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踏み台令嬢に転生したのでもふもふ精霊と破滅フラグを壊します! 気づけば王子様ホイホイ状態なんですが!? 完結  作者: まほりろ・ネトコン12W受賞・GOマンガ原作者大賞入賞
二章「学園編&陰謀編」

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52話「聖女の策略、ユリウスの出自」




ーーアンジェリカ視点ーー




ルシアンと部屋を出たところで、誰かに後頭部を殴られました。


同時にルシアンの「キャイン」という悲鳴を耳にした気がします。





◇◇◇◇◇






気がつくと私は、ソファーに座っていました。


シャンデリアの形やカーテンの色などから推測して、どうやら先程まで使用していた客室のようです。


体を動かそうとすると、両手を後ろで縛られていました。


周囲を見ると、ルシアンが絨毯の上にぐったりと横たわっていました。


「ルシアン!」


彼の名を呼ぶが反応はありません。


よく見れば、彼の身体を光の鎖のようなものが覆っていました。


ルシアンはきっと、あの光の鎖に力を封じられているのでしょう。


闇の精霊であるルシアンにこんなことができる人間は限られています。


「お目覚めのようね」


聞き覚えのある声がしたので、そちらに顔を向ける。


そこには、フード付きのローブを纏った男と女の二人組がいました。


「コレット様!

 ……それにエドモンド殿下!」


二人にはいつもの華やかさはありませんでした。


エドモンドは兵士の服の上にフード付きのマントを羽織り、コレットも聖女の服の上にフード付きのマントを羽織っています。


コレットがここにいるということは、エドモンドがコレットを脱獄させたのでしょう。


大胆な事をしましたね。


「エドモンド殿下、コレットを脱獄させたのですか?」


コレットは王妃とユリウスの毒殺未遂と、隣国を弱体化させる目的で結界を張った罪で捕まったのだ。


そのコレットを脱獄させては、第二王子といえどただでは済まない。


「愚かなことをしましたね。

 何もしなければ、あなただけは平穏に暮らせましたのに」  


エドモンドはどちらの事件にも関与していない。


エドモンド派閥の人間にとってユリウスが邪魔だったように、ユリウス派閥の人間にとってもエドモンドは面倒な存在だ。


新国王の腹違いの弟などは争いの火種にしかならない。


ユリウスは優しい。エドモンドが何もしなければ、彼の命を奪うことはなかっただろう。


一代限りの男爵位を与え、地方で平穏に暮らすことを許してくれたかもしれない。


コレット以外の人間となら、結婚も許してくれただろう。


それを自らの手で壊すなんて。


「エドモンド殿下はご自分の将来を棒に振ったのです。

 ご自分のしたことの重大さがわからないわけでもないでしょう。

 なぜこのようなことをされたのか、残念でなりません」


エドモンドも意味もなく脱獄を手伝うほど馬鹿ではない。


エドモンドにとって、自分の命や地位よりコレットのことが大切だったのだろう。


コレットは聖職を剥奪された。


王族の毒殺未遂事件に関与した以上、極刑は免れない。


新国王の即位と、私とユリウスの結婚の恩赦で罪が軽くなったとしても、一生牢屋暮らしか、鉱山で強制労働だろう。


それがわかっていたから、エドモンドは自分の地位を捨てる覚悟で彼女を助けたのだろう。


そこまで誰かに思われるコレットが少しだけ羨ましく思えた。


「コレット様を脱獄させたのならすぐに城から脱出するべきでしたね。

 私を拘束してどうなさるおつもりですか?」


私を人質にして逃げるつもりなのかしら?


それなら、気絶させ部屋に監禁するのはおかしい。


時間が経てばコレットが脱獄したことが知られ、脱獄が難しくなる。


「余計なお世話だ。

 お前こそ人の心配をしてる場合か?」


エドモンドが眉間に皺を寄せ、口元を歪め嘲るように笑う。


彼のこの余裕はどこからうまれてくるのかしら?


