6話「アンジェリカ、知識欲を抑えきれない」
一度叡智の祝福を受け、知識欲に火がついたら歯止めが利きませんでした。
手始めに教科書を読み、次に書庫の本を読み漁る。
それが終わったら祖父の建てた研究所に移動し、魔導書を読み漁りました。
祖父が庭に植えた薬草を採取し、初級ポーションや、解毒ポーションを作るがそれでは満足できない。
「本を読みたい!
難解な魔導書とか禁断のレシピが記された古文書とかないの!」
『俺様、それがある場所知ってる!
持ってきてやるよ!』
「ありがとう、ルシアン!」
『いいってことよ!
友達だろ!』
この時の私は、知識欲がマックスで、他のことに気が回りませんでした。
ルシアンは人に喜んでもらう為なら、何でもすることを忘れていたのです。
◇◇◇◇◇
――一週間後――
「はぁ〜〜楽しかった〜〜!
満足満足!」
ルシアンが持ってきてくれた本は、叡智の祝福があっても難解で、それ故に読み応えがありました。
祖父の研究所に一週間こもり本を読みふけってしまいました。
「ところでルシアン、この本どこから持ってきたの?」
机の上に積まれた、10冊近い本に目を向ける。
『図書館からだぜ』
「そうなの、じゃあ返しに行かないとね。
どこの図書館のどのコーナーにあった本なの?」
王都には複数の図書館があります。
古いけど手入れが行き届いた値打ちのありそうな本たち。どこの図書館の蔵書かしら?
これだけ貴重な本を、よく貸し出してくれたわね。
閲覧制限がついていたり、持ち出しが禁止されていても不思議ではないのに。
『王宮の禁書室から黙って借りてきた』
「そう、王都の禁書室ね。
わかったわ……って、ええっっっ!!」
私は椅子から転げ落ちそうになった。
「王宮の禁書室から持ち出したって……!
それは、犯罪よ……!!」
知らなかったとは言え、法を犯し禁書を読んでいた事実に背筋が寒くなる。
「ルシアン、どうしてそんなことしたの?」
『いけなかったのか?
俺はアンジェが喜んでくれると思って……』
ルシアンはしょんぼりとし、目に涙を浮かべました。
強く言い過ぎてしまったわ。
ルシアンは何度も悪い人に利用されてきたから、善悪の区別が上手くつけられない。
だから、褒められたくて召喚者が喜ぶことをしてしまうのです。
私が気をつけて見ていなくてはいけないのに……。
知識を得ることに夢中になって忘れていました。
「ごめんなさい、ルシアン。
強く言い過ぎたわ」
ルシアンの前でしゃがみ彼の頭を撫でる。
一週間、撫でてなかったので髪が少しごわついていました。
『俺、アンジェが喜ぶと思って……』
後で念入りにマッサージと、ブラッシングしてあげよう。
それから、手でご飯を食べさせてあげよう。
「私の為にしてくれたのね、ありがとう。
でも、これからは人様の物を無断で持ち出しては駄目よ」
『なんでだ?』
「黙って物を持ち出したら、持っていかれた人が困ってしまうでしょう?」
『そうなのか?』
「そうよ。
だから、もうこういうことはしないでね」
『わかった。
アンジェが言うならもうしない』
ルシアンはこくんと頷いた。
犬の姿でそんな仕草をされると、胸を撃ち抜かれてしまいます!
やはり可愛いは正義です! 強く怒れません!
「一週間ほったらかしにしてごめんね。
後で骨付き肉を持ってきてあげるからね」
『ほんとか?
やったーー!』
ルシアンが尻尾をびゅんびゅんと横に振りました。
「だから、本を元あった場所に返しに行こう。
私も一緒に行くわ」
『わかった』
ふーー、躾って大変ね。
あとは、王宮に本を返しに行くだけね。
管理の人が、本がなくなったことに気づいてないといいんだけど。




