13話「アンジェリカはまずは服装から入るタイプです」
まず王都の雑貨店に行き、最初の頃に庭の薬草を集めて作った初級ポーションを売りました。
この程度の薬なら、王都で売っても問題ないでしょう。
売ったお金で、白いフード付きマントと同色のワンピース、お祭りの時に被る白い仮面も購入しました。
じょうろを買うのも忘れません。
お金が余ったので、冒険者用の衣服をいくつか購入しました。
◇◇◇◇◇
一度、屋敷に帰り着替えることにした。
『アンジェ、今回はその服で行くのか?』
白のワンピースの上にフード付きのローブを纏い、顔の上半分が隠れる仮面を付けました。
姿見に映った自分をまじまじと観察。
時代劇に出てくる白衣の助っ人キャラみたいで、悪くありません。
「まずは服装から入ってみました」
貴重な薬品を扱うので、正体がわからないように変装しなくてはいけません。
敵意を向けられることはないと思いますが、万が一に備え、カレンベルク公爵家には迷惑がかからないようにしないと。
街で服を買ったのは、家にある服が上等すぎるからです。
「新しいドレスを買いたい」と言ったことをすっかり忘れて、研究に没頭していたのですが、父と母がクローゼットがパンパンになるほど、ドレスを購入していたんですよね。
「気に入らなかったら捨ててもいいですよ。また新しいドレスを購入するだけですわ」と、母は言っていました。
カレンベルク公爵家の財力はやばいですね。
クローゼットに入っている服はオートクチュールなので、ボタンやリボン一つにも特徴があります。
故にそれを着て出かけたら、ひょんなことから身バレしかねません。
「白衣の天使みたいで可愛いでしょう?」
その場でくるりと一周回ってみせる。
『……白衣の天使がなんだかわかんねぇ』
ルシアンは興味なさそうにあくびをしていた。
彼に感想を求めたのが間違いだったわ。
『そんなことより、じょうろの使い方を教えてくれよ』
ルシアンは地面に置かれた大型のじょうろに興味津々のようで、鼻を近づけて匂いを嗅いでいる。
「今回作った薬は体にかけても効果があるの。
だからじょうろに入れて、上空から散布しようと思って。
それなら一度に大勢の人を治せるでしょう?」
おばあちゃんの住んでいた田舎では、昔はヘリで農薬を散布していたらしい。
そこから発想を得たのよね。
『なるほどな、そういう使い方をするんだな』
「身バレするリスクも減らせるし、いいかなって思って」
『いいんじゃないのか、面白そうだ』
ルシアンがうんうんと頷いている。
それで治らなかった人の分の薬は、教会や病院にこっそりと置いてこようと思っている。
『じゃあ早速行こうぜ!
ヴァルトハイムの王都まではこっから2時間くらいだ!』
「さすが、ルシアン。
凄いスピードね」
馬車で移動したら6日はかかる距離です。
「ルシアン、ヴァルトハイム王国の王都に行く前に、荒野にある野営地と救護所に寄ってほしいの。
お願いできるかしら?」
「どうしてだ?」
「荒野では、ヴァルトハイムの兵士がモンスターと戦っているはずだわ。
まずは彼らの傷を癒やしたいの。
彼らは国防の要だわ。
国民の病気を治しても、国をモンスターに蹂躙されたら終わりよ。
だから、まずは救護所に寄って兵士の治療を優先したいの。
野営地にいる兵士にポーションなどの回復役も届けたいわ」
『わかったぜ』
「野営地と救護所の場所はわかる?」
荒野といっても広い。
野営地と救護所を見つけるだけでも一苦労かもしれません。
『任せろ!
俺様は鼻がいいんだ。
野営地からは人間と食料と焚き火の匂いがするはずだ。
救護所からは人間の血と薬品の匂いがするはずだ。
人間の血と薬品の匂いがするところに、怪我人がいっぱいいるはずだ』
「さすが、ルシアン頼りになるわ」
『どっちに先に行けばいい?』
「そうね、まずは救護所からかしら」
怪我人の治療を優先したい。
『了解した、救護所からだな』
ルシアンが協力してくれてよかった。私一人だったら詰んでいたわ。
『アンジェ、野営地の兵士や救護係も疫病にかかっているかも知れないぜ。
万能薬もじょうろに入れて一緒に撒こうぜ』
「そうね、いいアイデアだわ。
毒のあるモンスターに襲われた人もいるかもしれないから、上級解毒ポーションと万能薬を混ぜて撒くことにしましょう」
エリクサーは貴重なので状況を見て使いたいわ。
エリクサーとMP回復薬は、野営地と救護所の責任者に預けてその都度適切に使ってもらいましょう。
◇◇◇◇◇
回復薬をショルダーバッグがパンパンになるまで詰め込む。
入り切らなかった分はポシェットやリュックサックにも詰めました。
一つ一つの重さは大したことはなくても、これだけの量になるとかなりの重さです。
人助けするには、頭だけでなく体も鍛える必要がありそうです。
ルシアンの腰にも袋を付け、いくつか瓶を持ってもらいました。
「準備ができたわ!
いざ、ヴァルトハイム王国へ」
これから行く場所は戦場です。
何が待ち受けているかわかりません。
気を引き締めていかなくては!
◇◇◇◇◇
上空から見たブライトスター側の国土は、青々とした草木が生い茂り、時折動物が草を食べていました。
先週見た時と変わらない、のどかな風景がどこまでも広がっています。
異変を感じたのは国境が近づいてからです。
豊かな平原の広がるブライトスター王国と、草木が枯れ荒れ果てた大地が広がるヴァルトハイム王国とで、くっきりと線を引いたように明暗が別れていました。
ブライドスター王国にモンスターがいないのは、聖女の加護の力と言われています。
聖女の加護とはいえ、線を引いたように違いが出るものなのかしら?
『ヴァルトハイムの領地に入るぜ。
気をつけろ。
ここからは何が起きるかわからないからな』
「ええ、そうね」
今は考えに耽っている場合ではありません。
一人でも多くの人を助けなくては!
ヴァルトハイムの領地に入ると、上空から見てもわかるくらいモンスターがうようよしていました。
先週ザウベルク山に行くとき、ヴァルトハイムの領土をちらりと見ましたが、その時より明らかにモンスターの数が増えています。
ルシアンに空から送ってもらって良かったわ。
馬車で向かったのでは、王都に付く前にモンスターに襲撃されていたでしょう。
そうなったら誰も救えないどころか、私自身が命を落としてしまうところでした。
「急ぎましょう、ルシアン。
救護所を見つけて薬を届けたいわ」
『わかってる』
こうしている間にも、人々が脅威にさらされていると思うと気ばかり焦ってしまいます。
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