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踏み台令嬢に転生したのでもふもふ精霊と破滅フラグを壊します! 気づけば王子様ホイホイ状態なんですが!? 完結  作者: まほりろ・ネトコン12W受賞・GOマンガ原作者大賞入賞
二章「学園編&陰謀編」

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56話「揺るがないもの」



ーーアンジェリカ視点ーー



「よくも、やってくれたな!

 覚悟はできているんだろうな!」


エドモンドが眉間に深い皺を作り、目尻を上げ、険しい表情で私を睨む。


よく見れば、彼の鼻の部分が赤く腫れていた。


鼻が折れたらエリクサーで治せばいいと思って、思いっきり頭突きしてしまった。


容姿に自信がある人ほど、顔を傷つけられると怒ると言うのは本当らしい。


「お、お前の、恥ずかしい姿を水晶玉で記録してやる!」


エドモンドが私に向ける目つきがキモい。


彼の大事なところを思いっきり蹴り上げたのを、根に持っているのかもしれない。


「そんなことに時間をかけるのは得策だとは思えませんね。

 私を人質にして早急に逃げた方が良いのではありませんか?

 先ほど、ルシアンが窓を割って逃走しました。

 異変に気がついた兵士が、直にこの部屋に見回りにくるでしょう」


革命が起きて皆、過敏になっている。


僅かな異変も見逃さないはずだ。


「確かにそうだが……」


「いいえ、駄目よ!

 あなたは何をするかわからないわ!

 逃げるにしても、あなたを脅す材料がないと安心できないわ!」


エドモンドの言葉をコレットが遮る。


白目をむき出しにしてこちらを睨んむ姿は、まるで悪魔のようだ。


コレットも、私が頭突きしたことに相当腹を立てているようだ。


「あなたの恥ずかしい映像を記録しておけば、ユリウス殿下やカレンベルク公爵と取引する材料になるわ。

 惚れた相手や、娘の破廉恥な映像を流されたくはないでしょうから」


コレットは目を細め、口元を引き上げた。


まさか、ユリウスや父にも迷惑をかけることになるとは思わなかった。


こんなことなら、予備の水晶なんて作るんじゃなかったわ!


しかし、後悔してもどうにもならない。


「い、今から、お前のあんな姿や、こんな姿を記録してやるからな!

 か、覚悟しろよ……!」


エドモンドが空中で何かを掴むようにもぞもぞと手を動かす。彼の鼻の下は伸び、鼻息が荒い。はっきり言うと気持ちが悪い!

 

嫌ーーーー!!


こんなやつに見られるくらいなら、ユリウスといい感じになった時に、全部見せておけば良かった!!


「記録は私がやります。

 なので、エドモンド様は後ろを向いていてください」


コレットがエドモンドをじとりと睨む。


「えっ!?」


あてが外れたのか、エドモンドの瞳が揺れる。

彼は肩を落とし、ため息を吐いた。


「でも、男手も必要だろう……?」


「いりません。

 後ろを向いていてください」


「いや、ここまで期待させといてそれは殺生……」


「期待?

 エドモンド様は何を期待されていたのですか?」


「えっ……それは……」


なんだかわからないけど、痴話喧嘩が始まった。


この間に、私の体を縛り付けているロープをほどけないかしら?


両手が自由になれば、逃げることはできなくても水晶を外に投げるくらいはできそうだ。


「こんなことで揉めている時間はありませんでした。

 アンジェリカ様の恥ずかしい姿を記録して、逃げなくてはならないのですから」


私の期待は虚しく、コレットとエドモンドの痴話喧嘩はあっさりと終わってしまった。


「エドモンド様は早く後を向いてください」


「……わかったよ」


エドモンドは渋々といった表情でこちらに背を向けた。


エドモンドが壁を向いたのを確認し、コレットが水晶玉に魔力を注ぐ。


「さぁ、これで準備完了です。

 アンジェリカ様、覚悟してください。

 今からあなたの恥ずかしい姿を記録しますからね」


コレットが水晶玉を手に迫って来る。


壁を向いていたエドモンドが時々振り向いて、こちらの様子を伺っている。


コレットの手が私のドレスを掴んだ。


私はぎゅっと目を瞑った。


嫌ーー!!


誰か助けてーー!!


ユリウス!!


