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踏み台令嬢に転生したのでもふもふ精霊と破滅フラグを壊します! 気づけば王子様ホイホイ状態なんですが!? 完結  作者: まほりろ・ネトコン12W受賞・GOマンガ原作者大賞入賞
二章「学園編&陰謀編」

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38話「ヴァルトハイム王国の王宮に侵入す」




ヴァルトハイム王国の王宮に着いたのは、お昼前でした。


「ねぇ、ルシアン。

 今さらだけど、街で時間を潰して夜になるのを待ってから忍び込んだ方が良かったかしら?」


国王の寝室に潜入できたのはよかったのですが、国王は留守でした。


そうですよね、病気でもなければ昼間は寝室にいないわよね。


「夜になって国王が帰ってくるまで待つしかないかしら?」


『アンジェ、メイドが掃除に来るぞ』


「ええっ? どうしましょう?」


『とにかくいったん隠れるぞ』


「隠れるってどこに?」


掃除ならベッドの下に隠れても無駄でしょう。


『アンジェ、ここから変わった匂いがする。

 隠し部屋があるかもよ』


ルシアンが大きな額縁の匂いをふんふんと嗅いでいます。


「でかしたわ! ルシアン!」


額縁をずらして壁を押すと、くるりと回転しました。


壁の先は通路になっていました。


私はルシアンと共に中に隠れることにしました。


通路は薄暗くひんやりしています。


「ずっとここに隠れてなくてはいけないのかしら?」


『こっちになんかある』


ルシアンが床に鼻をつけて匂いを嗅いでいます。


「ルシアン、わかるの?」


『同じ人物が何回も通ったところは匂いが濃くなってる』


「なるほど」

 

『王妃やユリウスと似てる匂いだから多分、ヴァルトハイムの国王だ』


「親族って匂いが似るの?」


『そうだぜ、アンジェと家族の匂いも似てるし、ブライドスターの国王とエドモンドの匂いも似てた』


「へー、そうなのね」


ルシアンが家族に懐いていたのは、私に匂いが似てるからかしら?


食べてるものや使ってる石鹸が同じだから匂いが似るのかしら?


それとも遺伝子的なものかしら?


『こっちだ!』


ルシアンに案内されるまま通路を進む。


どこに出るかわかりませんが、通路にずっといるよりはましです。


しばらく進んだところで、ルシアンが壁をカリカリと引っかきました。


そこも入口と同じように、回転式の扉になっていました。


扉を開けて中に入ります。


中の作りは簡素で、ベッドと小さな机と椅子があるだけでした。


「王族の隠し部屋にしては質素ね」


『アンジェ、こっちに扉があるぞ』


ルシアンに招かれた場所にはカーテンがかかっており、その奥に扉がありました。


『俺が感じた変わった匂いは、この先からする』


「もしかしてこの先は宝物庫になっていて、お宝の匂いがするとか?

 ルシアン、ちょっとわくわくするね」


『お前、当初の目的を忘れてないか?』


「忘れてないよ。

 ユリウスからの書状を王様に届けにきたのよね。

 ちゃんと目的は果たすわ」


『ならいいけど』


私はドキドキしながら扉を開けた。中には何が入っているのかしら?  


「えっ、これって……?」


部屋の中には額に入った絵が飾られていた。


しかも1枚や2枚ではありません。


壁中に額縁に入れられた肖像画が飾られていました。


紙が変色しているものから、最近描かれたと思われる新しいものまであります。


『絵のモデルは全員同じ人物のようだな』


「そうね」


『変わった匂いは、この絵に使われている絵の具のようだ』


高級な絵の具の中には、変わった匂いのものがあると聞いたことがあります。


壁に描かれた女性の年齢は違いますが、髪の色や目の色など特徴が一致していました。


どうやら、一人の女性の幼少期から青年期までを描いたようです。


「この髪と瞳の色……もしかして」


艶やかな銀色の髪、藤色の瞳……その二つを持つ人物を私は二人しか知りません。


一人は男性だから当てはまらない。


となるとこの絵のモデルは……。


『こっちの絵は布がかかってるぞ』


「ルシアン、勝手に見ては駄目よ」


ルシアンが前足を布に前足をかける。


その時……!


「そこで何をしている!!」


絵を見るのに夢中になって、人が入ってくる気配に気づきませんでした。


恐る恐る振り返ると、銀色の髪をオールアップにし、彫りの深い顔のイケオジが立っていました。


切れ長の藤色の瞳、頭の王冠……もしかしなくても、ヴァルトハイム王国の国王だわ!


国王は剣を手にしていました!


このままだと斬られる……!


「わっ、私達は決して怪しい者ではありません!

