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麗人賢者の薬屋さん  作者: 江本マシメサ


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リンゼイの怒り

 リンゼイがサロンでやらかした。


 先日、とある夫人のサロンに参加した日のこと。


 最初から商品をごり推しするのもよくないとウィオレケより注意されていたので、まずは会話をして交流を図った。


 ルクスは姿を消して、リンゼイが失言したさいの、フォロー役を務めていた。


 そこは、仮面で身分や見た目を偽るご婦人の集まりで、クレメンテの妻であることを秘密にしたいリンゼイにはぴったりの集まりだった。


 リンゼイの艶やかな紫色の髪は珍しいので、茶色の鬘を被り、蝶の仮面を着けての参加となる。


 最初の話題は、社交界で流行しているドレスについて。

 リンゼイはついていけず、無表情で話を聞くばかりであったが、話に頷くくらいはしたほうがいいとルクスに注意され、カクカクと操り人形のように首を動かしていた。


 続いては、最近社交界デビューした女性についての噂。

 誰がオシャレだとか、誰が流行遅れだとか、ドレスの時よりも白熱していた。

 もちろん、リンゼイはついていけない。


 最後は、大英雄クレメンテについて。

 唯一、リンゼイがついていける話題であった。


「夜会に参加されるなんて、驚きましたわ」

「本当に。戦後の祝賀会でさえ、いらっしゃらなかったのよ」


 クレメンテは夜会が苦手だと言っていた。指折り数える回数しか参加したことがないと。

 けれど、リンゼイのために、頑張ってくれたのだ。


「いろいろ噂があったのよね」

「ええ。醜い容貌だから、参加しないとか」

「顔半分が潰れていたとか」

「実は大英雄クレメンテ様は架空の存在で、鎧の中の人は毎回入れ替わっていたとか」


 しかし、どの噂も外れていた。

 大英雄クレメンテは他の王族同様、容姿端麗だった。

 けれど。


「誰のお誘いにも、応じなかったんですって?」

「そうなの!」

「公爵令嬢イリーナ様が話しかけたら無視されたのですって」

「まあ、なんてことを!」


 それから、クレメンテの周囲に冷たすぎる対応の数々が挙げられる。

 評判は最低最悪だった。


「大英雄だとは存じていますが、ちょっと礼儀がなっていませんわ」

「ええ……。国王陛下に挨拶もせず、わき目もふらずに庭のほうに向かったのですって」


 クレメンテはリンゼイを助けるために一目散に庭に向かったのだ。

 騒ぎについては緘口令が敷かれていたようで、誰も知る由もない。


「なんか、目があったご令嬢は失神してしまったとか」

「もしかしたら、物語にある魔眼の持ち主かもしれないわ」

「なんか、雰囲気も暗いし」


 出るわ出るわ。クレメンテの悪口が。

 冷淡にあしらったイリーナ嬢という女性は、社交界で女性達から支持を集める人物だったので、余計に反感を買っていた。


 リンゼイは黙って聞いていたが、あるご婦人の一言にキレてしまった。


「きっと、ご自分に自信があって、高慢で、英雄であることを鼻にかけていらっしゃるのね。平和になった世の中で、戦うしか能がない人が、何ができるのかしら?」


 その言葉を聞いたリンゼイは、テーブルの上に手にしていた茶器をガチャンと音をたてて置いた。


「あなた達はあの人の何を知っていて、陰口をたたいているの!? 今の平和が、誰の力で築かれたのか、わかっていないようね!!」


 鋭く、キツい一言だった。盛り上がっていた場はシンと静まり返る。


 リンゼイはジロリと、女性達をひと睨みしたあと、立ち上がってその場を去る。

 ルクスからごきげんようくらい言ったほうがいいと助言を受けたが、無視した。


 ◇◇◇


『詳細は伏せますが、リンゼイの霊薬宣伝は大失敗に終わりました』


 薬屋の経営会議にて、ルクスは神妙な面持ちで語った。


 食堂には、不機嫌な面持ちのリンゼイ、おろおろしている全身鎧姿のクレメンテ。呆れた表情のウィオレケに、テーブルの中心に置かれて観葉植物と化しているメルヴの姿があった。


