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麗人賢者の薬屋さん  作者: 江本マシメサ


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ギルドにて

 物件は問題ないということで、クレメンテは本契約に行く。


「じゃ、私は使用人を捜して来るわ」

『おお!』

「姉上!」


 リンゼイはなぜか、ルクスとウィオレケより感心するような眼差しを受ける。


「何よ?」

『だって、いつものリンゼイだったら「私は霊薬の材料集めに行って来るわね」とか言いそうだったから』

「姉上も、大人になったんだね!」

「あんた達は……!」


 別れる前に、クレメンテより皮のケースに入ったカードを手渡された。


「これは身分証です」


 リンゼイとウィオレケは受け取った。


「あ、ジルーオル子爵が、僕の後見人になってくれたのか」

「え、ええ」


 クレメンテは兜で覆われていて、掻けもしない頬をポリポリと掻きながら答える。

 リンゼイは特に確認もせずに、ポケットに入れていた。


「姉上、こういう時は名前の綴りに間違いがないかとか、確認しなきゃいけないんだぞ」

「別に、大丈夫でしょう」

「作ったのは人だから、万が一ということがある」

『ま、まあまあ。リンゼイの身分証は、あとで私が確認するから』


 ウィオレケは大いに溜息を吐く。成長したと思ったらすぐこれだと、ぼやいていた。


『仕方ないよね。リンゼイだもの』

「ルクスって偉いな」

『いや、慣れっていうか、諦めっていうか』


 長年、リンゼイと過ごしていたら、自然とそうなったと話す。

 ウィオレケもしだいにそうなるだろうとも。


「それが、姉上の沼なんだね」

『うん、そうだよ。抜け出せないよ』

「恐ろしい」


 話はここで切り上げ、別れて行動することにした。

 クレメンテは物件の本契約をしに、リンゼイは使用人を求めて職業ギルドに。


 ◇◇◇


 ルクスの魔眼の力を使い、職業ギルドまで辿り着く。

 ここは職を求める者と、職を与える者、双方の斡旋をしている機関なのだ。

 赤い屋根に黄色い壁の建物は三階建てで、中央街のど真ん中にある。

 外に張り出された掲示板には、急募の求人が貼り付けられ、職を求める人々が熱心に見入っていた。


「ねえ、ウィオレケかルクス、ここって、どういう風に使うの?」

『さあ?』

「僕らが知るわけないだろう。中に受付があるだろうから、そこで話を聞けばいい」

「なるほど」


 リンゼイはウィオレケの頭を撫で、建物の中へと入って行く。


 受付は長蛇の列ができていた。


「げっ」

『リンゼイ、並ぼう』

「仕方がない」


 嫌そうな表情を浮かべるリンゼイの背中を、ウィオレケは押して行く。ルクスとメルヴもあとに続いた。


 リンゼイは腕を組み、眉間に皺を寄せて列に並ぶ。

 ことあるごとに、チッと舌打ちをしていた。

 それも無理はない。

 美人なリンゼイは、ギルド内で目立っていたのだ。

 波打った美しい紫の髪に、猫のようにパッチリとした目。白い肌に、すっとした鼻筋、形の良い唇と、美貌を惜しげもなくさらしていた。

 加えて、すらりと背が高く、出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。

 スタイルも抜群なのだ。

 じろじろと遠慮なく見られるので、すっかり不機嫌になっていたのだ。

 しかも、雇用人に見えなかったからか、先ほどから「うちで働かないか」と声をかけられまくっている。

 中でも、とんでもないことを言いだす輩もいた。

 なんと、リンゼイに求婚をしてきたのだ。

 若い男性で、身なりは良い。加えて、育ちも良さそうで、容姿端麗であった。


「その人は止めたほうがいい。性格がよくない」


 ウィオレケは求婚者に助言する。

 その言葉を聞いたルクスは『親切だね』とコメントした。


「あなた達ね! もっと他に断る理由があるでしょう」

『既婚者とか?』

「あ、そうか」


 結婚したからといっても、リンゼイとクレメンテは通常営業である。

 二人の間に、甘さなど欠片もないのだ。


 既婚者だと発覚すると、諦めたようで去って行った。

 それから一時間。順番は回ってこない。

 リンゼイは次第に、足先をトントンしだす。

 イライラがピークまで上りつめようとしていたのだ。


 ここで、ギルドに一人の獣人が入って来る。

 首から上は猫。首から下は若い女性の猫獣人だ。

 耳と鼻回り、尻尾は黒、それ以外は灰色の毛並みをしている。

 くりっと大きな目は青。好奇心旺盛な輝きがある。

 青いワンピース姿で、手には大きな鞄を持っていた。

 さながら、田舎からやって来た女性というところだろう。


 近くの職員に、手にしていた求人表を見せながら、のんびりとした口調で話しかけている。


「あの~、この求人に応募したいのですが~」

「ん? 男爵家の使用人募集? あー、あんたは駄目だろうな」

「どうしてでしょうか?」

「獣人は毛が抜けて空気中に舞うから、使用人として雇わないんだよ」

「まあ、そうですの?」


 そのやりとりを聞いたリンゼイは舌打ちする。

 明らかな差別は、聞いていて気持ちのいいものではない。


「わたくし、そこまで毛は抜けませんし、炊事、洗濯、お掃除など、なんでも得意で」

