道中たわいもない話
「エスクアイア? あんた達あんなところに一体なんの用があるんだい? 」
タダノ町を出発して暫く、行商人の夫婦にあった私達は、品物を見せてもらうついでに世間話をしていた。ちなみに今までの道中、ずっと徒歩である。カランの連れていた犬と馬は依頼主からの借り物だったそうな。
「えーと、探し物? をしているので、その情報を見つけるために行こうかな、と。おばさんは行かれたことありますか? 」
「行商のついでで一度寄ったことがあったけど、わたしはもう二度と行きたくないね。どいつもこいつも鼻持ちならないやつばかりさ。お偉い学者さんや頭でっかちばかりがいるところだよ」
鼻息荒く語ってくれるおばさんは余程不快な思いをしたようだ。そのままエスクアイアでの不快だった出来事を懇々と語り、それから前に行った中で特に嫌な思いをした場所の話をしだし、そこから何故か自分の旦那さんの愚痴に発展した。止める間もないお喋りを遮ることもできず、ひたすら相槌を打つマシーンと化す。
そこできゅっと裾を引かれ、視線を向けるとヨルが見上げていた。さっきまで旦那さんのところでカランと一緒に商品を見せてもらっていたのに。もしかして困った顔をしてたから来てくれたのかな。
「……その子、奴隷かい。随分小さいのにね」
怒涛のお喋りが止まり、一瞬おばさんの顔が痛ましいものでも見たかのように歪む。今のヨルは顔を包帯でぐるぐる巻きにされた簡易ミイラ男状態なので、怪我をしていると思われたのだろか。おばさんはすぐに表情を戻したが、その後やけに真剣な声で、あまり可哀想なことはしないでおくれ、とこちらを見て言ったので、雰囲気にのまれてとりあえずこくこくと頷いておいた。
行商人の夫婦と別れてから、カランと情報を共有しようとおばさんから聞いたことを話し、ついでに真剣な顔でこう言われたのだ、とさっきあったことも話す。
「それは、きみ……いや、なんでもない」
「途中で止められるととっても気になるのですが」
カランは渋い顔で話すことを躊躇っているようだ。少しの間、話して、いやしかし、という応酬を続け、最後に根負けしたようにしぶしぶと話し出す。
「君、恐らくそれを愛玩動物として侍らしていると思われたんじゃないか」
愛玩動物って……ペットのことか。
「幼い子供の奴隷や若い女の奴隷は、用途が限られてくるからな。愛玩用と思われても仕方がないし、そのご婦人もそう考えたのだろう。
……これからも他人からそう思われることは覚悟しておいたほうがいいぞ」
つまり私は幼い少年を侍らせることが大好きな女と思われていて、さらに今後も会う人会う人にそう思われ続けると。とんでもない誤解である。
「カランだって一緒にいるんだから、そう思われてるんじゃない? 」
「私か? 私はどうもそれにあまり好かれていないようだし、基本的に君にくっついていることが多いからな。私の奴隷とは思われないと思うぞ。それに私は奴隷を持つ気はない」
私だって奴隷を持つ気なんてないのですが。
自分は関係ありません、なんて顔をしているカランは薄情者だ。チクショー、とやさぐれた気分で足元にあった石を蹴っとばしていると、今まで話を聞いていたヨルから、
「あいがんって、なに? 」
と曇りのない目で言われ、物凄い罪悪感に襲われた。




