47話「しばしの休息。忍び寄る影」
国王の断罪が終わった後も、会議室では話し合いが続いている。
父は、派閥の貴族と今後のことを話し合わなくてはならない。
ユリウスは会議の中心人物なので席を外せない。
まだ学生に過ぎず、ユリウスの婚約者でもない私は、会議室を追い出されてしまった。
ルシアンと共に客間に移動し、会議が終わるまで待機しているように言われた。
先に実家に帰ることもできるが、父に止められた。
理由は2つ。
1つ目は、父と同じ馬車で来たので1人では帰れないこと。
2つ目は、2人の王子から求婚されたこともあり、1人で帰るのは危険と判断されたこと。
1日で情勢がガラリと変わった。
今や私は注目の的。
こういう時は迂闊に一人にならない方がいい。
ルシアンと二人でお父様が来るまで、お茶とお菓子を堪能しましょう。
「疲れた〜〜。
早く家に帰ってシャワーを浴びた〜〜い」
ソファーと背もたれに体を預け、深く息を吐いた。
久し振りによそ行きのドレスを着たので、疲労が倍増しています。
自宅に帰ってパジャマに着替えて、布団でゴロゴロしたいです。
『俺様の背中に乗れば、あっという間に公爵家に着くぜ』
ソファーでくつろぎながら、ルシアンが呟く。
「そういうわけにはいかないわ。
昼間だし、ドレスだし、人目もあるもの」
頭カチコチの年寄りに、お転婆だとか、はしたないと言われるに決まっている。
とは言え、ルシアンに乗って帰れたら楽よね。
『俺様もなんか疲れたぜ』
ルシアンがソファーの上で体を伸ばす。
「お疲れ様。
マッサージしてあげようか?」
『本当か?』
「うん、カイム殿下から守って貰ったからお返し」
『やったーー!』
しばらくはルシアンと二人きりだし、彼のマッサージをしながら時間を潰しましょう。
久し振りにもふもふを思う存分堪能できて、私も嬉しい。
ルシアンと同じソファーに座り、耳から、首筋、顎にかけて撫でていく。
『アンジェのマッサージが一番気持ちいいぜ』
「そうでしょう」
前世で犬のマッサージ動画を見まくったのがここで生きているわ!
『そう言えば、アンジェはユリウスに好きって伝えなくて良かったのか?』
「もう、冷やかさないでよ」
バタバタしていてプロポーズの返事をしてませんでした。
みんなの前でなければ、ユリウスに「お慕いしています」と伝えられたのに。
できればそのまま口づけを交わしたかった。
ユリウスの部屋に移動し、イチャイチャしたかった。
現実は、チューすらしてない。
正式に婚約したわけではないから、暫くは清い関係を続けないといけない。
特に私はエドモンドとの婚約破棄や、カイムからの電撃プロポーズもあって、一部の貴族に身持ちを疑われている。
普通の令嬢より貞淑な行動が求められている。
ユリウスと密室で二人きりにならないように注意して、婚約までは手も握らないようにしないと。
でも……やっぱりチューぐらいはしたい!
ようは、二人きりになったことを誰にも気づかれなければいいのよ。
夜中にこっそりとユリウスの部屋に忍び込んで……。
『もたもたしてると、他の令嬢に割り込まれるかもよ』
「もう、縁起でもないこと言わないでよ」
ユリウスは次の王になるわけだし、今後釣書が山ほど送られてくるでしょう。
過去に婚約破棄された経験のある傷物の私より、若くて可愛い年下の令嬢が推薦される可能性も……。
こうしてはいられないわ!
「ルシアン、ごめん、マッサージを中断するね!
私、ユリウスに返事を伝えてくるわ!」
『ユリウスは会議中だろ?
明日でもいいんじゃないか?』
「こういうことは、すぐに伝えないと!
ピチピチの年下女子にユリウスの婚約者の座を奪われてしまうわ!」
革命のことが知れ渡ればライバルが一気に増えるでしょう。
ユリウスとの関係を揺るぎないものにしておかなくては!
『会議室に行っても、中には入れてもらえないぜ?』
ルシアンの言うことも最もだわ。
「大丈夫よ、会議室の扉の前で待つから!」
『だったら、ここで待っても同じだろ?』
「そうかもしれないけど、気持ちと距離的な問題!」
私は備え付けの姿見の前に立ち、髪型を整えドレスの裾を直した。
告白の返事をするのだから、少しでも綺麗に見られたいわ。
「これでよし!
行ってくるね、ルシアン!」
『待てアンジェ、俺も行く』
「着いてきてくれるの?」
『アンジェは危なっかしいからな』
「ルシアンが着いてきてくれれば安心ね」
ルシアンより強い人はこの国にはいない。
最強の護衛だもの。
私はルシアンの忠告を聞くべきだったのだ。
まさか部屋から出たことが危険に繋がるなど……思ってもみなかった。
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