第七十二話 激闘の果てに
【ファストステップ】は予備動作として構える必要があるんじゃ無いか。そうクロードは予想したのである。そして予備動作が始まった瞬間にクロードは【エクスプロージョン】のスイッチを押し込んだのだ。
カウンターとして通常射撃を選んでも良かったが、そのカウンターが成立するのは攻撃が回避出来るという前提が必要である。クロードは【ファストステップ】の回避はリスクが大き過ぎると判断した上で、【エクスプロージョン】で迎え撃ったのである。
そうして【ファストステップ】で高速移動している間に【エクスプロージョン】が発動した。それにより超至近距離で【エクスプロージョン】を全体直撃されたハイブリジは吹っ飛ばされたのである。
ハイブリジはゆっくりとイルヴィアを起き上がらせた。隙だらけではあるがリロード時間のためにクロードはこの隙は狙えなかった。代わりに次にやって来るであろう突撃に備えてさらに距離を取ったのである。
「……あんたアタシに何をした? もうあんたの機体は黒煙を上げて限界が近い。アタシの【ファストステップ】であんたを撃墜してやる、そのつもりだった。だが、これは何だ? どうしてアタシが吹っ飛ばされている? なぜだ? アタシには分からない‼︎」
絶叫しながらハイブリジは突撃を仕掛けてきた。イルヴィアの速度がいくら上がっていたとしても回避出来るようクロードは距離を取っている。そのためハイブリジの仕掛けた突撃は簡単に回避されさらに方向転換の時に通常射撃を貰ってしまったのだ。最早ハイブリジに冷静さなど有りはしなかった。
「なぜ回避出来る? なぜアタシの攻撃が当たらない? あんたの機体は限界が近い。それなのになぜアタシの攻撃が当たらなくなった? なぜだ……、なぜだ‼︎」
ハイブリジは操縦席でそう叫んだ。その叫びを聞いているのはクロードだけである。彼は淡々とハイブリジの攻撃を避け続けた。最早余裕が欠片も無くなった彼女だが自分が最も信頼している攻撃手段だけは、それだけは頭に残っていた。
クールタイムが終わる。そして押し込まれるスイッチはいつだって彼女に勝利をもたらしてきた。だからだろうか。スイッチを押し込んだその瞬間だけ彼女は少し落ち着きを取り戻した。故に目の前のE・L・Kが持つ武器が、赤いオーラを纏ったのが目に入った。その瞬間彼女は自分の部下がボロボロになりながら伝えてきた情報を思い出したのだ、
辺りに凄まじい炸裂音と爆破音が響いた。【エクスプロージョン】以外の音がしたことでクロードは現状を把握したのである。そもそも【エクスプロージョン】で吹っ飛ばした頃くらいからハイブリジの機体から黒煙が少し見えていたのだ。となれば爆破音はハイブリジを撃墜した音であろう。
とは言え油断してはいけない。そもそもクロードも限界が近いのである。相手がギリギリで撃墜されなかった場合油断して攻撃を貰ってしまって撃墜されるなんて言うのは愚の骨頂である。
メテオライフルを構えながら巻き上がった土煙が晴れるのを待った。土煙が晴れ視界には撃墜され操縦席のみとなったハイブリジが映った。彼女は2人のいる広い空間の入り口近くの壁に寄りかかってこちらを見ていた。
「……まさか負けちまうとはな。パディンに続きアタシまでも撃墜されてしまうとは……。でもこれで勝負はアタシの勝ちだ。あんたはここから出れはしない」
……出れはしない? それに勝負はハイブリジの勝ちってどう言うことだ?
ハイブリジが言っている意味が分からず突っ立ったままのクロードを見て彼女はニヤリと笑うと入り口付近のとある場所を思い切り叩いた。そもそもこの場所は土の壁を削って出来た空間である。彼女が起動させたのはそれを利用したトラップ、すなわち崩落である。
「やばいよクロード! 早くアンドロの所へ行って救出して、クエスト一覧から帰還するんだ! 今ならまだ間に合う!」
せきたてるようにルピウスが叫んだ。そこでようやくクロードは本来の目的であるアンドロの救出を思い出した。撃墜させたハイブリジを逃してしまうのは惜しいがそもそもハイブリジとの戦闘はタスクとは関係無いことである。急いでクロードはアンドロのもとへ駆け寄った。
《タスクを1つ完了しました。すぐにスタラジア帝国に戻りますか?》
表示されたウィンドウは帰還するためのものである。崩落しかかったこの状況でもこうして帰還が出来ると言う訳だ。もしアンドロの救出以外の目的……、例えばハイブリジの捕縛もタスクの目的に含まれていたのならば。考えたくも無い思いを振り払ってクロードはウィンドウに従ってスタラジア帝国へ帰還したのである。
読んでくださりありがとうございます。
ハイブリジには逃げられてしまいましたがこれにてタスク完了です。しかしネミリア王国は一体何を考えているんでしょうか?