 ゆ、ユリウス殿下の使いで参りました!!」


某時代劇の有能くノ一は、こんな見つかり方はしなかった。


某くノ一と私では、スペックに違いがありすぎるようです。


「ユリウスの使いだと?

 証拠はあるのか?」


「彼から預かった書状がここに!」


私は懐から書状を取り出し、国王に手渡した。


国王は剣を片手で握りながら、起用に手紙の封を開け、中を確認していた。


「確かに、ユリウスの字だ」


良かった。信じて貰えた。


「それで、この部屋にはどうして入った? 

 なぜ隠し通路のことを知っている?」


国王がギロリとこちらを睨む。


まだ信用されてなかった……!


「それは、地図を描いてもらってですね……」


「ユリウスが書いたのか……?」


「いえ、王妃殿下が記しました」


そのとき、国王は一瞬目を見開いた。


動揺しているように見えたけど、今のはいったい?


「そうか、シャルロットは、あの子はこの部屋のことを知っていたのだな……」


国王が思案にふけるように目を伏せた。


その表情は、嬉しそうにも、悲しそうにも見えました。


「よかろう、そなた達の話を信じよう」


国王が剣を鞘に収めた。


ホッ、なんとか信じて貰えました。


「手紙には、書状を届けに来たものは信頼出来る者だ。

 決して傷つけないでくれとも記されていた」


ユリウスったら、そんなことまで記していたのですね。


胸がジンと熱くなるのを感じました。


「そなたはユリウスのなんだ?

 許嫁か?」


「いえ、まだそのような関係では……!

 友人以上、婚約者未満といいますか……」


ユリウスとの関係を聞かれてもはっきりとは答えられません。


「なんだそれは?

 ユリウスは、(われ)に似ず、押しが弱いようだな。

 好いた女がいるなら押し倒してしまえばいいのに」


押したお……なにを言っているのでしょう!?


ユリウスに少し強引なところがあるのは、伯父であるヴァルトハイム国王に似たようです。


「まぁ、良い。

 愛した者を側におけるのだから、奴は果報者だ」


国王の口角はわずかに下がり、遠くを見ているようでした。。


「あの、それでお返事は……?」


「答えは、了承以外ないに決まっている!

 我が妹と甥の命を狙った不届きな者どもの首と胴体を、一太刀で切り離してくれる!!」


国王は剣を抜いた。


彼の目はギラギラしていて、今から戦に行く戦士のように見えました。


「我がヴァルトハイム王国は、日夜訓練に励み、モンスターとの実践で鍛えられたつわ者揃い!!

 1年間平和を享受し、軟弱になったブライドスター王国の兵士など、我が剣と精鋭部隊の前にはひとたまりもないわ!!」


確かにヴァルトハイムの兵士は、この1年、モンスターとの戦闘を繰り返し、経験を重ねていました。


対して、ブライドスターの国民は結界に守られていた事で平和ボケした可能性を否めません。


結界を張ることで国は平和になりますが、このような弊害もあるのですね。


「あの……戦争をするわけではないので、穏便に……」


ヴァルトハイムの国王は気性が荒いようです。


おっとりしている王妃の兄とは思えないわ。


「冗談だ。

 吾はユリウスの革命に助力するまで」


国王が剣を鞘に収めた。


冗談でも言っていいことと悪いことがあるわ。


「我が国を救ってくれた、白衣の天女の願いを無碍にするわけにもいかぬしな」


「ご存知だったのですね」


今日は白衣の天女をしていた時の衣装を着てきました。


気づいて貰えたら交渉が有利に働くかなぁ……と少しは打算が少しだけあります。


「漆黒の犬を連れた赤髪の少女。

 その顔は女神のように美しく、後光が差し、彼女の薬を一滴体にかければあらゆる病がたちどころに治り、死者すら蘇る。

 戦場に咲く一輪の白い花、誰が呼んだか白衣の天女。

 そなたの噂は吾の元にも噂は届いておる」


噂に尾ひれがついている!


いくら私でも死者を復活させるのは無理よ!


「吾の息子もそなたに心を奪われた一人だ」


「王太子殿下が……!?」


なんでヴァルトハイム王国の王太子殿下が私に惚れてるの?


というよりこの国の王太子と面識があったかしら?


「なんでも息子は、戦場でそなたを見て一目惚れしたそうだ」


そうなの?


なんで王太子が戦場にいるの?


でも、この国王なら息子を戦場に送るくらいやりかねないわね。


「実践で鍛えてこい!」といって、ポーンと戦場に送り出しそうだわ。


「白衣の天女はどこの誰ともわからなかった。

 それ故、息子には『天空人の気まぐれだ諦めろ』と諭してきた」


そうそう、そのまま忘れていただいて結構です。


「だが、天女はユリウスの友人であることがわかった」


国王の射るような視線が、私を捉える。


息子の婚約者として相応しいか査定されてる?


