15話「ヴァルトハイムの王都へ」
全ての患者の治療が終わった時、
「天女様〜〜!」
「救いの女神様〜〜!」
「白衣の天女様、ありがとうございます!!」
救護所のあちこちから感謝の声が聞こえて来ました。
「白衣の天女様、この度は我々の為に尽力してくださり、ありがとうございました!」
責任者のべハンさんから、何度目かわからない感謝の言葉を送られました。
「べハン様、私は当然の事をしたまでです」
エリクサーと万能薬の効果を試すのは初めてなので、ちょっと不安でした。
ベハンさんの協力があったので、患者の口に直接薬を投与できたのも大きいです。
飲んでよし、塗ってよし、かけてよし、スプレーしてよしの薬ですが、飲むのが一番効果があるのです。
「べハン様、上級ポーションと万能薬とMP回復薬とエリクサーを置いていきます。
ここに運ばれてくる新たな患者の為に使ってください。
MP回復薬は治療魔法を使う方に飲んでもらってください。
エリクサーは数が少ないのでよく考えて使ってくださいね」
まだスタンピードは収まっていません。
新たな患者が次々に運ばれて来るのです。
「戦場に戻る兵士にポーションを持たせてください」
治ってもまた戦場に戻らなくてはならない。
なんともやるせない気分になります。
「私はこれから、野営地の兵士や他の救護所にも薬を届けたいと思います。
ですが、いきなり行っても怪しまれて薬を受け取って貰えないでしょう。
なので、べハン様に一筆書いて頂きたいのです。
私は信用できる人物で、薬の効果は確かだと」
ここの救護所の方々は私のことを信じてくれましたが、他の場所でも今回のように上手く行くとは限りません。
速やかに薬を届け、より多くの人を助けるためにも、対策を立てておきたいのです。
「白衣の天女様、他の救護所の兵士も助けて頂きたいのは私も同じです。
むしろそのようなことなら喜んでお手伝いいたしましょう」
べハンさんから書付を受け取り、私はルシアンと共に救護所を後にしました。
「天女様ーー! ありがとうごさいましたーー!!」
「この御恩は一生忘れません!!」
「どうかお達者でーー!」
兵士達の感謝の声が救護所を離れても聞こえてきました。
◇◇◇◇◇
それから、他の救護所や野営地を周り、薬を配っていきました。
ベハンさんの書付の効果は思っていた以上にあり、すんなりと受け入れてくれるところが多かったです。
ベハンさんは医者を多く排出する有名な貴族の出身だったようです。
そのような方に最初に出会えて、信頼を得られたのは幸運でした。
救護所や野営地に薬を届ける傍ら、戦場にいる兵士に上空からじょうろで薬を撒いたりもしました。
モンスターにかけないように注意しながら、人にだけかけるのはなかなか大変でした。
◇◇◇◇◇◇
「野営地と救護所は全部回ったわ。
今度は王都に行きましょう。
街の人達の病気も治したいわ」
『今から、行くのか?
もう日が暮れるぞ?』
もうそんな時間なんですね。
「上空から万能薬をかけるだけでも効果があると思うの。
だから少しだけお願い」
教会や病院の周りに列をなしてる人がいると思う、そういう人達に薬をかけてあげたい。
できるなら大きな病院だけでも万能薬を届けたい。
『仕方ねぇな』
ルシアンはしぶしぶ了承してくれました。
「ありがとう、ルシアン」
ルシアンは口では色々言いますが、とっても優しいのです。
◇◇◇◇◇
夕暮れの王都は活気がなく、街の病院や教会の前には、中に入れない病人が溢れていました。
並んでいる人の数が想像以上に多いです。
「ルシアン、あの人達の上を飛んで」
『任せろ』
私は万能薬とちょっとだけポーションをじょうろに入れ、病院の前にいる人達に上空からかけました。
患者さんがみるみる回復していく光景にほっこりしつつ、次の目的の為に動きます。
大きな病院の人にべハンさんの書付を見せ、万能薬を託しました。
医療に携わっている方々もかなり疲弊していたので、彼らの体力を回復する為のポーションをいくつか渡しました。
これで、多くの人が救われることでしょう。
王都を離れる頃には、日がとっぷりと暮れていました。
家族には研究所に籠もって薬を作っているので話しかけないで、と伝えてあるので遅くなっても問題はありません。
「ふわぁ〜〜、疲れました……」
ほぼ休みなく動いていたのでもうへとへとです。
『お疲れ、アンジェ』
ルシアンの上で眠ってしまいそうです。
『ヴァルトハイム王国は、思ってたよりも酷い状態だったな』
「そうね」
戦場の兵士はボロボロで、薬品の数も足りていないようでした。
それに、王都には未だに病に苦しんでいる人が大勢います。
救護所で傷を癒やした兵士も、明日にはまた怪我するかもしれません。
今日、私がしたことは焼け石に水かもしれません。
行きはあんなに重たかったショルダーバックとリュックサックが、今はとても軽いです。
持ってきた薬は全て配ってしまったから。
「ねぇ、ルシアン。
帰りにザウベルク山に寄って貰えないかしら?」
『ええ〜〜!?
