表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
踏み台令嬢に転生したのでもふもふ精霊と破滅フラグを壊します! 気づけば王子様ホイホイ状態なんですが!? 完結  作者: まほりろ・ネトコン12W受賞・GOマンガ原作者大賞入賞
第一章「謹慎編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/58

8話「第一王子ユリウスとの遭遇」




第一王子ユリウスは、エドモンドの一つ年上。


エドモンドと違い、正室の子です。


「聖女コレットの恋〜本命はイケメン王子様!」略して「聖恋」の世界では、ちょっとしか出てこないモブです。


ユリウスは病弱で、そのために婚約者もいませんでした。


アンジェリカが召喚した闇の精霊が王宮を襲ったとき、ユリウスはその他大勢と一緒にふっ飛ばされて死んだのです。


その時、彼の母親である王妃も死去します。


小説にはユリウスの挿絵すらなく、出番も数行のみでした。


愛人の子と蔑まれてエドモンドが可哀想。


国王はエドモンドの母親を愛していたのに、隣国の王女と政略結婚させられて可哀想。


だけど最後は、聖女と結婚できて、国王になれて良かったね。


……というようにユリウスと王妃は、読者に「エドモンドが可哀想」という感情を植え付ける為だけに存在した舞台装置なのです。


アンジェリカが「踏み台令嬢」なら、ユリウスは「踏み台王子」といったところでしょうか。


二人共、シナリオを盛り上げる為に犠牲になった存在。


そのせいか、ユリウスには親近感が湧いてしまいます。


小説に挿絵すらない第一王子の顔を私が知っている理由は、前世の記憶が戻る前に何度か会ったことがあるからです。


一応はエドモンドの婚約者でしたからね。


第一王子の顔くらいは知っています。


以前に見たときよりユリウスは随分やつれたみたいです。


顔色もとても悪いです。


小説のユリウスは病弱な設定でした。


もしかして、しばらく会わない間に病気が悪化したのかしら?


『証拠隠滅のために、こいつを草むらに捨てるんだろう?

 手伝うぜ』


ルシアン、死体の処分するみたいな言い方はやめて。


「ユリウスは王子様だものそんなことできないわ」

 

第一王子が草むらで寝ていたら、大騒ぎになるわ。


『だったらどうするんだ?』


「彼の部屋に運びましょう。

 ベッドで目を覚ましたら、夢だと思ってくれるかもしれないわ。

 ルシアン、手伝ってくれる?」


『それは構わないけど、その前にこいつ死ぬかもな』


「えっ……!?

 どういうこと!?」


ルシアンは険しい表情でユリウス殿下を見ていた。


「ルシアンに倒されたとき頭を強く打ったのかしら?

 それとも眠り薬が効きすぎたかしら?

 どちらにしても、彼にこのまま永眠されたら困るわ!!

 お、王族の殺害なんて重罪よ……!」


どうしよう!? 大変なことになってしまったわ!!


『俺達はなんもしてねぇよ。

 こいつ、ここに来る前から衰弱してたぜ』


「えっと……それは病気のせい?」


『いや、これは病気じゃない。

 毒だ。

 こいつは毒に侵されている』


「ど、毒……!」


ユリウスが体が弱かったのは、病気じゃなくて、何者かに毒を飲まされてたってこと?


話がドロドロしてきたわ!


これが乙女小説では描かれない、王族の闇の部分なのね!


小説でアンジェリカが闇の精霊と共に王宮を襲わなくても、ユリウスは何者かに毒殺されていたのね。


『放置しておくと、朝まで持たないかもな』


「そ、そんなに酷いの……!?」


小説では、一週間前にアンジェリカが闇の精霊と共に王宮を襲撃し、ユリウスの命を奪っている。


彼は本来なら、ここにはいない存在。


でも、それを言ったら私も同じだわ。


小説のアンジェリカは、聖女に敗れ処刑されている。


本来なら二人共、今日という日を迎えていない存在なのよね。


『解毒ポーションを使えば助かるかもな』


「そうなのね、良かったわ……!」


万が一に備え解毒ポーションを持ってきて正解でした。


『助けるのか?』


「もちろんよ!」


このまま、彼に死なれたら私達が殺したみたいで目覚めが悪いわ。


「解毒ポーションは液剤の経口薬だから飲ませるしかないわ。

 でも、ユリウス殿下は……」


『ぐっすり眠ってるからな。

 口移しで飲ませるしかないな』


「………!」


ま、まさかの口移し……!