ドン!! と音がして扉が揺れた。


「アンジェリカ!!

 中にいるのか!?

 いたら返事をしてくれ!!」


この声はユリウス!!


「ユリウス様!!

 アンジェリカはここです!!」


私はできる限り大きな声で答えた。


「扉の近くにいるなら下がれ!

 破壊する!!」


破壊? 蹴破るのではなく破壊?


次の瞬間、閃光が走った。眩しさに目をつむる。


目を開けたとき、扉は粉々に粉砕されていた。


今の攻撃はもしかしてルシアン? 聖女に酷く痛めつけられていたけど、回復したのかしら?


扉が破壊されることを想定していなかったのか、エドモンドとコレットは目を見開き、口がわずかに開いていた。目の焦点は定まっていないようだ。


「アンジェリカ!」


破壊された扉の向こうに、一番会いたかった人の姿が見えた!


「ユリウス様!!」


ユリウスは瓦礫をかき分けこちらに近づいて来る。


「アンジェリカ、無事で良かった!」


ユリウスが私を包み込むように抱きしめた。


「ユリウス様、怖かった」


私は彼に体をあずけた。ユリウスの香りがする。彼の心音と体温を感じる。


好きな人に抱きしめられる。それだけでこんなに安心するのね。


「……っ!」


その時、ユリウスが声にならない悲鳴を上げ髪を押さえた。


「取ったわ!

 ユリウスの髪よ!

 あらかじめ入れておいた前国王の髪と、今採取したユリウスの髪を入れ、ボタンを押せば親子鑑定は完了よ!!」


コレットの手には親子鑑定の魔道具が握られていた。


「嘘、あの魔道具がどうしてここに!?」


「すまない。

 ルシアンが咥えていたから大事なものかと思って持ってきてしまった」


『悪い、アンジェ。

 そこまで説明する余裕がなかった』


ルシアンがよたよたと歩きながら、こちらに近づいて来る。きっと先程、扉を破壊したことで力を使い果たしたのだ。


「ユリウス、あなたの出自を明らかにしてやるわ!

 あなたが不義の子である証拠を見せて上げるわ!!

 あなたはこれで終わりよ!」


「駄目ーー!!」


「ここまで来たら、議会を動かすとかどうでもいいわ!

 自分が不義の子である苦しみを背負い、良心の呵責に苛まれながら、道徳的苦悩と共に生きて行くがいいわ!

 正義感の強いユリウスには生き地獄よね!!」


コレットが邪悪な笑みを浮かべ、魔道具の起動ボタンを押した。


魔道具が眩い光を放つ! それは目をあけていられないほどの閃光だった。


水晶玉は起動したままだ! このままでは親子鑑定の結果が記録されてしまう!


しかし、両手を拘束されているままでは身動きが取れない。


しばらくして光が収まり、私は瞼を開けた。


「さぁ、魔道具よ!

 親子鑑定の結果を示しなさい!!」


コレットが高らかに叫ぶ。


『鑑定結果を申し上げます。

 99.99%の確率で二人は親子です』


「……っ!」


魔道具から流れた声が信じられないのか、コレットは目を見開き、肩を震わせていた。


「嘘、そんなはずはないわ!

 きっと、エドモンド様の髪が混じったのよ。

 絶対にそうだわ!」


コレットは鑑定結果を疑っているようだ。


「ならば、今度はモードチェンジ! 

 兄弟判定よ!

 エドモンド様、髪をいただきます!」


「痛い!」


コレットはエドモンドの髪を結構な量むしり取っていた。


後で禿げなければいいけど。


そして、先程ユリウス様からむしり取った髪の残りと一緒に魔道具に放り込んだ。


「今度こそ、終わりよ!」


コレットが魔道具の起動ボダンを押す。


また、魔道具から眩い光が放たれる。


数秒後、光が収まると魔道具の機械的な音声が流れた。


『判定結果を申し上げます。

 二人は片方の親を同じくする兄弟です』


そんなことまでわかるの? 便利だけど使い方を間違えると恐ろしい魔道具だわ。


「そんな……兄上が父上の子だったなんて……」


エドモンドは肩を落とし、力なくその場に崩れ落ちた。彼の顔は真っ青で、頬は強張り、唇がわずかに震えていた。


放心するのも無理はない。犯行の動機で、自分たちの正当性を示す唯一のものが崩れたのだから。


エドモンドにとってユリウスが前国王の血を引かないことが、ただ一つの心の拠り所だったのだろう。


「嘘、そんなはずない!

