31話「犯人探しとアイテム開発」
翌日、私はユリウスと王妃に薬とお弁当を届ける為に王宮を訪れました。
例のごとく、空から不法侵入しました。
王妃の部屋で、王妃とユリウスに薬を飲んでもらいお弁当を食べて貰いました。
ユリウスの部屋に戻ると、彼に話があると言われました。
どうやら、王妃に内緒で大事な話があるようです。
夜、異性の部屋で二人きり(ルシアンもいるけど)というのは緊張します。
しかも、相手は自分に好意を持っている王子様。
ユリウスがソファーに腰掛けたので、私は彼から距離を取って同じソファーに腰掛けました。
「アンジェリカ嬢、緊張してる?」
「ぜ、全然そんなことないです!
へ、平常運転です!!」
そう言ったものの、発した声は震えていました。
「大丈夫だよ。
無理やり襲ったりしない。
君の護衛が怖いからね」
ユリウスの視線の先にはルシアンがいました。
ルシアンは床に座り、ユリウスを監視するように見ています。
ルシアンがいるから平気よね。
一人で意識して馬鹿みたい。
昨日、王妃殿下が子作りなんて言うから……。
「それで、私に話というのは?」
「僕たちに毒を盛った犯人について調べたいんだ」
想像していたよりずっと重い話でした。
「本当は昨日、君に話す予定だったのだけど……。
昨晩の君は、心ここにあらずといった感じだったから」
昨日は王妃の放った「子作り」の威力が強すぎて、難しいことが考えられませんでした。
「そ、それは失礼いたしました」
「いや、いいんだ。
僕も早急に君との距離を詰めようとしてしまった。
君は魅力的だから、他の誰かに取られてしまわないか心配で……」
またそういうことを簡単に言う!
私は恋愛偏差値低いんです!
ご自分の顔が良いのを自覚して、言葉を選んで話してください。
また、心臓がドキドキして何も考えられなくなってしまうわ!
『それで、毒を盛った犯人の目星は付いてるのか?』
ルシアンの鋭いツッコミを受け、話を本題に戻しました。
そうです。人の命に関わる真面目な話をしている最中でした。
「心当たりはあるんだが、おいそれと口にできない人物なんだ。
だから、確たる証拠を掴みたい」
確かにこういう話は王妃の前ではできませんね。
彼女がおっとりした性格で計画を漏らしてしまうのも心配ですが、あの方には無駄な心配はかけたくありません。
「それで一つ聞きたいんだが、
約一月前、君たちはどうして禁書室の中にいたのかな?」
まさかその話を蒸し返されるとは。
「それはですね……」
『俺様が禁書室から無断拝借した本を、返しに行ったんだ』
「ルシアン……! そのことは秘密に……!」
空き教室で事情を説明したとき、禁書室から本を借りたことはユリウスには黙っていました。
少しでも、自分の罪を軽くしたかったのです。
『いいじゃねぇか、禁書のお陰で薬のレシピが手に入って、王妃の病が治ったんだから。
第一王子だってこのくらい大目に見てくれるさ』
王妃殿下の体調不良の原因は主に毒によるもので、解毒ポーションで治療しました。
その解毒ポーションは、家にあったレシピと材料でできたんですけどね。
でも、万能薬で王妃殿下の風邪の初期症状を治したからセーフかしら?
「君たちが禁書室にいた事を咎めるつもりはないよ。
ただどうやってあの部屋に入ったのか気になったんだ。
恥ずかしい話、僕はあの部屋の存在すら知らなかったからね」
「ユリウス様もご存知なかったのですか?」
「ああ、体調不良の原因を知りたくて図書館に行ったら、禁書室の扉が開いていたんだ」
ユリウスがあの日、禁書室を訪れたのは偶然だったのね。
『簡単だよ。
俺が図書館に忍び込んだとき、禁書室の扉を開けて中に入った奴がいたんだ。
俺様は扉の開け方を記憶しておいて、奴が帰った後に禁書室に入ったんだ』
「そういうことだったのか。
精霊殿教えてくれてありがとう」
禁書室には、毒に関する本もありました。
犯人は禁書室の本に記載されているレシピを元に、毒を精製した可能性が高いです。
「ユリウス様、私に考えがあります。
一カ月……いえ、二週間お時間をいただけますか?」
「構わないけど、何をする気なんだい?」
「音声と映像を記録できる水晶を開発するんです」
「音声と映像を記録……?」
ユリウスが不思議そうな顔をしている。
彼が驚くのも仕方ありませんね。
前世ではスマートフォン一つで、静止画も動画も音声のみの記録も出来ました。
この世界には映像を記録する道具が浸透していません。
禁書室にあった古文書には記されていたので、古代には存在していたようですが……。
音声と映像の記録は、長い年月の間に失われたロストテクノロジーなのです。
「相手は王族の命を狙うような大胆不敵な人物です。
ちょっとやそっとの証拠では罪を認めないでしょう。
なので音声と映像を記録できる水晶を作り、それを王宮のめぼしい場所に設置します!