先週の自分の馬鹿!


なんで解毒ポーションを作る時、体にかけるタイプか、スプレーするタイプにしなかったの!?


「でも、王子様の唇を無断で奪うわけには……。

 彼が起きるまで待って……」


『奴の心臓の鼓動が弱まってきた。

 このままだと長くは持たないかもな』


「それは駄目!

 ユリウス殿下は絶対に死なせないわ!」


ユリウスと最後に接触したのは私達だ。


その上、眠り薬まで嗅がせている。


このままだと、毒殺の濡れ衣を着せられてしまう。


そんなことになったら破滅へまっしぐらだわ!


「仕方ないわね!

 口移しで飲ませましょう!」


他に方法がないならやるしかないわ!


これはキスじゃない! 人工呼吸と同じよ! 人命救助よ!!


キスじゃない、キスじゃない、キスじゃない!!


否定すればするほど、キスを意識してしまう!


『早くしないとこいつ死ぬぞ』


「わかってるわ!

 心の準備をしていたの!」


私は瓶の蓋を開け解毒ポーションを口に含み、口移しでユリウスに飲ませた。


前世を含めて、初めてのキスが口移しだなんて……!


神様、あんまりです!


ユリウスが薬を飲み込んだ音を確認した。


『よかったな。

 心臓の鼓動が正常に戻った。

 顔色もいい。

 そのうち回復するぜ。

 ……どうしたアンジェ?』


「……なんでもないわ。 

 ちょっと一人にして……」


ファーストキスの喪失で、ちょっとセンチメンタルな気分になってるだけだから。


「少しの間、部屋の隅で三角座りさせて……」


『そうしてやりたいが、誰かが来ると面倒だぜ。

 さっさとこいつを移動させようぜ。

 こいつの部屋の場所はわかるか?』


ファーストキス消失の干渉に浸っている時間もないのね。


「ええ、知ってるわ。

 案内するわね」


確かにこの場所に長居するのはよくない。


これ以上面倒なことが起きる前に、早く立ち去った方がいい。


ユリウスをルシアンの背に乗せ、禁書室へ続く本棚を元通りにし、図書館を後にした。




 ◇◇◇◇◇




ユリウスの部屋は王宮の一角にある。


エドモンドの部屋が国王の隣にあるのに対し、ユリウスの部屋はかなり離れた場所にある。


セキュリティを考えるなら、ユリウスの部屋も国王の部屋の近くに配置するべきだ。


エドモンドの婚約者だったときは、エドモンドに夢中で気にもしなかったけど、もしかしてユリウスは国王に蔑ろにされているのかしら?


「あのバルコニーがある部屋がユリウスの部屋よ」


ルシアンに乗って、ユリウスの部屋に近づく。


ユリウスの部屋の周囲には、見張りが一人もいなかった。


こちらとしてはあっさりと部屋に入れるからいいのだけど、不用心すぎるわ。


窓からこっそり部屋に入り、ユリウスをベッドに寝かせた。


ベッドには窓から月明かりが差していた。


月明かりの下で見るユリウスの顔は本当に整っていた。


エドモンドも美形だけど、ユリウスの麗しさはそれを上回っている。


こんなに美形なのにユリウスには婚約者がいない。


病弱だからという理由で、婚約者を作らないみたいだけど……。


国王に嫌われていて、それで婚約者を作らせて貰えないのかもしれない。


ユリウスの唇に視線が向いてしまう。


この形の良い唇に、私の唇が触れていたのよね?


思い出したら心臓がドキドキしてきた。


あれは人工呼吸と同じ、人助け、人助け、人助け……!


