42話「決戦の貴族会議!」
2週間後、王城の大会議室にて――。
重厚な雰囲気が漂う大会議室に、国王が聖女を伴い入場し、全員が起立して迎え入れる。
国王が上座に着席し、他の人々も椅子に座りなおす。
今日の参加者は20人弱。
国王、聖女、議長、私を始めとした貴族が14人。
会議室の細長いテーブルに、位の高い順から腰かけている。
宰相であるダミアンの父親、カスパール公爵も出席している。
「それでは、会議を始めます。
本日の議題は、聖女様の卒業後に行われる聖女就任式典についと、
同時期に行われるエドモンド殿下と聖女様の婚約式について話し合います」
議長が議題を読み上げる。
「議題が聖女様の結婚式ということもあり、高位貴族女性の意見も取り入れたいとの要望を受けました。
今回のみ特別に、カレンベルク公爵家の長女アンジェリカ嬢にも参加いただいております」
私は席を立ち、出席者に向かってカーテシーをした。
父に頼んで、特別に会議に参加させて貰いました。
「本日は会議に参加させていただき……」
「挨拶は良い、さっさと会議を始めろ」
国王が私の挨拶を遮る。
この程度のことは想定済みだ。
私は大人しく席につく。
「失礼ですが、陛下、その前に参加者を増やしてもかまいませんか?
議長の許可は取ってあります」
父が国王に進言する。
「それは誠か、議長?」
国王が議長に視線を向ける。
「此度の会議に必要な人物と判断いたしました。
勝手ながら入室を許可いたしました」
「議長が承認したのなら仕方あるまい」
議長が頷いたので、国王が入室を許可した。
議長をつとめるのは中立派の最長老、ミッテル公爵だ。
国王も彼の意見は無視できない。
「陛下の許可が下りました。
お二方ともお入室ください」
会議室の扉が開く。
王妃シャルロットとユリウスが、一礼して部屋に入ってきた。
国王が目を見開いていた。眉が上がり、眉間に皺が寄っている。
「王妃は体調不良で休んでいるのではなかったのか?」
国王は動揺しているのか、目が泳ぎ、口元が引きつっていた。
「母の体調は回復しています。
唯一の弟であるエドモンドの結婚式についての会議なので、僕も参加させていただきます」
ユリウスがにこやかに答え席についた。
当のエドモンドだが、彼がいるとややこしくなるので、ちょっとばかり自室で眠ってもらった。
エドモンドの見張りはルシアンに頼んだ。
闇の精霊である彼を、聖女の前に出すわけにはいかないので、離れたところで待機してもらうことにしました。
王妃はふわふわした性格なので、今日議会で何が起こるかを伝えていない。
何も発言しなくてもよいので、議会に出席し、座っているようにお願いしたのだ。
象徴たる人物が出席するのとしないのでは、味方の団結力に関わるのです。
今から討つのは、国王と聖女というこの国の権威と信仰心の象徴。
お飾りでも構わないので、こちらもトップに立つ者に出てきてもらわないと、戦いにならない。
「王妃殿下とユリウス殿下が席につきましたので、本日の本当の議題、王妃殿下並びにユリウス殿下毒殺未遂について話し合いをしたいと思います」
国王と聖女の顔色が変わる。顔は青ざめ、肩はすくみ、体が硬直しているように見えた。
国王派の貴族が動揺し、会議室がざわめきに包まれた。
今日の会議の為に事前に根回ししてある。
殆どはカレンベルク公爵派閥の貴族と、王妃殿下とユリウスの派閥の貴族で固めている。
取り乱している貴族の方が明らかに少ない。
国王と聖女もそのことに気づいたようだ。
「陛下、並びに聖女コレット様、あなた方の罪をこの場にて明らかにしたいと思います」
父は冷静に、しかし力強い口調で国王に向けてそう言い放った。
「王城で毒殺未遂事件など、そのような物騒なことが起きるはずがない!
不用意な発言で議会を惑わした、カレンベルク公爵とその娘をつまみ出せ!」
会議室に国王の怒号が響く。
国王の眉は大きく釣り上がり、怒りの為か顔が紅潮していた。
しかし兵士は誰一人動かなかった。
こちらも事前に手を打たせてもらいました。
この場にいる兵士は、こちらの陣営の親族で構成されています。
「いいえ、国の存続の根幹に関わる大事ゆえ続けさせていただきます。
アンジェリカ、例の証拠を皆に見せるのだ」
「はい、お父様」
私は立ち上がり、懐から水晶を取り出し、ハンカチを挟んでテーブルの上に置いた。
「親のわしが申すのもなんですが、娘のアンジェリカは稀代の天才発明家でしてな。
この度、音と映像を記録する水晶を発明いたしました」
父が集まった貴族に聞こえるように説明する。
国王の目がわずかに泳ぐのを私は見逃さなかった。
「皆様、ご覧ください!!