ぐうの音もでないほど、決定的な証拠を掴むのです!」
「なるほど、確たる証拠があれば貴族院も動かせる!」
「はい、私も父を説得し味方につけます。
父の一言でカレンベルク公爵家の派閥の人間も動くでしょう。
犯人をけちょんけちょんのコテンパンにしてやりましょう!」
「……そうだね」
ユリウスの表情は暗いです。
犯人を捕まえられるのに、嬉しくないのでしょうか?
彼は優しいから、犯人に同情しているのかもしれません。
「ユリウス様、しっかりしてください!
この計画には、王妃殿下とユリウス様のお命がかかっているのです!」
「ああ、わかっている」
顔を上げたユリウス様は厳しい表情をしていました。
彼の目には犯人を捕まえる覚悟が宿っている気がしました。
「ヴァルトハイム王国の国王に、ご事情は話し、協力を要請してはいかがでしょう?」
彼の国の国王は王妃の兄。
王妃を溺愛しているので、事情を話せば力になってくれると思います。
ユリウスは首を横に振りました。
「今の段階でそれはできない。
伯父とはいえ、彼は他国の王族だ。
はっきりとした証拠を掴むまで、下手なことは言えない。
それに、ヴァルトハイム王国は疫病やスタンピードでそれどころではないだろうし……」
ユリウスは眉根を寄せ、目を伏せる。
「ヴァルトハイム王国のことなら大丈夫ですよ!
そのうち吉報が届きますから!」
スタンピードの元凶はルシアンが倒しましたし、疫病の蔓延は万能薬で防ぎました。
とはいえ、あれだけ大きな災害に一度に見舞われたのです。
ライフラインが回復するのにはもう少し時間がかかるかもしれません。
「不思議だな。
君がそう言うと本当にそうなる気がするよ」
ユリウスが安心したように口角を上げた。
◇◇◇◇◇◇
それから二週間。
私は昼間は学校、夕方は家で魔道具の研究、夜は薬とお弁当を届けに王宮へ行くというルーティンをこなしていました。
結構ハードな日々だったので、栄養ドリンク代わりにポーションを飲んでます。
う〜〜ん、こういう生活はあまり体によくないですよね。
一段落ついたら、少し休みましょう。
そうそう、学園での生活ですが、あれからエドモンド達が接触してくることなく平穏です。
時々、視線を感じることがあるぐらいで……。
ダミアンとライナスに睨まれていたり、エドモンドにねっとりとした視線を向けられていたり……。
不気味ですが、食事に誘われたり、学級変更を要求されたり、テストの点を覗き見されるよりはましです。
下手につついて怒らせても面倒なので、彼らのことは放置することにしました。
私は、ユリウスと王妃に毒を盛ったのはあの3人ではないかと疑っています。
国王に溺愛されてるエドモンドなら、禁書室の存在を知っていてもおかしくはありません。
ダミアンの父親は宰相。
何らかの方法で禁書室を探り当て、その情報を息子と共有していた可能性は十分にあります。
脳筋のライナスには、毒殺なんて高度な計画に加担するのは無理でしょう。なので彼だけハブられている可能性が高いです。
しかし、毒薬の原料集めくらいは手伝っているかもしれません。
エドモンドとダミアンの共犯の可能性が高いと思っています。
エドモンドがユリウスの暗殺を企てた動機は王位継承権。
ユリウスは国王の第一子で隣国の国王の甥。生まれた順番的にも血筋的にも彼が王位に一番近い。
現在の国王がどれほどエドモンドを可愛がろうと、その事実は覆らない。
それに、エドモンドは自分が側室の子供であることにコンプレックスを抱えています。
エドモンドは、血筋の良いユリウスに嫉妬し、彼を追い落とし、王太子になりたいとずっと願っていたに違いありません。
ダミアンの動機は出世の椅子取りゲームに勝利すること。
ユリウスが逝去すれば王太子はエドモンドに決まったようなもの。
エドモンドを王位に就かせれば、椅子取りゲームに勝ったも同然、将来安泰です。
2人とも動機は十分ね。
いずれにしても、記録の水晶が完成すれば全て明るみに出るはずよ。
待ってなさい。真犯人。
必ず正体を暴いてやるんだから。
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