「ユリウスの婚約者なら諦めさせようと思ったが、友人以上、婚約者未満なら遠慮はいらんな」


「……っ!」


いや、遠慮してください!!


ユリウスとの関係を有耶無耶にしていたつけがこんなところに!


「親として、息子には公平にチャンスを与えたい。

 どうだ、今晩息子を交えて食事会でもせぬか?」


絶対に参加しては駄目なやつだわ! 


食事会に参加したら最後、流れで押し切られて婚約させられてしまうわ!


この国王の息子なら、絶対にぐいぐいくるタイプに違いないもの!


「わ、私は……ひゃっ」


その時、ルシアンが私のローブを引っ張り、自身の背中に乗せた。


ルシアンは私を乗せたまま、国王の横をすり抜ける。


『あいにく、アンジェはユリウス一筋だぜ!

 王太子には諦めろって伝えな!

 じゃあな、おっさん!

 書状は届けたからな!』


ルシアンが後方にいる国王に、そう言い放つ。


「国王陛下、御前失礼します!

 お時間を頂戴し、ありがとうございました!」


私は振り返ってそう伝えた。


ルシアンは私を乗せたまま、来た道を全速力でかけていく。


国王の寝室に戻ると、幸い、掃除は終わっていたようで寝室には誰もいませんでした。


ルシアンは勢いよく、寝室の窓から外に出ました。


国王の寝室は2階にありますが、ルシアンは飛べるので問題ありません。


隣の部屋のバルコニーに人影が見えました。


「もしや、白衣に天女では!

 愛しています!

 どうか、お話しだけでも!!」


んん? よくわかりませんが、バルコニーにいた男性に絶叫告白されました。


ルシアンは、彼の告白が聞こえなかったかのように上空へと飛び立ちます。


もしかして先ほどバルコニーにいた人物が、王太子だったのでしょうか?


振り返りたくも、関わりたくも、知りたくもありません!


聞こえなかったことにしてしまいましょう。


私が振り返ったときには、王宮は豆粒のように小さくなっていました。




 ◇◇◇◇◇

 



「ああ〜〜疲れた〜〜」


草原の上まで飛んで、ようやく安心することができました。


「濃い国王だったわ」


『バルコニーで絶叫告白してたのが、王太子なのか?』


「知らない。知りたくもない」


面倒なことに関わりたくない。


でも、ユリウスと結婚したら、彼らは親戚になるのよね?


まぁ、うん、親戚に会うのはせいぜい一年に一度程度です。


年一で会うくらいなら耐えられるはずです。


「王妃殿下はおっとりしてるのに、どうしてこうも兄妹で違うのかしら?

 兄である国王が全部解決してしまったから、王妃殿下はおっとりした性格になってしまったのかしら?」


『あの国王は愛が重いな』


「そうね、

 妹が他国に嫁いだのかよっぽど悲しかったのね。

 王妃殿下の絵を隠し部屋にしまいこんでいたなんて……」


きっと、絵を見ると王妃のことを思い出してしまって辛かったから、隠し部屋にしまったのね。


『ふーん、アンジェはそういう風に捉えたんだ』


「どういう意味?」


『別に、世の中には知らないほうがいいこともあるってことさ』


「もしかして、ルシアンは布の下にあった絵も見たの?

 何が描かれていたの?」


『うーーん、秘密』


「ずるいわ、一人で楽しむなんて」


『まじで世の中には知らないほうがいいことってあるんだぜ。

 それにあの絵、国王が描いたと思う』


「そうなの?」


『絵は全て同じタッチで描かれていた。

 王妃の成長過程なら、赤ん坊の頃からありそうなのに、6歳ぐらいからしかないのはそのせいだ』


王妃とヴァルトハイム国王の年齢は、そんなに離れていなかったはず。


「あの絵を国王が描いたのなら、国王は幼少期から飛び抜けて絵が上手かったのね」


『人は好きなものをモデルにしたがる。

 好きなものを描くと思い入れも強くて、上達しやすい』


「妹思いのお兄さんだったのね」


『まぁ、妹への思い入れは強そうだよな』


ルシアンの言い方に少しだけ引っかかるものを感じました。


ヴァルトハイムの国王は一年に一度は王妃に会いにブライドスター王国を訪れていました。


会えないから寂しくて絵をしまい込んでいたという、私の推測は当てはまりません。


むしろ、誰かに絵の存在を知られたくないから隠していたと言われた方がしっくりきます。


隠し部屋の存在を王妃が知っていた(実際は知らないのですが)と、知った時の国王の複雑そうな表情。


あの表情が意味するのは……?


これ以上は推測してはいけない気がしました。


あの部屋で見た絵のことは忘れることにしましょう。

 


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