犯罪を犯し、逃亡を企てている者の態度とは思えない。


「エドモンド殿下、それはどういう意味でしょうか?」


「俺が何も知らないと思っているのか?

 そこに倒れている黒い犬はお前の仲間だろう?

 闇の精霊をペットにするなんて大胆なことをしたものだ」


エドモンドが目を細め、にたりと笑う。


心臓がドクリと嫌な音を立てた。


 「……違います!」


「嘘をついても無駄だ。

 コレットの聖なる力で無力化できているのが何よりの証拠だ」


ドクンドクンと心臓が先程よりもっと嫌な音を立てる。


「会議室から連行されるとき、この犬とすれ違ったのです。

 驚きました。

 闇の波動を放つ生き物が堂々と王城の廊下を走っているのですから」


聖女が去った方向からルシアンは走ってきた。


あのとき、きっと聖女とすれ違ったのだ。


油断した。


前国王が失脚し、コレットの投獄が決定したとき、もう大丈夫だと思ってしまった。 


「もっと驚いたのは、その犬の主がアンジェリカ様だったということです」


コレットは目を細め口角を上げた。


人を見下す嫌味な笑顔、これがコレットの本性なのだろう。


「それで、私をどうする気ですか?

 私には大した価値はありませんよ。

 人質にして逃げようとしても無駄です。

 追っ手は、私ごとあなたたちを斬るわ」


私はコレットの顔をキッと睨みつけた。


「ご謙遜を。

 カレンベルク公爵が、娘のアンジェリカ様を溺愛していることは有名です。

 それにダミアン様から聞いた話では、ユリウス殿下とヴァルトハイムの王太子、二人から同時にプロポーズされたそうではありませんか。

 次代の王二人から求婚された女性に、人質としての価値がないとは思えません」


コレットが私の顔を見てにたりと笑う。


ダミアンの父親であるカスパール公爵の姿は、会議後いつの間にか消えていた。


ダミアンはことの顛末をカスパール公爵から聞いたのだろう。


ダミアンの情報には、カスパール公爵が会議室から消えた後の情報も含まれているが、彼は地獄耳。


会議室を去った後の情報も、どこからか仕入れたに違いない。


カスパール公爵の姿が見えなくなった時、兵士に捜索させるべきだったわ。


「ですが私は人質としてではなく、天才発明家として役に立ってもらいたいのです。

 あなたの発明品にはとても価値がありますから」


「私の発明品……?」


何に使うというの?


「あなたが会議室で見せた、音声と映像を記録する水晶玉が必要なのです。

 水晶玉の使い方を私たちに教えたあと、水晶玉を私たちにプレゼントしてください」


水晶玉を使って何をするつもり?


「お断りするわ」


どうせろくな使い方をしないに決まっている。


「あら、よろしいのですか?

 断るなら、このわんちゃんが酷い目に遭いますよ」


「ルシアン!」


コレットの視線がルシアンを捉える。


彼女が胸の前で手を組み呪文を唱えると、ルシアンを拘束していた光の鎖が収縮し、ルシアンの体を締め付けた。


『ぐあああああっっっっっ!!』


ルシアンが苦しそうにうめき声を上げる。


「やめてーーーー!!」


私はたまらずに叫んだ。


コレットが呪文を唱えるのを中断した。


それと同時に光の鎖の拘束が弱まり、ルシアンはぐったりとしたまましっぽひとつ動かさない。


彼の自慢の漆黒の毛はあちこち焼け焦げ、生き物が焼ける匂いが室内に漂う。


ルシアンの胸が上下しているので、かろうじて息はしているようだ。


「どう? 

 素直に水晶玉を渡す気になったかしら?」


「水晶玉を渡すわ。

 だからこれ以上ルシアンを傷つけるのはやめて!」


『だ、だめだ……アンジェ、こんな…やつら、に水晶玉を……わたす、な』


ルシアンが苦しげに言葉を紡ぐ。


「ルシアン、喋ってはだめよ!