今からあそこに寄るのかよ?』
「荒野にはモンスターがまだまだ沢山いるわ!
もっともっとポーションやエリクサーを作りたいの!
王都の人に配る万能薬も足りないわ!」
まだ私は、ヴァルトハイムの人を完全には救っていない。
このままでは、自己満足で終わってしまう。
「ルシアンお願い!
ヴァルトハイムの人達を救いたいの!」
『はぁ〜〜。
わかったよ。
ちょっとだけ、ザウベルクに寄って行こうぜ』
「ありがとう、ルシアン」
私はルシアンと共にザウベルク山に立ち寄った。
以前、採取したエリクサーや万能薬の材料を集めました。
「自分から望んでおいてあれなんだけど、植物を取りすぎて絶滅したりしないかしら?」
人の命を救いたい。
でも、そのためにザウベルク山の環境を破壊してしまうのは忍びないです。
『アンジェが取る分ぐらいなら大丈夫だぜ。
山頂に住んでる妖精や精霊が植物の成長を促進する粉をかけてるからな。
案外、ここの植物はたくましいんだぜ』
「そうなのね」
それを聞いて、安心しました。
『見ろよアンジェ、夜にしか咲かないルナルナの花だぜ。
月の虹の結晶も落ちてる。
ラッキーだな』
月明かりを受けて一面に咲く白い花と、その合間にきらめく月の虹の結晶。
その光景は形容しがたいほど幻想的でした。
「綺麗ね」
薬草を採取するのも忘れて見入ってしまいます。
『ルナルナの花も月の虹の結晶も貴重だから、採取していこうぜ』
「そうね」
幻想的な光景に浸っていられないのは残念ですが、珍しいアイテムが手に入ったのは幸運です。
◇◇◇◇◇
翌日、私は公爵家の研究所に1日こもり薬作りに励みました。
薬作りの要領を得たので、前回より短い時間で、より多くの薬を作ることに成功しました。
時間は貴重です。
こうしている間にも多くの人が苦しんでいます。
短時間で多くの薬を作らないと!
『アンジェ、少しは休まないと体に悪いぜ』
「うーん、もうちょっとだけ。
万能薬の数が足りないのよね」
万能薬は効き目が強い分、作るのに時間がかかるのがネックだわ。
『それって薄めて使えないのか?』
「薄めて使う?」
『ザウベルク山の滝の水には清めの効果があって、薬と一緒に摂取すると、効果が上がるんだぜ』
「そうね、それなら万能薬はこの数でも足りるわ」
『俺様、ちょっと行ってザウベルク山の滝の水を汲んでくるよ!』
「ありがとう!」
万能薬は効能が強いです。
ザウベルク山の中腹の湧き水は清めの効果があります。
万能薬をザウベルク山の水で薄めて散布したり、飲ませてもいいかもしれません。
この方法ならより多くの人を救えます。
ルシアンのアイデアのお陰で、多くの人が救えそうです。
◇◇◇◇◇
そうして私達は、ザウベルク山で薬草を採取して、公爵家で薬を作り、ヴァルトハイム王国に行って配るというルーティンを続けました。
気がつけば、最初にヴァルトハイム王国に薬を届けてから、2週間が経過していました。
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