迷った
「むぅ……、話の通りではとっくにククリ村に着いてもいい頃なのに……」
「どっかで道を間違えちゃったかな? 」
エスクアイアを目指して旅を続ける私達であるが、どうやら迷ってしまったらしい。なるべく野宿を避けようと町から町へと旅をしていたのだが、次に着くはずのククリ村が見つかる気配が一向にない。
「やはりあの道を左に行くべきだったか。森の中を掻き分けて進み始めた時点でおかしいとは思っていたんだ」
「まぁまぁ、間違ってしまったものはしょうがないよ。ここで引き返すのもあれだし、もうちょっと進んでみない? 」
正直、あの森をもう一度通ることはなるべく避けたい。カランも同じ思いを抱いていたのだろうか、ではもう少しだけ、と言って歩みを進める。
これで何もなかったら今歩いた分も歩かなきゃいけないのかぁ、徒労感が半端じゃないな、なんて考えながら歩いて数十分、遠目ではっきりとはわからないが村らしきものを見つけることができ、ほっとする。これで後戻りをする必要もなくなったわけだ。しかも今晩は野宿をせずに済む。いやー、よかったよかった、と和やかに会話を交わしていると、前方から何か、白いものがこちらに向かって迫っていることに気がついた。
「なんだあれは……? 」
なんだろう。目を細めてこちらに向かってくるものを確認しようとする。だんだん近づいてくる……あれは、そう、鶏だ。日本でもお馴染みの白い体に赤いトサカの至ってノーマルな雄鶏である。ただ一つの違いといえば……かなり大きい。遠目だが、1メートル程ありそうだ。この世界の鶏は大きいんだなぁ……
「なんだあの鶏は!? 大きすぎる!魔物か!? 」
カランの驚愕した様子でこの世界でも異常なレベルで大きいことを察する。なんなんだろう、というかものすごいスピードで一心不乱にこっちに向かってきているのですが!!
あわあわとしている間にも巨大鶏は距離を詰めてくる。
「下がっていろ!! 」
カランが剣を抜きながら走り出す。こちらに迫ってくる巨大鶏に剣を構えて肉迫。剣が閃き、その首を勢いよく刎ね飛ばす。
首を失った胴体はそのまま数歩走ってから、地面にどさりと倒れこみ、それでもなお足と羽をバタバタと動かして暴れている。
刎ね飛ばされた首はぽーんと綺麗な弧を描いてこちらに向かい、足下にごろりと転がってくる。丁度顔が見える位置で静止し、巨大鶏の丸いつぶらな目と目があった。気持ち的なものであろうが、心なしか恨めしげに見える。ひぇぇ…
現代に生きる日本人にはなかなか刺激が強すぎる光景である。美味しく調理されたものやスーパーでパックに詰められた鶏肉には慣れ親しんでいるが、屠殺現場を見る機会なんてそうそうない。し、あまり見たいものでもなかった。
興味深そうにバタバタと動き続ける胴体を眺めていたヨルの目をそっと両手で覆い、見ちゃ駄目、と声をかける。既に手遅れな感じがひしひしとしているけれど、しないよりはマシだと思いたい。
「なんだろうね、この巨大鶏……」
「それは、彼らに聞いた方がよさそうだ」
カランは村の方向を向いて立っている。その視線を追うと、鶏に気を取られて気づかなかったが村の方向から何人かの人がこちらに向かってきていたらしい。
彼らは手に鉈や鍬を持ってここまで走ってきたようだ。カランがそちらに向かって歩いていくので、慌ててついて行く。
「あれは、お前たちの村からやってきたようだな。……一体何をした? 」
カランは手に武器や農具を持った男たちに物怖じせずに対峙する。冴え冴えとした翡翠色の目は今は眇められ、鋭く相手を見据えていた。
男たちはたじろいだようだが、顔を突き合わせ、低い声でボソボソと相談を交わしたかと思うと、一人、よく日に焼けた大男が前に進みでた。この集団のリーダー格であろうか。手に持った鍬がよく似合っている。
「……見られてしまったならば仕方ない。大人しく、我々の村までついてきてもらおう」
こういう場面、アニメで見たな。