 ユリウスは、シャルロット王妃とヴァルトハイム国王の間にできた不義の子よ!!

 ブライトスター国王の子であるはずがないわ!!

 そうよ、今度はヴァルトハイム国王の髪を採取して……」


「いい加減にしてもらおうか」


ユリウスがコレットの手をひねり上げた。


「痛っ……!」


コレットは顔を歪め、魔道具から手を離した。


ガシャンと音を立て、魔道具が床に落ちる。


「こんな結果認めないわ!

 そうよ、きっと魔道具が壊れていたのよ!!

 もう一度、鑑定を……」


「そんなこと、僕が認めるわけないだろう!

 茶番はもう終わりだ!」


ユリウスが眉を釣り上げコレットを見据える。コレットを見るユリウスの目は氷のように冷たい。


「ユリウス様、コレット様は水晶玉を所持しています。

 回収してください」


「わかった」


「やめなさいよ! 離して!」


コレットは抵抗したが、抵抗むなしく水晶玉は押収された。


押収した水晶玉を、ユリウスは自分のポケットにしまった。


「そうだ!

 ユリウス殿下はご存知でしたか?

 アンジェリカ様は闇の精霊と契約してる危険人物なのです!

 王子であろうと、闇の精霊と契約している者を側におくことはできません!

 そんなことをすれば身の破滅です!」


ああ……ユリウスにルシアンの秘密が知られてしまった。


ユリウスの顔は怖くて見えない。


「対して私は聖女です!

 全ての罪を前国王になすりつけ、私を救ってください!

 そうすれば、聖女としてあなたに仕えると約束します!

 闇の精霊と契約した汚れた女などより、私の方が遥かにあなたのお役に立てま……」


「黙れ!!」


ユリウスの凛とした声が室内に響く。


「それがどうした!

 ルシアン殿が闇の精霊だろうが、なんだろうが関係ない!

 アンジェリカとルシアン殿は、毒殺されかけていた僕と母を助けてくれた!

 毎日、僕達の為にお弁当を届けてくれた!

 それだけで、俺が彼女を信じるのには充分だ!!」


そう言い切った彼の瞳は冬の湖のように澄んでいて、一切の揺らぎを感じなかった。


ユリウス様……私とルシアンのことをそんな風に思っていてくれたのですね。


心の奥から温かい気持ちが湧いてくる。


この気持ちになんて名前をつけたらいいだろう?


そうきっと「愛」だわ。


「くっ……!

 こんなこと計算外だわ!」


コレットが眉根を寄せ、口元を歪ませた。


その時、廊下を複数の人間が走って来る足音が聞こえた。


「ユリウス殿下!

 今の爆発音はいったい!?」


どうやら、騒ぎを聞きつけた兵士が駆けつけたようだ。


「コレットは脱獄、王位簒奪未遂、国家秩序破壊の罪を犯した!

 エドモンドは脱獄幇助、並びに囚人逃亡幇助を行い国家の秩序を破壊した反逆者だ!

 二人に猿ぐつわをし、拘束し、隔離牢に入れよ!

 世話役は耳の聞こえないものをあてがえ!!」


「承知いたしました!!」


ユリウスの指示で兵が迅速に動く。


二人は抵抗する隙もなく拘束された。


コレットとエドモンドが兵士に連行されていく。


エドモンドの後ろ姿を見送るユリウスの顔は、どこか寂しげだった。


「ユリウス様」


「ごめん、アンジェリカの縄を切ってなかったね。

 待ってて、今ナイフで切るから」


ユリウスは剣の刃で縄を切ってくれた。


ずっと縛られていたので、腕や手がじんじんと痺れていた。


感触が戻るまで少し時間がかかりそうだ。


「辛かっただろう?

 助けに来るのが遅くなってすまない」


彼は眉尻を下げ、伏し目がちに尋ねた。


私は彼の手に、そっと自分の手を重ねた。


「私は平気です。

 それよりもユリウス様の方が心配です。

 お顔の色が優れませんが大丈夫ですか?」


ユリウスが視線をこちらに向けた。その眼差しは優しいものだった。


「心配かけたね。

 僕は大丈夫だよ」


ユリウスが穏やかに微笑む。

 

「それより心配なのはアンジェリカ、本当に大丈夫?