 スメラルドとイルは、壁際に立っている。


 シンと静まり返った中、ぼそりとウィオレケが呟いた。


「やっぱり、姉上には商売なんて無理だったんだ」


 ルクスは深く頷いた。


「姉上はいったいなんにキレたんだ?」

『そ、それは~~』


 リンゼイは腕を組み、口をぎゅっと結んで喋ろうとしない。ルクスも言わないほうがいいと思い、黙っておいた。


 いったいどうすればいいのか。

 頭を悩ましていると、イルが口を挟む。


「あの、奥様、旦那様、一つご提案なのですが――」


 イルは薬の販売先の案を挙げた。


「騎士隊に話を持ちかけるのはどうでしょうか?」


 戦争は終わったが、人の悪い感情が渦巻く戦場には魔物が集まる。

 騎士隊は魔物退治に忙しい日々を過ごしていた。


「飴状の霊薬は持ち運びに便利ですし、負傷者も絶えないので、いいかなと、思ったのですが」


 いい案だった。大怪我をした騎士達も、リンゼイの霊薬があったら、一気に完治する。


「しかし、それは問題もある」


 ウィオレケは指摘する。

 まず、この先何十年、何百年とリンゼイの霊薬は安定供給されるわけではない。

 それに、今まで取引していた薬屋の仕事も奪うことになる。


「やはり、お金に余裕がある貴族相手に商売するほうがいいんだ」


 しかし、リンゼイとクレメンテの営業力はゼロに等しかった。


『っていうか、リンゼイとクレメンテが営業とか、無理だよ。二人が国王と王妃をするくらい無理だよ。諦めよう』


 ルクスの言葉を否定する者はいなかった。

 本人達ですらも、「そうかもしれない……」と思っているところである。


『営業はイルに任せようよ』

「それがいい」


 男性貴族が集まる紳士クラブなどで営業してもらうことにした。


『女性陣の噂も馬鹿にできないんだよね~』


 こちらは、営業できる者がいない。男性は女性が主催するサロンに入れないのだ。

 リンゼイは顰め面でボソリと呟く。


「社交界の女性なんて、きっと薬に興味がないのよ」


 ならば、何に興味があるのか。


「姉上、昨日、サロンで女性陣はどんな話をしていた?」

「……」


 リンゼイは明後日の方向を見る。恐らく、聞いている振りをしているだけで、まったく耳に入れていなかったのだ。


 ウィオレケは眉間の皺を解しつつ、盛大な溜息を吐いた。


『私は覚えているよ。ドレスの話とか、社交界デビューをした娘さんの話とか、お化粧品、美容品の話とか』

「それだ!」


 ウィオレケは叫ぶ。

 魔力を含んだ特別な美容品などを作り、それを紹介したら社交界の女性の注目を集めることができると。


「美容品って、たとえば?」

『いや、私に聞かれても』


 リンゼイはウィオレケを見る。


「いや、僕も女性が望む美容品なんて、わからないから」


 最後に、リンゼイはスメラルドを見た。


「ねえ、あなた。なんか、あったらいいなと思う美容品はある?」

「それはもう!」


 美容液や頬紅、など、いくつかの化粧品を挙げる。


『リンゼイ、作れそう?』

「まあ、作れないことはないけれど」

『だったら、それを作って、社交界の女性陣の心をぐっと掴もう!』


 そんなわけで、次なる目標は固まった。

 最後まで、クレメンテは言葉を発しないまま、会議は終了する。


 ◇◇◇


 リンゼイの行動は早かった。

 一晩のうちに化粧品のレシピを作り上げる。


 どれも市販品にはない、美容に良い薬効のある化粧品の数々だった。


 一つ目は、『森のフォレ・妖精肌フェアリ・ベルボ』――素肌にダメージを与えることなく、陶器のような美しい肌に見せることができる。


 二つ目は『妖精のフェアリ・口付けフィリ』――妖精の唇のような、可愛らしい薄紅の口紅である。


 三つめは『妖精のフェアリ・花蜜メル』――長時間、つやつやの唇を維持するグロス。


 四つ目は『妖精のフェアリ・紅潮ファランジュ』――乙女の初恋を演出する頬紅である。


 五つ目は『花のフロル・美容液セロム』――開花した花のような、美しい肌を作り出す。


 テーブルに広げられたレシピを見て、ウィオレケが呟いた。


「……姉上はやはり天才だったんだな。性格はアレだけど」


 その言葉に、ルクスは深々と頷いた。


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