「こっちに言われても、先方の希望だからな」

「そうですか……」


 猫獣人の女性はシュンとする。

 代わりに、職員は届いたばかりの急募の紙を差し出した。


「ほら、お前にぴったりな仕事がある。魔石岩を運ぶ作業だ。獣人は力持ちだから、ぴったりだろう」

「えっ……」


 ここで、リンゼイはブッツンとキレた。

 ずんずんと大股で職員のもとに近づき、目の前に立つとジロリと見上げる。

 そして、険しい顔で捲し立てた。


「あんた、何言ってんの? それ、細腕の女性に紹介する仕事じゃないでしょう?」

「え?」


 リンゼイの文句は止まらない。


「それに、毛が抜けるって、あんただって、毛は抜けるでしょうが!」

「あ、いや、獣人は毛量が違うだろう?」

「抜ける、抜けないかは、一緒よ!」

「しかし――」


 話にならないと、リンゼイは切って捨てる。


「いいわ、この子は、私が雇うから」

「は?」

「手続きはどこでするのかしら」

「待て、こいつは俺の客だ」


 職員は仕事を紹介すると、賃金が増える。歩合制なのだ。


「最低の仕事しか紹介しないでしょう?」

「獣人は限られているんだ」

「へえ、そう。うちだったら、希望通り家事をお願いするんだけど」


 リンゼイは猫獣人の娘に訊ねる。

 どちらに仕事を紹介してほしいと。


「おい、客を奪うんだったら、通報するぞ」

「勝手にすれば?」

「名指しで言いつけてやる。身分証を見せろ」

「はいはい」


 リンゼイはふんと鼻を鳴らし、身分証を渡そうとしたその時、声をかけられる。


「あ、あなたは――!!」


 声のしたほうを見る。青い法衣姿の、中年神父が驚いた顔をして立ちつくしていた。

 リンゼイは顔を顰め、問いかける。


「――誰?」

『いやいやいや!』


 ルクスが慌てて突っ込む。


『あの人は挙式をしてくれた神父様だよ。リンゼイ、人の顔は覚えていて』

「ああ……」


 ここで、リンゼイも思い出したのか、うんうんと頷いている。


「あなた、なんでこんなところに?」

「いえ、わたくしは、ちょっと自分の仕事に自信がなくなって……」


 挙式中に動揺しまくり、宣言文を何度も噛んでしまった。

 神父には向いていないので、新しい仕事を探しに来たと話す。


「別に、仕事を辞めるほどわるくなかったけれど」

「そ、そうですか?」

「ええ」

『っていうか、リンゼイとクレメンテの結婚式を担当して、最後までやりきるなんて、大したものだというか……』

「うちの妖精もこう言っているし」

「は、はい。ありがとうございます」


 ならば転職は止めると、神父は考え直した。


「そ、そういえば、妃殿……いえ、奥様こそ、なぜこちらに?」

「使用人を探しに来たのだけれど、そこの職員が私を通報しようとして」

「つ、通報!?」


 事情を話すと神父は汗をたらりと流し、サッと顔色を悪くする。そしてすぐに、職業ギルドの職員へ耳打ちに行った。

 今度は職業ギルドの職員は額に汗を浮かべ、顔面蒼白となる。


 リンゼイは気にせずに、不遜な態度で言ってのけた。


「通報でも、なんでもしなさいよ。やって来た騎士に、あなたの横暴と悪事を暴露してやるんだから」

「い、いえ……」

「何?」

「つ、つつ、通報、しません」

「は?」

「その娘は、ど、どうぞ、お好きに」


 それを言い切ると、職員は全力疾走でいなくなった。

 神父もペコリと頭を下げ、職員のあとを追う。


「何、あいつ」

「姉上、何をしているんだ?」


 ここで、列を抜け出したウィオレケとメルヴが合流する。

 リンゼイのもとに行ったら、再度列に並ばなければならないので、どうしようか今まで悩んでいたらしい。


『リンゼイ、大人しくしてようよ~~』

「だって、あの猫獣人に失礼なことを言っていたから」


 ここで、猫獣人の女性に向き直る。

 女性は申し訳なさそうに、お礼を言った。


「あ、あの、ありがとうございました~」

「いいけれど」


 ここで、リンゼイは誘う。うちで働く気はないかと。


「あの、わたくし、獣人なので、毛だらけですが~」

「別に、気にしないわ。まだ開業前だから、そこまで給料は高くないけれど」

「いえいえ、とってもありがたいです~」


 彼女の村でも、獣人が職を探すのは大変だと言われていたらしい。それでもいいからと、都会暮らしに憧れて飛びだしてきたのだと話す。


「本当に、本当に、ありがとうございました!」

「大袈裟ね」


 荷物を抱えたまま、猫獣人の女性はその場でぴょこんと跳び上がって喜びを示す。


「わたくし、スメラルド・リーズと申します」

「私はリンゼイ。この子は弟のウィオレケ、猫妖精のルクスに――」


 ウィオレケの足元にしたメルヴが、ぴっと手を挙げた。


「これは、葉っぱ」

「メルヴ・メディシナル!」


 すかさず、ウィオレケは訂正した。


「そう、メルヴ」


 スメラルドと名乗った猫獣人の女性は綺麗なお辞儀を見せる。


「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします~」

「ええ、よろしく」


 こうして、リンゼイ達の屋敷に、スメラルドという猫獣人の使用人が住み込みで働くことになった。


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