 どこか怪我をしていない?

 変なことされなかった?」


彼は眉尻を下げ、心配そうに私を見る。


「頭突きをしたとき、ちょっとだけ怪我をしたかもしれません。

 でもポーションを飲めば回復しますので問題ありません。

 変なことはされそうになりましたが、その前にユリウス様とルシアンが助けに来てくれましたからこちらも無傷です」


途端にユリウスの顔が強張る。


「全然大丈夫じゃないよね?

 僕たちが来なかったらどうするつもりだった!」


「すみません」


ユリウスを怒らせてしまった。傷物にされかけた私のことを嫌いになったかしら?


「アンジェリカ」


ユリウスが私の手を引き、抱き寄せ寄せた。


「ユリウス様?」


ユリウスが私の背に腕を回し、しっかりと抱きしめた。


「ごめん、一人にして。

 城内だからと油断した。

 もう君を一人にしないから、無茶をしないでくれ!」


ユリウスの声は微かに震えていた。


ユリウスは怒っているのではい。恐かったんだ。私が傷つくのを、本人以上に恐れている。


彼に心配をかけてしまった。


「はい、ユリウス様」


私もユリウスの背に手を回した。


彼の心音が心地よく、ずっとこのままでいたいと思ってしまいました。


『あ~~、イチャイチャしてるところ悪いんだけど、俺様もいるんだぜ……』


横からいたたまれないような声が聞こえた。


そうでした! この部屋にはルシアンもいました!


私はユリウスからパッと体を離した。


ルシアンの体調が心配です。彼はコレットに酷く痛めつけられていました。


ルシアンはぐったりと床に伏せていました。


「ルシアン、平気?

 扉を破ってくれたのはルシアンだよね?

 こんなに弱っているのに、魔法なんか使って大丈夫なの?」


私はしゃがみこみ、彼の体にそっと触れました。


毛が焼け焦げ、ボロボロになっています。皮膚もダメージを負っているはずです。


あまりの痛ましさに息を呑む。


『流石にちょっと無理しすぎた。

 身体中が痛い。

 しばらく動けないかも……』


「待ってて!

 すぐにエリクサーとMP回復ポーションを持ってくるから!」


『無駄だ。

 聖女に傷つけられた傷は薬じゃ治らない』


「そんな……!」


私が王城にルシアンを連れて来たせいでこんなことに……!


『そんな顔すんな、時間はかかるけど治る。

 精霊はそんなやわじゃないぜ』


ルシアンがこちらに向かってウィンクをしました。


「良かった!

 本当に良かった……!」


ルシアンの言葉を聞いてホッとしたのか、涙が滲んが滲んできました。


『泣くなよアンジェ』


「だって……ルシアンは、私のせいで……」


『契約者が膝枕して頭を撫でてくれたら、回復が早いかもな』


「そんなことでいいならいっぱいするよ!」


大親友のルシアンのためだもの!


「アンジェリカ、ここは、瓦礫が散乱していて危険だ。

 部屋を移そう。

 君の手当もしたい」


「えっと、ありがたいのですがルシアンが……」


「心配しなくてもいい。

 ルシアン殿のことも丁重に運ぶから」


聖女の魔法の残滓が残るこの部屋ではルシアンの傷の治りは遅いかもしれません。


そんなわけで私達は部屋を移動することになりました。


「ルシアン、待っててね。

 部屋を移動したら膝枕してあげるからね」


『ユリウス、お前……嫉妬からわざとじゃないよな?』


「まさか、ルシアン殿は恩人。

 そんなはずはないだろう」


いつの間にかユリウスの呼び方が、「アンジェリカ嬢」から「アンジェリカ」に変わっていました。


ユリウスに呼び捨てにされるとドキドキしてしまいます。


「精霊殿」呼びから「ルシアン殿」呼びに、「第一王子」呼びから「ユリウス」呼びに変わっていました。


二人は私がいない間に、仲良くなっていたようです。


ユリウスにプロポーズの返事をしていませんでした!


彼に会ったら「好き」と伝えたかったのに……!


ですが、これだけのことが起きてしまったのですから、まずは事件の後処理をするのが先ですよね。



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