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踏み台令嬢に転生したのでもふもふ精霊と破滅フラグを壊します! 気づけば王子様ホイホイ状態なんですが!? 完結  作者: まほりろ・ネトコン12W受賞・GOマンガ原作者大賞入賞
二章「学園編&陰謀編」

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28話「名前で呼ばれるトキメキ」




「あの時、君が口移しで薬を飲ませてくれたから僕は助かった。

 改めてお礼を言わせて、あの時は助けてくれてありがとう」


ユリウスははにかんだ表情でそう言いました。


「僕はあれがファーストキスだったんだ。

 だから、人工呼吸と同じだなんて言われて、少しだけ傷ついている」


ユリウスが悲しげに目を細めました。


罪悪感で胸が締め付けられます。


「そ、それは言葉のあやといいますか、なんと言いますか……」


人工呼吸とでも思わないと、ユリウスのことで頭がいっぱいになってしまいます。


だから自分にそう言い聞かせていたのです。


「カレンベルク公爵令嬢は、僕とキスをして何も感じなかった?」


ユリウスの長く美しい指が私の唇に触れる。


彼に触れられた唇が熱を持っているみたいに熱いです。


「そ、それは……」


ユリウスの顔が近づいてきて、瞳を閉じそうになる。


『ストーーップ!

 アンジェに近づきたければまずは俺様の試練を受けて、合格するのが先だぞ!』


ルシアンがユリウスの指に頭突きをしました。


ルシアン、ナイスです!! 


流されてキスしてしまうところでした!


でも、ちょっと、ちょーーっとだけ残念だったような……?


「あいたたた……。

 カレンベルク公爵令嬢には護衛がいたんだった。

 忘れるところだったよ」


ユリウスが苦笑いを浮かべ、手を押さえています。


「申し訳ありません、第一王子殿下!

 すぐに手当を……!

 明日、ポーションをお持ちします!」


「いや、僕の治療は必要ない。

 だが、君の作った解毒ポーションは必要だ」


ポーションではなく、解毒ポーションが必要……?


それはいったい?


「まだ、毒を盛られているのですか?」


先月彼を解毒したときは深く追求しませんでした。


ユリウスに毒を盛っている人間って誰なのでしょう?


彼が死んで一番得する人間、それって……。


「わからない。

 あれ以来、王宮の食事には手をつけていないから」


ユリウスはずっと、毒殺される恐怖に怯えていたのですね。


その間、私は何も知らずに呑気に薬作りに没頭していた。


「体調はいかがなんですか?」


「僕は大丈夫だ。

 ただ、母の容態が気がかりで……」


「王妃殿下ですか?」


「母にもあの日以来、王宮で出されるものは食べさせていない。

 だが、それ以前に摂取したものが解毒できなくて……」


王妃殿下は今も毒に苦しんでいるのね。


「市販の解毒ポーションはお試しになられたのですか?」


「試したが、あまり効果はなかった。

 君は気づいていないようだけど、君が作った解毒ポーションは格別だ。

 特別効きがいい」


ユリウスに飲ませたのは、お祖父様のレシピを元に、庭に生えている薬草を集めて作ったものです。


まさか、庭に生えてる薬草で作った解毒ポーションにそこまで効果があるとは思いませんでした。


お祖父様の残したレシピが凄かったのかしら?


それともルシアンの叡智の祝福のおかげかしら? 


叡智の祝福を受けた私が作った解毒ポーションだから、特別に出来が良い?


そう解釈した方がよさそうです。


「わかりました。

 今宵、解毒ポーションを持って王宮に伺います」


『アンジェ、またそうやって安請け合いする』


私の膝の上にいたルシアンが、咎めるように呟きました。


「ルシアン、勝手に決めてごめんなさい。

 軽はずみなのはわかっているわ。

 でも王妃殿下を放っておくなんてできないわ」


ルシアンが顔を顰める理由もわかります。


彼は私に危険なことに関わってほしくないのです。


「事後承諾になってごめんなさい。

 ルシアン、お願いします!

 協力してください!」


彼に向かって祈るように手を合わせました。


『はぁ〜〜。

 全くしょうがねぇな。

 アンジェは俺様がいないとなんもできないんだからな。

 親友だから協力してやるよ』


「ありがとう、ルシアン!

 大好きよ!」


『その代わり、帰宅したら苺タルトとレモンパイと一時間のマッサージな!』


「ええ、約束するわ!」


ルシアンは口では色々言いますが、とっても優しいのです。


「母を助けてくれてありがとう。 

 二人の協力に心から感謝する」


ユリウスが私達に向かって頭を下げたので、萎縮してしまいました。


「第一王子殿下、頭を上げてください!

 当然のことをしたまでです!」

 

「君は優しいんだね。

 それに謙虚だ」


ユリウスにそんな風に褒められると照れてしまいます。


「今夜、僕の部屋の窓を開けておくよ。

 場所はわかるよね?」


「はい」


以前に侵入したからばっちり覚えてます……とは言えませんでした。


「それにしてもカレンベルク公爵令嬢と、精霊殿は本当に仲良しなんだね」 


ユリウスが、私の膝の上にいるルシアンを見つめて言いました。


「はい、ルシアンは私の親友ですから」


「親友か、羨ましいな。

 僕も君の友達になりたいと言ったら、君は受け入れてくれるかな?」


ユリウスからのお友達申請!


どうしよう! 嬉しいです!


「はい、それはもちろん!」


「求婚の返事は貰えなかったけど、まずはお友達から始めるのも悪くないね」


そうでした。私、ユリウスにプロポーズされたのに返事をしていませんでした!


「これからは僕のことは『ユリウス』と呼んでほしい。

 僕もカレンベルク公爵令嬢のことを、『アンジェリカ嬢』と呼んでもいいかな?」


「へっ……?!」


まさかの名前呼び!?


「本当は君の名前を呼び捨てにしたかったけど、友達の段階ではまだ呼べない。

 だから、これが限界かな」


ユリウスは優しげな顔に似合わず、ぐいぐい攻めてくるタイプのようです。


「嫌かな?」


「嫌なんて、そんな……!」


「じゃあ、決まりだね。

 これからよろしくね、アンジェリカ嬢」


ユリウスに名前で呼ばれる威力、半端ないです!!


心臓に矢を打ち込まれてしまいました!


「は、はい……よろしくお願いします。

 第一王子……ユリウス殿下」


まさか、第一王子を名前で呼ぶ日が来るとは思いませんでした。


「殿下はいらないよ。

 ユリウスでいい」


ユリウスが迫ってきます。


「そういう訳には……」


「君にはそう呼んでほしいんだ」


「では、『ユリウス様』とお呼びしてもよろしいでしょうか?

 王子殿下を呼び捨てにはできません」


婚約者でもないのに、第一王子を呼び捨てにしたら大変なことになってしまいます。


「わかった。

 それでいいよ」


ユリウスはにっこりと微笑みました。


それは、天使の微笑みかと見間違うほど美しい笑顔でした。


昇天しなかった自分を褒めたいです!



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