あの日、私がユリウス様と共に記録したものの全てです!」
私が水晶に手をかざすと水晶玉が光輝き、空中に立体映像が映し出される。
国王と聖女が禁書室でした会話が映像と共に流れる。
何度も再生のタイミングを調整したので、ユリウスとのキス(未遂)シーンを皆に見られるようなミスはしません。
国王と聖女の悪巧みを会議室にいる全員が知ることとなった。
こちらの派閥の貴族には一度見せているので、ざわついているのは国王側の少数の貴族だけだ。
「国王陛下と聖女様には、王妃殿下とユリウス殿下の毒殺未遂のみならず、故意に張った結界によりヴァルトハイム王国を窮地に陥れ、乗っ取りを図った容疑がかかっております!」
父が国王と聖女に静かにみすえ、厳しい口調でそう告げた。
「聖女コレットの部屋から毒薬を押収した。
もはや言い逃れはできないよ!」
ユリウスが立ち上がり、テーブルの上に小瓶を置いた。
国王の顔は、青を通り越し白くなっていた。
彼の顔には大量の汗が浮かんでいて、指先がふるえている。
聖女はこの状況でも眉一つ動かさない。
「これらの証拠を元に、第13代国王ノルマン・ブライドスターの廃位並びに、聖女コレットの聖職の剥奪を要求する!
賛同するものは起立して己の意思を示せ!!」
ユリウスが立ち上がり、厳しい表情で国王と聖女を見据える。
彼の態度は凛々しく、堂々としていた。
王族特有の高貴さの中に優雅さと威厳が滲んでいる。
ユリウスには、周囲にいるものに、この人に付き従い支えたいと思わせるカリスマ性があった。
ユリウスの呼びかけに、彼の派閥の貴族が一斉に立ち上がる。
国王派の貴族はどうしたものか、話し合っていたが、形勢不利と判断し、重い腰を上げた。
宰相であるカスパール公爵だけは席を立つことはなかった。
彼は国王と一緒に失脚の道を選ぶようです。義理堅い気質のようです。
カスパール公爵を除くと、椅子に座っているのは国王と聖女だけです。
王妃殿下には事前に「ユリウスが起立と言ったら立ち上がってください」と伝えておきました。
そうでも言っておかないと、あの方は状況を理解できずいつまでも座っていそうなので。
「どうやら賛成多数のようですね。
父上、いえ前国王ノルマン・ブライドスター殿」
ユリウスが国王を見据える。
ユリウスの瞳は、悲しみが内在した冷たい目をしていました。
「こ、これは陰謀だ……!
誰かが余を嵌めようとしているのだ!
毒薬とも毒殺とも余は無関係だ……!!」
「父上、残念ですが、これは記録に残る正式な会議です!
議長、判決を!」
ユリウスが議長に判断を仰ぐ。
「うむ、賛成多数により、国王ノルマン・ブライドスターを廃位、聖女コレットの聖職を剥奪する!」
議長の貫禄のある声が会議室に響いた。
ユリウス派の貴族からは歓声が上がり、国王派だった貴族は声を上げることなく静かに俯いていた。
敗北を覚えた彼らの顔色は優れず、視線が定まっておらず、顎がわずかに震え、不安からか袖を握りしめていた。
「認めん!
こんな会議は無効だ!!」
国王はそう叫ぶと、席を立ち扉に向かって突進した。
逃げられる! ここで国王……いや前国王と呼ぶべきね。
どちらにしても彼に逃げられると厄介だわ!
国王の目は血走り、眉間に深い皺を作り、口元は大きく歪んでいた。
「そこを退けーー!!」
国王の決死の形相に、入口を守護していた兵士が一瞬たじろぐ。
その隙を見逃す国王ではなく、兵士を突き飛ばし、勢いよく扉を開けた!
「余はまだ終わらん……!!」
そう言って飛び出した国王だったが、廊下に出てすぐ、何かにぶつかりその場で派手に尻もちをついた。
「馬鹿者!
邪魔だ! そこを通せ!!」
前国王が、自分の進路を妨害した人物に怒気を孕んだ視線を突きつける。
だが、その人物は前国王の暴言にも、鋭い視線にも微動だにしなかった。
「久しいな、ブライドスター国王。
いや、今は前国王と呼ぶべきかな」
「あ、あなたは……!」
先程の威勢のどこにいったのか、前国王は血の気の引いた顔で指先を震わせていた。
どうやら、前国王が扉を開けた先には彼が一番脅威とする人物が立っていたようです。




