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踏み台令嬢に転生したのでもふもふ精霊と破滅フラグを壊します! 気づけば王子様ホイホイ状態なんですが!? 完結  作者: まほりろ・ネトコン12W受賞・GOマンガ原作者大賞入賞
二章「学園編&陰謀編」

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50話「それでも残ったもの」エドモンド視点




ーーエドモンドーー




「申し訳ありません、エドモンド様」


ダミアンが謝罪した。


「ライナスがあのような暴言を吐くなど思わず」


ダミアンは眉間に皺を寄せ、拳を握りしめた。握った拳は微かに震えていた。


よほどライナスの行動に腹が立ったようだ。


「ダミアンのせいじゃない、あいつの本性を見抜けなかったのは俺も同じだ。

 それよりも、本当に肩は大丈夫なのか?」


「はい、問題ありません」


ダミアンはそう言ったが、その割には顔色が悪い。無理をしているのは明らかだ。


「ライナスのことばかり責められないんです。

 実は俺も……母が亡くなったときホッとしたんです。

 母はとても厳しい人でしたから。

 でも、純粋に母親の死を嘆くエドモンド様を見ていたら、本当のことが言えませんでした」


ダミアンは俺から視線を逸らし、俯いた。


「母親を亡くしたという共通点を利用してエドモンド様と仲良くなろうとしました。

 本当に申し訳ありません」


ダミアンが胸元に手を添え、頭を下げた。


先程ライナスが兄の死について語っていたので、ダミアンも自分の正直な気持ちを吐露したくなったのだろう。


「気にするな。

 俺が母親を亡くしたのは3歳のときだ。

 その年頃の子供には、大概の親は甘い。

 だから俺は母の良い記憶しか残らなかった。

 もし母親が長生きしていたら、厳しくされ、母を恨みに思うこともあったかもしれない」


俺はダミアンに視線を合わせ、そっと肩に手を乗せた。


「お前のそれは裏切りじゃない。

 気にするな」


そう伝え微笑みかければ、ダミアンは安堵したように涙を流した。


「ああ、やはりエドモンド様はお優しい。

 コレットと同じ言葉をかけてくださった」


そうか、ダミアンはコレットに心の中を打ち明けたことがあるのだな。


彼女には、人の心を惹きつける天性の素質がある。


俺も彼女に悩みを打ち明けて、心の迷いが晴れたことがある。


そんなコレットを見捨てられない。絶対に助け出す。


ダミアンの話では、コレットは捕えられ地下の牢屋に入れられたらしい。


可哀想にあんな暗くじめじめした場所、若い女性が入るところではない。


今すぐになんとかしなければ!


「ダミアン、俺はこれからコレットを助けに行く! 協力してくれ!」


コレットはダミアンの友達だ! 協力してくれるはずだ。


しかし、ダミアンは頬を強張らせ俺から視線を逸らした。


「エドモンド様、お気持ちはわかります。

 僕もコレットのことが心配です。

 しかし、それは止めたほうがよろしいでしょう」


唇を噛み、自分の服を握りしめた。


ダミアンの表情は苦悩に満ちていた。本心では、コレットを助けに行きたいのだろう。


「悔しいですが、次の王はユリウス殿下に決まったも同然です。

 エドモンド様が即位できる可能性が少しでも残っていれば、全力で戦い、王座を勝ち取ることに注力いたしました。

 それが、前国王陛下とコレットを救出する最短の道だからです」


ダミアンが伏し目がちに話す。眉は微かに歪み、口元は僅かに震えていた。


「しかしながら、それは不可能に近い。

 失礼を承知で申し上げます。

 前国王陛下かコレット、どちらかを切り捨てるしかありません。

 両方を救う道はないのです!」


ダミアンの翡翠色の瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。彼の表情は真剣そのものだった。


「コレットを助けたいのなら、全ては前国王陛下に仕組まれたことにするのです。

 前国王に脅され、平民出身のコレットは断れなかったと言い逃れるのです!

 もしくは、コレットが育った孤児院の子供達を人質に取られ前国王に逆らえなかった……このように言い訳し同情を誘うのです!」


「父上を売れというのか?」


「残念ながら、コレットを救うにはそれしか方法はありません」


ダミアンが視線を逸らし、頬を強張らせた。


「その上でカレンベルク公爵令嬢に、ユリウス殿下への口添えをお願いするのです。

 カレンベルク公爵令嬢とエドモンド様は幼馴染。

 カレンベルク公爵令嬢は、エドモンド様に元婚約者としての情もございましょう。

 こちら側が下手に出てお願いすれば、時間がかかりますが真心は通じるでしょう。

 そうなれば、コレットの罪を減刑され、遠からず釈放されるかもしれません」


ダミアンは眉根を寄せ、口元を引き結ぶ。彼の目には涙が浮かんでいた。


頭脳明晰なダミアンがここまで言うのだ。他に方法はないのだろう。


「ダミアンの考えを実行したとして、コレットの釈放までにどれくらいかかる?」


「断言はできませんが、3年、いえ5年は見るべきかと……」


そう言った時のダミアンの表情は堅かった。


「なっ、5年も……!」


「容疑は王妃殿下とユリウス殿下の毒殺未遂です。

 お二人はヴァルトハイム王国の血を引いております。

 隣国の顔を立て、すぐに釈放というのは難しいでしょう。

 釈放後も今までのような生活は望めません。

 良くて修道院での貧しい人達への奉仕。

 悪ければ鉱山での労働もありえます」


ダミアンが眉を寄せ、指先を軽く握りしめる。


「なっ、鉱山での労働だと……!