私は心の中で「人助け」と繰り返した。


『用が済んだし、こいつの命も助けたし、部屋まで運んだし、さっさとずらかろうぜ』


「そ、そうだね!」


ユリウスの麗しさに見とれている場合ではない!


私達は侵入者なのだ。


一刻も早く立ち去らなくては。


ユリウスから離れようとしたとき、不意に左手を掴まれた。


「待て……! 

 お前は何者だ……!」


眠り薬の効果がもう切れたの!?


それとも解毒ポーションを飲ませたことで、眠り薬の効果が中和された?


ともかくもう一回眠らせないと!


「殿下、これは夢です!

 夢の世界にお戻りください!」


私はユリウスの鼻と口をめがけ、眠り薬をスプレーした。


ユリウスは目を閉じ、スースーと寝息を立てた。


私は仮面をつけている。


なので顔は見られなかったはず。


声はきかれたけど、似ている声の人は沢山いるから誤魔化せるはず。


ユリウスが夢だと思ってくれるのが一番いいんだけどね。


「ユリウスを眠らせたし、帰ろうか……きゃっ!」


安堵したのも束の間、ユリウスに手を強く引っ張られた。


たぬき寝入りだった? それとも寝ぼけてるの?


体制を崩したことで、ギチギチだったシャツのボタンが外れ、飛んでいってしまった。


露わになった素肌を覆うひまもなく、ユリウスの胸にダイブする。


ユリウスの胸は病弱と言われている割に筋肉質だった。


香水の甘い香りがする。


男の人に抱き寄せられるってこんな感じなの……?


家族以外の男性とこんなに接近したのは人生で初めてだわ!


しかも、服がはだけている状態で……!


結婚もしていないのに、こんな破廉恥なことをするなんて……!


幸いなのは、ユリウスに意識がないこと。


意識ないよね?


寝てるはずだよね?


寝ぼけて私の腕を引き寄せただけよね?


頭上からスースーという規則正しい寝息が聞こえる。


やっぱりユリウスは夢の中だわ。


寝ぼけて腕を引っ張ったと思っていいわね。


『イチャイチャしてるとこ悪いが、帰らないのか?』


「い、イチャイチャなんかしてないわ!」


ユリウスの手をほどき、彼から距離を取る。


眠っているとはいえ、男性の前で肌を晒している事実に羞恥心がこみ上げてくる。


「でも、このままでは帰れないわ」


私は胸の前で腕を組み、大事な部分を覆い隠す。


「じゃあ、こいつのマント借りてこうぜ」


ルシアンが、コート掛けにあった白いマトンを持ってきてくれました。


せっかく禁書を返したのに、今度はマント泥棒?


しかし、このままでは外に出れません……背に腹は代えられないわね。


ちょっとの間、拝借しましょう。

 

盗むのではなく、少しの間借りるだけです。


マントを羽織ると、ユリウスと同じ香りがした。


心臓がトクンと音を立てる。


ユリウスに包まれているみたいで、照れくさい。


『顔が赤いぞ。熱があるのか?』


「なんでもないわ!

 それより、色々あって疲れたわ。

 家に帰りましょう」


『おう、公爵家までひとっ飛びだ』


私達は入ってきたときと同じように、窓から外に出た。


本当に疲れたわ。


もう、王宮はこりごりだわ。


「ルシアンが一週間前に見た禁書室を利用してた人って、ユリウス殿下だったの?」


『いや、別の奴だったぞ。

 特徴を知りたいか?』


「やめておくわ、これ以上面倒なことに関わり会いたくないもの」


これは本音です。


だけど、ユリウスの身体が心配です。


彼はどこで毒を盛られたのでしょう?


禁書室にはどうして来ていたのでしょう?


謎は残されたままです。


風が吹く度にマントからユリウスと同じ香水が漂い、彼の唇の感触や、彼に抱き寄せられた時のことを思い出してしまいます。


キスしたから彼の身を案じている訳では……!


せっかく助けたから、健康に長生きしてほしいだけです!


私は心の中で言い訳を繰り返しました。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