 体に触れるわ!!」


ルシアンをこんなにボロボロにして!

 

絶対に許さない!


「そう、物わかりがいいのね

 それで水晶玉はどこにあるの?」


「禁書室の映像を記録した水晶は、証拠として提出したから持ってないわ。

 水晶玉の映像は複数人よ貴族が見ているわ!

 今更あの映像を消したところで、あなたの罪は消えないわよ!」


私は睨んだ。自分の眉間に深い皺ができていたと思う。


「別にあの時の水晶玉に用事はないわ」


彼らの目的は証拠映像の消滅ではない?


「予備の水晶玉があるでしょう?

 さっさと出して?」


「……私のドレスのスカートの中よ」


「ふーーん、わかったわ」


コレットは、私のスカートのポケットに手を入れた。

 

水晶玉の捜索を、エドモンドにされなかったことに安堵の息を漏らす。


彼にもまだ、紳士の心得が残っているらしい。

 

好きな女(コレット)の前でかっこつけたいだけかもしれないけど。


「見つけたわ」


コレットがポケットから水晶玉を取り出した。


「これが記録の水晶なのね、近くで見ると綺麗ね」


コレットが水晶を窓にかざす。


犯罪を犯してる真っ最中なのに、彼らはカーテンを開けたままだった。


まだ昼間だからカーテンを閉めた方が怪しまれる可能性もあるけど、脱獄犯が窓に近づくのは不用意すぎる。


「水晶玉の起動方法と停止方法、それから再生方法を教えてくれる?

 水晶玉が偽物だったり、万が一にも故障していたら困るから」


コレットはやることに抜け目がない。


「……」


「素直に話さないと、お友達がもっと酷い目に遭うわよ。

 それでいいの?」


ルシアンを人質に取られては何もできない。私は水晶玉の操作方法を教えた。


「なるほど、使い方はだいたい把握したわ」


腐っても元聖女。チート能力持ちだから理解するのが早い。


「その水晶を使って何をする気?

 ま、まさか……罪を暴かれた腹いせに、私にいかがわしことをして記録するつもりじゃ……」


背筋に冷たい汗が伝う。


「アンジェリカ、発想が破廉恥だぞ!!

 清らかな心のコレットが、そのようなはしたない真似をするものか!!」


エドモンドは顔が真っ赤だった。


何を想像したんだこのスケベ。


「半分は正解です」


「えっ……!!」


まさか当たっていたとは! 聖女だったくせに、中身は破廉恥だったなんて!


「安心してください。

 被写体はあなたではありませんから」


コレットの言葉に、私はホッとした。


だがまだ安心はできない。


コレットの言葉が事実なら、これから誰かが犠牲になるのだから。


「見損なったわ、コレット様。

 仮にも聖女の職についていたあなたが、そのような下衆な精神をお持ちだったなんて!

 水晶玉は卑猥な物を記録する為に、作ったのではありません!

 返してください!」


「お断りします。

 この水晶玉はもう私のものですから」


コレットは水晶を手に、不敵な笑みを浮かべる。


エドモンドは、コレットの妖艶な微笑みに見とれているようだった。


この変態カップルが! 出歯亀が趣味なの?


「勘違いしないでください。

 趣味で使うわけではありません。

 エドモンド様の地位を取り戻す為に使うのです」


「エドモンド様の地位を?

 どういう意味かしら?

 私にも教えていただける?」


なるべく時間を稼ごう。誰かが異変に気づいて捜索に来てくれるかもしれない。


「いいですよ。

 あなたの大好きなユリウス殿下のお命にも関わることなので、特別に教えてあげます」


ユリウスの命に関わること?


心の中がざわつく。


それと同時に黒い感情が湧き上がってきた。


ユリウスに何かしたら絶対に許さないから!!




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