 華奢なコレットに耐えられるはずがない!」


「それでも、牢屋で一生を終えるよりは幾分かはましでしょう。

 コレットにかけられた容疑は、王族の毒殺未遂です。

 最悪、処刑されることもあります……」


ダミアンは目を細め心苦しそうに呟いた。


彼の辛さもわかるので、これ以上追求できない。


コレットの命が助かればそれでいい……そう考えるしかないのか?


どんなに手を尽くしても、どんなに時間をかけても、プライドを捨て兄やアンジェリカに頭を下げても、コレットが処刑されないという保証はない。


ならば俺のすべき事は一つだ。


「やはり俺は牢屋に行く。

 コレットを助け出し、一緒に逃げる」


「エドモンド様、それは……!」


「ダミアン、お前に一緒に来いとは言わない。

 危険な旅になることはわかっている。

 兄上達に何か聞かれたら『自分は何も知らなかった』と答えればいい。

 お前にはお前のやることがあるのだろう?」


ダミアンは眉根を寄せ、唇を噛んだ。


「宰相だった父は、此度の責任を取り自害するでしょう。

 それは家に類が及ばない為でもあります。

 僕は家督を継ぎ、親族をまとめ上げなければなりません。

 降爵は免れませんが、家を潰すわけには参りません」


ダミアンは目を伏せ、拳を強く握りしめた。


父親の失脚と死を、同時に受け入れなければならないのは辛いことだ。


本当はダミアンも、父親の側にいたいのかもしれない。


それなのに、俺の事を心配しここに来てくれた。


「俺のことはもういい。

 父親と家族のところへ行くんだ」


「エドモンド様……!」


ダミアンが俺の腕を掴んだ。彼の目は涙で濡れていた。


「心配するな。

 俺一人でも、コレットを牢屋から出せるさ」


彼を安心させるように、俺は目を細め口角を上げた。


「ですが……外はヴァルトハイムの兵に囲まれています!

 コレットを脱獄させても、城の外には逃げられません!」


ダミアンの言うことも最もだ。


「案ずるな。

 俺は王族専用の抜け道を知っている」


多分、父は抜け道の存在を兄には教えていない。


だから、城から抜け出しさえすればなんとかなる。


「ダミアン、お前も達者でな」


ダミアンの肩の肩を軽く叩き、微笑みかける。


おそらく、これがダミアンとの最後の会話になるだろう。


「お待ち下さい!」


ダミアンに呼び止められるとは思わなかった。


「その格好では目立ちます。

 お着替えを。

 コレットの着替えやマント、道中の路銀や食料などが必要です。

 準備しますのでしばしお時間をください」


そう言えば、会議に出席するためにいつもより華美な服を纒っていた。


こんな格好で外に出たら、あっという間に兵士に捕まってしまう。


兵士ならいい。


最悪、野盗に捕まって身ぐるみを剥がされてしまう。


「ダミアン、いいのか?

 俺に協力したと知られたら、ただでは済まないぞ?」


俺は確認の為にダミアンに問う。


「主への最後の奉公です。

 捕まるようなヘマはしないのでご安心ください」


ダミアンの目は真剣で、鋭い光を宿した。


背をすっと伸ばし前を見る姿に迷いは感じられない。


俺は良い友人兼側近を持ったようだ。




◇◇◇◇◇



ダミアンに言われるままに兵士の服に着替え、フード付きのマントを羽織った。


城の中を歩くなら、この格好の方が目立たないらしい。


金髪は目立つと指摘され、髪に粉をかけて茶色に染めた。


今の俺はどこからどう見ても、一般兵だ。


ダミアンは結局、牢屋まで付き添ってくれた。


コレットを脱獄させるなら、見張り役がいたほうがいいということらしい。


ダミアンも目立たないように、ジュストコールの上にフード付きマントを被っている。


ダミアンは俺の為にここまでしてくれた。


なのに俺は、これからダミアンに対し酷いことをしようとしている。


兄の元に行き、自らの身分と引き換えに、ダミアンを始めとした派閥の貴族を守るように嘆願することもできる。


そうすれば、ダミアンと派閥の貴族は、俺の失脚後も最低限の暮らしと身分を保証されるだろう。


多少肩身の狭い思いをするが、新政権のもとでやっていけるだろう。


俺はそれをせず、友も派閥の貴族を捨て、惚れた女と逃げようとしている。


我ながら最低だと思う。


だけど、俺には他の道は選べなかった。


コレットを鉱山送りや、死刑にするわけにはいかないから。




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