魔王が現れる。

 俺が待ち構えているのを見て、彼は嬉しそうにほほ笑んだ。


 バトルジャンキー、だな。

 いいぜ、俺も戦うのは嫌いじゃない。


 殺し合いでなく、ルールのあるリングの上で戦えるならば最高だが。


 魔王は素手だが、正体不明の防御能力がある。

 俺はとりあえずあいさつ代わりに鉄鞭を魔王に向けて振り下ろした。


 魔王は避けようともしなかった。

 予想通り鉄鞭は跳ね返される。俺はいったん距離をとった。


 魔王は床にちゃんと立っているし、先ほどは手すりを掴んだ。

 はじかれた俺の鉄鞭やパーワーの斧との違いは何だろう?


 手や足の先ならば能力が発動しない?

 まさかな。


 一定以上のスピードで動くものははじく?

 これは有りそうだ。


 いつでも任意で発動できるのならば、魔王の攻略はとてつもなく難しいものになる。

 その場合、相手の意識の外からの奇襲にかけるしかない。


 俺は役に立たない鉄鞭を遠くに放り投げた。

 この武器は魔王には通じないが、俺の命を奪うには十分な威力がある。敵に奪われた時が怖い。


 鉄鞭が壁にぶつかる音がした。

 その音が戦いが始まるゴングとなった。


 魔王は拳を固める。

 やや前傾姿勢のボクシングスタイル。この構えは蹴り技に弱いとされるが、コイツには打撃技が通じないと仮定すれば、それは何の弱みにもならない。


 魔王の拳が飛んでくる。

 プロテクター付きの腕でパンチを払いのけようとする。

 俺の腕の方がはじかれた。

 防御は全く効果を現さず、俺は顔面を殴られた。


 パンチは一発では済まない。

 コンビネーションで二発目以降が飛んでくる。

 俺はスウェーやダッキングで必死にかわした。


 今度はボディーを殴られた。

 まただ。

 こちらにも鎧があったにもかかわらず、まるでタイツだけしか身に着けていないかのように衝撃が浸透してきた。


 ボディーを殴られて頭が下がった所へ、顔面狙いのパンチが来る。

 俺はとっさに手のひらでガードした。手のひらで拳を受け止め、そのままつかむ。


 今度の防御は成功したぞ。

 そのことに逆にビックリする。


 掴んだ拳を起点に相手の体勢を崩す。

 そのまま逆水平チョップを打ち込む。

 異様な感触が返ってきた。

 手刀の部分は普通に当たった。なのに、手首の部分は当たるのを拒否した。そんな感触。


 そういう事か。


 俺は魔王を突き飛ばしつつ、俺自身も大きく後ろへ跳んだ。

 大急ぎで両手首のプロテクターだけでも外す。


 どんな理屈でそんな効果になるのかは分からないが、たぶんコイツの能力は武器・防具への完全耐性。

 神話なんかで稀にあるタイプだな。『どんな神にも、魔物にも、動物にも負けない身体をもらった』が『唯一人間にだけは傷つけられる』とかのタイプ。

 コイツに何が効いて何が効かないのか完全に把握できたわけでもないが、少なくとも俺の肉体ならばコイツに触れることが出来る。それだけ分かれば十分だ。


「気づいたか」


 魔王が言った。

 いや、魔王が出したのはただの唸り声だが、例の言語理解の能力で翻訳されたようだ。


「分かるさ。ここから先はイカサマなしの真っ向勝負だ」


 俺はレスリングスタイルで構えた。

 すると魔王も低く構えた。低空タックルを仕掛けてくるような体勢。


 そんな分けないだろう、兄貴!

 俺の脳内で弟分がツッコミを入れてきた。


 魔王の頭には角があるんだ。

 魔王の魁偉な頭骨には角を支える役割があるのだと、その姿勢を見て納得させられてしまう。

 どこかの漫画の嵐の技がこの場で再現されそうだ。


 魔王の角からの突進攻撃。

 俺は16インチブーツで迎撃しようとして思いとどまる。角を両手でつかんで受け止めた。


 力比べの押し合いになる。

 魔王は首を左右にひねって俺の手から逃れようとする。鋭い角の先端が俺の腕に細かい傷をつけた。


「これならば」


 俺は角を掴んだままひねりを入れて全身を投げ出す。

 とっさに出した首に対するドラゴンスクリューのような技だ。人間が相手ならば首の骨をへし折れそうな力のかかり方だが、骨格からして強化されている魔王にはそこまでの効果は見込めない。

 それでも、相手を床に転がすことは出来た。


 技をかけた俺の方が魔王よりも早く立ち上がる。

 身を起こした魔王のバックをとる。そのままバックドロップ。

 この技は俺の身長で仕掛けると極めて危険だ。だからいつもは下手糞な投げ方しかしないのだが、今回は本気でやらせてもらった。

 しかし、手ごたえがおかしかった。

 魔王の後頭部がまともにぶつかった気がしない。


 塔の床すら武器判定なのか?

 一定以上の速さでぶつかる肉体以外の物、すべてをはじくのかも知れない。

 逆に、別の意味での収穫はあった。

 魔王と密着した胸当ては弾かれないで済んでいる。つまり、普通に接触するだけならば武器・防具でも大丈夫だ。


 バックドロップをくらった魔王が立ち上がる前に畳みかける。

 今度は足をとった。

 打撃技・瞬間的に衝撃を与える技が効かないのであれば、これならばどうだ。


「おまえ、魔王なんだってな。俺の友人にも魔王と呼ばれる男がいてな」


 相手の脚を自分の脚に絡める形で折りたたむ。

 ラリアット、バックドロップに続くプロレス技の代名詞その3。

 足四の字固め。


 魔王に対しては(白覆面の)魔王の技だ。

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